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宇宙の愛の物語。  作者: ~ちあき~
8/13

第2章 地球(4)

ユウリは、

落ち着いて

私の話を聞いていました。


とても穏やかに。


そして

取り乱すこともなく言ったのです。



「婚約者の女性って、

きっと‥‥あの看護師さんだわ!


いつも彼の隣りにいた、

優しくて素敵な人‥‥。


私も親切にしてもらったの。

本当にお似合いの二人ね!」



ユウリの気持ちを察した私は、

ただ黙っていました。



「どうしたの?

私は本当に

先生の幸せを喜んでいるわ。


婚約者と一緒に、

先に第二の地球へ行ってくれたら

安心だもの!」



彼女は‥‥

先生の幸せを喜びたいのと同時に、


切なく寂しい感情や

嫉妬心が

複雑に絡み合う中で、

苦しんでいました。


決してそれを表に出すことなく。




私は言いました。


「泣けばいいんです」



「泣く?大丈夫。私は悲しくなんかないから!」


ユウリは声を立てて笑いました。


無理に笑顔を作り続けるユウリに、

私は堪えきれなくなりました。



「ユウリ、何度も言いますが、

私には隠しても無駄です。


あなたの感情は、

宇宙人の私にはすべて

手に取るようにわかるんですから。


地球人はなぜそうやって、

心を抑え込み、

自分で自分を苦しめるのですか?


泣きたい時は、泣けばいいのに。

悲しければ、悲しめばいいのに。


人間の感情は何のために

存在するのです?


味わうためです!


湧き上がる感情に、

無理矢理

蓋をしないで下さい。


自分の感情に、

必死に抵抗しないで下さい。


ユウリ、

あなたの今の感情を殺さないで、

解放して下さい。


あなたの中にいる別のユウリが、

悲鳴を上げています」



その瞬間

ユウリの作り笑顔が崩れました。

目から大粒の涙が溢れ出し、

そして、

しばらく泣き続けたのです。












「こんなふうに泣いたのは、

生まれて初めてだわ。

だって泣くことは

我慢するものだと信じていたもの。


泣きたい時は泣けばスッキリするのに、どうして遠慮してたんだろう。

カーロ、ありがとう‥‥」


ユウリはそう言いながら

涙を拭きました。




「悲しみたいだけ悲しんだら、次は楽しいことをしましょう!」


私はそう言ってユウリの手を取ると、

外に連れ出しました。


彼女を楽しませる良い方法を思いついたのです。



「ユウリ、今から空を飛びませんか!飛んだことないでしょう?」


「え?空を飛ぶ?」



ユウリの赤くなった瞳が、

一瞬で輝きを取り戻しました。



私はユウリを背負い、

彼女の腰に手を回して身体を支えました。

「しっかり、つかまって下さい!」


私がゆっくり飛び立つと同時に、

ユウリの胸の高鳴りが

伝わってきます。


「わぁ、夢みたい!

まるで鳥になったみたいだわ!

最高の景色!

こんな感動、生まれて初めて!

あぁ、どうして地球人には

羽がないのかしら?」



「私たちパラダイス星人は、『飛びたい』という願望が強まった結果、肉体が進化したようです。


地球人がもし、

自分の感情を殺すことをやめ、


自然を含めたすべての生命を

無駄に殺すのをやめて、


人間本来の生き方に

気づいてさえいれば‥‥。


人間に秘められた無限の力を、

活用する術さえ知っていれば‥‥。


そうすれば、地球人の肉体も劇的に進化した可能性は高いでしょう。


しかし、地球滅亡はもう、

誰にも止めることはできません‥」




「私‥‥‥決めたわ!

地球の滅亡を

少しでも遅らせるために、

これから

みんなに真実を伝えていく!


カーロが私に教えてくれたことを!


滅亡が遅れたら、救出できる人間たちも増えるわけでしょう?


私、何かの役に立ちたいのよ。


だって

小さい頃から身体が弱くて

何にもできなかったのよ。

走ることも、泳ぐことも、鉄棒も。


手術してくれた先生のおかげで、

18歳になってようやく、

普通の生活が

できるようになったけれど。


今まで周りに迷惑をかけてばかりの

人生を歩んできたから、


今度は

私が恩返しをしたい。


でなきゃ私‥‥‥


何のために生まれてきたのか、

わからないもの!」




ユウリは『先生のサポートをする』という夢を失ったことで、

何か別の目標を探していました。


何か役に立てる人間にならなければ、自分の価値はないと信じていました。


やはり‥‥地球人は不思議です。


私はユウリに言いました。



「なぜ地球人は、

生まれてきたことの意味を

必死で考えるのでしょう?


あなたが何のために生まれたのか?


簡単です。


あなたは『生きる』ために

生まれたのです。


命を維持するために

呼吸して

食べて

眠って


人間という存在を経験するために

生まれたのです。


だから、

ただ人間生活を楽しめばいい。


人間の様々な感情を楽しめばいい。


頑張ってもいいし、

頑張らなくてもいい。


人の役に立ってもいいし、

役に立てなくてもいい。


あなたは自由です。



生きている、


それだけで、


あなたは価値があるんですから」





ユウリは、また泣き始めました。

しかし悲しみの涙ではありませんでした。


私の背中に顔をうずめ


何度も何度も


「ありがとう」と言ったのです。












あれから一週間が過ぎました。


先生と婚約者の二人をワープさせる約束の日がやってきました。


旅立つ準備のために一週間かかるという先生からの申し出を承諾し、

この日まで待っていたのです。


今日を最後に、

ユウリとの別荘での生活は

終わりを告げることになります。


毎日私のために

無農薬の果物を買い、

様々な親切を施してくれたユウリに

深く感謝して、私は言いました。




「私はすぐに地球に戻ってきます。


次は必ずあなたを連れて行くと決めています。そして、

あなたの両親や友人も順番に連れていきます。


一人でも多くの地球人を救うと約束したこと、必ず守りますから‥‥」



「無事を祈ってるわ‥‥‥」



ユウリが複雑な表情を見せました。


ユウリは大きな悲しみに

心を震わせていました。


彼女が今までに感じたことのない、

熱い感情を抱いているのです。


これは‥‥!


大きな衝撃が私を襲いました。


私だ‥‥!


ユウリの熱い感情は紛れもなく、

私に向けられていました。


ユウリは、私を愛しているのです!




そして‥‥



私も。


私たちは一緒に過ごした一週間で、

お互いを理解し、尊敬し、


いつのまにか、

愛し合うようになっていたのです。




「ユウリ、愛しています‥‥」


彼女を引き寄せて抱きしめると、

彼女の目からは、

熱い涙が溢れ出しました。


そして‥‥

私たちは別れたのです。







私はすぐに

先生のもとへ向かい、急いでワープの準備に入りました。


片方の腕を先生と組み、

もう片方の腕を婚約者と組みます。


そして大きく羽を広げると、

最大限にエネルギーを放出させながら念じました。


( 行け!!第二の地球へ!)



~ 続 ~



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