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拝啓、空と世界へ  作者: 鷹利


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Ext.22 思い出は掘り出してなんぼ

日曜の昼下がりのこと。

 

「お父さん!

 こんなん見つけた!」

 

リビングでくつろいでいると、知子がどこからか古いアルバムを持ち出してきた。

 

「アルバムじゃないか。

 一体どこから…」

 

「お父さんとお母さんのへやのクローゼットのおくから!

 なんかおたからとかないかなぁってさがしてたら出てきたの」

 

「お宝って…」

 

テーブルにドンっと置かれたアルバムを何気に開く。

 

「…おっ、懐かしいなぁ」

 

一ページ目に出てきたのは、夏怜の出産後の写真だった。

写真には生まれて間もない夏怜の隣に若かりし頃の祈世樹が笑顔で写っていた。

 

「これだーれ?」

 

「夏怜だよ。

 確か、生まれて一週間ぐらいしてからのときかな」

 

「うえぇぇぇッ!?

 これ、夏怜お姉ちゃんなの!?

 かわいーーー♪(*´ω`*)」

 

知子の叫び声にぞろぞろとみんなが集まってきた。

 

「何ですの知子。

 急に叫んだりして」

 

「なんだ、面白いもんか?」

 

「……」

 

当人たる夏怜は無言で写真を見つめていた。

 ちなみに祈世樹は休日出勤、海麗はこないだ言っていたパートの面接に行っている。

 

「これ、私なの?」

 

「おん。

 可愛いだろ?

 夏怜の泣き声が聞こえた時はすっごい嬉しかったなぁ」

 

珍しく夏怜が俺の真後ろからピタッとくっ付いてアルバムを覗いていた。

 

「ねーねー、つぎまだーー?(( 'ω' 三 'ω' ))」


「分かったからジタバタすんな」 

  

知子に急かされながら捲ると、次のページには複数の写真が載せられていた。

 

「これは夏怜が初めて立った時。

 これは夏怜が初めて言葉を発した時。

 これは夏怜が初めて食事で口周りを汚した時。

 これは夏怜が初めて…」

 

「父さん、次のページを見たいわ」

 

軽く辱めになっていたのか、夏怜は俺のほっぺをつねって解説を遮った。

 

「お、おぅえぃ…。

 ……えーっと……次は海麗だな」

 

次のページには、生まれたての海麗に寄り添うように祈世樹と夏怜が写っていた。

 

「海麗お姉ちゃんもかぁいー!(*' ▽'*)」

 

今とは似ても似つかわしくないと言っても過言じゃないほど、写真の海麗はまるで天使そのものだった。

 

「海麗も小さい頃は素直な子でな。

 夏怜がよく世話をしてくれて助かったよ。

 …確か夏怜が五歳ぐらいの頃、母さんが仕事で居ない時に「お母さんが居ない」って海麗が不安がってな。

 そしたら夏怜がなだめて落ち着かせてくれたんだ」

 

「…そんな事もあったかしらね」

 

ツンっとそっぽを向く夏怜の背中をトントンと叩きつつ、俺は次々と捲って思い出を堪能していくうち、ある事に気付いた。

 

『そういやこうして見てると、俺っていつも撮り手側で一枚も写ってないな』

 

だんだん家族が増えていくも、俺自身は全くもって写真に写っていなかった。

 

『まぁ写真は好きじゃないからいいけどな』

 

そんな事を思いつつページを捲っていくと、次に璃杏の写真が顔を覗かせた。


「ふおぉぉっ!

 これって璃杏お姉ちゃん!?」

 

「そうなるな。

 生まれた順番に写真は載せてるからな」

 

「…何だか自分のだと思うと、不思議と可愛げが薄れるものですね…」

 

それまで夏怜や海麗の写真には目を輝かせてた璃杏は、急に興が冷めたかのようにソファーでファッション雑誌を読み始めた。 

璃杏の写真が終わると次は強乃、知子の写真が続き、知子の入学式の写真でアルバムは完結した。 


「もう終わりですの?

