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拝啓、空と世界へ  作者: 鷹利


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Ext.27 母子(おやこ)

祈世樹が入院してから二ヶ月、これといって大きな事態は免れていた。

西浜さんの心遣いで部屋を四人部屋から個室に変えてもらい、肩身の狭さは無くなった。

だが彼女を蝕む病は刻一刻と進行していた。

祈世樹が入院してすぐ抗がん剤治療がはじまった。

先生曰く、白血病の治療は摘出手術の様な外科手術はなく、あくまで「投薬治療」がメインとなると伝えられた。 

もちろん、抗がん剤の投薬による副作用も大きく、祈世樹の髪や眉毛といった体毛は日を追う事に痛々しいほど抜け落ちた。

そうなることを予測していた夏怜が璃杏に頼み、祈世樹に合う毛糸帽を編んでくれた。


「ありがとう璃杏。

こんなに可愛いの、お母さんには合わないよ」

 

ベッドに身を伏せながらも祈世樹は笑顔を絶やさなかった。

不安にさせたくない一心で彼女なりに無理してるのだろう。

 

「お母さま…。

早く…一日でも早く病気を治して戻ってきてくださいまし。

みんな……お母さまが居ないと寂しいのですわ」

 

涙ながらに手を握る璃杏の頭を祈世樹は優しくなでる。

俺には………ただ胸がつまる光景でしかなかった。

 

 

 


 

 

 

 

 

  






 

 

ほとぼりが冷めてきた九月の中頃。

夏怜たちの不安も少しだけ収まり、生活にも安定性が出てきた。

こまめな性格の夏怜と璃杏は時折、手土産を持って見舞いに行っている。

一人では行きにくい強乃や知子、バイトでなかなか来れない海麗は俺と車で見舞いに行っている。

そんな中、今日は知子と璃杏の三人で見舞いに来ていた。

 

「見てお母さん!

知子が作ったんだよ!」

 

そう言って渡したのは、道端に生えてるたんぽぽで作ったブレスレットだった。

 

「ありがとう知子。

すごく可愛いね」

 

褒められると知子は照れくさそうながらも祈世樹の手首にくくりつけた。

 

「知子ね、いっぱいおまじないしたんだよ!

お母さんが、かならず元気になりますようにって!」

 

「ほんと?

それならお母さんも頑張れるよ」

 

そう言って祈世樹は嬉しそうに笑顔を浮かべながら知子の頭をなでる。

 

「………」

 

その様子を見ていた璃杏はうっすら笑顔を浮かべるも、どこか寂しげな色を醸し出していた。

 

『璃杏は分かってるのかもしれない。

 それでも………いや、やめておこう…』

 

悪いことを考えそうになった俺はトイレに行くと言って席を外した。

その道中、廊下を歩いていると別室から泣き声が聞こえてきた。

 

「うっ……うぅ……お父さんッ……」

 

歩きながらさり気なく病室に目を向けると、ベッドに横たわる父親らしき老人の傍で女性が泣き崩れていた。

 

「………」

 

涙腺から込み上げてくる涙をグッとこらえ、俺は気付かれぬように部屋を通り過ぎた。

その後も脳内で反響する女性の泣き声は、まるで近い未来の祈世樹を彷彿とさせる気がしてたまらなかった。

俺は逃げるように自販機で炭酸ジュースを買い、その場で缶半分程の量を飲んだ。

 

「はぁ……」

 

味わって飲むなどできるわけが無い。

あんなの聞いてしまえば、飲まずにはいられないと言うやつだ。

それでも炭酸の刺激は俺の緊張を解してくれた。

三人分のジュースを買って俺は病室に戻った。

 

「おかえりなさい」

 

声をかけてくれたのは祈世樹だった。

璃杏と知子は購買にお菓子を買いに行ったらしい。

 

「飲めるか?」

 

祈世樹にミネラルウォーターを差し出すも、彼女は怪訝な表情で頷いた。

 

「…悪い。

無理せず後ででも飲め」

 

「ううん。

お医者様からはこまめに水分は摂ってって言われてるから大丈夫だよ」

 

