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拝啓、空と世界へ  作者: 鷹利


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Ext.32 帰郷

夏怜が旅立って四年が経った七月中旬。

現在、夜の十九時。

 

『ポコポコッ♪』

  

スマホにLAINE通知が来た。

 

「…夏怜?」

 

それは久しぶりに夏怜からのメッセだった。

あれからちょいちょい連絡は取り合ってはいたが、今回は少々いつもと違った。

 

『来週の今日、時間空くから一度家に帰ろうと思ってたけど大丈夫かしら?』

 

「おぉ、そうかそうか……。

………ふぁっ!!?」

 

思わず声が裏返った。

あまりに突然のサプライズに俺は気が動転していた。

 

「えぇっとえぇっと…………って、初カノを家に呼ぶんじゃねぇんだから」

 

一人パニクった状況を一度落ち着かせ、再びLAINEに返信した。

 

『もち。

 お前が帰ってくればみんな喜ぶ。

 都合いい日に何時でも帰ってこい。

 着いたら迎えに行くから』

 

その送信から数秒後、すぐ返事が来た。

 

『分かったわ』

 

そこで一旦やり取りを止めた。

 

「………こうしちゃいられねぇ!!」

 

大至急、俺は散らかりまくりの服や食器を片付け、勢いよく掃除機をかけた。

 夏怜が旅立ってからというもの、璃杏と強乃の高校卒業以外はそんなに忙しくなかったのもあり、少し気が緩んだ生活になっていた。

 海麗もアルバイトからバイトリーダーになり、少し給料に潤いが出来た事で近くのアパートの一室に借り住まいをしている。

金欠や暇な時はうちに来るけど。 

 

「…あっ」

 

そんな矢先で俺は大事なことをひとつ忘れていた。


「報告、報告っと…」

  

俺が向かったのは部屋の片隅に置いている仏壇。

 

『カーン…』

 

線香に火をつけ鉢を鳴らし、手を合わせた。

 

「来週、夏怜が東京から帰ってくるんだって。

どうか夏怜が家に帰ってくるまで守ってやってくれ…祈世樹」

 

それからすぐさま食器を洗いにかかった。

 

「お父さま!

 お姉さまが帰ってくるというのは本当でしてッ!?」

 

慌ただしく現れたのは璃杏だった。

彼女は現在、高校卒業してから服飾の専門学校に通っている。

 祈世樹が亡くなってから気持ちの切り替えのためだと、腰まで伸ばしていた自慢の金髪をバッサリ切り落とし、茶髪のセミロングにしている。

   

「おんよ。

だから今家の中片付けてる真っ最中だ」

 

「ッ……(わたし)もこうしてはいられません!」

 

手編みで作ったカーディガンを脱ぎ捨て、璃杏はファッション雑誌や学校の教材を部屋に持って行った。

 

「お父さん!

夏怜お姉ちゃん帰ってくるんだって!」

 

次に現れたのは、学校帰りの知子だった。

中学に上がったことで璃杏と強乃と同じ中学の制服に身を包み新しいヘアースタイルのポニーテール姿は、何処と無く違和感があるも、一段と成長の様を感じさせる。

ちなみに来年受験も控えているがだいぶ不安ではある。

 

「お前も片付けられる私物は片付けておけ。

多分、夏怜の事だから始発で帰ると思うから昼頃には来るかもだぞ」

 

「ほわッ!?( ゜д゜)

知子も片付ける!」

 

そう言って知子もまた朝の食べ残しのおかずや食べかけのお菓子を胃袋に流し込んでいた。

 

『いや……腹減ってただけじゃね?』

 

などと内心ツッコミを入れてから俺は忙しなく風呂掃除にも手をつけた。

 

『ただいまー』

 

少しして玄関から強乃の声が聞こえた。

ちなみに強乃は現在、コンビニなどに提供する荷物の仕分けの倉庫作業の仕事に就いている。 

 

「…およ、なんか綺麗になってる」

 

ただ一人空気が読めないのか夏怜が帰ってくることを知らないのか、強乃の平常運転に璃杏は声を荒らげて叫んだ。

 

「強乃、あなた知らないの!?

夏怜お姉さまが帰ってくるのよ!?

この上ない一大事よ!!」

 

「…そうか?

