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拝啓、空と世界へ  作者: 鷹利


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63/73

Ext.23 (茶番)生と死の狭間で見据えたもの

現実には信じ難いことが数多く存在する。

例えるなら、所詮夢だと思いつつ買った宝くじが高額当選した事。

子供の拾った石ころがまさかの隕石の一部だったり。

拾ったパチンコ玉一つで大連チャンなど、形は様々であろう。

そんな思いがけないチャンスや出来事を人は「奇跡」と呼ぶ。

そう、それは今俺の目の前でも………。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

  




『お帰りなさいませ、ご主人様』

『お帰りなさいませ、ご主人様』

『お帰りなさいませ、ご主人様』 

 

 

 

 

  

 

  

 

 

 

 





 

気が付くと、メイド喫茶らしい店の入り口で可愛らしいメイド服に身を包んだ夏怜、璃杏、知子が俺に頭を下げていた。

 

「あっ…えっと…」

 

状況がつかめずにいる俺の手を知子が引っ張る。

 

「ご主人さま、おせきはこちらです♪

 どうぞごえんりょなくすわってください♪」

 

「ちょ…知子!

 待て……!」

 

人の静止を聞かず知子は俺を引き連れて強制的にテーブル席に座らせた。

真っ白なテーブルクロスが被せられた丸テーブルの上には、メイド喫茶でよく見る……かもしれない電気ロウソクが火を灯していた。

 

「あ、あの…。

 俺はお客なんでしょうか……?」

 

恐る恐る傍にいた璃杏に聞くと、まるで営業スマイルと言わんばかりの笑顔で応答してきた。 

 

「えぇ、勿論ですわ。

 …それよりもご主人さま。

 当店ではこのロウソクが消えるまでがお時間となっております。

 このロウソクの火が消えてしまいますと、魔法が解けてしまいますのでそこだけご注意願いますわ。

 それと、私どもに触れてしまいますと「溶けちゃいます」のでそこもご遠慮ください☆」

 

「あ、はい…」

 

なんとも璃杏にはピッタリと言わんばかりの接客業だ。

身長もあってか、みんなよりスカートの丈は短く見え、スラリと伸びた白い脚にまとった白のニーハイは璃杏の美しさを一層際立てていた。

おまけに金髪ヘアーだから尚更のこと。

 そんな光景にようやく判断力が整って思わず一言。

  

『うむっ、間違いなく夢だな!』 

 

夢の中で夢だなと割り切れるのも特殊すぎる気がするが、とにかくこれは夢で間違いないと確信出来た。 

  

「…お待たせしましたご主人様」

 

まるでロボットのような無機質な挨拶と共に夏怜が料理をそっと置いた。

その際、夏怜の胸元から見えた谷間に視線が向いた。

 

『………うんっ、夏怜の控えめな性格と胸は、きっとそういう癖の人種が好むだろう……って、いやいや!!!!

 俺は一体何を考えて…!///』

 

四十六にもなるジジイのクセに思わず邪なことを考えてしまった。

これだからアニメ脳と言うやつは…。

 

『気を取り直して…。

 …おっ、やはりオムライスか』

 

正気に戻って料理に目を向けると、そこには綺麗に盛り付けられたオムライスが置かれていた。

 

「ご主人さま、何かリクエストがあれば私がお描きになってさしあげますですわ」

 

「じゃあ……適当に顔文字でも書いて欲しいかな」

 

「かしこまりましたですわ♪」

 

すると璃杏は遠慮なくするするとケチャップを垂らし、オムライスに顔文字を描き始めた。

 

「……よしっ。

 如何でしょうかご主人さま?」

 

璃杏が描いた顔文字は定番の「(´・ω・`)」だった。

それを見て、知子も横で何やら地団駄を踏んでいた。

 

「うー…。

 …知子もかくのーーー!!」

 

「ちょ…知子!?」

 

璃杏からケチャップを取り上げ、知子は顔文字の下に何やら描き始めてしまった。

 

「にゅっ…にゅるにゅるぅ〜……えへへー、出来たのー♪」

 

そこには皿の縁に「ショボンゴ」とカタカナで書かれていた。

 

「もっ、申し訳ありませんご主人さま!

 …知子、いけませんですわよ!

 勝手にご主人さまのリクエストと関係なく文字を書き込んではいけませんですわ!」

 

「うぇぇー!

 だってだって、知子も書きたかったんだもんー…(´・ω・`)」

 

リアルしょぼん顔で知子はふてくされるも、ベテランメイド(?)の璃杏はすぐさま謝罪をしてきた。

 

「申し訳ありませんご主人さま。

 うちのメイドが失礼を働かせてしまって…」

 

「いいよ。

 それよりも、早くオムライスを食べていいかな?

