侍である
時は戦国
日本が日の本の国と呼ばれていた時代
一人の男が刀を構えて鬼の前に立っていた
鬼は女で、美しいと言える美女・・・
角は額から一つだけ生えていて、鉄の腕和を着けて
身長は男よりは5~6センチぐらいの差が有る・・・ちなみに男が負けている
さて男は、戦国時代にも関わらず着流しを着て、刀は中段の構えを取っていた
顔は美形でもなく変でもない、顔の形が整っているが目が糸目であった
髪はチョンマゲではなくオールバック的な髪型をしていた
「・・・星熊、今日は貴様の命日
その首を跳ねさせていただく」
男は静かに鬼、星熊に対してこう言った
「ふん、やってみな・・・私は片手で勝ってやるからさ」
「・・・!
ふざけるなぁあ!」
「・・・がふ」
「ハハハ、策もなく敵に突っ込む人間がまだ居るとはね」
男は地に伏せられ、刀は粉砕されていた
「ぐっ、くそ!」
「止めときな人間、アンタの身体はボロボロだよ・・・片腕は折ったし、片足は外した」
そう、地に伏せられた男は左腕を折られた挙げ句に足を続いて関節を外されたのだ
それだと、まともに動けない
例え動けてもせいぜい右手で殴る事か、足を引き摺って逃げる事であった
「・・・っち、殺すなら殺せ!
武芸者の拙者は覚悟くらい出来ている!」
舌打ちし、相手を睨む男
「へぇ、覚悟が出来てるね・・・」
男は近寄ってくる鬼、星熊を見る
男の目はしっかりと自分の殺す相手を見る
「何か言い残す言葉は?」
「流石、噂通りの鬼だと言うことだ」
「・・・最後に敵を褒めるとは変わった人間だよ」
星熊の拳は天の方に向いた瞬間、男は気絶した
ドゴン!
拳は情けなく容赦なく、振り落とされた
変わった男に会った
変わった男と闘った
変わった武芸者だった
「何故だろうね、拳が反れた」
私の拳は男の顔に当たらず、地に当たり、周辺はへこんでいた
能力?違う、運?違う
なら神達の加護か?いや、それも違う
・・・止めよう、これ以上の事を考えるのは
私は男を肩に担いで山の中に入った
「・・・」
男は、目を覚まして辺りをよく見た
右は土、左も土、上も土、正面には明かりが見えた
男は痛みを耐えて、外に出る
「うっ、まぶしい」
男は見ると複数の、いや沢山と言える鬼達が酒を飲み、肉を食い、ケンカしている、宴会をしているのだろうか?
見ていると楽しいという雰囲気が流れてくる
「起きたのかい?」
男は横を見ると鬼の少女が瓢箪の中身をぐびぐびと飲みながら話す
「・・・」
「黙りかい、まぁ大丈夫だね」
「拙者は死んだ、殺されたはずだ」
「殺していたら足はないはずだよ」
「・・・なるほど、で拙者を連れてきた理由は食うためか?
それとも余興としてなぶり殺しにするのか?」
「そんなに死にたいのかい?」
「・・・、どうなるかを知りたいんだ」
「そうだね、勝利者に聞いたらどうだい?」
「・・・それもそうだな
そういえば、お主は鬼だな、名は?」
「名を言うのはいいけど、アンタから名乗りな
そして、今の状況を考えて発言しな」
「・・・拙者は、玄孫丸
放浪の武芸者で仕官を決めていない者だ」
玄孫・・・意味はひ孫の次の孫を差す言葉である
「玄孫丸か、縁起が良いね」
「良くない、が・・・親は、そこまで生きてほしいのだろう
・・・名を明かしたので次はお主だ」
「私は萃香、伊吹 萃香さ」
「・・・力の星熊と同じ鬼の四天王、技の伊吹か?」
「おー、よく知ってるね」
「ふん、一人百鬼夜行を行った鬼が知るわけないだろ」
「あの頃は悪餓鬼だったからねぇ」
「・・・鬼だけにか」
「なんか言ったかい?」
「何も」
「そうかい」
すると萃香は未使用の杯を近くから持ち出し、酒を酌み、玄孫丸に渡す
「飲め」
「拙者は下戸だ」
下戸・・・酒を飲めない人を下戸と言う
「なんだ、下戸かい
つまらんヤツだな~」
「酒は薬だ、が飲み過ぎると早死にする
だからこそ飲まない、下戸という理由も有るがな」
「・・・つまんないの」
グビグビと酒を飲み、杯を辺りに投げ捨てる萃香
「・・・、そういうが酒や煙草は害をもたらしてだな
最近渡来した、ぽるとがぁるの、ふらんしぃすこざびぇーるが言っていたのだ」
「はぁ?嘘かもしれないだろ」
「異国の技術を舐めてはイカン、異国の技術を使った天下の争奪戦が始まる」
「そうかい、っと勝利者が来たよ」
ゆっくりと、歩む星熊を見る二人
星熊は玄孫丸の着ている着流しの襟を掴む
「お、おい勇義?」
「・・・ぐっ」
「お前、何をした?」
「なに?」
「ふん、分からないなら力で示してやる」
「ゆ、勇義!やめ!」
ぶん、と拳を振り落とした星熊
だが拳はハズレてしまう
「・・・え?」
「やっぱり・・・か」
「ど、どうなって!どうなってるんだ!」
萃香は焦るが、玄孫丸は落ち着いている
「その様子じゃ、なんだか解っているようだね」
「あぁ、そうだ鬼の星熊
拙者は能力者だ」
能力
人間、妖怪、神、獣、幻獣、道具
といった種族達が居る
道具は九十九神と呼ばれる妖怪になるがあえて道具と呼ばせていただく
さて能力とは潜在能力といっても良いものだ
とある世界ではスキル
とある世界では自身の半霊
とある世界では超能力
と言った所である
「拙者の能力は『物を自然にいなす』ことだ」
「いなす?」
萃香は聞く
いなす、いなし・・・剣道で使う技で剣の刃で相手の突きを回避する時に剣を使用する物である
「なるほどね、だから拳が当たらないのかい」
「・・・そういうことだ」
ため息混じりに言う玄孫丸と謎が解けた事でスッキリした顔の星熊が立っていた
「ほー、人間にしては強い能力だね
スゴい能力が有るものなんだな
あ、玄孫丸、勝負しようじゃないか!」
「何故そうなる、伊吹」
「萃香で良いよー、堅苦しいし!
だって武芸者なんだし、戦える力もそれなりに有るから良いじゃないか」
「そういう事以前に、拙者の手足はボロボロの状態で有り
お主と戦ったとしても、一刻(三十分)も持つまい」
「けち~」
プーと頬を膨らませる萃香を見て、玄孫丸は「何百年生きた鬼には見えぬ」と内心に思いつつ星熊の方に顔を向けた
「それで、拙者をどうする?
煮るのか?食うのか?もしくは―」
「玩具にするってかい?アッハハ!」
「何故、笑う?
違うのか?星熊よ」
「いや、まぁ殺しはしないよ」
「では、どうして」
「そうだねー・・・
簡単に言えば気分ってヤツだね、なんだか久しぶりに面白いと思ったからかね」
「・・・変な奴だ」
「変わり者に言われたくない」
仕官先を決めてない侍は鬼と戦い、命を得た
その侍、玄孫丸はこの先どうなるのか、まだ知らない