夏怜姉ぇが帰ってくるのってそんなにすげぇのか?」

 

「なっ…!」

 

しまったと思った頃には時すでに遅かった。

強乃の何気ない一言は璃杏をブチ切れさせるのには容易すぎた。

 

「強乃、あなたという男はぁっ………みゃッ!?」

 

璃杏がブチ切れる直前、俺は背後から目隠しで身動きを封じた。

 

「はいそこまでぇ。

夏怜が帰ってくるんだから喧嘩はほどほどにな」

 

「ッ…離してくださいお父さま!

せめて一発、このムカつくリア充に鉄拳制裁をしないと気が収まりませんわ!」

 

ジタバタと暴れるも、俺でさえ簡単に取り押さえられる辺り、強乃相手じゃ全部避けられるだろう。

 

「強乃、せっかくの家族の帰郷なんだからもうちょい良い反応したらどうだ。

お前も少し冷たすぎるぞ」

 

「……どうだっていいじゃねぇか…」

 

「お前なぁ…。

 ……まだ菜津子ちゃんのこと引きずってるのか。

いい加減、仲直りしたらどうだ?」

 

実はこないだうちから菜津子ちゃんと喧嘩したらしい。

原因は待ち合わせ時間の取り違い。


「間違って菜津子ちゃんに一時間遅く教えたお前が悪いんだし、来ないと思ったらLAINEすれば良かったじゃねぇかよ」

 

「ッ……。

 菜津子だって「そういう所が強乃くんの悪いとこだと思う」なんて言うもんだもん。

 腹立つに決まってんだろ」

 

「まぁ、自分の罪を彼女に擦り付けるなんて最低な男だこと…みゃぁぁッ!?」

 

「やめろ璃杏。

…とにかく、菜津子ちゃんは良い子だ。

口にこそ出さねど、きっとお前からの返事を待ってんだよ」

 

「…どうだかな」


「ッ…!

 いい加減にッ…!!」 

 

「ッ…!?

 璃杏っ…!」 

 

ようやく俺の制止を振り抜け璃杏が強乃に殴りかかろうとした時だった。 

  

「けんかだめぇぇぇぇぇ!!!!!!」

 

「ッ!?」 

「ッ!?」

 

知子が叫んだ直後、強乃と璃杏の口にスプーンでプリンが突っ込まれた。

 

「お姉ちゃんもお兄ちゃんもけんかしないでよ!

そんなんじゃ夏怜お姉ちゃんが気持ちよく帰って来れないし、お母さんだってきっと怒るよッ!!!!」

 

珍しく知子が場の収束を図った。

その効果あって、二人はしゅんと大人しくなった。

 

「……悪かったよ。

 俺も言いすぎた」

 

「…私も……熱くなりすぎました…」

 

二人の様子に知子は一件落着と言わんばかりにドヤ顔で腰に手を当てた。

 

『成長したな知子…』

 

きっと夏怜と祈世樹が見てたら喜ぶだろう。

 

「…じゃあここからは役割分担だ。

璃杏は洗った食器を拭いて片付け、強乃はゴミ捨て。

 知子は洗濯物を畳んどいてくれ」

 

当日にバタつくのは嫌だったのもあり、俺たちは少し気が早いながらも大急ぎで片付けた。

…それから一時間後。

 

「…みんなお疲れ。

お風呂入っておいで」

 

全員の協力もあり、小一時間ほどで家の中はだいぶキレイになった。

 

「では知子、私と入りましょうか」

 

「いーよー♪」

 

上着を脱ぎながらブラウス姿で知子は璃杏と風呂に向かう。

当たり前の光景の日常ゆえ、強乃はスルーしている。

 

「…今日はチンジャオロースにしようかな」


使いかけの野菜を消費すべく、晩飯はチンジャオロースにした。 

知子が未だ苦手とするピーマンマシマシ料理だが、そんな甘えは許さぬ。

 

「…父さん」

 

「ん?

どった強乃?」

 

突然、強乃が声をかけてきた。

 

「その……女ってさ、料理作ってやれば……喜ぶ…かな…?」

 

「そりゃもちろん。

お前だって菜津子ちゃんから料理作ってもらえたら嬉しいだろ?

