赤鬼は師匠
小説家になるため日々努力します…拙い文章ですが楽しんでいただけると嬉しいです(・・
誤字脱字大目です…(><
何をしても長く続かない、自分は駄目な人間。そんなことばかりを考えながらこうやって18年間を生きてきた。人間一つくらいはとりえがあるもんだと思ってたけど、そんなことは無かったらしい。
俺は何をするにも真ん中くらいかそれよりちょっと上かちょっと下。いわば平均的な人間だ。
あまりに平均すぎて他人より富んでいるところも無ければ劣っているところも無い。いや、劣っているところはいくつも目に入る。
しかし、こんな俺にも誰にも負けないと言えることがあるんだ!
それは”妄想力”!!
妄想力?結局いいものは持ってないということだね。
まぁ、この妄想の力で現実から逃げて今を生き延びているというわけだ。悲惨だね。
しかし、人間すべての現実を受け入れられる訳ではなくっ!いやいや、世の中にはすべてを受け入れる素晴らしい人もいると思うよ?だけど俺は違う!
親に甘やかされて育ったせいか物事をすぐに諦めてしまう、諦め癖が付いてしまっている。
人生楽して生きたいとか思ってるけど、すべてが平均的な俺には到底無理なことだ。
妄想力を爆発させた後は、それ以上の妄想は見込めない。そうすると俺は現実へと走ってしまう。
しかし普通に現実世界へと行くのであれば妄想力の限界を超えたほうが楽だ。だから俺は散歩をする。
一人が好きな俺にとって、散歩というのはまさに現実逃避をする一つである。
特に好きな散歩コースは山の中。山の中にいると自然と気持ちは落ち着き、心が洗われえる…気がする。
散歩好きとか言っている俺だが、実のところ山の中以外歩いたりしない。しかし、山の中をずっと歩き続けた結果、この付近の山々は俺の庭のようになってしまった。
この山の中で迷うことなんてありえない。もし迷うことがあったのならば、俺は異世界にいると断言したって言い!
「ここはどこだ…」
日が落ち始め、辺りが闇に包まれた頃、俺は未だ家に帰れずに自分の庭と豪語していた山の中を歩いていた。もう足はヘトヘト、ここがどこかもわからない。
「もしこのまま帰れなかったら、俺…」
辺りの木々がザワザワとざわめき出し、まるで俺をあし笑っているかのようだ。いつもは気にならない背中とかも、今日という日はどうしても気になってしまう。
なんせ、この山には古くから伝わる伝説があるんだ。
それは昔からよく聞かされていた鬼の話し。鬼の話しなんてありきたりだなんて思うかもしれないけど、幼少の頃からその話しを聞かされていた俺にとってはトラウマ以外の何者でもない。
まぁ、その話しの内容を簡単に説明するけどいいかな?
この山、『鬼山』は赤鬼の伝説で有名な場所だ。有名と言っても俺の家系以外誰もその話しは知らないんだけどね。
まぁ、この鬼山、赤鬼が出るんだよ。そして赤鬼と遭遇したものは食われるという、ありきたりな話し。
こんな話しなんだけど俺は苦手だ。
深い闇に包まれた不気味な山を、右も左もわからずに進んでいく。ゴールなんてあるのだろうか?いや、見つけなければいけない。こんな俺だけどまだまだやりたいことがたくさんあるんだ。
まず一番最初にやりたいことは煮干を食べること!次に牛乳、そして次は………我ながら侘しい事ばかりで悲しくなってくる。
とにかくだ!とにかくっ!!とにかく家に帰ることだけを考えよう。
月の光で微かに照らされた道なき道をゆっくりと進んでいく。時々木の枝を踏んでポキッという音に驚いてとっさに俯く。
そんなことを繰り返しながら歩いたが、夜ということもあって未だにこの場所がどこかわからない。
これは本当に異世界に来ちゃったんじゃないか?いや、現実的にありえない。今まで異世界に行った話しなんて聞いたことないし…待てよ、異世界に行って帰ってこなかったのであればそれは納得できる。
こんな時に自分の妄想力に嫌気が指す。楽しいことを考えれば言いのだが、マイナス思考の俺にとっては難しいこと。出来るだけいい方に考えようとするがそう上手くはいかないようだ。
妄想をするたびに駄目なほうへ駄目なほうへと、そのたびに大きくため息をつく。
このまま家に帰ることが出来なくて遭難、そして死…もしそうなったら新聞に載るのかな?
