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宇宙の愛の物語。  作者: ~ちあき~
5/13

第2章 地球(1)

「天使さん‥‥?」


「ねぇ‥‥天使さんでしょ?」






誰かが‥‥


私に話しかけている‥‥?




目を覚ますと

ぼやけた視界の中に


幼い少女が

満面の笑みを浮かべているのが

見えました。



少女は言いました。


「やっぱり!置物じゃない!

本物だ!本物の天使さんだ~!」






その言葉を合図に、

複数の人間たちの声が

押し寄せるように聞こえてきます。




「ほら、見て~!

ストリートパフォーマンス

やってる~!」



「あの天使、

動かないから人形だと思ってたのに

スゴイ~!人間だったんだ!」



「羽が超リアル~!」







我に返って周りを見渡すと、

私はたくさんの人々に

囲まれていました。





賑やかな音楽も聴こえています。


楽しそうに笑顔で語り合う人々の


言語は‥‥‥



日本語。






そうして私は


自分が今 どこにいるのか、

ようやく理解できました。





人間が

苦しい日常から逃れ、


つかの間の

楽しさを味わう場所‥‥



そう、


ここは


日本の遊園地でした。








先進国・日本についての様々な情報は、

すでに知っていました。



私のデータによれば‥‥



日本人たちは日常生活で

笑顔になることはありません。


無表情か、

そうでなければ、

苦い顔をしています。



もちろん、それには理由があります。



『人生は楽しむものではない』


という考え方が、

一般常識になっているからです。






人々は胸を張って言います。


『 人生とは、苦労するものである。


苦しんで、我慢して、必死に頑張って

生きることこそ、


素晴らしいことだ。


でも息抜きも必要だから、

たまに楽しむのも悪くはない‥‥』








さらに驚くべきことに、


人々は、


『幸せなこと』には 無関心で、


『不幸せなこと』には


過剰に反応するのです。





先進国の、


何もかもが恵まれている


豊かな生活の中で、


なぜか


『不幸』を無意識のうちに探し続け、


それを見つけたとたん、


「私は何と不幸なんだ!」


と言って


自分の感情を『負』へと導きます。



そうして結局、


そのマイナス思考やストレスが

大きな原因となって、


多くの人が

体調を悪くしたり

病気になっているのです。




おかげで


日本中の病院は、どこも大繁盛。




そして


先進国でありながら

自殺者が多い国の上位に

ランクインされ、


多くの人間が、

心の病を抱えて生きています。






実に興味深い国です。





でも‥‥


遊園地は少し違うようです。



人々は、

『楽しんではいけない』という呪縛から

解放されていました。


彼らの常識の中では、

『息抜き』として

捉えられているようです。








私のワープ到着地点が

この遊園地の中であったことは、

本当に幸運でした。




私に羽が生えていようと、


どんなに地球人離れした容姿であろうと、


誰一人として


私を宇宙人だと疑う者はいなかったからです。







私は

片膝を地面につけ


しゃがみこんだ姿勢のまま、

ずっと意識を失っていたようでした。







『ストリートパフォーマー』

としての振る舞いを、


周りの人々から期待されていることを

察知した私は、


そうすることに決めました。





置物のように動かず

じっとしてみたり、


突然 リズム良く動いて

羽をバタバタさせてみたり。


完璧な

パフォーマンスを披露しました。




そして、

私は笑顔で人々に手を振りながら、

その場を去ったのです。







地球の暦は、

西暦2055年 12月24日。






遊園地には、

クリスマスのイベントで多くの客が集まっていました。






大きな野外ステージが見えます。


何かのショーを始める準備をしているようで、

スタッフらしき人達が、たくさん動いています。






その中の一人の

若い女性に、

私は注目しました。



手足が細く色白の彼女は、

健康的ではないのですが、


とても大きなエネルギーを感じるのです。




エネルギーの源は、


その大きな瞳なのでしょうか、


その笑顔の輝きなのでしょうか、





とにかく


彼女のエネルギーに触発され、


私の中に、

不思議な感情が溢れてきます。





初めて『地球人』という存在に

好感を抱いた瞬間でした。







私は

吸い寄せられるように、

彼女に近づいていきました。


すぐに彼女も私に気づき、

こちらに向かって笑顔でやって来ました。



「あれ~、今日の出演、

サンタクロースのおじいさんだけじゃなかった?

