調理道具で世界を救う
俺は未だ、記憶の波間をたゆたっていた。
…とか言うとカッコいいが、実際は死後の世界(←たぶん)に居て、何もすることが無いので、今までの人生を振り返ってみているところだ。
誰もいない場所でブツブツ言ってるって、どんだけ痛い勇者だよ! ってツッコミたくなるが、どうせ死んじゃったんだし、俺の好きにしても良いよな?
ってな訳で、俺は再び思い出に耽ることにした。
そう、ニートだった俺は、小金目的で怪しげなセミナーに参加し、人間が飲んじゃいけないような色と臭いをかもし出すフレッシュジュースを飲み、意識不明に陥った。
気付いた時には、やたらとピカピカした、目に眩しい豪華絢爛なベッドに横たわっていて、小太りでハゲた黒目がちなオッサンに手を握られ、こう言われた。
「おお、目覚められたか。勇者殿!」
そうだ。今思い出したけど、意識が無い間に、性的な目的で変なオッサンに売られたのかと思って、思いっきりブン殴ったんだよな…。
やけに頬を染めて俺の手を握りしめるから、『あ、ヤラれる』って勘違いして。
後でその人が王様だったのを知って、どれだけ焦ったか。
まあ、さすが上に立つ人間なだけあって、笑って許してくれたが。
…あれ?そういえばさ、国が財政難だって言って、装備品としてフライパンと鍋のフタを渡されて、
「申し訳ない。どうかコレで何とか頑張ってほしい」
って言われたんだけど、あれは殴った事への復讐とかじゃないよな? まさかな。
旅の仲間が、82歳の元神官の爺さんのみだったのも、別に何の含みも無かったよな?
この爺さんは多少ボケてて、呪文は忘れるわ、旅の途中で迷子になるわ、散々だった。
今にも死にそうな爺さんだったから、俺は自分の装備は二の次で爺さんの装備を整えてやり、良い宿じゃないと寝れないって言うから、最高級の宿に泊まれるように金の工面をした。
そこまで頑張ったのに、爺さんは敵の一撃で瀕死に陥るから、最終的に宿で待機決定。
結果1人旅になったが、仲間がいない方が旅が快適だったのは、言うまでも無い。
その頃には俺は、いっぱしの勇者としての実力が付いていた…と思う。
フライパンと鍋のフタで、魔王を倒した勇者は、俺だけだろう。
爺さんを預けた宿の長期滞在費で、財布がすっからかんだったから、自分の新しい装備とか買えなかったんだよ!
しかも爺さんは大酒飲みで、高い酒ばっかり飲むわ飲むわ…。
でも面白い爺さんだったし、何だかんだ言っても楽しかったから、今となっては良い思い出だ。
そんなこんなで、華麗なフライパン捌きで、俺は魔王を倒した。
そして、<お姫様>に出会うことになったんだ。
俺が召還されたドラド王国には、有名な姫君がいた。
エリザベス・ラフィアータ・ドラド姫だ。
心根が美しく、頭脳明晰で武芸にも長け、光り輝く太陽のように眩い姫だと、皆が口々に言った。
旅の間にも、姫が建てた孤児院や病院がそこかしこで見かけたし、民の誰一人として、彼女の悪口を言う人間はいなかった。
今までお姫様なんて会った事の無かった凡人の俺は、高貴な姫への憧れを募らせ、魔王を倒しドラド王国に帰って来た時に、王様に言ってしまったんだ。
「あの…エリザベス姫に会いたいんすけど!」
ああ、何であの時言っちゃったのか…未だに悔やまれる。
勇者と姫って言ったら王道カップルだし、お付き合いが無理でも、本物のプリンセスに会ってみたい! なんて好奇心と欲望が渦巻いててさ。反省してます。
王様は二つ返事でOKしてくれ、『姫もそなたを憎からず思っている』なんて唆すもんだから、すっかり俺はその気になって、やる気がみなぎってたよ。
そうして俺は、エマ・ワトソンみたいな美少女が俺を待ってると信じて、姫の住む西の塔に向かった訳。
読んで下さってる方々、本当にありがとうございます!
正直、まだ全然話が進んでないし、拙いストーリー展開なので、人様に読んで頂けてるとは思っていなかったので、凄く嬉しいです。
ちょっとずつ頑張ります。宜しくお願いします。