Ext.13 思い出は降り積もる雪のように
雪がしんしんと積もる十二月の冬休みシーズンの朝。
しばれる(冷たい)空気に晒されながらも、俺はいつも通り朝一番に起きてストーブをつける。
「うー…さぶっ…」
家の中でも吐き出す息も白く、俺はパジャマの上から半纏を羽織っていた。
「コーヒー飲も…」
片手鍋に水を張りガス台の火をつける。
ガス台からの熱に上半身は温まるも、足元は未対策のため今にも凍死寸前なう。
「あったけぇ…。
贅沢を言えば足元に置く簡易ヒーターも欲しいんだよなぁ…」
ちなみにこの時期の夏怜は俺が起きてから三十分は起きてこない。
そこそこ空気が暖まってきた中、俺は日めくりカレンダーを一枚剥がす。
「今日は二十四日か…」
世間はクリスマスイブに盛り上がる日曜日。
ちなみに我が家では知子が未だにサンタの存在を信じている。
歩幅を広くステップを踏むように冷たい床の上を歩きながらリビングのテレビをつけると、北海道で雪祭りが始まっただの酸ヶ湯の方で積雪が平年を超えるなど、雪に関するニュースばかり流れていた。
「あっ、鍋の湯…!」
気が付くと鍋はシューシューと音を立てて沸騰している事を知らせていた。
手際よくカップにインスタントコーヒーの粉を適量入れてお湯を注ぐ。
『今日の朝飯は何がいいかな。
…卵多めに残ってたから、オムライスにしようかな。
温かいしボリュームもあるから強乃もおかわりするだろうし』
冷蔵庫の卵の数を数えていると、ドタドタとせわしない足音が聞こえてきた。
「ぶーーーん!⊂二二二( ^ω^)二⊃
おはよっ、お父さん!」
「おはよ知子。
朝から元気なのは良いが、みんな寝てるだろうからもう少し静かに来なさい」
「ううん、みんなもう起きてるよ?」
「…へ?」
シュバっと最近ハマった戦隊ヒーローのポージングをしながら知子は言った。
「みんなね、リビングがあったかいかどうかかくにんしてきてって知子にたのんできたの!
これは知子にしか出来ないって強乃お兄ちゃんも言ってたから、よっしゃぁぁぁって思ったの!」
「………そうか…」
うちの末っ子は人が良いのか利用されやすいだけなのか、本当に分からないと思ってしまう。
…多分、後者であることは内緒で。
「コーヒー淹れてるから、みんなに降りてこいって呼んできてくれるか?」
「うん!
あ、知子はあったかくてあまあまのカフェオレがいー!」
「分かったからはよ起こしといで」
「ハ━━━ヾ(。´囗`)ノ━━━イ」
ア○レちゃんのように飛行機走りしながら走り去る知子を見送ってから、俺は人数分のカップにインスタントコーヒーを注ぎ分けた。
朝食を食べ終えて俺は全員に予定を聞いた。
ちなみに今日は祈世樹も仕事休みである。
「私はご婦人方とお茶会の予定がありましてよ」
「知子もお友だちとガッコーでゆきがっせんのしょーぶある!」
「クラスメイトの家で勉強会がある」
「俺も友達んちのクリスマスパーティーに呼ばれてるんだよな」
「オレは……寒いから部屋に引きこもってる」
「…海麗はともかく、みんな予定詰まりか…」
「仕方ないね。
二人で買い物行こっか」
「そうだな」
結局、誰一人として着いてくることはなく、俺と祈世樹の二人で買い出しに出ることとなった。
「じゃあ俺たちは出るけど、戸締りはしっかりな」
鍵を閉め、俺は祈世樹と車に乗った。
「最初はどこから行く?」
「そうさなぁ…。
食い物は後でも良いとして………そうだ!
みんなに何かプレゼントを買ってきてやろうか!」
「いいね!
