決着 『最弱』の
残酷な表現があります。苦手な人は飛ばしてください。
ああ、やってしまった。俺は力を開放し、自分の呪いを打ち消す。
だが、彼女を守るためなら仕方がない、たとえ彼女たちの記憶を消したとしても生きてほしいのだ。彼女の前に立ち、目の前のファイアーボールをかき消す。
「カ……イ……?」
マリーは怯え切っていた。ファイアーボールではない、俺にむけて恐怖の目を向けていた。懐かしいな……初めて会った時と同じだが、同じではない。カナタとミニは驚いているがマリーを守るのを忘れない。俺はそれを見て安心し、笑顔を浮かべる。
しかし、ゆっくりしてもいられない、前の軍隊を睨みつけ自分のステータスーー呪いを思い出す。
カリギュラス/♂/LV312
HP1
MP1
力1
体1
速1
知恵1
精神1
魔力操作―
スキル
鑑定LVMAX、魔力支配LVMAX、外魔力掌握LV―、テイムLV1
これが俺の本当のステータス、いくらLVを上げてもステータスが増えることがなかった。必死に体を動かそうとしても動かなかった体、ならば魔力を使い体を動かそうとしても魔力コントロールが出来ないため気絶して、体に痛みが走ってを繰り返していた。
魔力を漏らさず体を動かすのに必要なスキルは魔力支配をスキルLVMAXであった。
スキルのLVが見えるようになったのは鑑定がLVMAXの時だった。
初めて見たときは驚いた。MPを無くせばMPが増えると聞いていたので、気絶から起き、痛みを堪えた後に鑑定を続けてこの領域にたどり着いた。けれど、それでも動けるのは子供のステータス程度だった。スライムを殺し続けLVを上げてもスキルも覚えない、どうしてと何回も神に聞き、恨み、いつか殺してやると考えた時だった。俺の魔力じゃない、何かの魔力を動かせるようになっていた。初めは何かわからないし、ステータスを見てもなにもスキルは追加されてないし、ステータスも上がっていなかった。
その魔力を動かしていると、俺の周りにこの魔力が張り付いていた。この張り付いてる魔力を俺の中に入れればMPが増えるのでは?と思い、俺からその魔力を引きはがすーーその時だった。
ドクンっ!
体中に全能感に近い、力がみなぎる感じがした。けれどそれは一瞬で、すぐに他の魔力が俺に張り付いた。この時に気付いた。この魔力は神の魔力で、それが張り付き俺たち人間にこの呪いを与えていると、その日から、俺は体に張り付かないように神の魔力を離す練習をしたり、魔力がどこまで操作できるのか等実験も幾つかした。そして、わざと少しずつ魔力を張り付け自分の体を呪いありでも普通の人間と同じぐらい動けるように訓練した。その甲斐があったのか呪いを外した時の体には今までは考えられないほどの力を感じた。
それ以降、スライムは当たり前に討伐でき、上位のモンスターも倒せて最後にはドラゴン、と考え挑み、負けた。重傷を負った俺は逃げる途中で彼女に会った。一人目に俺を助け、俺を雇った人間、
レグル王国王女、メルクリウス=ディザード=レグル、のちの女王である。
俺は彼女のために戦を勝ち、帰っていくが、俺はその彼女に殺されかけ、この村の近くに逃げてきた。そこで俺は出会った。怯えながら俺を見る少女、マリーに……
怯えながらも、たどたどしく話しかけ、決心を決めた顔で俺を助けた。しばらくは、看護を受けていき、彼女が看護を何回も繰り返すうちに俺への怯えは消えていた。--いや違うな、怯えていた俺が彼女を怖がらせていたんだろう。そんな彼女と暮らしていくことに安らぎを感じ、俺は彼女に恋をしたんだろう。
俺は一つの決心をした。それは、
記憶の改竄
今までの記憶をただ弱い青年くらいに改竄し、もし、俺の本当の姿を見せた時にーー
俺に関しての記憶を丸ごと消し去るという決心。
記憶の改竄や、消去は今までもやっていたことだ。失敗をすることはないだろうと確信していた。バレなければこのまま一緒に、けれどそんなことは、たった一つの幸せも俺には過ぎたものだろう。
だからこそここにもう一度誓おう!たとえ彼女が俺を覚えていなくても、俺は彼女が幸せに暮らせる世界を作り出そうと!そのためならこんな世界、いくらでも壊してやろう!