それと同じよ」

 

「むっ……。

 それは……確かに…」

 

やっぱり仲直りのきっかけが欲しいんだな不器用アオハルボーイめ。

 

「一緒にチンジャオロース作ってみるか?」

 

「……難しくないなら」

 

「簡単よ。

野菜切ってフライパンに油ひいてネタのソースと炒めるだけよ」

 

そう考えるとほんとこーゆーおかずの素とか便利でありがたい。

 

「ピーマンは……こう切ればいいのか?」

 

「ッ!?

待て待て待て、ピーマンはまずヘタの付いた頭を切ってそこから中の種をくり抜くの!」

 

あっぶねぇ。

強乃が聞いてこなかったら後の処理が大変だった。

 

『…でも、誰だって最初はこうだよな』

 

俺もそうだった。

最初は包丁の持ち方や切り方から危なっかしかった記憶がある。

 

「お風呂いただきました」

 

「はぁ〜、気持ちよかったぁ♪」

 

冷蔵庫にジュースを取りに来た知子が、料理を手伝っている強乃を見て何故かあわあわしていた。

 

「あわ………あわわわ……強乃お兄ちゃん……」

 

「なっ、なんだよ……」

 

ブッサイクな猫みたいに強乃が聞き返す。

 

「………おりょーり出来たの?(´・ω・`)」


「ぶち転がすぞ脳みそ三グラム」

 

それは言い過ぎでは…(汗)。

 

「はわッ!?

知子ののーみそ三グラムしかないのッ!?

お姉ちゃんどうしよう…!(;´Д`)」

 

「何を言ってますの。

脳みそが筋肉で出来てる男の言葉に惑わされてはいけませんよ」

 

「おい璃杏、さり気なくディスってんじゃねえぞゴラ」

 

「強乃、フライパンから目を離さないの」

 

自然な形で喧嘩を流すために気をそらさせると、何も知らない知子が寄ってきた。

 

「今日は何かな〜?

…うげっ……お、美味しそうなおかずだぁ〜♪(汗)」

 

「知子、本音を漏らした上で隠そうとするのは一番最低だぞ」

 

中学三年になってもこのおバカさは正直、一番不安なとこもある。

 

「今日は強乃の初料理だ。

絶対食えよ知子」

 

「ゔぅ〜………」

 

威嚇する小動物のようにうなるも、ここは親として厳しくいかねば。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 








  

「それで、ある程度ソースが全体に馴染んだら皿に盛り付けて完成」

 

「ッ…」

 

こういうのは苦手か、強乃は緊張で震えながらチンジャオロースを盛り付けた。

 

「おぉ、美味そうじゃん」

 

全員分のご飯を盛り付けながら見守るも問題はなさそうだった。

 

「見た目はまぁまぁですね」

 

「うぅ……ピーマン…」

 

一人、物陰に隠れている知子を引きずり出し無理やりテーブルに着かせる。

 

「食べないと夏怜に言いつけるかんな」

 

「ふぁッ!?」

 

脅し(?)のつもりで囁くと、知子はしぶしぶピーマンを一切れつまんだ。

 

『いや、その方がよりピーマンの風味を味わいかねないやん』

 

心の中でそう突っ込むも、知子は手榴弾を食う兵士(?)のようにもちゃもちゃ噛んだ。

 

「…………おいしい…!」

 

その直後、信じられないスピードで知子はチンジャオロースに箸を伸ばした。

 

「おいしい、知子これ好き!」

 

「本当?

では、私も少々…」 

 

知子の反応を見て璃杏もまた一口頬張った。

 

「むっ……意外と美味ですね…」

 

少し悔しげに璃杏もまたぱくついた。

 

「…美味い。

強乃も食ってみ」

 

俺も一口味わってから薦め、最後に強乃シェフが食す。

 

「……うまっ」

 

そこからがっつりチンジャオロースを取りごはんをかき込む。

見てて気持ちいい食べっぷりだ。

 やがてチンジャオロースはあっと言う間にたいらげられた。

 

「はぁ〜…美味しかったぁ…。

お兄ちゃんのおかげでピーマン美味しく食べれたぁ♪」

 

「私もここしばらくはカロリーを気にしてあまり油っこいものは控えてましたが…。

 また明日からダイエットですね…」

 

各自の反応に強乃もまんざらでもなさそうだった。

 

「…父さん」

 

「ん?」

 

「……料理作って美味しく食ってもらえるって、意外と心地いいんだな」

 

「…当たり前だろ」

 