天使の登場もあるの?


今年は予算の都合で無理って聞いてたんだけど‥‥。


あ。これ、サプライズなの?

みんなには

黙っておいた方がいいのかしら?」





私がただ微笑み返すと、

彼女は言いました。



「はじめまして。

私、このイベントの司会と、

歌を担当してます。


アルバイトなんですけどね。


ユウリって言います。

今日はよろしくお願いします!」









そして、


ショーの出演者と勘違いされた私は、

舞台袖へと案内されました。


彼女はまだ学生のようでしたが、

学校には行かず、

好きなことをやっている、と

話してくれました。


そして、

まもなくショーが始まりましたが、

それは、

本当に衝撃的なものでした。


彼女は、

多くの観客を惹きつける

優しい笑顔と、


人を癒す美しい歌声を

持っていたのです。



彼女は自分で作ったという

クリスマスソングを歌いましたが、


それは、

恋人への想いを込めた

愛の歌でした。


彼女の溢れる愛情が伝わり、

観客の中には

感動の涙を流す人までいたのです。



私は確信しました。



地球から救出するにふさわしい人間は、

彼女だと。


彼女と

その恋人、

二人を宇宙へ連れて行こうと

決めたのです。









イベントが終了し、

私の出番がなかったことに

疑問を持った彼女は、

すぐに私のところにやってきました。


「え~っと。何か手違いでもありました?」



私は覚悟を決めて言いました。



「突然で申し訳ありませんが、少し

話を聞いていただけませんか」


「話?」


彼女の表情が曇りました。


『不審な人間の話は聞いてはいけない』と

彼女の思考が判断した瞬間に、


彼女の返事を待たず、

私は言いました。



「私は地球に住む者ではありません。


三万光年離れた宇宙から、


やってきたところなんです 」







彼女は絶句したまま、

私を数秒間、見つめました。


私が狂った人間でないことを確かめるように、じっと見つめました。



そしてその後‥‥‥


彼女は

輝くような笑顔を見せたのです!



「本当なの?私ね、

宇宙人はいるって信じていたの!


誰が何と言おうと絶対にいるって!


だって無限に広い宇宙なのに、

地球だけに人類があるなんて、

どう考えてもおかしいじゃない?


あぁ、嬉しい!

やっぱりいたんだ、宇宙人!


まさか会えるなんて!」





彼女は私に抱きつきました。





「ほら~、やっぱりそうだわ!

普通の人と全然違う!

羽も本物!

その美しい瞳も、カラーコンタクトじゃなくて、自分のものでしょう?


右が海のようなマリンブルーで

左が宝石のようなエメラルドグリーンなのね。

はぁ~、どっちもきれい~!」









彼女は疑うどころか、

好奇心のままに、

たくさんの質問をし、


私は答え続けました。



パラダイス星での生活、

パラダイス星人の身体のしくみ、

ワープのことも。




そうして、

長い間二人で話しているうちに、


私は彼女を『ユウリ』と呼び、

彼女は私を『カーロ』と呼び、


まるで昔からの親友のような関係に

なっていました。


あっという間に時間が経ち、

気がつけば、

遊園地の閉演時間。





すると

ユウリが言うのです。


「カーロ、今日地球に来たばかりでしょ?


泊まる所はあるの?


良かったら、ウチに来ない?


もっともっと話がしたいわ!」





もちろん

私は喜んで受け入れました。



まだ私の任務について

何も話していないのですから。



私が地球に来た目的を

早く

話さなければなりません。






地球がまもなく滅びることも。



私が地球人の男女二人を選び、


救出するのだということも。




そして、


私が選んだのは、


ユウリと恋人なのだということも。









そして私たちは遊園地を出ると、

彼女の運転する車に乗り、

家へと向かったのです。



~ 続 ~


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