オーガハンター:カツヨリ
初投稿です。何だろうねこれ。
少年はその日、戦慄した。
目に見えるのは二足歩行のロボットだった。
体高およそ四メートル、手に握られているのはその長駆に見合った巨大な拳銃。
まさに異次元の景色である。
映像作品などではなく、無論夢でもない。白昼の現代日本に繰り広げられたこの光景は、
少年の脳漿を横殴りに張り飛ばし、脳髄に氷柱の槍を打ち込んだ。
少年にとっての悲劇は、異常がロボットだけに留まらなかったことであろう。
ロボットは脳天から股間まで、真っ向から切り下ろされて二つに死に別れた。
――鼻血によって、である。
少年、梁間勝頼は煩悶していた。
昨日の奇怪極まりない出来事についてである。
あれだけのことがあったにも関わらず、街は静かなものだった。
それもそのはず、勝頼の他にロボットを見たものはおらず、その残骸も綺麗さっぱり消えてしまったのだ。
「あれは、一体――」
思わず疑問が口を突いて出た。
「気になるならばお答えしよう、カツヨリ殿!」
蛮声が空気を震わせた。
勝頼の前にはいつの間にか、毛むくじゃらの大男が立ちふさがっている。
顔も見た目も、『野武士』と呼ぶのが相応しい。
時代劇の撮影現場から抜け出してきたかのような、時代錯誤極まりない格好だった。
そして勝頼は、この男に見覚えがある。
「昨日のオッサン!?」
「いかにも! 拙僧、納法霊恩と申すもの。いささかも怪しくはござらぬ」
「怪しさが服着て歩いてるだろ! ふざけんな!」
すかさず踵を返して走り出す。学校には遅刻してしまうだろうが、この際そんなことはどうでも良かった。
背後から地響きが迫る。霊恩とか言う男が追跡してきているのだろう。
勝頼は振り返ることなく、罵声だけを背後に投げた。
「何なんだよ、アンタ! 俺に何の用なんだよ!」
「拙僧、マジで怪しい者ではございませぬ! カツヨリ殿に、世界を救ってほしいのでござります!」
「狂ってるぜ……! アンタがやりゃあいいだろ! 昨日みたいに、あの――」
言いかけた瞬間、巨体が目の前に降ってきた。
どうやら跳躍して、勝頼の頭上を越えてきたらしい。超人じみた身体能力だった。
「あの鼻血で、でござるか」
霊恩の言葉に、勝頼は強く頷いた。
「何だよあれ。鼻血でロボットをぶった切る? 出来の悪いギャグマンガでも今時やらねぇぞ」
「あれこそ徳川三百年の歴史の中で生み出された暗殺術、秘身血刀にござる」
「そんな技があるのに、俺に何させようってんだ!?」
「決まっているでござろう。貴殿こそ――むッ!?」
突然、霊恩が勝頼を突き飛ばす。
直後、アスファルトが衝撃でめくれ上がって吹き飛ばされた。衝撃の正体は、銃弾である。
建物の陰から、昨日の巨大ロボットがこちらに銃口を向けている。
「現れおったな、鬼め」
「鬼!?」
「さよう、あれこそこの日本を乱す悪の元凶、鬼にございます。倒すには我らが奥義・秘身血刀しかござらぬ」
言い捨て、霊恩がロボット――鬼に向かって跳ぶ。
右の鼻を塞いで強く鼻息を送ると、たちまちに血が吹き出して鬼を襲う。
勝頼が昨日見た風景と同じであった。
霊恩の鼻から噴いた鮮血は見上げるほどの大刀を形作り、鬼の頭上に落ちる。
だが、真っ二つにはならなかった。
鬼は拳銃を捨て、血刃を両の手の平で挟み込んでしまった。
身動きが取れなくなった霊恩は、宙ぶらりんとなる。
「し、真剣白刃取り……! まさか鬼の学習能力がこれほどまでとは……!」
鬼の首から補助アームが伸び、霊恩の胴を掴む。
凄まじい力で締めあげているらしく、霊恩はほどなく吐血した。
「こんな所で……しかし……か、カツヨリ……ど……の」
息も絶え絶えに勝頼の方を向き、微笑んで見せた。
「貴方こそ、秘身血刀の天才……ゆえに、最強……! 貴方こそ、日本の……きゅっ、救世主っ、にッ」
言葉はそこで終わった。胴体は真っ二つに斬れ、落ちた下半身がアスファルトに叩きつけられて崩折れた。
霊恩の作った血刀が、ただの鼻血と化して四散し、勝頼にも降り注いだ。
「そうか……これが……」
思わず呟いた。鼻の穴に指を突っ込むと、鋼の感触が返ってきた。
出来る。やれる。そうだ、俺は使えるんだ。
脳を巡る生命と血液が、全身の気力を呑み込んで鼻の穴から吹き出すようであった。
「俺の――秘身血刀!」
鬼を睨むと、鼻から火山弾が放射され、鬼の首を一撃で跳ね飛ばした。
返す刀で、首から下を縦に裂く。昨日の霊恩がやったことと、まったく同じであった。
鬼はぐしゃりと潰れ、鈍色の砂となって風に溶ける。
後には、一面の血と霊恩の死骸だけが残された。
「仇はとったぜ、おっさん」
勝頼は手を合わせ、歩き出した。
どこへ行くのかはわからない。だが、鬼を倒すのは己の役目である。
体に目覚めた秘身血刀が、そう告げていた。
梁間勝頼。後に日本最強のオーガハンターになる男の、最初の戦いが終わりを告げた。
誰か僕の代わりにこの作品を解説してください。