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異世界フィールドワーク  作者: 高橋 右手
24/25

24日目 昼

24日目


 出立の時、早朝にも関わらず村の人達全員が広場に集まってくれていた。

 『頑張れ』という温かい言葉や、色々と餞別を貰えた。

 まず村長のユーズカから、村の織物で作られたマントだ。雨や日光避けにできるし、寝るときには寝袋代わりにも使える。あの大樹と巨鳥アブーサの刺繍がしてあって、とても格好いい。「困る」「売る」という単語が聞き取れたので、やはり高価なものなのだろう。

 1リットルぐらい入る水袋と、今日の分の食事と袋いっぱいの保存食も貰った。料理上手のリテンが作ったものだから、味は最高に違いない。

 そしてユエンからはナイフを貰った。ジェルガに新しいものを買ってもらったので、そのお古だ。お古といっても、手入れは行き届いていて、柄の部分が手に馴染み、

刃には1つの欠けもなく鋭い光を放っている。大事に使われていた大切な宝物だ。

 餞別のお礼と言っては何だけれど、私は子どもたちにノートを渡した。基本的な計算について書いた『教科書』だ。足し算や引き算はもちろん、九九や割り算、あとは測量などに役立ちそうな三平方の定理などが、出来る限り簡単に書いてある。さらに、おまけとして指数やグラフなどの概念もついている。

 数学の素養が高いリームならこれを読み解き、みんなに伝えることが出来るはずだ。実際、ノートを覗き込んだリームは目を輝かせていた。

 別れの時、私は泣かないと決めていた。笑顔でさよならを言おうと思っていた。

 でも、ユエンや子どもたちの顔を見ているうちに大泣きしてしまった。それを見て子どもたちまで泣き出してしまった。思い出している今だって、少し涙ぐんでいる。

 短くなった後ろ髪を引かれながら私は荷車に乗り込む。ジェルガが街まで送ると行ってくれたのだ。

 動き出した荷車と一緒に子どもたちが村の端までついてきてくれた。私は握手をしたり名前を呼んだりして、

子どもたちはずっと私の名前を言い続けてくれた。

 そして、私の姿が見えなくなるまでずっとずっと手を振り続けてくれた。


 ようやく涙が止まったので、私は揺れる荷車の上でこの日記を書いている。

 いま書かなければと思ったからだ。


 きっとこの先も出会いがある。

 それと同じ数だけ別れもある。

 私自身がどうなるのか分からない。明日には怪我や病気、あるいは野盗に刺されて死んでいるかもしれない。

 不安だらけだ。

 でも、元の世界に戻るために私は進んでいく。

 どこかも分からないこの異世界を楽しみながら、

 時にはしんどく思いながら、

 放浪たびしてみよう。

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