きっとみんな喜ぶよ!」
あらかた予定も固まったとこで俺は車を走らせた。
「そうなると……まずは強乃のプレゼントでも探しに行くか。
あいつ「かっこいいジャンパーが欲しい」って言ってたしな。
璃杏も暖かなコートが欲しいって言ってたしな。
…よし、まずは二人のプレゼントから買いに行くか」
そうして俺たちは第一に強乃と璃杏のプレゼントを買いに走った。
二時間後、ようやく俺たちはファッションセンターから出た。
「えへへ…。
ごめんね、付き合わせちゃって…」
「大丈夫……一応生きてるから…」
「それっていわゆるフラグってやつよね」
久しぶりに来たということもあってか、あまり服に頓着しない祈世樹はあれもいい、これもいいと固執してしまい、結局みんなの分の服を買ってしまった。
それ故に俺の両手には買った服がギチギチに入った袋で塞がっていた。
「まぁ璃杏や夏怜は年頃だから、同じ服ばかり着せてても可哀想だしな」
「そうよね。
次は……誰のにする?」
「そうさなぁ…。
夏怜に万年筆でも買っていってやるか。
きっと喜ぶだろうし、知子には……ヴィ○ッジ・ヴァン○ードで何か面白そうなのでも買っていってやるか」
「ちょ…!
知子だけ雑なのは可哀想だからダメよ!?」
「分かってるって。
ちゃんと知子の好みに合わせたのを見つけるから。
こう見えて、変なものに関しては目利きなんだぞ?」
「はぁ〜…。
大丈夫かな…」
「なんか………色々変なの買っちまったな」
「…私は止めたんだからね…」
一旦、車に荷物を置いてから紙袋いっぱいに面白そうな外国製のお菓子やグッズを買い、傍にあった文房具店でちょっと高めの万年筆を購入した。
「で、結局どれをプレゼントするの?」
祈世樹は半分呆れ気味に聞くも、俺には自信があった。
「…これだよ」
「……なるほどね…」
予想通りの祈世樹の表情に俺は思わずドヤ顔を決めていた。
「さて、最後は海麗か…。
何がいいんだろうな…」
「そうね…。
まだ出てきて間もないし、これといっておしゃれに頓着してる訳でもないしね…」
最後の難題に俺と祈世樹は頭を悩ませていた。
「んー……」
「んー……」
二人で悩んでいたその時、店内BGMで流行りの歌が聞こえてきた。
「………これだっ!」
「…?」
あまりに天才的過ぎるひらめきに自分でも怖いほどだった。
「ちょっちだけ行きたいとこがある。
一緒に来てくれないか?」
「…?
いいけど…」
祈世樹の手を取り、俺はある場所へと向かった。
時刻は夜の八時。
俺たちは全員分のプレゼントと食材を買って我が家に着いた。
「ちょっと……疲れちゃったね」
「だな…。
二十代の時とは大違いだ…」
こういった程度の外出では疲れなどへっちゃらだと思っていたが、いざ家に着くと俺も疲れがどっとのしかかってきた。
「燈はずっと運転してたもん。
気疲れもあるよ」
「把握」
そんな他愛もない話に花を咲かせながら我が家の鍵を開ける。
電気は付いておらず、みんなそれぞれの予定でクリスマスを楽しんでるに違いない。
そう思いながらドアを開けた時だった。
『パーン!』
「ッ!?」
「ッ!?」
電気を付けた瞬間、突然の破裂音と共に視界に紙吹雪が舞っていた。
「お父さん、お母さん!
おかえりなさい!」
「ち……知子…?
これはどういう……」
可愛らしいサンタ衣装に身を包んだ知子が出迎えをしてくれ、何事かと祈世樹が問おうとすると、死角から強乃が出てきた。
「おかえり。
まぁとりあえず入ってよ。
荷物は俺が持つから」
「え…?
強乃……これはどういう…?」
メンズサンタの強乃が半ば強引に荷物を取り、知子が俺の手を引っ張っていく。
「早く、早く!