 なんか呆気ないですわねぇ」

 

途中、知子の写真から戻ってきた璃杏が物足りなさげに呟くと、知子がまた寝室に走っていった。

少ししてドタドタと忙しなくもう一つアルバムを持ち出してきた。

 

「もーいっこあった!(`・ω・´)」 

 

再びドンっと置かれたアルバムは先のより古物からか、少し薄汚れ表面のカバーが破れていた。

 

「これは母さんと付き合って結婚した頃までのかな」

 

その一言に何故か全員が食いついた。

 

「お父さまとお母さまの若い頃ですのッ!?

 是非とも拝見したいですわ!」

 

やはりこういう話題には璃杏が一番に食いついた。

 

「お父さん!

 早くっ、早く!(( 'ω' 三 'ω '))」

 

「わ、分かったから…」

 

知子に急かされて開こうとした時だった。

 

「…そういえば、さっきのアルバム……父さんが全く写ってなかったわ」

 

夏怜の思わぬセリフに全員が俺に振り返った。

 

「えっ……えっと……ほら、誰かが撮らないとお前らの写真撮れんだろ?

 たまたま俺がカメ役を買って出ていたのであって……別に写りたくないとかそういう訳じゃ………あはは…」

 

苦し紛れに言い切るも、全員が怪しいと言わんばかりの眼差しで俺を見ていた。

 

「と、とりあえず見てみよう!

 ほら、俺と母さんの若い頃のだぞ!」

 

何とか全員の目線をアルバムに向けさせ、俺はゆっくりと開いた。

 

「…ふぉ……。

 これ、お父さんたちのがくせーの時のプリクラ?」

 

「まぁ、なんとお若いんでしょうか…!

 残りのお二方は、紫さんと慶太さんですわね!

 なんとも微笑ましいですわ…」

 

「へー。

 母さんって今とあんま変わらないんだなぁ」

 

「…何か、いいわね」

 

それぞれ思うところに語るも、俺は一人浮かれていた。

 

「…………」

 

いい意味かどうかは分からない。

なんつーか……全くもって忘れていたとしか言い様が…。

 

「お父さんもあんまりかわんないね!

 このころはシワもしらがも少なかったんだね!」

 

「知子。

 それじゃ父さんが若い頃から老けていたことになるわ」

 

それぞれ思うままに語るも、俺は未だうわの空になっていた。

 

『こんなのがまだ残ってたんだな……』

 

すすけたプリクラの中の祈世樹は今よりも断然若々しく、まるで童女とでも言うべき幼さが全開で感じ取れた。

…気が付けば、俺は無意識に泣いていた。

 

「…父さん?」

 

「……ッ!?

 …あぁいや、何でもない。

 ちょっと色々と思い出してな」

 

早急に涙を拭うも、みんな心配そうに俺を見ていた。

 

「だ、大丈夫だよ!

 ちょっと懐かしさに思わず涙が出ただけだ!

 年寄りになると涙脆くなるんだよ。

 ほら、次捲ってみ」

 

少々気にしつつも知子がそっとページをめくると、そこには俺と祈世樹、西浜さんとリルドさんが教会の前で写っていた。

 

「ふぉ…!

 お父さん、これはいつの?」

 

「あぁ。

 これは母さんと俺が付き合い始めた頃の写真だ。

 おじさんってば、俺が母さんと付き合い始めたって聞いてすごく喜んでくれたんだよ」

 

「そうなんですの?

 そういうのって逆に「お前みたいなひよっこにウチの娘はやらん!」みたいな感じで反対されるものだと思いましたが…」

 

「まぁ娘親なら普通はそうだな。

 けど、おじさんは「君以外の男など、財閥の御曹司でもない限り私は認めん」ってむしろ喜んでくれたんだよ。

 母さんとは高校入学して間もない頃から知り合ってはいたが、友達が少なかったみたいで、途中から友達になった俺が嬉しかったみたいなんだよ」

 

「ほぇ〜( ´σ‥`)」

 