『家の近くの山を散歩中遭難、そのまま帰らぬ人に…彼をしる友達は彼のことをこう語っています。「ボッーとしてるよく解らないやつでした。」「いつかこうなると思ってました。」』
そして俺はよく散歩に行く山の中で遭難して亡くなった男の子として一生語り継がれるんだ。そうなったら残された家族は…駄目だっ!そうならないためにも俺は家へと帰ってみせる!
あれから何分歩いたのだろうか?いや、もしかしたら何時間も歩いたのかもしれない。時計がないせいでそれらのことも解らずに、ただただ黙って闇雲に足を進めるだけだ。
考える力も失われ、人生も諦めてしまいそうになりそうな瞬間。誰でも良い、誰でもいいから人に会いたい…こうなったら伝説の赤鬼でもいい。食べられるのは嫌だけど。
そして俺は出会った…赤鬼に。
その赤鬼は実のところを言うと人間なんだけど、本物の鬼のような顔をしていた。顔には鬼の被り物、目の部分と口元から肌の色が見える。
鬼の被り物は…木製?なにやら硬いもので出来ているようだ。
そして、俺がこの人を鬼と思ったのにはもう一つ理由がある。凄く体格が良いのだ。
俺なんかとは比べ物にならない程の筋肉量、そして筋肉を優しく包む衣類は一昔前のような着物だ。
こんな見た目の人間だけど、そんなことは全く気にならない程にもっと驚くべきことがおきていた。
その人は今…血だらけだ。
俺が見たこと無いほどの血がこの人を染め、着ている衣類でさえも自分の血で赤く染まっている。
その状況を見たときの俺は怖いとか、恐怖心を煽られる事などなく、その人に駆け寄った。
「大丈夫ですか!?」
声をかけると小さく唸り、まだ息があることは確認できた。
これほどまでに血がこびりついているのだから、さすがに駄目かと思ったがそうでもないらしい。
急いで応急処置をしなければいけないんだけど、俺には応急処置の知識も無ければ道具も無い。大体、こういうことは初めてな訳で、学校でどうすればいいとか習ってないのでどうしようもない。
とりあえずどうにか出来ないかと思い辺りを見回してみたが、やはりというべきは何も無い。あるといえば山に生えている名前も毒があるのかもわからない草木。
どうにも出来ないということは解っているのだが、どうにかしないとこの人は死んでしまう。
そんな自分との葛藤に奮起していたとき、鬼の人が弱い風のような、かなり小さな声でささやく。
「…誰だ?」
「あ、いや、別に何をしようって訳では…」
「違う、お前は誰だ?」
鋭い目で見つめられると、自分が悪いことをしようとしていたわけではないが焦ってしまう。
かなり弱っているであろうはずなのに、俺を見つめる目はとても強い。ギラギラと俺を見つめる目についつい唾を飲み込む。
「俺は…優斗です。佐伯優斗。」
「そうか、優斗か…すまんが優斗よ、そこに生えている草をとってくれんか?」
「草?この草ですか?」
俺が手にとって草は丸い草。どこにでも生えているような気がするが、よくよく見てみると初めて見た気がする雑草。
この草で何が出来るのだろうと思いつつ、言われたとおりその草を一つ二つと引き抜き鬼の人に渡す。
すると鬼の人は草を傷口に当てると大きく息を吐いた。まるでリラックスしているような、そんな感じ。
暫く沈黙が続き、遠くを飛ぶ鳥の声だけが耳に届いていた頃、鬼人が口を開く。
「すまんな、助かった。」
「えっと、もう大丈夫なんですか?」
「…たぶんな。」
苦笑いを浮かべた鬼の人は、先ほどより表情が柔らかくなったように思えた。
…っていうか今、この状況ってかなり運命的じゃない?はたから見ればシュールかもしれないけど…だって考えてみて、今まで迷ったこと無かった山の中で今日は迷い、変な人に遭遇した。
…いや、でもよく考えてみろよ優斗?この人は安全な人なのか?見たところ結構年はいってるみたいだし…この年でコスプレイヤーなんて言われたらかなり引くよ。
でも今の所ただのコスプレイヤーにしか見えないし…
渦巻く微妙な気持ち、口をへの字にして鬼の見つめるもんだから、鬼の人も視線が気になるみたい。
「珍しいか?」
「まぁ、珍しいって言ったら珍しいでしょうね。コスプレイヤーなんて初めて見ましたし。」
「こすぷれいやー?」
不思議そうな顔を浮かべ俺を見つめる鬼の人、まさかコスプレイヤーじゃないとか?もしそうだとしたら映画とかの撮影かな?いや、でもそんな話しは聞いてないぞ。
この鬼の人の正体を考えると考えるほどに謎は深まり、ついつい変な目で見つめてしまう。
いっそのこと聞いてみようか?