中に入って!」
訳の分からない状況に俺と祈世樹は戸惑うも、とりあえずついて行くことにした。
『パーン!』
『パーン!』
『パーン!』
リビングの電気を付けると、さっきと同じようにクラッカーの破裂音が響き、そこには璃杏と夏怜と海麗が同じサンタ衣装で待っていた。
「メリークリスマスですわ!」
「…メリークリスマス」
まるで対象的な二人が言うも、海麗はスカートの裾を引っ張りながら顔を背けていた。
「…ただいま海麗」
「…ッ!?///
おっ…おかえり………親父…///」
もじもじと赤面しながら華奢な脚を隠す様は、まさにアニメから出てきた恥じらうヒロインのようだった。
「な…なんだよ…。
……オレは嫌だったんだからなっ!///
別に着てみたいなんてこれっぽっちも思ってなんかいねぇんだからなッ!?///」
赤面しながらも強情に言い張るその様子に俺と祈世樹は同じ事を思ったに違いない。
『着てみたかったんだろうな……』
『着てみたかったのね……』
「しかし、大した飾り付けだな。
早めに帰ってきてやってくれたのか?」
天井には学校やイベントでよく見かける紙のリースが綺麗に繋げられ、折り紙の雪だるまや雪の結晶などもぶら下がっており、クリスマスツリーに付ける電飾もピカピカと輝いていた。
「…実は最初から外出はしてない」
「え…?」
少々申し訳なさそうに璃杏が続けた。
「実は……今日はお父さまとお母さまの記念日だと言うことで、私たちでサプライズパーティーでお祝いしたかったのですわ」
「父さんと母さんが出かけてから俺たちはすぐ掃除とかして、飾り付けを知子と璃杏、料理を夏怜姉ぇと海麗姉ぇにやってもらって、俺は大まかな掃除とか片付けを分担してやったんだよ」
「…そう言われてみれば…」
たしかに、いつも服やそれぞれの私物でごちゃごちゃしていたリビングはスッキリと片付き、いつも使ってる食卓には真っ白なテーブルクロスがかけられていた。
「さぁお二人とも、座ってくださいまし」
「あ…あぁ…」
高級レストランのウェイターのように椅子を引き、金髪のエロボd……露出度高めな璃杏サンタは俺の着席をエスコートしてくれた。
「お母さんもすわって!」
「うん。
ありがとう知子」
璃杏より少し勢いよく椅子を引っ張り、ロリサn…知子サンタが母さんがのエスコートに回った。
すると間もなくして、夏怜と海麗が料理を運んできた。
「…ビーフシチューにございます」
夏怜の口から言い出された通り、目の前に置かれた料理はいかにも美味しそうな香りを漂わせるビーフシチューだった。
「すごいじゃないか!
本当に二人が作ったのか!?」
「そうよ。
ちゃんと一からレシピ通りに作ったわ」
「煮込むのに時間がかかるのは分かってたから、親父たちが出てからすぐ作り始めたんだよ。
放置プレイとかは慣れてるしな」
一年間も引きこもりだったとは思えぬ程の成長を見せてくれた海麗に、俺は少しばかり涙をにじませてしまった。
「…冷めないうちに食べて」
「そ、そうね!
ほら、早くいただきましょ」
「あ、あぁ…」
祈世樹に背中を押され、俺は一口掬い頬張った。
「………美味い…」
俺のささやかな一言に女子陣は静かに喜んだ。
「……美味しい。
私、あまりお肉って食べないんだけど……これなら普通に食べられるわ。
…野菜もちゃんと柔らかくなってるしね」
祈世樹からも高評価を受け、その場にいた全員が喜びを分かちあった。
「肉も臭みがない。
さては、俺が隠し使ってた赤ワインを使ったな………夏怜?」
「…既に本で読んでいたからね。
レシピさえあれば、初めてでも問題ない」
とは言いつつも、夏怜の指に絆創膏が貼っていたのを俺は見逃さなかった。
きっと、慣れないながらも一生懸命やってくれたに違いない。
「おかわりもありましてよ。
ご飯もちゃんと多めに炊いてますわ」
そう言いながら璃杏が炊飯器の蓋を開けてホカホカの炊きたてご飯を見せつける。
…あれではせっかくの温度と湿度が逃げてしまうがな。
「にんじんはね、知子が切ったんだよ!
おいしーでしょ?」
「……あぁ。
ちゃんと乱切りになってて上手だよ」
やけにゴロゴロとデカイなと思っていたらそういう事か。
「ビーフシチュー以外は作れなかったけど、これでも頑張ったわ」
口周りを拭きながら俺は夏怜の頭をなでる。
「これだけ出来れば大したもんだよ。
さすがは俺の娘たちだな」
その一言に璃杏と知子は小さくハイタッチをし、海麗と強乃は満足げに腕を組んで微笑んでいた。
「さぁ、みんなも食べなさい。
頑張って私たちのこと待っててお腹空いたでしょ」
「そんな事ありませんですわ。
全然お腹なんて減って…」
『ギュルルル…』
鳴り響く音に俺は笑いそうになりながらも寸前で耐え、そこへ知子がフォロー(?)を入れた。
「璃杏おねーちゃんもいっしょーけんめーがんばってたもんね!