「そうか…。

とりあえず置いとくから、飲みたくなったらすぐ言えよ」


備え付けの棚の上にミネラルウォーターを置くと、祈世樹は自分の腹上に置いてあったたんぽぽのブレスレットを見つめながら呟いた。

 

「…明日からね、ちょっと会える日が少なくなるかもなの。

 透析の手術もするから、あまり会話も出来なくなるかもって…」

 

そう言う祈世樹の手は僅かに震えていた。

その手を俺はそっと握った。

 

「心配すんな。

ちゃんと俺たちは待ってるし、不安なのはお互い様だ。

 持ちつ持たれつでいこうな」

 

ぎゅっと手を握る力を強めると、少し震えが収まった。

 

「…やっぱり凄いよ…燈は。

嘘みたいに安心しちゃうもん…」

 

もう片方の手をそっと乗せ、祈世樹は緩んだ笑顔を浮かべた。

 

「あんまり無理すんなよ。

お前、無理してあいつらに気遣ってるだろ。

病人なんだから、少しぐらい無理言ってもいいんだぞ」

 

「ダメよ。

そしたらあの子たちに迷惑しちゃう」

 

ほんとこのお人好しは……。

 

「ただいまー!」

 

「こら知子、声が大きいですわ!」

 

戻ってきた二人のビニール袋にはお菓子と清涼飲料水が見えた。

 

「お母さんもおかし食べよ?」


「…ごめんね知子。

 お母さんお菓子食べられないんだ。

気にしないで二人で食べて?」


「…ほら見たことですの。

私があんなにダメだって言っても嫌だって言うことを聞きませんのでしたわ…」

 

「お母さんは気にしないから大丈夫だよ。

ほら、お菓子食べなさい」


また祈世樹は無理に笑顔を作る。

 

「………やっ!」

 

そう言って知子はビニール袋の中身を次々と冷蔵庫にしまった。

 

「知子、お母さんといっしょに食べれるまでがまんする!」

 

むすっと頬を膨らませ知子はお菓子とジュースを冷蔵庫にしまった。

 

「…そうですわね。

私たちが食べてるのを見てるだけなんて、お母さまにとっては不愉快極まりないですしね。

偉いわ知子。

…まぁ、どこぞのお父さまなら遠慮なくガツガツ食べるでしょうけどね」

 

「おいこら」

 

そんな何気ない会話に祈世樹は驚いた表情を浮かべた。

 

「ほ、ほんとに気にしないよ!

遠慮なく食べなさいよ!」

 

「お母さまのおかれてる状況を考えれば、質の良い紅茶でも美味しくいただけませんわ」

 

「ッ………璃杏…」

 

璃杏の不意な一言は祈世樹を牽制するには十分すぎた。

 

「……はぁ…。

 子供のくせに遠慮して…」

 

「むぅ…(・ε・)

 知子もう子供じゃないもん!」

 

「そうですわよ。

学ばず終いでは立派なレディにはなれませんしね」

 

はらりと金髪をなびかせる璃杏は、不思議といつもとは違う雰囲気で大人っぽく見えた。

 

『こいつら、俺も知らないとこでこんなに成長したんだな…』

 

少しだけしんみりしていると、祈世樹も少しだけ表情を落とした。

 

「大人…か…。

ついこないだまでわがままばかりの子たちだと思ってたら……」

 

表情こそ曇ってるものの、言葉に落胆の色は感じなかった。

自分の知らぬところで成長している事に気付けなかったのが気に食わなかったのか。

 

「…あれ?

そういえば知子、冷蔵庫にお菓子なに入れた?」


「ほぇ?

えっとぉ…」 

 

その場で思い出そうとしている知子を他所に璃杏は財布に入れたレシートを出して読みあげた。


「チョコスティックとポテトチップスとグミとバナナと………あっ…」

 

何かに気付いた璃杏が言葉を詰まらせるも、知子は何事か把握出来ていなかった。

 

「お姉ちゃんどーしたの?