わしわしと強乃の頭をなでると、強乃は少し照れくさげにうつむいていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 










 

四日後、夏怜から再び連絡が来た。

明後日、始発の新幹線で来るとの事ゆえ、早めに掃除をしといて大正解だった。 

 そして当日、夏怜からの連絡で昼の十二時前後に着くと連絡が入り、俺たちは前もって十一時に駅のホームに待機していた。

 

「うーーーん……ひまっ!」

 

璃杏は必死に手鏡に向かってメイクの確認、強乃はスマホゲームに没頭していた。

 

「あともうちょい待ってろ。

 多分次の新幹線で来るはずだから」

 

未だ甘えっ気が抜けない知子は、退屈ということで俺の膝に乗っている。


「知子、お父さん膝砕けちゃう」 

 

「むー。

 知子そんなに重くないもん!

 りんご三こ分の重さしかないもん!」 

 

『なにゆえ〇ローキ〇ィ計算を使ったし』 

 

ちなみに海麗にも連絡をいれたが、生憎仕事で来れないようだった。

 

「ちょっと強乃、あんまり寄らないでくださいまし。

 あなたが気安く触れられるほど安くはないのよ」

 

「知らんがな。

 誰がお前の身体に興味あるかっつーの」

 

「ッ…!」

 

璃杏が強乃に殴りかかろうとした瞬間、駅内にアナウンスが流れた。

 

『まもなく新幹線が到着します。

 ご乗車の方は…』

 

「ほら、新幹線来たから喧嘩やめろ」

 

俺の粛清に璃杏は悔しげに拳を下ろした。

やがて新幹線が到着し、プシューと音を鳴らしてドアが開かれると多くのリーマンや旅行者の人たちが降りてきた。

 

「お姉ちゃんどこー?

 見えないー!」

 

「待ってろ。

 今出てくるって」

 

全員でベンチから立ち上がり、数ヵ所から出てくる人の波を確認していた。

そして「彼女」は現れた。

 

『カツッ…コツッ…』

 

人の波が収まって数秒後、待っていたかのように彼女は一番奥の出口からヒールを鳴らしながら降りてきた。

 

「……おい…………嘘だろ…」


「えっと……人違い…ではないですよね…?」

 

「ほわぁ……きれい……」

 

その姿に俺たちは思わず絶句した。

白のカーディガンに黒のTシャツの上からキラリと輝く金のハートのネックレス。

ボトムスは赤茶色のガウチョパンツ、手元にはこじゃれたクリーム色のハンドバッグと大きめのキャリーバッグが引かれていた。

 

「………久しぶり、みんな」

 

こちらに気付いた「美少女」は天使の笑顔を振り撒いた。

 

「あ……あの…………夏怜お姉さま……ですよね…?」

 

璃杏がたどたどしく質問するも、向こうは当たり前のように返した。

 

「そうよ?

 私だって気付かなかった?」

 

内側にカールのかかったほんのり赤茶色の髪をさらっと触る夏怜に、璃杏は顔を真っ赤にしてパニックを起こしていた。

 

「もっ、申し訳ありませんッ!!!!///

 その……しばらく見ない間に、雰囲気がガラリと変わられたもので…」

 

「そう……かしら…?

 ……璃杏も随分大人っぽくなったわね。

 私も声を聞くまで璃杏だと思えなかったわ」


『ブシュッ…』 

  

少し恥ずかしげにそっぽを向く夏怜に、璃杏は耐えきれず鼻血を吹き出して卒倒した。

 

「璃杏!?

 しっかりしなさい!」

 

夏怜が心配するも、あれでは女子力の差が半端無さすぎる。

ス〇ウターぶっ壊れるレベルに(笑)。

  

「あれ………マジで夏怜姉ぇなのか…?」

 

強乃がまでもがたじろいでいると、次は知子が駆け寄った。

 

「夏怜お姉ちゃん久しぶり!

