勇者としての俺の終わり。
‥ガチンッ、ガチンッ‥
妙に甲高いのに、それでいて鈍い音が、段々と俺に近付いてきている。
例えるなら、ガードレールを鉄バットで殴ってるような感じ。
いや、殴ったことは無いんだけど。想像です。
俺は今、城の来賓用の客室…のベランダの手すりにぶら下がっている。
全身が冷や汗でびっしょりだから、今にも滑って落ちそうだ。
いくらチート勇者な俺でも、ここから落ちたら、多分死ぬと思う。
だってここは、眺めの素敵な17階。最近のお城って、近代化が進んでるんですね。マジ怖い。
でも正直、ここから落ちるより、<アイツ>に見付かる方が恐怖だ。
だから俺は、必死で手すりを握りしめながら、息を潜める。
ガチンッ、ガチンッ、ギギギギ‥ドシャッーン! ‥キィィ‥
扉が開かれる音が聞こえてきた。って、嘘だろ!?
誰も客室に入って来れないように、ベッド・本棚・テーブル・椅子…ありとあらゆる物を、扉の前に積み上げておいた。
後でどうやって戻そう? とかは考えず、目に付いた家具全てを使って扉を塞いだのに、そんな俺の努力はただの徒労に終わったようだ。
ここ(ベランダ)にいるのは万が一の用心の為だったのだが、今や俺は袋の鼠。
17階から命綱無しのバンジージャンプか、<アイツ>に捕まるかの二択しか残っていない。
くそっ! あの女を甘くみていた!
額からダラダラと汗が流れてくる。
ぶら下がり始めて、早一時間。さすがに腕も痺れてきた。
移動系の呪文で一気に逃げたいが、城内には魔法封じの結界が張られている。
…え? 勇者なんだから戦えよって?
バカ野郎! 俺だって、正々堂々と戦いたいわ!
だけど相手が悪過ぎるんだよ!
戦っちゃいけない相手も、世の中にはいるんだ!!
ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ。
どうしよう、どうしたら良い? 誰か教えてくれぇ~っ。
そうだ! 肉体強化系の魔法を掛けたら、この高さからでも…ってダメだ!
この城内では、一切の魔法が禁じられてるんだって、さっき自分で言ったわ!
この場を乗り切る名案が売ってたら、いくらでも出します。
これからがおれのターンだって、信じて頑張ってたんですよ!
なのに、終わりなの? こんな最期なんですか、神様!?
…俺は、魔王を倒した事で、少し調子に乗っていたのかもしれない。
ボスを倒した後で、裏ボスが出てくる。
そんなゲームは山のようにプレイしたってのに、自分の身に降りかかるとは想定していなかった。
ああ、これからはバラ色の人生が待ってると思ってたのに。
魔王討伐から2週間経った今、俺の名は国中に響き渡っていた。
抱かれたい男ナンバー1として、女性誌で俺の特集が組まれるぐらいの人気だ。
子供達からは憧れのまなざしを向けられ、お年寄りには拝められ、女の子達からは黄色い悲鳴の嵐。
勇者って何て美味しい職業なんだろうって、内心ニヤニヤもんだった。
その報いが…これか…っ。
神様、仏様、イエス様、あと何だ…取り合えず、不思議な力のある凄い方々!
本当に調子こいてスミマセンでした! 悔い改めるんで、俺を助けて下さい!!
困った時の神頼み。
図々しいにも程があるとは思いつつも、今の俺にはこれしかない。
何と言っても、ここは剣と魔法が存在する世界。
もしかしたら助けが来るかもしれねぇだろっ! っていうか、お願いだから来て!
だが、現実は無情なり。
もちろん、助けなんて一切来ない。
汗でグチョグチョになった手で、必死に手すりを握る、間抜けな勇者が居るだけだ。
あああああ、本当に、何でこうなったんだよっ。
もう無理、手がベタついてて、腕がピリピリっつーかブルブル…あっ。
ツルンッ
気付いた時には、俺の身体は宙を舞い、暗闇に吸い込まれるように落ちていた。
何か走馬灯のように、思い出が次々に浮かび上がってくる。
…ってか、これが走馬灯だよね!? 俺、死亡フラグ立ってんじゃん!
何とかバランスを取ろうにも、一時間弱のぶら下がり健康法のせいで、体が全く動かない。
「ちょっ、まっ、止めてー! たーすーけーてぇーっ!!」
ガラガラになった声で必死で叫ぶが、神様どころか人っ子一人来ない。
あ、そっか。そりゃあ、そうだよな。ここは、あの女のプライベート空間らしいし。
許可無く誰も入れないって、嬉しそうに言ってたもんな。<お姫様>が。
そんな事を考えてる間も、地面はぐんぐんと近付いて来てる。
俺に、推定体重200キロ超えの姫を、愛せるだけの甲斐性があったなら…っ。
自分の器の小ささに涙しそうになり、くっと目を閉じた瞬間、今まで生きてきて感じた事の無い衝撃を受け、俺の意識はそのままブラックアウトした。
初めまして!読んで下さって、本当にありがとうございます!!
皆様からのコメント、熱望しております!
色々と至らない所が多いと思いますが、良い意見も批判も、ぜひ教えて下さると助かります。そして、少しずつ改善出来たら良いなぁ…と。
ほんのちょっとでも楽しんで頂ける作品になったら、本当に嬉しい限りです。
ここまで読んで下さって、本当に本当にありがとうございました!!!