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迷宮探偵  作者: 脩由
プロファイル2
10/10

第2話 罪悪感

 釧路さんからの電話で、俺の精神的負担が一気に楽になる。

 一美ちゃんを部屋から出しておいてよかった。

 あまり聞かれたくない内容なので小声で会話する。

 

 「釧路さん。これって現実なんですか?」

 

 まずは最優先で確認しなければならない事を聞いてみる。

 この返答次第では次の行動が変わってくるからだ。

 

 「現実です。ただ非現実な現実。簡単に申し上げますと平瀬さんがいるその世界はパラレルワールドです」

 

 パラレルワールド?

 よく映画や漫画などでよく聞くあれか。

 そんな非現実的な内容を簡単に受け入れてしまった自分に俺はまだ気が付いていない。

 半年前のあの体験が、どうも俺の常識認識を変えてしまっているようだ。

 

 ただ緊張からか体が熱い。

 

 この部屋の冷房が効いていないのではなく、極度の緊張からかスマホを握る右手の平が汗ばんでいるのがわかる。

 心拍数も上がっている。

 ようはこの世界でやっていけるのか心配であり、どう解決すれば元の世界へ帰れるのかを瞬時に考えた結果、血圧が上がったのだ。

 

 次の質問を考えている数秒、向こうから話を振ってきた。

 

 「あまり長い事電話はできません。できればもう少し詳細な内容をお伝えしたいので近くのコンビニにきていただけますか?」

 「コンビニですか?」

 「来ればわかります」

 「わかり・・・」

 「ツーツー」

 

 返事をする前に電話が切れた。

 相変わらず人の話を最後まで聞かない人だ。

 せっかちなんだろうか。

 胸は豊満でたっぷんたっぷんなのに。

 

 コンコン。

 扉をノックする音だ。

 

 あたり前だが一美ちゃんだろう。

 まだ着替えが済んでおらず、急いでタンスから服を用意する。

 

 「ちょっと待って!今着替えてるから」

 「誰と”電話”してたの?」

 

 な、なんで電話している事がばれてる??

 

 扉越しでもどこか不機嫌な口調で問われてるのがわかる。

 

 小声で話ししていたし、扉の向こうの一美ちゃんには聞こえてないはずなんだ。

 しかし”電話”と断定している時点で確信があるようだ。

 俺の独り言かもしれないのに。(まあそんな独り言は言わんが)

 

 なぜ?

 電話とわかったのか・・・。

 

 着替えを終えて扉を開けるとそこには、不機嫌な顔、いや完全に怒っている一美ちゃんが右手に携帯を持って立っていた。

 まるで親の仇を見るような視線を感じる。

 

 「誰と話してたの・・・?」

 

 一美ちゃんからと殺気がこもった問に、光よりも早い高速思考で”大学の友達”からと返事する。


 さっき釧路さんからパラレルワールドというキーワードが出た。

 

 俺は元の世界の記憶しか持っていない。

 この世界の”俺”の記憶はないのだ。

 

 ということは、ここでの俺の職業が何かわからない。

 朝起きた場所が、事務所ではなく一美ちゃんと2人で暮らしているマンションなりアパートなりで、きちんとベットの上に寝ていた。

 

 しかも、この世界の”俺”は昨日一美ちゃんと夜の一戦を交えたらしい。

 

 生活にそれだけの”余裕”があるということだ。

 であるならば俺の職業はここでは何なのかわからない。

 

 数年、探偵という職業を行っていたのだ。

 それなりの生活サイクルができている。

 自宅より事務所でホームステイをするほうが便利だし、それに家賃も馬鹿にならない。

 

 それを瞬時に思考し”大学の友達”と答えた。

 それも正解か微妙なんだが。

 

 「ふ~んそうなんだ。やましい事がないとは思うけど、どんな内容だったか教えてもらってもいい?」

 

 ・・・・・。

 ガラケーのケンタクンがなくなった事が悔やまれる。

 確かにスマホは便利な機能が多いが、その分の便利さ以上の危険な機能も満載なんです。

 

 多分内容を聞かれた上で、一美ちゃんは俺に聞いている。

 

 だが内容で不振がっている様子はない。

 どっちかというと俺が女性と会話していた事に怒っている感じがする。

 

 ”パラレルワールド”

 

 この単語を聞いてそれについて問い詰められている感じがしないのだ。

 多分だが、初めの会話の内容は聞けず、途中から聞いたのではないだろうか?

 

 「ちょっと、そこのコンビニに呼び出されたみたいでさ。行ってくるよ」

 「?!な、なんでそんな事言うの?!もう私にあきちゃったの?!」

 

 え?なんでコンビニに行くのにそんな話になるんです?

 

 「ど、どうしちゃったの一美ちゃん。ちょっとコンビニに行くだけだよ」

 「女と会うんでしょ!!浮気するつもりで!!」

 

 いやいや。

 どうしてそうなる?

 

 泣き崩れる一美ちゃんに俺は驚きながら近づき、肩に手を置きながら釈明をする。

 

 「俺がそんな事するわけないじゃないか!?なんでコンビニ行って浮気って話になるの?」

 「一汰君が今までそんな事言ったこと言った事もないし。まして女から電話がかかってくるなんてありえない!今日の朝のキスだってわざと避けて・・・。そう。そうだったんだ。私に飽きてもう違う女と・・・」

 

 この空気やばい。

 マジで。

 

 何度も見てきた浮気調査を奥さんに報告した後の空気にそっくりだ。

 

 「そ、それなら一美ちゃんも一緒に行こう!ね。あ、朝のちゅーは・・・。そ!寝ぼけてたからだよ。なんか貧乳の一美ちゃんと付き合う前の俺がいる世界の夢を見ててさ。ちょっとびっくりしたからだよ。こんな可愛い一美ちゃんからちゅーしてもらえるなんて嬉しくて」

 「本当に?嘘ついてない?」

 「お、おう」

 「じゃぁ」

 

 目をつぶる一美ちゃん。

 ・・・・・。

 どうする俺。

 ここはしておかないとまずいよな。

 だがしかし、こっちの世界の”俺”に悪い気がする。

 しない場合は離婚とになれば大問題だし、すまん。こっちの俺。マジですまん。

 

 

 

 

 機嫌を取り戻した一美ちゃん。

 そして何か罪悪感を手に入れた俺。

 

 これからの事を思いながら俺たちはコンビニに手をつなぎながら向かう。

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