 すごくきれいになったね!」

 

「ありがとう。

 …知子も凛々しくなったわね」


「ほわっ………」 

  

まるで聖母のような微笑みで知子の頭をなでると、知子も口を三角にとがらせプシューっと蒸気を蒸かしながら倒れた。

 

「……なぁ父さん。

 うちにあんな対女子卒倒兵器いたっけ…」

 

「……俺に聞くな」

 

それはそれは、目覚ましい家族の帰郷と………見違えるほどの「邂逅(かいこう)」でした。

 

「…久しぶり強乃、父さん」

 

銃口(?)がこちらに向けられ、俺と強乃は警戒体制(?)に移行した。

 

「よっ……よぉ…。

 久しぶりだな…夏怜姉ぇ…」

 

強乃がおそるおそる返事を返すと、夏怜が近寄り顔を覗きこんできた。

 

「なっ…なんだよ……俺の顔変か……?」

 

あまりの緊張に語彙力を失う強乃にもトドメの一撃が入った。

 

「んーん。

 以前よりも男らしくなったと思っただけよ」

 

『バキューン!』

 

効果音があったのであればきっとなっていたであろうシーンと共に、彼女持ちの強乃でさえ打ち倒された。

 

「……父さん。

 これは新しいゲームか何かかしら?」

 

「さっ……さぁな…あはは……(汗)」

 

俺の反応にも、夏怜は楽しそうに後ろ手を組みながらくるっとその場で一回転した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







その後、一度全員で家に帰宅した。

その間、車の中では夏怜への質問攻めは止むことなどなかった。

 

「お姉さま、その女子力の高さはどこから仕入れたのですか!?

 それと、そのハンドバッグやお洋服はどちらから…」

 

「ねーねー!

 夏怜お姉ちゃんはどうしてそんなにふんいき変わったの!?

 知子、頭なでられたらぽーってなったもん!」

 

「ッ…えっと…」

 

二人の止まらぬマシンガンクエスチョンに夏怜は混乱していた。

 

「しかもお姉さまから香水の香りがします…。

 一体どこのブランドですか!?」

 

急激的な戦闘(女子)力の上がりっぷりに一番食いついたのはやはり璃杏だった。

あらゆる若者の流行の生産地から来たのもあるゆえ、テレビやネットの情報程度しか知らない璃杏からすれば、一番手近な「流行」そのものに見えるのだろう。 

 

「その……私が選んだんじゃなくて…大学の子が選んでくれたのよ。

 私は断ったんだけど、素材がいいんだから勿体ないよって推されて…」

 

「ぐぬぅ…。

 …是非ともそのお友だちを私にも紹介してください!

 というか私も東京に連れていってください!」

 

などと供述しており。

 

「ほら、家着いたよ」

 

絵描き歌のごとくあっという間に。

四年ぶりの我が家に夏怜は嬉しそうに微笑んでいた。

 

「ただいま…」

 

車から降りた夏怜は小さく呟いた。

家に入った夏怜は懐かしむように辺りを見渡し、すっかり古ぼけたリビングのソファーにぽすっと座った。

 

「はぁ……。

 懐かしい匂い…」

 

久しぶりの我が家の雰囲気に包まれゆるむ夏怜に、璃杏はなめまわすようにまじまじと見つめ、その美貌ににやけを抑えられずいた。

 

「あっ、お土産買ってきたよ」

 

そう言うと夏怜はキャリーケースから小さな白い袋を取り出した。

 

「まずは璃杏よ」

 

その一言に璃杏はまるで犬のように飛び付いた。

 

「これ…雑誌で見た…!」

 

「璃杏なら似合うと思って買ったのよ。

 そんなに高くないけどね」


そう言って夏怜がプレゼントしたのは、夏怜のとは別物のハートのネックレスだった。 

  

「なっ……何をおっしゃってるんですの!?

 これっ、六千円はしたはずですよ!」

 

どうやらそれは読モが雑誌の撮影用に着けたのがきっかけで人気が出たらしい。

 

「まぁ璃杏なら喜んでくれると思えば安いものよ。

 あと、友達からもらった香水も…」

 

「いただきます!

 お姉さまからのいただきものは着古しだろうが履き捨てだろうがありがたくいただきますッ!!!!」

 

そういってもらったプレゼントを璃杏はときめき全開で抱きしめていた。

 

「次は知子よ」

 

「ほぇっ、知子にもお土産あるの!?(( 'ω' 三 'ω '))」

 

がさごそとケースの中を漁ると小さな手のひらサイズの袋が取り出された。

 

「どうぞ」

 

「ありがとー!