話の三割程度しか理解していない知子は、頭のネジが飛んだような空返事で話を聞いていた。

再びページを捲ると、そこにはページ丸々使って一枚だけ載せられていた。 

 

「これは俺と母さんが交際して一年記念日に撮ったプリクラだ。

 最初のよりちょっと地味なのは、俺も母さんも落書きセンスがなくてな…」

 

俺も祈世樹もプリクラの落書きセンスは皆無ゆえ「交際一年記念日」やら「ずっと仲良し」だの、堅苦しめなことしか書けなかった。 

 

「でも、これはこれで素敵ね。

 高校生の時と違って、大人びた雰囲気がいいと思う」

 

「うん、知子もこれすき!」

 

知子と夏怜からは評判は良かったものの、なんだか照れくさいものだ。

 

「ただいま」

 

タイミングよく帰って来たのはバイトの面接に行ってた海麗だった。


「おかえり海麗。

 面接どうだった?」

 

「…どうだろうなぁ…。

 ……何見てんだ?」

 

「アルバムだよ。

 お前の小さい頃のもあるぞ」

 

「ッ…!?///」

 

そんなこんなで結局いつも通りの賑やかさに戻る子供たちからそっと抜け出し、俺はいそいそと晩飯の支度を始めた。

 

「ただいまー」

 

そこへ祈世樹も帰ってくればもはやお祭り状態。

 

『…やっぱり、俺はこの立ち位置が好きかな』

 

台所から賑やかなみんなの笑顔を眺めながらふと思う。

 

『いつまでもは………続かないよな…』

 

幸せは有限である。

だからこそ、今ある幸せを大事に噛みしめて生きていかねば。

もちろん大切な思い出は残しておくべき…………あっ…。

 

「…祈世樹。

 明日、振り替え休日だよな?」

 

「うん。

 どうかしたの?」

 

祈世樹のグッドタイミングな返答に俺はにんまりと笑みを浮かべた。

 

「明日、みんなで家族写真撮りに行くか。

 家族全員での写真ってそういえばなかったしな」

 

その一言にみんなが賛成した。

 

「良いと…思う」

 

「それは素敵ですわ!

 たまには家族写真というのも悪くはないですわね」

 

「知子もいーと思う!

 みんなで思い出つくるの!(`・ω・´)」

 

「まぁ、いいんじゃないか?」

 

「…そうだな」

 

笑顔でうなずく祈世樹を除いて全員がノッてくれた。

 

「じゃ、決まりだな」

 

こうして見ると、我が家の予定は大概俺が取り決めているようにも見えるが、これはあくまでみんなが着いてきてくれるからである。

きっと大人になれば、俺など邪魔だと思う時期が来るだろう。

 

『それはそれで寂しいが…必要なことだよな』

 

チクリと胸に刺さる痛みを感じつつ俺はテーブルに鍋を持っていく。

 

「アルバムどかしてくれ。

 今日はしゃぶしゃぶだ」

 

その一言に全員がわたわたとアルバムを片付け始める。

相も変わらずこういう所は全員素直だ。

 

『いただきまーす!』

 

全員で鍋を囲み、一斉に無数の箸が獲物を次々と捉えて掴み取っていく。

そんな中、俺は開かれていたアルバムに目がいった。

 

『…あれはなんの写真だろう?』

 

開かれっぱなしのアルバムに見覚えのないプリクラが見えた気がした。

おもむろに手に取ってみると、それは俺たちが高校の時のだった。


『……こんな事もあったな…』

 

少しばかり眺めてようやく思い出した。

確か高校二年目の夏休みの時だっただろうか。

…だが今話せば長くなりかねないので、この話はまた今度することにしよう。

 

「お父さん!

 ごはん食べてる時にしゃしん見てるとおぎょーぎわるいんだよ!」

 

「…そうだな。

 知子、肉だけじゃなくて白菜も食べろよ」

 

「はくさい?

 ……知子のおなかにもう入っちゃったかも!」

 

「知子、お前さっきから肉と白飯しかつまんでないぞ」


「ふぁッ( 'ω')!?

