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11話 クラス交流戦 〜絶対王者の実力〜

久々の戦闘シーンです。

長くなりましたが楽しんでいただけると幸いです。

テトラの行動監視を始めてから3日目……何故彼女が監視を許可してくれたのかはさておき、俺は割と今まで通りの毎日を過ごしていた。


その3日経った日のホームルーム……

おネエ疑惑があるらしいうちの担任が、ホームルームをこう締めた。


「はい、皆さんご存知の通り、明日から1週間、クラス交流戦があります。『ペンタグラム』出場にも関わってきますからね、皆さん頑張りましょうね。ハイ以上。」


担任の話が終わると同時に終業のチャイムが鳴った。生徒は一斉に教室を出ていく。



「………。」


「………。」


俺が理事長命令でテトラの監視を始めてから、彼女はいつも教室にいる。

従って監視役の俺も教室にいる。彼女は多分、俺について回られるのが面倒くさくなったから、教室で動かないことにしたのだろう。


(つーか何で俺はこんなことしてるんだ…?一回テトラにドン引きされて退学決意してんのに……更に引かれるようなことしてんじゃねえか!)


まあこれも青春ならではの「心情の変化」と心の中ではそう片付けた。



「クラス交流戦か……そう言えば他のクラスの「剣の能力」とか全然知らないな。」


「………。」


「……テトラはどう思う?」


「この学園の人間が他人にぺらぺらと自分の能力を喋るわけないでしょ。」


「……ごめんなさい。」


監視(テトラ公認)を始めてから気づいたのだが、この少女、喋らせたら強い。


「エイユウ。あんたクラス交流戦を自分の中でどう位置づけてるの?」


「えっ?えっと……そうだな……。」


紅髪の少女テトラは、他人が思っているよりずっと意識が高い。奇跡の連続で退学を免れたどこぞの『振り逃げ王子』とは大違いである。


しかし、そんな俺にも『夢』はあるのだ。


「まあ……どうにかして『剣士』になるための一歩にしたいな。」


「……無理ね。今のあんたには。」


「は………?」


久々に腹の中が煮えくり返るような怒りを覚えた。

やっぱりテトラも、心の中では俺の能力ふりにげを……馬鹿にしてやがったのか!


「あんた、明確な目標もなしに夢を掴むの?あったとしても、それに向かって「全力で努力してる」って自信持って言える?」


「ッ!…俺は努力してる!例え能力が『振り逃げ』でも、剣術実習で手を抜いたことはねえぞ!」


俺は激昂したが、その直後、身体中が不安で満たされていく感覚を覚えた。

そしてその後の彼女の一言が、俺の不安をさらに膨らませるのだった。


「嘘ね。それに、私の知る努力してる人間は、自分の大切な努力をそんな安っぽい言葉で言わない。」


「………。」


「もう帰るね。一応寄り道せず女子寮に帰るつもりだからよろしく、監視係。」


テトラは席を立ち、荷物をまとめ素早く教室を出ていった。



俺と彼女テトラの実力では天と地ほどの差があることは既に分かっていた。


だからこそ彼女に『剣士』としての強い憧れを抱いた。


だからこそこの3日間、彼女と関われる時間はとても嬉しかった。


だからこそ……彼女の一言一言が怖かった。



テトラが去った今、この教室には俺しかいない。

俺はあの時と同じように宙を仰ぎ、涙を流した。


今まで何でも逃げるのに必死だったけど……


久々に、「誰かを見返してやりたい」と思った。


**********

翌日………


剣術特進コースの1年生が全員集まった剣術訓練所「水星館」は、いつにない緊張感に包まれていた。

俺も、他の生徒とは違う部分で緊張と戦っていた。


「……大丈夫。身体検査とか無いから気づかれない。大丈夫、大丈夫……。」


そう自分に言い聞かせながら、俺は懐に忍ばせたビデオカメラを確認した。


「ああっ、でもバレたら100%怒られる……!」

しかしこんな所で臆病に負けている場合ではない。俺は今日を昨日の悔しさを晴らす第一歩にしなければならないのだ。


これで……強者の強さの秘密を研究し尽くして……!


「……やっぱやめよ。」


「何やってんの。」


「うぇっ!?」


驚いて変なうめき声を出してしまった。

声の主はテトラだった。


「な……何だよ。」


「こっちが「何してんの」って聞いてるのにその反応は何よ。」


多分俺が何か良からぬことをしようとしているのはバレている。


「……まあいいわ、死なないよう頑張ってね。」

特に探ろうともせず、彼女は踵を返して人込みの中に消えてしまった。



「……絶対研究し尽くしてやる。」


闘志か何かに火がつき、俺は再びビデオカメラを懐にしまった。

臆病なくせにやたら見栄っ張りなお陰で、俺はこのチャンスを潰さずに済みそうだ。



クラス交流戦は、午後のコマを全て使い、リーグ戦で行われる。

開始20分ほど前に連絡用端末タブレットにリーグ表が届くらしい。水星館の異様な緊張感は、リーグ表の内容を心待ちにする生徒によるものだろう。


選手選考で見回る先生にアピールするため自分と実力が互角かそれ以下の者に当たりたいと願う生徒。己を鍛えるため自分より強い人間と同じリーグを望む生徒。目的はそれぞれだ。