 開けてもいい?」


「もちろん」 

  

許可をもらい知子も袋を開けた。

 

「………ふおぉぉぉぉぉ……可愛いシュシュとクマさんだぁぁ!」

 

知子のプレゼントは淡いピンクの花柄シュシュとサイコパスな緑色が主体のカラフルなクマのキーホルダーだった。

 

「知子は可愛いものも変わったものも似合うと思って選んでみたわ」

 

「うんっ!

 知子これ好きっ!

 すごくかぁいいよぉ!」

 

爆上がりテンションに知子は地団駄を踏みながらヘアゴムを外し、もらったシュシュで懐かしいサイドテールに結い直した。

 

「どー?

 似合ってる?」

 

「えぇ。

 実はそれ、ボールーチェーンを外してシュシュにつけることも出来るのよ」

 

「なんとッ!?Σ( ´ºωº` )」

 

急ぎ知子はシュシュに手探りでクマを取り付けた。

 

「どーっ、どー!?」

 

「うん、よく似合ってる」

 

「そー?

 えへへぇ……(*´∀`)♪」

 

大満足な知子にも璃杏は顔を真っ赤にして両手でにやけを隠していた。

 

「強乃、あなたにはこれよ」

 

次にプレゼントを渡された強乃の袋をもまた小さな袋だった。

無言で開けると、中からきらびやかなドックタグのネックレスが出てきた。

 

「…いいのか?

 こんなに高そうなの」

 

「もちろんよ。

 まぁ、男らしいものがいいかなと思って選んだんだけどね」

 

「…充分すぎるくらいだ」

 

そういってしまおうとしたとき、夏怜が続けざまに言った。

 

「まだ入ってるわよ」

 

「えっ?」

 

もう一度袋の中を漁ると、ドックタグともう一つ青いドロップ型のネックレスが出てきた。

 

「そっちは菜津子ちゃんにね。

 きっと似合うわ」

 

「ッ…」

 

言葉を失う強乃に俺が代わりに二人の現状を教えた。

 

「……そう…。

 ならそれをプレゼントしなさいな。

 きっと菜津子ちゃんも待ってるわよ」


「ぐっ…。

わ……わかったよ……」

 

夏怜からも同じ意見を言われ強乃はグサッと精神的にダメージを受けていた。

 

「はい、これ父さんと海麗のお土産。

 海麗のはあとで渡してあげて」

 

「お、おん…」

 

俺には高そうな出刃包丁、海麗には………ペン?

 

「「タクティカル・スティック」っていう護身道具よ。

 海麗には実用的なものが喜ばれるかと思って」

 

「……あー……」

 

容易にイメージがわいた。

きっと海麗も喜ぶだろうな……誰が実験台にされるかも想像つく(汗)。

 

「でもお土産は嬉しいけど、こんなにいっぱい…金かかったろうに」

 

「平気。

 こつこつバイト代貯めていたし、父さんがたまに米とか送ってきてくれるお陰で食費も浮いてたし」

 

「でも友達と遊んだりするのにも金かかるだろうに…」

 

「…こう見えて父さんが思ってるほど貧乏ではないわ」

 

どや顔で言うのはいいが、決してデリとかやってないことを祈……まぁ無いと思うけど。

 

「あっ、腹減ったろ。

 飯食うか?」

 

「んっ……それもいいけど、一ヶ所行きたいところがある」

 

「どこだ?

 ショッピングとか?」

 

俺の乏しい予想は虚しくも大外れだった。

 

「………母さんの墓参り…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 








 

祈世樹が眠る墓は以前、俺たちが世話になった武井さんが眠る墓地にある。

祈世樹の墓石はその一角に建ち、俺たちは線香とお菓子を供えていた。 

 

「…にしてもずいぶん東京に行ってからというもの、お姉さまも変わられましたね」

 

祈世樹の墓に手を合わせる夏怜に璃杏が何気に聞いてみた。

 

「…そうかしら?