 せっかくの出来たてを冷ましてしまったら勿体ないしな」

 

「あっ、であれば心配無用ですわ!」

 

そう言うと、璃杏はどこからともなく冷食の袋を見せてきた。

 

「こちらをレンジでチンすれば、何時でも出来たてのを味わえますのでおかわりはいくらでもご用意出来ますわ♪」

 

「うん、そういうのは絶対、俺以外のお客に見せたらダメだぞ☆」

 

軽い注意喚起をし、俺はオムライスにスプーンを刺した。

 

「あっ、少々お待ちくださいご主人さま。

 本日限定で、私たちメイドによる「手渡しであーん」が出来るサービスが出来ます。

 宜しければご利用なさいませんか?」

 

「えぇ勿論、利用させていただきますともちこう寄れ」


誰かこの胸クソ極み悪代官にお縄をかけてくだされ。 

 

「では、私どもの中から一人ご指名くださいまし」 

  

頬張る直前でスプーンを止め、俺は全員を見定めていた。

 

『んー…。

 知子は楽しいだろうけど落ち着きが無いだろうし、夏怜は静かに食べさせてくれるけど、なんか食事中もじっと見てくる気がするし……そういや海麗は…………あら(´・ω・`)』

 

のっけから姿が見えなかった海麗の姿を探すと、店の奥で一人お盆を持って待機していた。

しかも何やら鬼のような形相でメラメラと黒いオーラを際立たせて俺を睨んでいた。

 

『海麗はそっとしとこう…(汗)』

 

軽く咳払いをし、俺はそっと璃杏を指名した。

 

「じゃ、じゃあ璃杏。

 君に頼もうk…」

 

「ご主人様」

 

突然、割り込んできのは夏怜だった。

 

「宜しければ私めにどうぞお申し付けください。

 ご主人様がいらしてからというもの、一切の奉仕が出来ておりません。

 私ごとの強情な申し付けですが、ここは私めに奉仕を…」


ぐいぐいと能面顔を近づけてくる夏怜に気圧され、思わず俺は押し負けてしまった。 

  

「わ、分かった…。

 じゃあ夏怜、よろしく頼むよ」

 

「…ありがとうございますご主人様」

 

どうも璃杏と知子に遅れをとったのが気に入らなかったのか、珍しく夏怜は自ら自己主張的に申し出てきた。

 

「ご、ご主人さま。

 お気に召さないのであれば、他のメイドでもよろしいのですよ…?」

 

「うん。

 でも夏怜の言う通り、何もさせてあげれてないからね。

 今回は夏怜にも奉仕してもらおうかな」

 

海麗は絶対に恐喝的奉仕だろうしな。

俺ちゃんMじゃないから無理やりオムライス突っ込まれても泣くだけだろうし。 

 

「そ、そうですか。

 ご主人さまがよろしいのであれば…」

 

そう言って璃杏は何か言いたげに下がった。

何か悪いことを言っただろうか。

 

「ご主人様。

 この度は私のわがままを聞いていただき、深く感謝申し上げます」

 

俺の隣に来た夏怜が深々と頭を下げる。

璃杏より露出度が控えめな夏怜は「萌え」というより「明治時代」を彷彿とさせる安心感(?)があった。

  

「いいよ、表を上げい。

 オムライス食わせてくれるんだろ?」

 

「はい。

 …その前に、美味しくなるおまじないをかけさせていただきます」

 

「おっ、是非ともお願いしよう」 

 

テレビとかで見た事ある「アレ」だろう。


「ではご主人様、私と一緒にご斉唱願います」

 

「お、おん…」

 

とは言ったものの、思ったより恥ずい…。

 

「美味しくなーれ、美味しくなーれ、萌え萌え…キュンっ」 

「美味しくなーれ、美味しくなーれ、萌え萌え……キュン…(汗)」 

 

おまじない………と言うよりは「願掛け」とでも言うべきか。  

スプーンにさっき割ったオムライスの一部をそっと乗せ、夏怜は俺に差し出した。

 

「ではご主人様。

 あーん…」

 

「っ!?///」

 

璃杏とは反対に夏怜の見た目に露出的な部分はほとんど見当たらない。

であれば、この胸の奥から込み上げてくるときめきはおそらく彼女の放つフェロモン的な色気と、悩殺的アングルからの萌え要素か。


『い、いかんいかん。

 夏怜をそんないやらしい目で見てはいかんな。

 でも……こうして見ると夏怜も可愛いな…』

 

親心30%、萌心65%、下心5%で俺は夏怜のオムライスに食らいつく。 

  

「あーん…。

 ……んむっ、美味い!」

 

「それは良かったです」

 

冷食バレしとるけどな。

 

「…もう一口どうぞ」

 

「んぇ?