ちなみに俺の目的は、注目実力者の試合をこっそり撮影して強さの秘密を自分に取り込むことである。だから自分のリーグにはそれほど興味ない。



生徒の端末が一斉に鳴り始めた。会場から騒ぎ声が消える。


俺もすぐに端末確開いた。


「え〜と……テトラがいるのはEリーグか。対戦相手はB組の18位、C組の7位、A組の20位………」

Eリーグの選手を全部見なくとも、テトラの独壇場だと確信した。


「AリーグにA組の1位……要チェックだな。……一応俺のリーグも見ておくか。」

俺の名前はBリーグにあった。B組35位(35人中)という部分が涙を誘う。

「げっ………」


Bリーグ B組2位 ディミトリ・コールマン


「どういう悪夢だよ……」


本当にツイてない。恐らく奴はこの機会を生かして、大勢の人間の前で俺を叩き潰しにかかるに違いない。

しかしここで『振り逃げ王子』の名を更に知らしめるわけにはいかない。


「4日目に対戦か……対策法考えねえと。」




(予想以上に集まったな……。)

Eコート周辺は人で埋め尽くされていた。それこそ、試合がない1年生が全員集まったのではないかというくらいだった。


(早めに来ておいて良かった。)

勿論俺は撮影のため、観衆の最前列にいる。


『始め』


審判の先生が静かに試合開始を告げる。

俺は隠したビデオカメラのスイッチを入れ、録画を開始した。


テトラは剣の柄に手をかけただけで、静かに相手の様子を伺っている。

彼女の対戦相手、C組7位のトンプソンは既に抜刀し、じりじりとテトラとの距離を詰めている。


「でやぁぁぁぁぁっ!」


トンプソンが一瞬でスピードをあげ、彼女に斬りかかる。

「抜刀!」

キィンッ!と金属がぶつかる音が響く。テトラは剣を抜いて、彼の攻撃を受け止めていた。


トンプソンは細身ながらも長身だ。上から押さえ込まれるように剣を受け止めるテトラの方が不利にも見えたが……


「ハッ!」


掛け声とともにテトラはスッと剣を受け流す。トンプソンは勢い余って前によろけた。


「くそっ」


しかしすぐにバランスをとり、再びテトラに斬りかかる。この辺りは流石7位と言ったところだ。


テトラもそれに合わせ、相手の攻撃を弾く。


激しい剣のぶつかり合いが始まった。

斬り、打ち、受け流し、そしてまた打ち、斬る。


「ねえ、トンプソンすごいキツそうじゃない?」

「相手のはあんな涼しい顔して全部弾いてやがる!」

「……おいっ、あれB組1位のテトラ・ヘクターらしいぞ!」

「マジか!どうりで人が集まる訳だ……しかし訳わかんねえな。あの華奢な体でどうやって……」


観衆は早くもざわつき始める。


「やっぱりテトラの強さはあの「ステップ」だな……。」


彼女の動きには無駄がない。妖精のように軽やかに舞い、相手が攻撃を当てづらいポジションをとり続けている。

だから相手の攻撃の効率はどんどん悪くなり、消耗が速くなる。

一方の彼女は弱まった攻撃を弾くだけ。頑張るのはステップだけで良い訳だ。


その時、再び観衆がざわついた。


「っ!?」

「どうしたトンプソン!?」


テトラが姿勢を低くしたと思うと、相手が突然よろめき膝をついた。体力の消耗によるものではなさそうだ。

「何だ?今の……」

危うく撮影していることを忘れそうになった。


転んだ彼は前転し立ち上がり、剣を高く掲げた。剣がみるみるうちに炎を纏っていく。


テトラも彼と同じように構える。すると彼女の剣の周囲には、竜巻のような風が発生していた。


「終わらせるわ……」


彼女がそう言い、真一文字に剣を振る。鋭い突風がトンプソンに一直線に向かい、そして、彼を後方に吹き飛ばした。


「うあああっ!」


彼は床に激しく叩きつけられた。そしてそのまま立ち上がれなくなった。


『そこまでっ……』


審判が終わりを合図するとともに、観衆がどよめいた。特に他のクラスの生徒は、まるで伝説を目の当たりにしたような表情をしている。


彼女がコートを出るまで、俺はビデオカメラを決して止めなかった。


俺はこの日、テトラ・A・ヘクターとの圧倒的な差を、目の前で見せつけられたのだった。



ありがとうございました。

クラス交流戦編はしばらく続きます。

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