「あの~」
「なんだ?」
「何者ですか?」
俺の質問に一瞬表情をゆがめた鬼の人は何かを考えるように空を見上げたが、少しだけ待つと視線を空からこちらへと向ける。
「ワシはゲンという者だ。」
「ゲンさんですか…で、ゲンさんは何をやられてる方なんですか?」
次の質問をした時、ゲンさんは何もしゃべらずにただただ俺を見つめていた。表情は先ほどと同じように鋭く、ついついビクついてしまうが探究心はそがれない。
暫く俺を見つめていたゲンさんだったが、一つ大きく咳き込むと口を開いた。
「修行じゃよ。」
「あー…」
解った。この人は俗に言うニートだ。あまりの現実の厳しさに逃げ出してこの山にこもってるんだな?
そして鬼の被り物をしているのは知り合いに顔を見られないためだな!
とか思ったけど、こんな体格の人だったらどんな格好をしようがすぐにばれる気がするんだけど?意外とばれないものなのかな?
変な人と遭遇してしまった。しかし、今の俺にとってはこんな変な人でも嬉しい出会い。
少々忘れかけていたが、俺は遭難しかけていたんだ。この人と会わなかったら今頃一人でビービー泣いてた所だったな。まぁ、これは運命のいたずらととって、さっさと帰り道を教えてもらおうかな?
帰り道を聞こうと口を開こうとしたとき、急にゲンさんの顔が微かに右を向く。
「くっ・・・!」
それは驚くほど一瞬の出来事だった。俺を抱きかかえたゲンさんは人間とは思えぬスピード、ジャンプ力で自分の2倍はあるであろう崖に飛び乗ったのである。
あまりのスピードに俺はゲンさんを見上げるが、本人はさも当たり前といわんばかりの顔をしている。
そして、傷を負った体に鞭を打つかのごとく落ちぬスピードで森を過ぎていく。
辺りは暗くて道などわからない、ましてやこの速さだ…今、俺には到底理解しがたい出来事が起こっている。
「うわぁっ!!」
落ちてしまうと即死しそうなほど低い谷を飛び越え、対岸に着地すると俺を無造作におろして後ろに振り返る。あまりにも酷い落とし方をされたせいで肘を打ち付けてしまったが、驚きのあまりそんなことは気にもならない。
「ど、どういうことですか?」
顔をこちらに向けてくれないので表情がつかめない。ゲンさんは対岸を見ながら暫く黙っていたが、髪を揺れ動かすほどの小さな風が通り過ぎると口を開いた。
「すまない、巻き込むつもりは無かったのだが…」
「どういうことですか?」
「実は…」
申し訳ない、そんな気持ちがひしひしと伝わってきそうな表情でこちらを見つめていたゲンさんだったが、突然対岸へと視線を移すと人型のシルエットを睨みつける。
それは確かに人型のシルエットだ。しかし、頭の形が変だ。
何故頭の形が変なのか、それは雲に隠れた月が現れると自然と解ることだった…そいつはゲンさんと同じように被り物をしている。
ゲンさんが鬼の被り物なのに対し、対岸の…たぶん男であろう人物はどこかの民族の仮面のようなものをかけている。木で作られゴツゴツとしており、鼻元が大きく作られていて特徴的だ。
その仮面男のことをじっと見ていると、またしても月が顔を隠してしまう。
ダッ
それが合図だといわんばかりに、ゲンさんと仮面の男は弾かれたようにそれぞれ対岸へと跳ぶ。
普通じゃありえない。数十メートルはあるかと思う大きな穴の上へとそれぞれ飛び上がると、拳を交えあう。
いや、それが本当に拳なのかも判断できない。普通の人間では到底追いつけないようなスピードで移動をし、攻撃を加えている。二人の姿をとらえることの出来ない俺はただただ鈍い音が聞こえるだけだ。
今、俺は本当に起きているのだろうか?もしかしたら本当の自分は自宅で寝ていて、ここは夢の中なのではないか?そんなことが頭によぎったが絶対に違う…この感覚、これは夢では味わえない感覚だ。そして…
「いてっ」
頬をつねるとやっぱり痛い。
あまりに強く引っ張りすぎたせいでジンジンと痛む頬に手をかざし、見えない二人を感じる。
感じたところで何が起こってるとかは解らないけど、普段と違う今を全身で感じたい。
…そして、決着は意外と早くついたようだ。
何かが目の前を通過していった。一瞬だったがそれは確かに人影…その人影はピクリとも動かずに谷底へと落ち、深い闇に飲まれてしまった。
あの人影は一体どっちだ?とは少しだけ思ったが、なんとなく応えは解っていた。
「これで安心だな。」
「…」
「どうした?」
高鳴る胸、湧き上がる感情…俺は今、自分の気持ちを抑えられないでいた。
もともと妄想好きの俺、よく妄想するのは自分が強くなるという妄想。それは剣や魔法を使って悪を滅ぼすみたいな…勇者のような妄想でもあり、現実世界でも実現可能かな?くらいの強さだったりする。
そして今、目の前で見た攻防、いや実際には目で見ることは出来なかったんだけど、それは俺の今まで胸の奥にしまっていた思いを爆発させていた。
「すごい…」
「あぁ、いや…すまんがこのことは忘れてくれんか?」
強面な仮面に包まれた顔を歪め、困り顔を作ったゲンさんと違って、俺の顔はとても生き生きとしている。今までここまで生き生きとしていたことはあっただろうか?