 …あ、あぁ…。

 こりゃどうも…」

 

いつの間にか掬われていたオムライスを再び頬張る。

 

「…美味しい?」

 

「おん。

 美味いぞ」

 

「そう…」

 

もはやキャラを忘れて素に戻っている夏怜は薄らと笑みを浮かべ、再びオムライスを差し出していた。

 

「むぅー…。

 知子もあーんしたいなぁ…」

 

「私だって、あーんの一回ぐらいしたかったですのに…」

 

どうも後ろからぶつぶつと聞こえてくる声に、俺は冷や汗をかきながらオムライスを頬張った。

 

「…美味しい?」 

 

「……おん…」

 

オムライスを食べさせる度に夏怜はクスリと笑う。

それを見て知子と璃杏はむず痒そうに羨ましがる。

 

『…辛い(´・ω・`)』

 

そう思っていると、手元にあったロウソクが不意にゆらりとなびいて消えかかってるのを知らせた。

 

「っと…ご主人さま。

 そろそろお時間が来てしまいました」

 

「おっ、もうそんな時間か。

 サンキュー夏怜」

 

夏怜が差し出していたオムライスの乗ったスプーンを受け取り、俺は一気に残りのオムライスを食べきった。

 

『家系中年にはこの程度でさえキツいか…』

 

膨れた腹をさすりながら水を飲むと璃杏が近寄ってきた。

 

「ご主人さま。

 お時間はここまでとなってしまいますが、本日限定で「メイド一人だけお持ち帰り出来るサービス」があります。

 いかが致しましょうか?」

 

「なっ…!?

 お、お持ち帰り…だとッッ…!!!」

 

思わず全員の顔に目を向けるも、今回ばかりは流石に即決は出来なかった。

 

「あ、あの……お持ち帰りしたら……そのあとはどういう風に………」

 

「勿論、ご主人さまのお好きなようにご命令ください。

 家事・洗濯やおつかい……なんなら、ご主人さまの思うがままにも…」

 

ひどくそそられる甘言に心が揺れるも、さすがに自分の娘に下手なことは出来ない。

 

『……そうだ!』

 

ある事をひらめき俺は璃杏に聞いた。

 

「一ついいか?

 その……このメイド喫茶にもう一人メイドはいるか?

 その……き、祈世樹っていうメイドはいるか…?」

 

しどろもどろに聞くと璃杏は少し虚ろげに答えた。

 

「え…えぇ。

 私たちの大先輩であり上司である「メイド長」はおりますが…」

 

「是非、メイド長さんをお持ち帰りさせてください!」

 

「なっ!?」

 

「ふぁっ!?( 'ω')」 

 

俺の言葉に璃杏と知子が驚愕した。

 

「ご、ご主人さま…。

 大変申し上げにくいのですが、メイド長はその様なサービスには対応しておりません。

 出来れば私たちで選んでいただければ…」

 

『バンッ!』

 

突然テーブルを叩いて立ち上がった俺に璃杏と知子がおののいた。

 

「居るならメイド長を頼む。

 出来ることなら俺はメイド長さんがいい。

 本人がどうしても無理と言うのであれば諦めよう。

 とにかく、メイド長に聞いてみてくれ」

 

「か、かしこまりました…!」

 

慌てた様子で璃杏と知子がどこか裏口に入ると、少しばかりの静けさが辺りを覆う。

 

『メイド……ねぇ…』

 

そもそもなぜこの夢では全員メイドなのか、色々考えさせられる部分も多いが一番の問題は身近にあった。

 

『祈世樹のメイド姿…。

 …どう考えてもババコs……いやいや、それはそれで俺はアリだと思う!

 だって、言うても家内だしな…。

 たしかに歳はとったが、おそらく似合わないことは…』

 

半ば勢いで言ってしまったことを色んな言い訳で自分に言い聞かせていると、そっとテーブルに一杯のコーヒーが置かれた。

 

「…お口直しにどうぞ」

 

コーヒーを置いてくれたのは夏怜だった。

メイドカフェとは思えない気遣いだ。

 

「あ…ありがと。

 ……美味しい」

 

両手でお盆を持つ夏怜を眺めながらコーヒーをすすっていると、璃杏が髪を整えながら忙しなく戻ってきた。

 

「ご主人さま。

 メイド長から許可がいただけました。

 お持ち帰りOKだそうですわ」

 

「ぶふぉ…!