「あじみ」だっていって、お父さんとお母さんが帰ってくるまで何回もシチューを…」
「そ……それは言ってはダメですわあぁぁぁッ!!!!///」
『あっはっはっはっ!』
顔を覆い隠してしゃがみこむ璃杏にその場にいた全員が爆笑した。
「もう……お嫁に行けませんですわぁ…!///」
「…ご馳走さま」
「ご馳走さま……ですわ。
いつもはこんなに食べないのに……明日からダイエットですわね…」
「知子もぜーんぶ食べたよー!
おいしかったー♪」
「あー食った。
これだけ食えば甘いもんが欲しくなるな」
「…よくそんなに食えるな。
たしかに美味かったけど……男ってすげぇな」
それぞれ思い思いに満足してくれたとこで俺は全員に呼びかけた。
「みんな、食べ終わったとこで聞いてほしい。
今日は……俺と母さんからみんなにクリスマスプレゼントがあるぞ!」
『おぉーー!』
同時に歓声が上がり、みんな片付けそっちのけで俺と母さんの元に走ってきた。
「知子がいちばーん!」
「待て待て。
順番に渡すから。
…夏怜、おいで」
名前を呼ばれ、夏怜は音もなく近寄ってきた。
「お前へのプレゼントだ。
受け取ってくれ」
小さな長方形の箱に綺麗にラッピングされたプレゼントを夏怜は無表情で受け取った。
「開けていい?」
「もちろん」
ゆっくり丁寧に包装を外していくと、中から小さな革製の箱が出てきた。
「…!」
お察しの通り、夏怜へのプレゼントはちょっとお高めの黒と金を基調とした万年筆。
…6800円はしたかな。
「いいの?
こんなに高そうなの…」
「もちろん。
色々考えたんだけど、夏怜にはこれが一番かなって思ってな。
……別のが良かったか?」
俺がそう聞くと夏怜はそっと箱を閉じ、大事そうに胸に当てた。
「………嬉しい。
…ありがとう……父さん……母さん…」
久しぶりに見ることの出来た夏怜の笑顔は………マジ天使だった。
「勉強、頑張れよ。
……次は璃杏だ」
「はいですわ」
歩み寄ってきた璃杏には祈世樹からプレゼントを渡された。
「璃杏にはこれよ。
気に入ってくれるかな?」
黒いナイロンの袋を受け取り、璃杏は問答無用で袋を覗く。
「……こ…これは…!?」
ガサガサと乱雑に袋からプレゼントを璃杏は出す。
璃杏には、真っ白のもふもふファーコートである。
「本当はお母さんが欲しかったんだけど……私じゃもう似合わないからね。
璃杏なら気に入ってくれるかなって…」
袋からファーコートを出し、璃杏は嬉しそうに抱きしめていた。
「ッ〜〜〜////」
コートを抱きしめながら璃杏は踊るようにくるくるとその場で回転していた。
一度止まってネック部分に顔を埋めて深呼吸をしていた。
「……ぷぁっ!
上品な美しさもあり可愛らしさもあり……なにより保温性にも長けた機能美…。
まさにこの時期限定の「美の獣」ですわ!
お父さま、お母さま…深く感謝いたしますですわ!」
ファーコートと社交ダンスをしながら璃杏は喜んでくれていた。
「ねーまだー!?
知子もプレゼントほしー!(`д´三`д´)」
「はいはい。
………ほら、おまたせ」
「わぁ…!
何かな、何かな♪」
一番プレゼントを楽しみにしていた知子には、箱型のプレゼントを渡した。
有無を言わさず知子は即座に包装を破いて中身を出した。
「ふぉ………わんちゃんだぁ…!♪」
そう。
知子へのプレゼントは犬……のロボットのおもちゃである。
「知子、犬欲しがってただろ。
でもうちは夏怜が動物アレルギー持ちだから飼えないけど……これなら毛が飛んだりする心配もないから知子も満足だろ?」
「うん!
この子「ヨシロー」って名前にする!」
「早っ!
……まぁ、満足してくれたならいいか…」
ほんと、○ィレッジ・ヴァン○ードで見つけた時はすぐこれだと思ったしな。
「ありがとう、お父さん!お母さん!
やっぱりお父さんたちが知子のサンタさんだったんだね!」
「えッ…!?」
「えッ…!?」
何気ない知子の一言に俺と祈世樹は心臓を飛び上がらせた。
「……なっ……なんでそう思うんだ…?」
おそるおそる知子に聞いてみた。
「だってだって、きょねんの色えんぴつセットとか、そのまえのおでんのぬいぐるみとか、ぜーんぶ知子のほしかったものばかりだもん!