 おにーちゃん言わないでよおぉぉぉぉ!」 

  

強乃にバラされて知子はぷんすこ怒っていた。

 

『まぁ…いっか』

 

具材を確保し、俺も白ご飯と共に頬張る。

 

『美味い。

 みんながいるから…かな』

 

そんなクサい事を考えながら俺は箸を進めた。

 

 

 


















それから三日後。


「親父、母さん」


深夜の十一時。

海麗が神妙な面持ちで俺たちに報告する。


「…バイト………受かったよ。

来週から出勤になる…」


「そうなの!?

良かったね海麗…!」


半泣きで祈世樹が海麗の頭をなでると、海麗は少しこそばゆそうにうつむいた。


「じゃあ明日…みんなに報告だな」


そう言って俺は冷蔵庫から梅酒と桃のチューハイ、ノンアルのカシオレを取り出した。


「ほら、お祝いの盃だ」


海麗にカシオレを渡すと、初めてアルミ缶を見たチンパンジーの様にカシオレ缶をクルクル回し見していた。


「……オレ未成年だぞ」


「それはノンアルだ。

未成年にアルコールを飲ませるわけないだろ」


そんな俺たちのやり取りを祈世樹は傍らで楽しそうに眺めながらチューハイの缶を開ける。


「明後日、私も休みだから明日の晩にどこか外食行かない?

海麗、何か食べたいものとかある?」


「い、いや……まだ受かっただけだし、別に祝われるほどのことじゃ…」


「なぁに言ってんだ。

かつて引きこもりだったお前からは想像も出来なかったほどの成長だ。

祝うなと言われる方が無理だってーの」


半ば皮肉混ざりな言い方をするも、海麗は思ったより反論しなかった。


「その変わり、すぐ辞めることは許さんからな。

自分で決めたこととはいえ、そういうのは癖づくからな。

ほら、乾杯の音頭とれ」


「……」


俺と祈世樹が乾杯にグラスと缶を持つと、しぶしぶ海麗もカシオレ缶を持った。


「…乾杯」


「乾杯!」

「乾杯!」


素っ気ないながらも缶とグラスを当て、俺たちは一斉に飲む。


「……んーっ。

よく冷えてるし気分も上がってるから梅酒の風味がいつもより一段と良き!」


「海麗も一人で頑張ったもんね。

これからも大変だけど、今はゆっくり仕事を覚えていきなさい」


「……そうだな」


軽くペコペコと缶を潰しながら海麗は大人しくなるも、その様に俺は別の意味で嬉しくなっていた。


『海麗もようやく社会に出ることも出来た…。

年齢的には早いが、ずっと家にいるより全然いいしな。

親としても、働いてくれるのは本当に嬉しいしな』


そう思ってると、海麗は途中からカシオレを一気飲みした。


「……これ美味ぇな」


「ほんと?

燈、まだおかわりあったっけ?」


「…あーすまん。

祝い用とはいえ、海麗はあまり好まないかなと思って一本しか買ってなかったや…」


「んじゃ寝る」


そう言って海麗は立ち上がった。


「ちょ…海麗!

燈、他に海麗が飲めるものないの!?」


「っ!?

ええっと、冷蔵庫に何か……」


慌てて冷蔵庫の中を探すも、海麗は俺の考えに反して笑った。


「ぷっ…。

別に機嫌悪くしたわけじゃねぇよ。

オンラインゲー仲間に報告してくるだけだよ。

そしたら寝るけど」


「なっ…何だよもう…」


「海麗ったら…脅かさないでよ…」


思ったよりライトな理由に俺と祈世樹が安堵すると、海麗は楽しげに笑った。


「……外食、明日までに考えとく。

おやすみ親父、母さん」


そう言い残し海麗は部屋に寝入った。


「…私たちも寝よっか」


「そうだな。

…おやすみ前にチューでもしてやるか?」


「…酒臭いのは嫌です♪」


祈世樹に軽くあしらわれるも、俺も色々と気分が良くなってた故、楽しい気分のまま寝室に向かった。




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