5.敗北?いいえ、布石です
翌日の事だった。
学校に着き下駄箱を開けると、借りられていた本が置いてあった。
『あら、もう読み飽きたのかな…』
本に手紙は挟んでおらず、全て終わったのだと言われている気がした。
『海条…。
そんなにショックだったのかな…』
そう思いつつも本をカバンにしまい教室へと向かう。
「…よっ」
さっき来たばかりだったのか、教室に入ると坂口がカバンから教科書類を出していた。
「おは。
……小野々儀が見えないけど、休みか?」
「いや、あいつは朝練だ。
あー見えてバレーボールのエースだからな」
「なるほ」
小野々儀はいつも朝早くから登校し、坂口やクラスの女子と話していたりする。
見た目通りと言うのも失礼だろうが、小野々儀の見た目からして何かしら運動部のエースなのだろうと思ってはいた。
「…………」
「海条はまだ来てないぜ?」
「…えッ!?
いっ、いやッ……別に…そういうことじゃなくて…!」
「あっはっはっはっ!
お前、分かりやすすぎてやべぇな……くくくッ…」
「ぐっ…!
……クッソ…」
悔しいがその通りだった。
入ってきてすぐ女子の席を見るなんて、生JKヒャッホイなんてほざくバカか、気になる女子がいて落ち着かない…ぐらいしかないだろうしな。
「しかし、珍しいもんだな」
「ん?
何がだ?」
「いや、そこまで気にして見てたわけではないんだけどよ。
海条っていつも朝一番に来るのに、今日は来てないんだなって」
「へぇ~。
……てか、何でお前が一番に来ることを知ってるんだよ」
「前に紫が言ってたんだよ。
中学時代から海条は早起きで、いつも学校に真っ先に来てたって」
「へぇ~…」
何か裏がありそうな気もするが、疑う余地もない以上、下手に怪しむのは物騒か。
だがその日、八時を過ぎても海条は学校に来なかった。
「全員席についてるな」
芹澤先生の一声と共に全員が席につく。
だがそこに唯一、海条の姿はない。
「出席とるぞ。
……って言っても見ての通りか」
それを言ったら元も子もないじゃんと言いたいとこだったが、芹澤先生は話を続けた。
「ほぼ全員いるな。
一部の奴は委員の仕事でいないとして……欠席は海条だけだな?」
『あっ…。
やっぱり欠席なのか…』
心のどこかで委員の仕事で居ないのかもと思っていたが、そうであればカバンぐらいはあるはずだしな。
「ちなみに海条は家庭の事情で来れないそうだから、放課後、テスト範囲のプリントを持って行って欲しいんだが……誰か頼まれてくれないか?」
「テスト」という言葉に男子と一部の女子がうめき声をあげる。
………うん?
「誰かいないか?
誰でもいいんだぞ」
「……せんせーい!
碧乃君が持って行ってくれるそうでーーーす!(棒)」
「……はッ…!?
おい坂口てめぇ…!」
坂口の無責任発言に芹澤先生は俺に視線を向けてきた。
「そうか。
じゃあ碧乃、頼まれてくれるか?」
「あ…。
………分かり…ました…」
坂口が勝手に俺を指名したものの、ちょっとだけ感謝している自分が悲しくなってくる。
「じゃあ碧乃。
頼んだぞ」
芹澤先生にプリントを渡され肩を叩かれる。
手渡されたプリントには重要な責任があるような気がして、すごく気が重くて仕方が無かった。
『こんな仕打ち……エグいて……』
そして放課後、芹澤先生から海条の家のだいたいの場所を記された地図をもらって行くこととなった。
学校からは約十分で行けるけっこう近いとこだった。
だが某は、今まで女の子の家に一人で行ったことなどない。
言葉にしづらい緊張感が俺自身を苦しめていた。
「…えっと……ここか」
地図の目的地に着くと、そこには古びた小さな教会のような建物が建っていた。
『……ここで……いいんだよな…?
隣とかじゃねぇよな…?』
てっきり小さな一軒家とかアパートとかを予想していた矢先の現実が故、俺はインパクト重視な建物にたじろいでいた……その時だった。
『ガチャ…』
正面入口の側面の勝手口が開かれ、中から綺麗なメイドのお姉さんが出てきた。
「…こんにちは。
如何しましたか?」
俺に気づいたメイドは臆することなく笑顔で問いかけてきた。
「あ…えっと……」
あまりの手馴れた対応に、むしろコミュ症の俺の方が緊張してしまった。
「えっと……その……こちらに海条祈世樹さんはいらっしゃいますか…?」
がちがちになりながら質問すると、メイドは優しく答えてくれた。
「祈世樹さんでしたら、ただ今お買い物に行っています。
…あなたは………祈世樹さんの学校のお友達さんですか?」
小さく首をかしげながら優しい笑顔で聞いてくる目の前のコスプレ(?)女に思わずドキッとしてしまった。
「はッ…初めまして!
自分、碧乃燈と申します!
海条さんとは学校のクラスメイトで、今日は海条さんにプリントをお渡しするために参りました!」
がちがちの超絶クソザコナメクジな俺の自己紹介にメイドはクスクスと笑っていた。
「そうでしたか。
祈世樹さんのクラスメイトさんだったんですね」
メイドはおもむろに持っていた懐中時計を開き見た。
「でしたら……よろしければお茶でも飲んでお待ちになってください。
祈世樹さんはもう少しかかると思いますから」
「…あっ、はい!
でっ、では……お言葉に甘えて……」
メイドが中に入ってから俺は一時的に思慮した。
『……何かの罠とかじゃねぇよな……?
ここの秘密を知ったばかりに拘束されて拷問されるとか無いよな………』
そんな非現実的な妄想を膨らませつつ、勇気をねじり絞って品性レベル激高なメイドさんの後を着いていった。




