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一章:ラミア盗賊団編 (4)

「助かりました。本当にありがとうございます」

 

 磯の香りが周囲に漂う場所で、アレイスは頭を下げながらそう前に男に漏らした。

 男は鼻をすりながら、わずかばかり笑みを漏らす。


「いいってことよぉーなにせ船の上でた~んと働いてもらったからな。ちょうど人手がいない時だったらか助かったぜぇ~」


 前に立つ男はそう言って再びその姿を船の先へ向け歩き出した。その背にはどこか疲労の色を伺うことができた。アレイスはそんな男の背を眺めながら、ホッと息を吐き出した。それは無事にこの地につけた事に安堵し、思わず漏れた吐息だった。数日前、エルフの村で手にした収入は全て見知らぬ老人、もしくは街の人間たちに奪われた。その中にはもちろんルバールに渡るための移動資金も含まれていた。ルバールはエルフの住む村から海を跨いでようやく出向くことのできる遠縁の地にある街であり、そこへ行き着くのにもなんだかんだと金がかかる。それらの金をハゲタカのように全て持って行かれたアレイスはその日、とある船に客人ではなく、働き手として乗り込んだ。

給料はルバールの街に行き着くまでの船賃、それを条件にアレイスは必死に働き、三日三晩体を苦にして働いた。そしてようやくその街、ルバールに到達したのだ。体は疲労と筋肉痛で呻き声を上げ、今にも地面に倒れ伏せてしまいそうな状態だった。


「体は痛いし、眠気もかなりある。ここは一つ宿屋でも探して一息つきたいところだが……」

 

 アレイスはそう漏らすも、すぐに肩をすくめて地面に視線をやった。


「あぁーやっぱ金がないのは痛い。情報を買うにしても金がかかるし、停留費もそれなりにかかる。

下手を打てば、この街のアレに目をつけれる可能性だってある。まずは小遣い稼ぎだよねぇ~」


 膨らみを失った胸元を眺めながら、アレイスは数枚の札を懐から取り出すと、幾度か小さな紙に文字を記し始めた。その文字は異質な形状をしており、普通の人間ならば読み解くことが不可能な形をしていた。それを見てアレイスは僅かばかり肩をすくめ、同時にため息を漏らした。


「あのじじぃー俺の金も印書も根こそぎ持っていきやがった。得に印書を持ち出されたのは痛い。

 俺の手元に残ったのは後このBランク以下数枚だけ、これじゃー下層区間に入るだけの資金しか得られないじゃないか……これは俺の人生に置いて、かなりの失態だ。まぁーアレは俺以外にどうこうできる代物じゃないから大丈夫だとは思うが……それにしてもAランク以上の魔物を根こそぎとは……かなりの損失だぞ? これじゃー妹の学費を払えないじゃないか! どうしてくれんだ! じじぃー!」

 

 アレイスは腹から絞れるだけしぼった大声を甲高い声と大空に向けて放った。声は幾度か空間に反響し、空の果てへと形なくして消える。同時にその声に周囲の人間たちの視線が集まる。街の中で突如として声をあげた人間に浴びせられる視線は当然好奇な者を見る視線である。アレイスはその視線を一身に受けながらもなおも続けた。


「さて、痛い視線を向けられているが、まぁーそんな事はどうでもいい。今重要なのは資金調達だ。

金のない人間にはこの町はいささか厄介だからな。とはいえ、こいつらを誰に売るか……」

 

 アレイスはそう呟きながらもその足を町の影伝いに向けて進め始めた。


〔+〕

 

 ルバールの街、欲望と悪意の溢れる無法都市。彼がその町に住むようになったのはつい最近のことだった。ルバールよりもさらに大きな都市、ラグロニアの王都で兵職についていた彼、ロイア・ブラドは王都から左遷されるようにしてこの街へとやってきた。士官学校を卒業して間もなく、上官に剣を向けた彼は強制的にこの街へ送られた。士官学校を出た兵でルバールに送られる人間はまずいない。それほどまでに上官に剣を向けたのは不味かった。しかし彼には後悔はなかった。人一番正義間の強い性格を持つブラドにとって、人買いに組する上官の姿に憤りを感じざるえなかったのだ。その分、剣を前にし、恐怖に表情をゆがめる上官の姿は今もこの目にしかと焼きついて離れない。剣を抜いたのは不味かったが、あの欲望に歪んだ男の顔を見れたのは爽快だった。

その分失われた物も多かったが、すでに王都には未練も何もなかった。今ではルバールの街の治安改善に一心不乱に立ち向かう日々を過ごしている。そんな彼が薄闇が広がる酒場の中で腕組みをする男を前にしてため息を漏らした。


「隊長~今日は裏猫通りの見回りでしょう? 行かなくていいんですか? ここ最近あの辺りでは無免許の獣売りたちが多く出没していると聞きます。それにあの問題児も何度かその区間に出入りをしているという情報もあります」

 

 前に座る片目を赤い髪で覆い隠した男は口に咥えた葉巻を吸い上げ、同時に白くにごった息を空間に吐き出すと、テーブルに足を乗せ灰色の軍服を一瞬揺らめかせながら、こちらに声を上げてきた。


「んなぁーもんほっとけ、この街で俺たちがいくらがんばったって犯罪は減らないし、この街が平和になるってことはありえない。無論、あの問題児を捕まえる事なんてできるはずもない。したがって今日はここで酒を飲みメシをたらふく食って、家に帰って寝る。それでいいんだ」

 

 男は諦めきった口調で、葉巻の煙をブラドに浴びせながらそう言い放った。

 それはとてもこの街を担う歩兵隊の隊長の言葉とは思えない言いようであった。

 しかしこの街ではそれが普通なのだ。数ヶ月間ここで過ごしてきたブラドにもこの街の状況から見て、犯罪を減らすことも、問題児を処罰することも難しい事くらいは理解していた。だが、それをも超えて、正義のという信念が彼を突き動かすのだ。ブラドは目尻を抱えながらも、甲高い声を上げる。


「ルビア隊長! 昼間から酒なんか飲んでるからそんな弱腰になるんですよ! 酒なんか飲むのをやめて、僕たちはもっとこの町のために奮起するべきです! 特に隊長がやる気になれば他のみんなだって……」

 

 ブラドの声に男は半場、酔いの回った声で漏らす。


「馬鹿かてめぇーは? 俺から酒を奪ったら後が怖いことくらい知ってんだろうが? これは薬なんだよ。俺の暴走を止めるお薬なわけだ。したがって薬を飲むのをやめろというお前の発言は俺に死ねと言っているようなものなんだ」

 

 ルビアはそういってなおもテーブルに置かれたビール瓶を手に取り葉巻を片手にがつがつと飲み始める。慌ててブラドはその行為をとめに入る。


「隊長! だから飲むのはやめてください!」

 

 必死に両手を押さえるも、ルビアは軽くブラドをあしらいなおも酒を飲み続ける。

 普通の酔っ払いならそこで軽く抑えつけ、地べたに接着させるのだが、隊長を押さえ込むとなると話は別になる。屈強な男たち五人がかりでも押さえ込むことが困難といわれている隊長をブラド一人で押さえ込むなど、到底不可能な話であった。


「もういいです。僕一人だけでも裏猫通りに出向きますから」

 

 その声にルビアは酒瓶をゆらゆらと宙に揺らせながらブラドの背を見て僅かに呟いた。


「まぁーがんばれや、若造」

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