 マジかッ!?」

 

言っておいてなんだが、正直来てくれるとは思っていなかった。

知子と夏怜、璃杏に連れられ、俺は観音開きの大きなドアの前に連れてこられた。

 

『やっぱりメイドカフェらしくねぇ…』

 

夢だとは分かりつつも、どうもしっくりこないとこは俺クオリティだからだろうか。

 

「ではご主人さま、支度の準備が整いました。

 どうぞ、ご主人さまのお気に召すままにご命令くださいまし」

 

「…海麗、そっち開けて」 

 

「…チッ……」 

 

璃杏と知子が頭を下げ、夏怜と海麗がドアを開けた。

…てかっ、今舌打ちされた…? 

 

「…ッ……まぶしッ…」

 

大規模なバックライトの後光越しに人影が見えた。

 

『おまけに足元から漏れ出してくるスモーク…。

 どんだけ演出に金かけてるんだよ…』

 

心の中でツッコんでいると、バックライトがゆっくりと消え、ようやく姿が見えた。

 

「……ご、ご指名ありがとうございますご主人さま…。

 ふつつか者ですが、どうぞご主人さまのご命令に尽くせるよう、ご奉仕致します…」

 

そこにいたのは紛れもない祈世樹だった。

その身なりはみんなよりも露出控えめで、如何にもリルドさんの愛着しているメイド服と近いクラシック調だが、年齢もあってかどこか落ち着かない様子だった。

だが、それは俺の目にはマムシよりも猛毒だった。

 

『ブシュッ…』

 

鼻から何かが漏れた気がした。

鉄臭い雰囲気からしておそらく鼻血だろう。

 

「ご、ご主人さま!?

 鼻血が…!」

 

すぐさま祈世樹メイドがハンカチを取り出して俺の鼻を拭いてくれる。

 

「体調が悪いのでしょうか…?

 私でよければなんなりとおっしゃってください。

 お薬の買い出しや看病、お洗濯やお背中も流します」

 

不安げに俺を見つめる祈世樹に、久しぶりに俺は萌えていた。

 

『す、すまん祈世樹…。

 お前のメイド姿に萌えて思わず鼻血が出たなんて恥ずかしくて言えたものでは無い…』

 

心の中でそう呟くも、俺はグッとこらえて祈世樹の肩に手を乗せた。

 

「祈世樹。

 お前にはやって欲しいことが沢山ある。

 それは山ほどだ。

 お前は普段から仕事の毎日で正直、俺も気を遣って言えないでいる部分もあった。

 それがきっかけで最近マンネリ気味になってきていた。

 だからあえて言おう…。

 ……俺と一見、お城のようなホテルに行ってはくれまいかッ!!!!!」

 

娘たちの目の前で何を言ってんだろう思いつつも、祈世樹は少し目を見開いてから答えた。

 

「…は、はい!

 ご主人さまの命令であれば、どんなご奉仕でもさせていただきます」

 

その返事に俺の理性が一気に飛んだ。

 

『あ……アザ━━━━(゜∀゜)━━━━ス!!』

 

すぐさまお姫様抱っこをし、俺は祈世樹を連れてメイドカフェを出た。

 

「きゃっ…!?///

 ご、ご主人さま!

 そんなに急がずとも…///」 

 

「何を言うておるッ!!!

 殿方がそちを所望しているのだぞ!

 そんな姿を見せられて久しぶりの夜戦に落ち着いてなどいられるものかッッ!!!!」

 

もはや自分でさえ理解不能な言語に頭痛を伴いつつも昭和のマンガよろしくグルグルダッシュで俺はホテルに向かって走った。

 

「行ってらっしゃいませ。

 ご主人さま、メイド長さま」

「行ってらっしゃいませ。

ご主人さま、メイド長さま」

「行ってらっしゃいませ。

ご主人さま、メイド長さま」

 

行儀よく見送ってくれる娘たちの挨拶を背に、俺は祈世樹メイドとともに目の前にそびえ立つネズミーランドの○ンデレラ城のようなホテルに向かった。

目の先にそびえ立つホテルの入り口に着き、俺は祈世樹を降ろした。

  

「でゅふふ…。

 さぁてぇ……これからどんなご奉仕をしてもらおうかなぁ…」

 

「ひゃんッ!?///

 ……お、お手柔らかにお願いしますご主人さま…」

 

ポンッと尻を触られ、祈世樹はビクンと反応して顔を赤くしていた。

 

「いやぁ〜、娘たちの目の前であんな事言っちまったけど、どうせ夢だから大丈夫かぁー。

 なっはっはっはっ!」

 

高笑いをする俺の隣で祈世樹は誘われるままににこにこと笑い、俺たちは意気揚々とホテルに入っていった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





「おぉ〜、中はめっちゃ広いなぁ。

 うちのも広い方だけど、まさか四十六になってからも来れるとはなぁー。

 …ん?風呂?