「師匠!弟子にしてくださいっ!」
「いや、だから、今日見たことは忘れてくれんか?」
「俺の中の魂が今、燃え上がってるんです!俺も師匠のように強くなりたいんです!」
困り顔をさらに歪め、頭を抱えたゲンさんは大きくため息をつくと鋭い目つきをこちらに向ける。
見つめられるとドキッとしてしまうその瞳、しかし、ゲンさんもこう見えて普通の人間だ。そんなに恐れることは無いだろう。
月明かりに照らされると、鋭い瞳は光を反射し、綺麗なビー玉のように見えた。
「いいか優斗よ。ワシがやっていることは普通じゃないんじゃよ?
いわば、太陽にあたらぬ影のようなものじゃ。日の光を浴びずに最後を迎えるような、悲しい存在なんじゃ…」
「師匠!」
「優斗、今の話は聞いておったか?」
「聞いて無かったです!」
「…」
呆れ顔をこちらに向けるゲンさんは首を小さく左右に振ると、辺りを見回す。
キョロキョロと何かを探しているような…もしかしたらまたさっきのような奴が隠れているのか!とか思ったけどそういうことではないらしい。
「お前は家に帰らなくて良いのか?こんな暗い山の中、帰り道は解るのか?」
「あ…」
自分が迷子だったということをすっかり忘れていた。
さきほどゲンさんがしたように辺りを見回すと、そこは今まで見たことも無いような場所、大体こんな深い谷があったことなんて知らない。
そこは結構高い位置にあるようだが、暗くて周りがよく見えないし、見える範囲の場所を見たところでそこが自分の知っている場所ではないことは解る。
「俺って迷子だったんだ。」
「…ここまで連れてきたのはワシだしな、近くの街まで連れて行ってやろう。」
ゲンさんはそういうと俺を抱きかかえ高低差のある段を何の躊躇も無しに飛び降りた。
そのまま知らぬ道を進み、見慣れぬ木々を抜け、まるで自分が空を飛んでいるような飛んでないような…そんな不思議な感覚のまま抱かれていると、突然見慣れた道が現れた。そこは俺がいつも山へと入る時に通っている道、馴染んだ道だ。
「さて、ここなら解るか?」
「はい、ありがとうございます。」
まだ体がフワフワしている中、地面に足をつけるとフラフラと揺れた。倒れそうになったが何とか体勢を整えると、ここまで連れてきてくれた赤鬼へと視線を移す。
ここまできてやっと落ち着いた気がする。落ち着きながら見た赤鬼はやはり大きく、筋肉が衣類を押し上げていた。しかし、窮屈そうなわけではなく、ちゃんと自分の体格にあった服を着ているようだ。
見上げないと視線を合わせられないゲンさんと視線を合わせると再度口を開く。
「あの、もう会えないんですか?」
出来ればもう一度会いたい。この出会いが最初で最後であってほしくない。そう思った俺はそう言った。
ゲンさんは口をへの字に曲げ、顎を親指で弾きながら質問の答えを探す。答えはすぐには出ないだろうと思ったが、決断は案外早めだった。
「ワシなんかともう一度会いたいのか?」
「はいっ!」
「…物好きな奴だな。
ならば明日、森の深き場所でワシの名を呼べ。聞こえたらすぐにそこへ向かう。」
「解りました、師匠っ!」
「師匠と言うのは止めてくれんか?」
この日を境に、俺は日常とは程遠い日を送るようになるんだ…。