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一章:ラミア盗賊団編 (3)

 空を舞う鳥はその巨大な体を風に乗せ、大空を悠々羽ばたいていた。

 しかしそれはただの鳥ではない。騎獣鳥という人をも乗せる事のできる古くから戦争や交通の便で使われる捕獲度Dの魔物である。そんな魔物を巨大な橋の上から眺め、アレイスは片手に握るパンをひとかじり口に含んだ。同時に視線を空から地へ移す。


「漁業の町ルブラート、相変わらず景気がよさそうだ」

 

 橋の両サイドに分かれて並ぶ屋台の列を眺めながら、アレイスはそう漏らした。

 ここはまだルブラートの入口に過ぎない、それにもかかわらず、屋台には多くの客で溢れていた。

この先にはまだ漁港やルブラートの街があり、レストランや、酒場が多く道に比しめきあっている。

 

 アレイスは橋の先に広がる街の風景を思い浮かべながら、その足をレンガづくりの足場に向けた。


 それから間もなくのこと、橋の終わりに差し掛かったアレイスは日陰となっている薄暗い屋台にその足を止める。その店は周囲にある魚料理や、名物品などを扱っている店とはどこか違い、札や呪いに精通する呪術のほどこされた道具など、異質なものが、多くテーブルに並んでいた。普段のアレイスならそんな店無視するのだが、つい、目に止まったあるものが彼の足を止めさせた。それは小さな木製のカゴ。もちろんカゴになど用はなかった。重要なのはその中身である。

中には一センチほどの小さな緑色の光体が輝きを放ちながら、弱々しく飛び回っていた。アレイスは一目見た瞬間に、それがなんなのか理解した。同時にフードをかぶった店の老人に刺すような視線を送る。


「どこでこれを? 貴方はこれがなんなのか理解した上で捉えているのか?」

 

 アレイスはかごを手に撮り、老人の前に突き出した。しかし老人は何の反応もなくただ細い眼で灰色の髪を掻きながらこう答える。


「もちろん知っとるともさ、それは精霊子。精霊が神獣になる手前の姿。通称、神の繭とも呼ばれる

国宝級の生物じゃ」

 

 老人はケッケッケっと笑いながら、アレイスを眺め、両手に握る木製の杖を地面にトンッとついた。

 同時に老人の表情が険しいものに変わる。


「知っててなおもこんなものをこんな場所で売ってるのかよ~じいさん捕まるぜ?」


 アレイスは忠告するようにして老人にそう呼びかけた。この国では神に精通する精霊や獣を売り買いするのは禁止されている。神を利用することでもたらされるのは災いだけだからだ。だからこそ国は神獣や精霊子の捕獲、販売を固く禁じている。もしもそれを敗れば、死刑という事もあり得るのだ。獣売りの中では神獣や精霊の類は御法度物とされてきた。もちろん裏に精通するものは多かれ少なかれ、それらの罪を犯し、手に入れる者もいる。しかし彼らも馬鹿ではない。取引場をあらかじめ決め、人気の内場所で、それは実行されるのだ。こんな昼下がりに堂々と売るようなへまはしない。それほどまでに精霊や神を扱う仕事には緊張の糸を張り巡らせるのが普通なのだ。

しかし前に座り込む老人はそれがさも当然のようにその場に座り込んでいる。そんな老人がアレイスの前で長くの伸びたヒゲを撫でながら喉を鳴らせた。


「フッ、儂を捕まえるなど何百年かかろうとも無理だのぅーなにせ儂は最強じゃからな」

「おいおい、そんな萎れた手をしたじいさんが最強だっていうのか?」

 

 老人の手はその容姿と声色と等しく水気を失われた皮膚をしていた。つまりどこかどう見ても老人ということである。しかし老人は再びそのしわがれ声を口にした。


「あぁー最強じゃぞ? なぁ~に、お前など三秒でノックアウトじゃ」

「なんだそれ? んなことできるわけないじゃないか。あんたは老人で俺は現役バリバリの獣売り、絶頂期が明らかに俺で、あんたはただ老いと共に落ちていくだけじゃないか。そんなあんたが俺を三秒で倒すなんてそんなこと---」


 それはさも当然のように起こった。アレイスがそう口を動かした瞬間、老人は声を上げ、視界から姿を消したのだ。同時に腹と額に通常では考えられないほどの衝撃が鈍い音共に伝わった。その瞬間、意識が暗闇に追いやられる。

 

それからいくばくかの時間がたち、空は既に昼を通り越して夜に転じようと動き見せていた。夕暮れの消えた空が暗闇の先から溢れ、一つ二つと星星の煌きが目に差し込むようにして写りこんできた。アレイスはそのまま数秒その場で硬直してしまう。

 何が起こったのか理解できないまま目覚めたからである。同時に朝の出来事を思い出した。


「なんだったんだあれ? あのじいさんとんでもなく強い、てか化物? にっしても俺は夜まで気絶してたのか? しかもここどこだよ? それになんだか胸元が寂しくなった気が」


 アレイスは見覚えの無い建物が広がる路地裏を眺めながら不意に胸元に手をやった。

 その場所には本来小さなポシェットがあり、その中にはエルフの里で儲けた売上金が入っているはずだった。しかしその胸元は眠る前と打って変わって重みを失っていた。

同時にアレイスは狂乱するようにして重々しい声音を上げた。


「・・・・・・無い、いやある、これは錯覚だ、きっと、きっと・・・・・・ははは、ハハハハハ、あぁぁぁぁぁ~船賃どうすんだよぉ~~~!」

 

 アレイスはそう言い残し、フラフラと街の暗闇の中へとその姿を消した。

次回はルバール

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