手始めに国を一つ潰そう!この技は領域系の技、対象を選ぶほどの精密さは今の俺にはない、だからこそ!すぐに終わらせる!
「《ディストーション》」
俺は操作できる範囲の魔力を吹き飛ばす。他人に張り付いている魔力とともに、後ろでミニとマリーが倒れるのがわかる。しかし、
「……な……んだ…………これ?」
カナタは立っていた。しかも、まだ意識を保っている。
目の前の兵士たちも少数は立っていたが大半は倒れている。
「カナタ、もう少し耐えてくれ、すぐに終わらせる」
「待て……っ!」
俺はカナタの制止を無視し、敵の指揮官に近づく、けれど立ち上がっている奴らが俺を迎撃しようと襲ってくる。俺は遅い兵士たちを返り討ちにし、とうとう指揮官の前に立つ。
「き、貴様!こんなことしてどういうつもりだ!貴様らも倒れてないでこいつを止めろ!」
こいつ、あまりLVを上げていなかったらしい、そのおかげか元気に動いている。しかし、俺は血まみれになって倒れている人間を見つめ、口を開く。
「……そこに転がっているのは?」
「ギムルのことか?奴は俺が行っているのが侵略だと止めたから刺したんだよ!そろそろ死ぬんじゃねぇか!」
この人はこいつよりはましなんだろうな、なら……そう思い、ギムルという人間の真上から魔力を落とす。その魔力を使い、彼を回復させる。
「『最弱』カリギュラス……世界に五人しかいない『書き換え』使いか!」
こいつ、俺の名前を……今は鑑定も使えないはずなのだが、まぁいい、こいつはもうーー
「死ぬか、こんなとこで死ねん!お前が死ね!『最弱』!」
殺す。
奴が振りかぶったところで、首を斬り、軽く押してやる。そのままの格好で後ろに倒れ、首が胴体と離れていく。
俺は、すぐにマリー達に近づこうとするが、
「来るな!」
カナタが剣を震えながら構え、俺に敵意を向ける。俺は何も言葉にできない、いや、今は出してはいけない。
「……お前は、お前は!俺たちを!騙していたのか!?陰で弱いくせにと!笑っていたのか!?俺たちと過ごしてきた二年間は…………二年間は嘘だったのかよ!」
しばらくの沈黙、ここでこいつには嘘は言わない。
「半分正解で半分違う」
「何が!?」
「俺はな、お前らに俺の記憶を改竄させたのはそうだが、改竄した後の生活は本当さ、俺たちは三人いて、マリーを取り合って、バカやったり、一緒に悲しんだり、全部ほんとさ……俺がマリーを愛していて、お前のことも大好きで、村のみんなが大好きでさ、だからこそ、マリーを頼むぞ」
「お前、何言って……体が!?」
俺は《ディストーション》を解除し、俺以外に《ディストーション》の効力を無くす。そして、
「次に会う時も、また友人になってくれよ」
「まっーー!」
俺は、魔力操作でカナタを気絶させる。そして、
『いいのかい?せっかくの居場所』
「黙れ」
『僕も気に入っていたよ、こんな場所があったんだと』
「黙れ」
『君はーー』
「もう決めた」
『そう、なら僕はまた眠ろう』
自問自答も終わる。範囲を村に設定し俺はーー
「愛しているよマリー」
マリー視点
体が痛い、それよりも寒い?私は起き上がり周りを見る。
「あれ?何で外で寝てるの私?ってかえ?スライム?とカナタ!」
カナタがぐったりとしていた。私たちいったい何をしていたの?けれど、周りを見ても村のみんなとカナタ、スライムがいるだけだ。
「いつつ、あれ?マリーかーーってどうしたんだよ!?」
「えっ?」
「え?じゃない!何で泣いてんだ!?」
私はそれを聞き、自分が泣いているのだと認識した。でも、なぜかはわからない、けれど、心に穴が開き、悲しいとしか判らない。両親が居なくなってもここまで悲しいと思わなかったはずなのに……
『愛しているよマリー』
わからない、でもこの言葉は覚えてる。顔は分からない。両親に言われたというわけでもない誰かに……
「一体……」
心の中に靄がかかっているみたいだ。