ほんとのサンタさんじゃきっと分かんないもん!」
「……知子…」
正直、こんな形で知子のサンタ伝説がバレるとは予想外だった。
それでも知子は喜んでくれていた。
「大事にそだてるね!
いい子になるようにちゃんとめんどー見るから!(*`・ω・´)」
満面の笑みで知子はロボットを抱きしめていた。
その笑顔は、幼いながらも俺たちに気を遣ってくれてのものだったのかもしれない。
「…あっ。
次は強乃だな」
名前を呼ばれ、部屋の端で海麗と腕を組んで様子を見ていた強乃がゆっくりと歩み寄ってきた。
「ほい。
お前、かっこいいジャンパー欲しがってただろ。
お前が気に入りそうなの見つけてきたよ」
そう言って強乃に買ってきたジャンパーが入った袋を渡す。
「今流行りのミリタリーモデルのジャンパーだぞ。
どうだ、かっこいいだろ?」
「……」
中身を広げてみるも、強乃の表情はどこか堅かった。
「…これじゃねぇ」
そっと買ってきたジャンパーをしまい、強乃は異議を唱えてきた。
「これじゃねぇ。
………父さんの持ってるジャケットがいい」
「俺の……?」
強乃の言葉の意味が分からなかった。
普段からブルゾンやパーカーは着てはいるものの、ジャケットなんて着てた覚えがない。
「その……以前、父さんのタンスで見つけたんだよ。
…フード付きの黒いジャケットだよ」
「…………あぁ!」
確信こそなかったものの、俺は寝室に向かいタンスの奥深くを漁った。
「……これかな」
一着のジャケットを持って俺はみんなのとこに戻った。
「……これのことか?」
推測的に持ってきたジャケットを見て、強乃は目を輝かせた。
「そう!
それだよ!
……父さん着ないなら……欲しいかなって…」
「こんなんでいいのか?
俺が二十代の頃にお気に入りで着ていたんだが……。
ボロボロになって着なくなったやつだぞ?」
そう。
これは母さんから昔、二十歳の誕生日にプレゼントとして買ってもらったジャケットである。
ちょっと高めの服屋でたまたま目に入り、眺めていたところを母さんが誕生日プレゼントだと買ってくれたっけ。
だいぶ着込んでたのもあって、裾や所々が破れたりほつれた糸が飛んでたりで正直見た目は良くない。
「こんなボロボロのよりなら、買ってきてやったジャンパーの方がかっこいいと思うぞ。
若いんだからもっと今流行りのを着ろよ」
そう説得するも、強乃の意思は変わらなかった。
「いや、これがいい。
以前父さんがタンスの整理をしてる時に見かけて……ちょっといいなって思ってたんだよ」
「……」
意義などある訳がなかった。
俺が着たとこでもう似合わないしな。
「……分かった。
そんなに欲しいならやるよ。
その代わり、父さんのお気に入りなんだから大事に着ろよ」
少しカビ臭いながらも強乃は嬉しそうに受け取ってくれた。
「…ありがと。
大事に着るよ」
密やかな笑顔で強乃は笑った。
「着てみろよ。
サイズ合うかどうか分からんし」
少しぎこちないながらも強乃は俺のジャケットに袖を通した。
「……ピッタリだ」
『おぉおぉぉ……』
スポーツをやってる強乃には少しキツいかと思ったが、ジャケットは強乃の上半身にピッタリ馴染んでくれた。
「腕動かしてみ。
キツくないか?」
その場で軽く腕を振るも、強乃に窮屈さは見えなかった。
「全然いいよ。
…すっげー嬉しい」
今じゃそう価値も洒落っ気もないジャケットに、強乃は大いに喜んでくれていた。
「母さんからもよ。
これなら暖かく外も歩けるよね」
祈世樹からはチェック柄のマフラーがプレゼントされた。
「…ありがとう母さん。
大事に使うよ」
綺麗に畳んだジャケットの上にそっと乗せ、強乃は大事そうに抱きしめながら一歩退いた。
「……最後は海麗だな」
強乃と同じくリビングの片隅のソファーで腕を組んで様子を見ていた海麗は、名前を呼ばれると睨みつけるように俺たちに視線を向けた。
「なんだ、オレにもあんのかよ」
期待などしていなかったとでも物語る声色の海麗に俺はプレゼントを持って歩み寄る。
