一章:ラミア盗賊団編 (2)
「で、誰なんだよ? この集落の連中の中にでもいるのか?」
押し黙った少女にアレイスはそう言った。
しかし、彼女は首を左右に振って、それを拒む。
「違う……この里には今はおらぬ」
どこか悲しげにそう漏らした少女は視線をアレイスに向けた。
「今は? ってことは、そいつは昔はここにいたんだな? で、どんな奴だ?」
「いい奴でな、昔はよくここへ花を持ってきては私に求婚を申し込んできたものよ」
「へぇーで、その男は今どこに?」
その言葉に二ナは一瞬表情を曇らせた。同時に小さな指を両手にあわせ、机の上に乗せると、青瞳を持って、再びアレイスに目を向ける。
「今は恐らくルバールの街にいる」
「ルバールだって? それはつまり……」
アレイスの声が一瞬空間に響くと、少女は頷きながら言葉を紡いだ。
「えぇ、あの街の評判くらい獣売りである貴方なら知っているでしょう。夜の都ルバール。多くの人が一夜にして欲望をかなえる欲望と悪意の溢れる街」
アレイスは確かにその街のことをよく知っていた。ルバールは多くの貴族や裏の世界で名をはせた人間たちが集まる欲望の街で、得に奴隷たちの売り買いが盛んな事で有名だった。アレイスも何度かその街に踏み入った事がある。薄汚れた空気に邪気の溢れた空間。そこはまるで地獄と天国の入り混じる人の作り上げた楽園のような場所であった。もちろん個人的には近寄りがたい街である。そもそもその街にたちよったのも獣を売るさいに指定されたからだであって、自ら出向こうとは思えない場所なのだ。
そんな場所に彼女の言う、エルフである男がいるという。それは一つの事実を導き出していた。
「つかまったのか? そのエルフ」
「そうよ……この村からの帰り道、狩人に襲われたのよ……御者をしていたエルフがなんとか逃げ延びて私に教えてくれたの……私たちエルフにはどうしようもない場所まで彼は連れて行かれてしまった。
ビィアももう諦めるしかないって……私は、私はどうしたらいいのよ」
彼女は突如として泣き崩れた。ポタポタと涙をテーブルに零し、両手でその表情を隠そうとうつむきながら、彼女は本当に大きな声で鳴き始めた。
「おいおい、泣くなよな? ルバールなんてここから一週間もあればつく場所だ。俺が行ってその男助けてきてやるよ? まぁーそのぶん報酬はいただくけどな~でも保障するよ。絶対に生きてここへ連れ帰ってやる。どうだ? いい条件だろ? まぁーこの提案に乗るか乗らないかは、君しだいだけどな」
泣く彼女にアレイスは善意も悪意もない、ただ、商売人としての感性で彼女にそう呼びかけた。
その問に彼女はゆっくりと視線をアレイスに移す。
「本気で言っておるのか? 奴隷解放はつまり命を奪われても構わないと自己主張しているようなものなのだぞ? そんな危ない橋をアレイスは渡るというのか? それも縁もゆかりもない、初対面の者を救うために」
「だから言ってるじゃないか? これは商売、そして俺は獣売りで君は商売相手、それ以上でもそれ以下でもない。俺がどうなろうと、君には関係のないことだよ。まぁー俺が死ぬなんてこと万に一つも考えられないけどな」
実際、ルバールの屈強な男たちに追われたとしても、それを回避する当てがアレイスにはあった。
二ナは自身たっぷりにそう漏らす、アレイスを見て、青色の瞳を持ってして、呟いた。
「本気なのだな? それなら依頼する。アレイス、貴方に同胞の保護をお願いしたい。報酬は貴方の言い値でよい。だから彼を、アランを助けてほしい」
「商談成立だな。よ~し、そうとなれば、膳は急げ、これから荷造りをして出発しよう」
その日、アレイスは二頭の獣が引く、馬車に乗り込んで、エルフたちの集落を離れた。
水曜日、金曜日の更新ができなかったので、今日更新します。
25日も更新できればします。