 そんなの俺は気にせんよォ。

 あんまり焦らされると俺オオカミになっちゃうぞおぉ……………ッ………」

 

目を開けると、そこには悲しすぎる現実が待ちわびておりました。

 

「ふおぉぉぉぉ。

 お父さん楽しそーだったね!

 どんなゆめ見てたの?

 なんか知子のことよんだりしたよね?」

 

「…………」

 

一見すると俺の夢に興味を抱く知子。

だがその傍には、全員が俺を冷ややかな目で見下していた。

 

『神様………俺はいくら納金すれば救われるでしょうか……』

 

神に祈ろうにも時すでに遅し。

俺の醜態は、既に観衆の脳裏に焼き付いてしまっていた。

 

「あの……祈世……樹…さん…?

 ………ち、違うんだっ!

 別にお前のメイドコスにテンションが上がってたわけでも、璃杏たちのメイド姿に興奮してたわけじゃな…………」

 

もはや何を言おうにも取り返しがつかなくなっていた。

 

「璃杏、ご飯炊けてるから混ぜておいて。

 おかずは私が作るから。

 …みんなも早く降りてご飯食べましょ」

 

「あっ…祈世ッ……!

 ……り、璃杏!

 頼む、分かってくれ!

 これはあくまで夢だったんだ!

 不可抗力だったんだYO!!!!」

 

祈世樹と共に立ち去ろうとする璃杏に弁解を持ちかけるも、璃杏は殺気立った笑顔を浮かべ、モザイクがかけられた不穏な手元を向けそのまま立ち去った。

 

「あ…あぁ……」

 

あからさまに落ち込む俺に知子が心配してくれるも、海麗の手によって案の定連れ出され、それに連なって強乃もまた出ていった。

 

「……」

 

残ったのは、一から十までポーカーフェイスを極めていた夏怜だった。

 

「……よい夢を」

 

そう一言残し、夏怜もまた静かに部屋から出ていった。

 

「………はぁ…」

 

正直、人生で何度も死にたいと思う事はあった。

それでも家族のことを思うと頑張って来れた。

けれど……。

 

『もう……いっその事死のうか…』

 

そう思い俺は布団にくるまった。

その時、再び誰かが部屋に入ってきた。

 

「…父さん。

 母さんが早く降りてこいって。

 父さんの分の飯無くなるってよ」

 

聞こえてきたのは強乃の声だった。


『祈世樹…』

 

やがて強乃の足音が遠くなっていき、リビングの喧騒がわずかに聞こえてきた。

 

『………なんだかんだ言っても……やっぱり俺の事信じてくれてたんだな…』

 

ふて寝から飛び起き、俺は改めて全身でお日様の光を浴び、気持ちを切り替えて意気揚々に降りた。

 

「…ごめんな祈世樹。

 さっきは不愉快な思いをさせちまったな。

 ほら、飯支度は俺がするから座って待って…」

 

「いい。

 燈には頼りません」

 

………あまりにどぎつい返しに俺は思わずおののいた。

 

「あ…はい…。

 すいません…」

 

我ながら情けないと思った。

強乃から伝えられた祈世樹の言葉は幻だったのかつゆ知らず、俺はいつもの場所に座った。

 

「……な、なぁ璃杏。

 さっきは悪かった。

 別に、璃杏でスケベなことを考えてたとかそういう邪な事じゃなくて………なんつーかこう………そう、楽しいことだ!

 なかなか可愛かったぞお前のメイドすがt…」

 

『ガシャンッッ!!!!』

 

俺が言い切るのと同時に璃杏は手に持っていた箸と茶碗をテーブルに叩きつけるように置き、終始無言のまま顔を洗いに行ってしまった。

 

『ありゃ…。

 逆効果だったか…』

 

時すでに遅しなのは当然のこと。

璃杏は思春期である年頃ゆえ、こういったことはさぞ不愉快だったのだろう。

 

「璃杏お姉ちゃん……こわい…:( ;´꒳`;):」

 

なんの事か知らず怯える知子を夏怜が優しくなでるも、強乃と海麗の視線はあまりに乾ききったものだった。

 

『…はぁ……』

 

どうやら、俺を救ってくれる神はベガスのカジノにでも行ってるのか、状況は悪化する一方だった。 

 その後、祈世樹は約一週間、璃杏は半年ほど口をきいてくれることは無かった。

 

 

 

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