「みんなにプレゼントあってお前だけないなんてことはさすがにしないさ。
お前だって大事な一人娘なんだから」
「父さん。
それじゃ私たちは男になってる」
「あ、まじ?(笑)」
クスクスと璃杏たちがほくそ笑むも、海麗は警戒の色を解かなかった。
「はい、受け取ってくれ。
お前へのクリスマスプレゼントだ」
無言で乱暴気味にプレゼントを受け取り、海麗はビリビリと包装を破った。
「…ギフトカードと……iPed?」
海麗の言う通り、俺たちからのプレゼントは何の変哲もない普通のiPed。
「iPedなら持ってるぞ」
「分かってるよ。
…中身聞いてみ」
少し疑心暗鬼になりつつも、海麗は付属のイヤホンを耳穴にはめて曲を流した。
「………ッ!」
それは俺の予想通りの反応だった。
イヤホンを軽く押し当てながら海麗は曲を聴き込んでいた。
「一体、お姉さまは何を聞いておりますの…?」
璃杏が呟いた直後、海麗はイヤホンを外した。
「これって…」
少し惚け気味に海麗は俺に視線を向けた。
「そうだよ。
父さんと母さんの思い出の曲でな。
……以前、お前が俺と母さんの思い出の場所とか見に行ったりしただろ。
これなら海麗も喜んでくれるんじゃないかなって、わざわざ二人でカラオケで録ってきたんだよ」
「…ッ!」
すぐさまイヤホンをはめ、海麗は再び曲を聞き入っていた。
「…父さん。
いつの間に海麗と逢い引きでもしてたの?」
「はっ!?
そんなんじゃねぇよ!
海麗にどこか一緒に出かけないかって誘ってだな…」
「でも……たしかお父さまとお母さまの思い出の場所であるカラオケ屋は、既にラブホテルになってたはずじゃ………ッ!?///」
「だっ……ちげーよ!?///
たしかに今はラブホだったけど連れ込んだりするわけ…」
「ふっ……不潔ですわあぁぁぁぁーー!!!!」
とんでもない勘違いをしながら璃杏は部屋に逃げこんでしまった。
「…お母さん。
らぶほってなぁに?
ゆーえんち?
ゲームセンター?」
「あ……あはは。
なっ、なんだろうねぇ…」
状況を悟りつつ祈世樹は誤魔化すように知子の頭をなでるも、知子は少し不満げに気にしていた。
そして夏怜から一言。
「………近親相k…」
「それ以上言ったらほんとに怒るからな夏怜」
状況を把握していた強乃はニタニタと笑っていた。
「はぁ……。
タバコ吸ってくるわ」
電子タバコですけどね。
二階の自室から窓を開けると、夜空からひらひらと雪が降ってきていた。
(電子)タバコを吸いながら俺は舞い降りる雪を眺めていた。
「……父さん」
声をかけてきたのは夏怜だった。
「……ごめんなさい」
どうやらさっきの発言を謝罪したかったようだった。
俺は夏怜の頭をなでながら言った。
「夏怜。
外を見てみ」
「…?
………綺麗ね…」
隣で宙に手をかざし、夏怜は手のひらに溶ける雪を見つめていた。
「雪は好きか?」
手のひらで雫と化した雪を見つめながら夏怜は呟いた。
「寒いのは嫌い。
けど……雪は好き」
手のひらから自分の一部に溶け込ませるように雫を握りしめ、夏怜は俺を見つめていた。
「後で父さん特製のノンアルカクテルでも飲むか?」
「……甘さ控えめの刺激があまり無いので」
目の前に落ちてきた雪が麦茶の入ったグラスに溶ける様を夏怜は少し寂しげに見つめていた。
「みんなには内緒だぞ。
ノンアルとは言え、知子のような子が早いうちからカクテルの味を知ってしまったら、アルコールカクテルにも興味を示しかねないからな」
「大丈夫。
口の堅さはベルリンの壁よりも自信があるわ」
「ははっ。
そりゃ頼もしいな」
夏怜のジョークのおかげで少し気持ちが楽になった気がした。
「夏怜。
グラスをかざせ」
「…?」
言われるがままに夏怜はグラスをかざした。
「この素晴らしい夜と頼もしい家族に………乾杯」
ワンテンポ遅れて夏怜もまたグラスをぶつけた。
「…この美しい雪と大切な家族に………乾杯」
わずかな光に照らされた夏怜の笑顔は、神秘的でどんな宝石よりも綺麗に見えた。




