第1章 パラダイス星(1)
「ママ! ずっと身体が
ムズムズしてるの!
それに、眠くて眠くて ‥‥。
ねぇ、これって‥‥もしかしたら、
アレじゃないの⁉︎ 大人になる前の!」
ニコルは興奮していた。
そう、彼女はこれから、
初めての『脱皮』を経験することになるのだ。
ニコルは70歳。
まだ幼さの残る少女だ。
母親は微笑んだ。
「ニコル、初脱皮 おめでとう!
これでやっと大人の仲間入りね。
大丈夫よ、絶対にうまくいくわ。
ベッドに横たわって、
リラックスして眠ればいいだけよ。
生まれ変わった美しい自分を
強く強く、イメージしてね。
安心して。
眠るまで、ママがそばにいるから 」
母親はそう言って目を潤ませた。
そしてニコルがベッドに横たわると、
頭から足先までをすっぽりと包み込むほどの大きな布で、彼女の体を優しく覆った。
「ママ、ありがとう。おやすみ」
「楽しんでね、ニコル!」
そうして
このまま三日間、
ニコルは眠り続けるのだ。
ここはパラダイス星。
地球から三万光年離れた
銀河系の中心部にある惑星である。
地球の宇宙研究者たちが未だ発見するに至っていないこの惑星は、
宇宙で最も美しい生命体と名高い、
『パラダイス星人』の住処であった。
彼らは一見地球人と同じ人種のようにも見えるのだが、
地球人の常識では考えられないものを
数えきれないほど持っていた。
まずは、
大きな羽。
パラダイス星人は、背中に大きな羽が生えているのだ。
それを使って空を飛び、鳥のようにどこへでも自由に移動することができる。
次に、
完璧な容姿。
彼らの姿は、誰もがみな、まるで彫刻作品のように美しく整っている。
脱皮によって自分のイメージ通りに
容姿を作り上げることが可能な為である。
そう、もはや
生きている人間が、
芸術作品そのものなのだ。
そして、
明晰な頭脳と超能力。
彼らの頭脳は、
地球人を遥かに上回っていて、
様々な超能力を使うことも可能である。
言葉を使わずとも
お互いの出しているエネルギーにより
意思伝達が可能である。
そして何よりも素晴らしいのは、
『永遠に生きられる肉体』を持っているということだ。
驚くことに、彼らに寿命はない。
ごくまれに不慮の事故などによって死亡することはあっても、
老化して死亡することはない。
なぜなら
70年ごとに繰り返される脱皮によって、
体内のすべての細胞が新しく生まれ変わるからだ。
しかも脱皮により、
自分の望み通りの肉体への変更も可能だ。
性別を変えることも可能。
赤ちゃんに戻ることも可能。
そう、
この惑星には常識などない。
完全なる自由世界である。
すべての人間が
自分自身を自分で創り
自分の望み通りに
自分らしく生きている。
それゆえ、
誰もが
内面からあふれだす
美しい輝きを放っていた。
そしてそれこそが、
パラダイス星人が
宇宙で最も美しいと言われる理由であり、
彼らが
進化を繰り返し続けて
発展を遂げてきた結果なのである。
しかし彼らは‥‥
いや、だからこそ彼らは、
どんなに文明が発展しても、
「便利だから」という理由だけで
人や自然に有害なものを
作り出すことは 決してなかった。
自然も、
動物も、
人間も、
この惑星すべての生命が、
かけがえのない
ひとつの家族だと
認識していたからだ。
〈続〉