わすれ物したの?」

 

そゆことじゃない。

未だ知らなかったか縦社会・未就学児。

 

「知ってるか知子。

冷蔵庫にバナナを入れておくとな…………黒くなっちまうんだよ」


「………ッ!!?∑( ゜д゜)」 

  

その単語に知子は表情を強ばらせた。

そして急ぎバナナを出して安否を確認すると安堵のため息を漏らした。

 

「ぷっ…」

「ぷっ…」 

「(^ω^`)ブフォwww」 

 

その様子に耐えられなくなった俺たちは三人同時に吹いた。

 

「にゃっ!?

ちっ……知子知ってたもん!

バナナさんは悪いことをしたから、おしおきとしてれーぞーこに閉じこめたの!」

 

無茶ぶり苦しすぎる言い訳に俺たちは声を殺して笑った。

 

「むーーーっ………いじわるお父さんたちきらーーい!!!!(*`Д´)」

 

激おこプンプン丸級に怒った知子に俺たちは溜まっている鬱憤さえ忘れて笑っていた。

 チラッと祈世樹に視線を向けると彼女も純粋に笑っていた。

 

『こりゃ……知子に一本取られたな』

 

本人の預かり知らぬところで勝敗が決着し、久しぶりに俺も腹の底から笑えていた。

 

「もぉーーー、知子おこってるんだよぉぉぉぉぉ…!!!!」

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 







  

 

「じゃあ俺たちそろそろ帰るから」

 

「うん。

 いつもほんとにありがとね」

 

嬉しそうに笑顔を浮かべながら祈世樹が手を振ると、知子が抱きついた。

 

「ぜったい、びょーきなおしてね。

そしたら知子とおかし食べよーね」

 

「…もちろんよ」

 

優しく知子を抱きしめ、やがて満足した知子は自ら離れた。


「お母さま。

 私たちは信じていますわ。

 お母さまは白血病なんかに負けるはずなどないと……きっと完治して戻ってきてくださると信じておりますわ」 

 

「璃杏……。

 …うん、私もへこたれたりしないから。

 きっとみんなのとこに戻ってくるよ」 


祈世樹の手に触れ璃杏は泣きそうになりながらもその感情をグッと堪えてエールを送った。 

   

「…じゃ、また来るよ」


「うん。

 気を付けてね」 

  

俺の一言に祈世樹は再び小さく手を振って見送ってくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







 

深夜、皆が寝付いてから俺は一人で黙々とプラモ作りに没頭していた。

それに加え、テレビでゲームハードのオンライン機能を利用してMytubeを垂れ流しにしていた。

 

『うっ……うぅ……お父さん……』

 

昼間見た光景がふと脳裏をよぎった。

 

「ッ………!」

 

思わず俺は無意識に耳を塞いだ。

その時、背後から声が聞こえた。

 

「…父さん、何してるの?」

 

「ッ!?

……なんだ夏怜か…。

 脅かすな…」

 

脅かすつもりはなかったのは分かってるが、出来れば足音ぐらいは立てて欲しい。

 

「父さんこそ、耳が痛いの?」

 

夏怜の一言にようやく自分のおかれてる状況に気付いた。

 

「…こっ、これは………そう、虫だよ!

虫の羽音が聞こえた気がしてうるさいなと思ってな…」

 

もちろん苦し紛れの嘘ゆえ、夏怜ならすぐ見抜くと思ったが、当の本人は興味なさげに俺の向かい側のソファーに座った。

 

「…プラモデル?」

 

夏怜の興味はそっちに惹かれていたようだった。

 

「お……おん。

家で暇な時は何かしていたいと思ってな。

最近また始めたんだけど……知子が変に気に入ったらやりたいって聞かないだろうから、こっそり夜中に作ってたんだよ。

 ニッパーとかデザインナイフも使うから危ないし」

 

「そういう事ね」

 

そう言って夏怜は説明書を手に取り、流す程度に読み始めた。

 

「ちょっとやってみるか?

……てか、こんな遅くにどうしたんだ?」

 

時刻は深夜二時を回る。

小腹でも空いて眠れなかったのだろうか?

 

「父さんはどう思う?