 それを言うなら璃杏も以前よりファッションが大人しくなったわね。

 昔はロリータとか流行ファッションが多かったのに」 


確かに最近の璃杏は落ち着いた大人っぽいコーデが主流だ。

今日だってベレー帽を被り、トップスは茶色の大きめサイズのニットに山吹色のフレアスカート、オレンジカラーのヒールなんて履くもんだから夏怜にひけをとらない大人コーデだ。 

 

「そりゃ私も歳をとればセンスは変わります。

 お姉さまこそ、ファッションセンスはお友だち一行に選んでもらったのはともかく、性格が別人のように明るくなりましたね」

 

「うんうん、知子もすっごく気になってた!」

 

そう。

夏怜の変化で特に大きく見受けられたのはしゃべり方だった。

 

「……友達に言われたの。

「夏怜ちゃんはもっと明るくなった方が絶対可愛い」って。

 最初は断ってたけど、どうも勿体ないだのなんだのとしつこいから…」

 

「まぁでもこっちの方が印象も良くなるしいいよ。

 なっ、強乃?」

 

「おん、今までは死んだ魚みてぇな目としゃべり方だったし…いだッ!」

 

「それは言い過ぎ」

 

心が痛むが悪口は見過ごせぬ鉄拳制裁。

 

「だからずいぶん練習したわ。

 素直に笑えと言われてもどう表情を作ればいいか…」

 

「ではお姉さまは、未だ作り笑いをしているということですか?」

 

「……そう…かもしれない…」

 

途端に夏怜が表情を暗くしたことに璃杏が口をつむぐも、知子がナチュラルフォローをいれた。

 

「じゃあ今は「いつもの夏怜お姉ちゃん」になっていいよ!

 家族なんだからえんりょなんていらないもん!」

 

知子の見事な返しに夏怜は驚くもすぐに微笑んだ。

 

「……ありがとう」

 

夏怜の笑顔に全員もつられるように笑った。

 

『……見てるか祈世樹。

 夏怜もずいぶん成長して帰ってきたよ』

 

一人墓石を眺めていると、花瓶に花を差した夏怜が突然、歌を歌い始めた。

 

「枯れた 其の草へ

 ああ何故か知りたいのだ

 神は何故 争わせて

 失わせるのでしょう…」 


「…ッ!?」

「…ッ!?」

「…ッ!?」 

「…ッ!?」

 

突然の夏怜の歌に俺たちが振り返るも、夏怜は怖気付くことなく歌い続けた。

 

「雲が過ぎる風は

 色を亡くした

 全つ(ひとつ)になって

 大きく荒らす

 我が後ろで

 何も見せずに……」 

 

そこで夏怜は歌い終えた。

葬送曲にも似たその歌には覚えがあった。

 

「夏怜。

 今の歌……」

 

「……「神の歌」。

 ギリシャ神話の女神「エウテルーペ」の名を叙情的(じょじょうてき)に模した……私の心情にも似た詩よ」

 

正確には、俺が中学時代に有名になったアニメの関連曲である。

どこで知ったのやら…。

 

「ここを出てから何気に店で耳に入ったのを聞いてネットで調べて知った。

 …いつか、母さんに聞かせたいとずっと思ってた」

 

そう語る夏怜の傍らで、璃杏と知子は泣いていた。

  

「…良かったな。

 きっと母さんも泣いて喜んでくれてるよ」 

 

「…だといいけどね」 

 

そう呟く夏怜の目にも涙が滞っていた。 

 

「…父さん。

 明後日まで居てもいいかしら?

 明明後日に始発で東京に戻るから」

 

「そりゃもちろん好きなだけ居ればいいよ。

 自分ちなんだから遠慮すんな」

 

「…そうね」

 

どこか夏怜がよそよそしい。

久しぶりの帰郷に色々戸惑ってるのだろう。

 

『ぐぎゅるうぅぅぅぅ…』

 

誰もが腹の虫の音だと気付けるほどでかい音が鳴ると、女子陣が強乃に視線を向けた。

 

「……ちょっ、俺じゃねぇよ!?」

 

強乃が弁解しようとした矢先、知子が照れながら名乗り出た。

 

「えへへ…。

 今の……知子のおなかが鳴ったの……」

 

「えっ…」

「えっ…」

 

強乃と璃杏が同時に振り返ると、知子は申し訳ないと言わんばかりに顔を真っ赤にして頭をかいていた。

 

「…じゃあ飯食いにいくか」

 

久しぶりの……全員とは言い難いが、夏怜も交えた外食に全員が声を揃えて言った。

 

「そうであれば」


「行くとこなんて」


「あそこだよねッ!」

 

夏怜は一人、目をぱちくりさせていた。

 

「バイキングで決まりだね!」

「バイキングで決まりです!」

「バイキングで決まりだろ!」

 


 

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