……母さんの容態を」

 

「ッ…!」

 

真っ直ぐ突き刺すような切れ味を隠し持ったナイフのように夏怜は俺に質問した。

 

「……どうって…」

 

夏怜は何も答えない。

ただじっと俺を見つめ、分かってるんだろと言わんばかりに見据えていた。

 

「…………母さんは……治る。

……俺はそう信じる」

 

「………」

 

こういうのは夏怜が嫌う表現だ。

中身のない、神頼みや筋の通らぬ抽象表現は彼女が納得しない。

 

「………神のみぞ知る…ということかしら?」

 

テーブルに置いてあったせんべい菓子に手を伸ばしながら夏怜は再び問う。

 

「俺は神様じゃないし、白血病だから助からないなんて考えは絶対に持たない。

残された俺たちが出来ることは、母さんの帰りを待つことだけ…だろ?」

 

夏怜は表情すら変えない。

それでも、俺の答えに何処と無く納得はしたようだ。

 

「そう…」

 

パリパリと小さく音を立ててせんべい菓子を噛むと、張り詰めていた場の空気が弛緩した気がした。

 

「夏怜だって早く母さんに元気になって欲しいだろ?」

 

「……」

 

サクサクと小気味良い音を立てて咀嚼し、細かく噛み砕いたせんべいを飲み込んでから夏怜は返す。

 

「…母さんは大切な家族。

確率や運なんて関係なく生きてほしいわ」

 

言い方は遠回しだがそういう事だよな。

 

「…小腹空いたなら、なにか簡単なの作ろうか?」

 

「…これでいい」

 

それはいつも通りの冷静沈着な夏怜だった。

 

「眠れないなら父さんが添い寝してやろうか?」

 

「…親子でそういう事は許されないわ。

 「男女七歳にして同衾(どうきん)せず」……だったかしら?」

 

「…………(;′・ω・)…」

 

夏怜よ。

空気を読んでボケてくれたのかもしれんが、せめて感情を込めて言ってほすぃ。

てか同衾なんちゃら語ってたが、うちには強乃が居ることをお忘れじゃないよな?

 

「……プラモデル作り…面白い?」

 

「…やってみるか?」

 

夏怜の隣に座り、見方や順番を教えながら作り方を教えると、夏怜はいつしか俺の声すら届かぬ域に浸るように没頭していた。

 

『…こういうとこは俺と似てるな』

 

プラモデル作りに没頭する夏怜を、俺は隣で少し楽しげに眺めていた。

 

 

 


















翌日、俺は西浜さんに呼ばれた。

それも俺一人で。


「どうぞ、おかげになってください」


リルドさんに椅子を引いてもらい、対面側に西浜さんは鎮座していた。


「今日君を呼んだのは他でもない。

祈世樹くんに関してだ」


「………」


そんな気はしてた。

でも、今更何を…。


「ッ………」


リルドさんは自分の手首を強く握りながら何か辛そうにしかめっ面になっていた。

やがて西浜さんは重たげに話を続けた。


「君にだけは伝えておこうと思ってな…。

………祈世樹くんの「お母さま」についてだ」


「えッ…」


何故このタイミングで祈世樹のお母さんなのか、俺は理解できなかった。

だがリルドさんの反応からして、かなり深刻なことは違いない。


「…どうか心して聞いて欲しい」


西浜さんは変にもったいぶるように話を切り出せずいた。

やがて決心がついたのか、西浜さんははっきりと言った。

















「祈世樹くんのお母さまは…………「白血病」を患っていたのだ……」
















「……………」


脳が理解を拒否した。

西浜さんの言葉を理解してるのに、脳が言葉の意味を否定していた。


「今更こんなことを突然告白して申し訳ない。

だが…………これは本当のことだ…」


「……………は?」


それが精一杯だった。

ようやく出たその一声に俺がキレたと勘違いしたのか、西浜さんは少し怯えていた。


「い……いや、だからどうということではないが…………その……だな…」


あの西浜さんが俺に対して酷く怯えていた。

そんなに剣幕な顔をしてたのか分からなかったが、リルドさんも怪訝な表情で一歩下がった。


「……もしかして、祈世樹の病気はお母さまから継いだものとか…?」


何とか会話を作ろうと俺は質問を投げかけた。


「…私も個人的に少しばかり調べてみたが、遺伝的な発生は確率が低いらしい。

…そうではなく………祈世樹くんがここに連れてこられた「理由」という事だ」


「…ッ!?」


ようやく理解が追いついた。

つまり、祈世樹がここに連れてこられたのはお母さまが白血病を患ってて、子育てが難しくなったからということだろう。


「…ここに連れてこられた子供たちは皆家庭の事情である事は変わりない。

最初の子は両親の離婚でどちらも親権を放棄したこと。

二人目は金銭的な問題でご両親が子育てを続けられずやむを得ず。

三人目は両親からのネグレクトで子供自身が児童相談所に駆け込み、そこからここに来たこと。

四人目である祈世樹くんは、お母さまが白血病を患った事でお父さまが夜逃げしてしまったからだ……」


「ッ……!!?」


西浜さんは比較的、淡々と語るも傍らで傍聴していたリルドさんはその時のことを思い出してかハンカチで涙を拭いていた。


「なんと惨きことよ…。

祈世樹くんのお父さまは、お母さまの病をきっかけに人が変わったかのように酒に溺れ、挙句は祈世樹くんにも暴力をふるっていたらしい。

いくらお母さまの病に気を病んでいたとはいえ、親として有るまじき最低な所業だ」


「………」


黙って話を聞いてはいるものの、俺は今にも叫びたいほど苛立っていた。


「……じゃあ………ここに祈世樹を連れてきたのは……」


「…お母さま一人だ。

まだ動けるうちにと、無理を強いて祈世樹くんを連れてきたのだ…」


「………」


俺は改めてその時の映像をイメージしてしまった。

きっと祈世樹のお母さまは、辛いのを我慢して幼い祈世樹を連れてきたに違いない。

何よりも………病気を理由に愛する娘を手放したその心情はさぞ耐え難かっただろう。


「お母さまは最初ここに相談に来た時、必死に祈世樹くんの事を案じてのことだと語らっていた。

本当はもっと沢山したいこと、親としてこの子の成長を支えてやりたかったと……お母さまは泣いていた…」


語り続ける西浜さんもいつしか涙ながらに声を震わせていた。

それにつられるように俺も泣いていた。


「祈世樹くんのお母さまは……「強い方」だった。

最初来た時はあんなに涙ながらに頼み込んできたのに、祈世樹くんを連れてきた時は……人が変わったように淡々と「この子をよろしくお願いします」と一言だけ残して去っていった。

……きっと……祈世樹くんを置いていってから……一人で泣いていたに違いない…。

縋る相手もおらず、ただ一人……己を責めていたに違いない………」


やがて西浜さんも喋れなくなるほどに泣き、ティッシュで涙を拭いつつ鼻をかんでいた。


「……それでも……」


絞り出すように西浜さんは続けた。


「…それでも……祈世樹くんはすくすく成長してくれた…。

前途多難な人生であれど、きっとこの子はいつか幸せになれる日は必ず来ると信じ、私らも必死に面倒をみた。

君とも出会い、いつしか祈世樹くんは大きく健常さを取り戻した。

…なのに………まさか、こんな終わりが来るとは………」


再び西浜さんは崩れるように泣き出してしまった。

リルドさんがそっと背中をさするも、テーブルに突っ伏して泣き伏せる西浜さんはあまりに惨めだった。


「…すいません。

用事思い出したんで帰ります」


「ッ!?

燈さ…」


『ガチャン…』


リルドさんの声を遮るように…逃げるように俺はその場を出た。


「ッ………」


駆け足で車に乗りこみ、脱兎のごとくエンジンをふかして俺は家に向かった。

途中、病院に行こうかと思ったが、俺の身体は自然と家に向かった。


「………」


車のエンジンを止めても、しばらく俺は降りれなかった。

ただ無意識に、何も考えることすら出来ず上の空になっていた。

やがて無理やり車から降り、俺はすぐさま家に入りソファーに横たわった。


『……何で俺は……』


ようやく思考が戻ってきたものの、俺はいつの間にかそのまま寝落ちしていた。




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