Ext.12 遠出と級友と…もう一人
肌寒い空気が吹きすさぶ夜道、街灯や数少なく走る車のライトだけが照らす道を俺と海麗は車で走っていた。
「で、どこに行くわけ?」
窓を開け、肩まで伸びきった金髪混ざりのメッシュヘアーを風になびかせながら素っ気なく海麗が聞いてきた。
「実は…特に宛はないんよねぇ」
「はぁッ!?
じゃあなんでオレを誘ったんだよ!
…そもそもあの手紙は何だったんだよ」
海麗の言う手紙……出かけないかとはたしかに誘ったものの、本当に行き先は決めてない。
「昨日さ、みんなで遠出してきたんだよ。
お前だけどこにも行かせられないのは癪だと思ってな。
…ほら、お土産」
そう言って俺は海麗の膝に小さな紙袋を置く。
海麗は乱雑に紙袋を裂いた。
「……馬?」
中身は小さな白馬のキーホルダー。
ちょうどスマホに付けられるサイズである。
「海麗にも、いつか白馬の王子様が来てくれますようにって思ってな。
大事にしろよ」
「………」
だが海麗はキーホルダーを袋に戻し、車のダッシュボードにしまってしまった。
「おっ、おい!
何もそこまで拒否らなくたって…」
「……くだらない…」
吐き捨てるように投げつけられた海麗の言葉は、鋭利な刃物のように俺の心臓を痛めつけた。
「…何が白馬の王子様だよ。
オレはそんなクセぇ妄想なんか興味ねぇんだよ。
こんな……こんなクズに王子様なんて……!」
「…海麗……」
窓に寄りかかり、海麗は俺に背中を向けてしまった。
「オレなんて……世の中に必要とされてないんだよ…。
だからあの「クソ野郎ども」にも勝てなかった…。
オレがいっその事…アイツらをミンチにしてやれれば…」
「やめろ海麗ッッ!!!!」
海麗の自虐発言に苛立ってしまった俺は、つい声を凄ませてしまった。
反応こそなかったものの、海麗はそこで口を噤んだ。
「…海麗。
いじめられたのはお前が悪いわけじゃない。
お前はただ…運が悪かっただけなんだよ。
ただの被害者たるお前を誰が悪いと言えるか…」
「うるさいッッ!!!!」
俺の説教に癇癪を起こしたのか、海麗は声を荒らげて叫んだ。
「何がただの被害者だ…。
そりゃオレだって何もしてないし、むしろ訳わかんねぇとも言えるさ。
けどな、オレが目をつけられたってことは偶然ではなく、オレにもいじめられるきっかけが見出されてたって事なんだよ!!
たとえオレが黙って模範生を気取ったとこで、ヤツらの気に触れることがあればそれはすぐ嫌がらせの対象になるって事なんだよッ!!!!
そしてそんなカス共にさえ立ち向かえなかったオレはカス以下のクズだ…。
世の中「悪」とはオレのような弱いやつから生まれるんだよ!
…知ってるかッ!!?
世の中で犯罪を犯したヤツらの大半が、いじめや過去のトラウマからトチ狂って犯してるヤツらが多いんだよ!!!
そうなれば、いつかオレもそんな風に…」
『パチンッ!』
我慢の限界を超えてしまった俺は、思わず海麗の頬を叩いてしまった。
海麗は叩かれた頬に手を当てて黙り込んでしまった。
「海麗…。
お前の言ってることは間違ってない。
けどな………「お前がここに居る」以上、絶対に犯罪者になんてさせない!
……二度とそんな口を聞くな」
海麗は黙って俺を睨みつけるも、やがてビンタされた頬に手を当てながら再び外に視線を向けた。
「自分を責めるな。
一度負けたぐらいで人間はそう簡単に堕ちないさ。
現に、いじめを受けて引きこもっても、お前は「誰も傷付けてない」だろ」
「…ッ!!」
顔を背けていた海麗は俺に振り返り、驚きの目で俺を見つめていた。
「俺は知ってるよ海麗。
お前は俺の飯を毎日残さず食べてくれるし、使った着替えも黙ってカゴに入れといてくれるし……多少口は悪くとも、海麗は本当は優しい子なんだよ」
そう。
海麗のぶっきらぼうで男口調なとこは引きこもる前からである。
いじめのせいか、今の方が若干荒さに磨きがかかってるが、海麗はどっかこっかで優しさがにじみ出る癖があった。
「……なんでッ………なんで親父は……そんなに優しく出来るんだよ…。
……オレなんか……何の価値もねぇのに…」
ボロボロと涙を流し海麗はうつむく。
少しだけ車のスピードを落とし、俺は海麗の背中をさする。
「分からないか?
弱い人間ほど「痛み」を知ってる。
「痛み」を知っているからこそ他人に優しく出来る。
父さんだって弱いからこそ、お前の苦しみが理解出来るんだよ」
ぐずりながらも海麗は顔を上げ俺の顔を見つめていた。
「海麗。
優しく強い子になれ。
そうすれば、お前は本当の意味での「強さの在り方」を理解出来るはずだ。
…負けは必ずついてくるもの。
そこから這い上がれれば、お前は今よりずっと強くなれる。
……頑張れとは言わない。
必死に生きてみろ」
「…ッ!
………親父ッ……」
すすり泣きをしながら海麗は俺の腕にすがる。
その涙から伝わってくる悲しみや苦しみに、俺まで涙をにじませてしまった。
「気を取り直して……食べたいものとか行きたいとこないか?
お前の気が済むまで付き合ってやるぞ!」
「別にそこまではねぇけど…。
……久しぶりにアレ食いてぇな」
「おっ、何でもいいぞ!
焼肉でも回らない寿司でもいいぞ?
父さんな、こんな日が来るんじゃないかってへそくりを十万ちょっと貯めてきたんだぞっ!(*`・ω・´) 」
「うわ。
ちょっとヒくわぁー…」
「なっ…!?
おっ、俺はいつかこうしてお前とどこかにいつでも出られる為にと思ってだなぁ…」
「ぷっ……冗談だよ」
「…へ?」
ゆっくりと海麗は目線の先に指をさす。
「……あれが食いてぇ」
「ありがとうございましたー!」
ハンバーガー屋のドライブスルーで店員の笑顔に見送られ、俺と海麗は店を後にした。
「ここで食っていい?」
「いいけど、あんまりこぼすなよ」
許可を得て海麗は丁寧な手つきでゆっくりとほんのり温かな包みを開けた。
中からはこの季節限定の「月見てりやきバーガー」が顔を覗かせた。
「いっただっきまーす♪
……んまっ!」
ハンバーガーを美味しそうに頬張る海麗を見つめながら、俺は照り焼きチキンバーガーを食べていた。
「んー、玉子と肉の相性ばっちし♪
この季節しか食えねぇなんて、ムカつくぐらい悔しいわぁ」
パタパタと足をパタつかせる様は昔の祈世樹と何ら変わらない姿だった。
そうこうしてるうちに海麗はバーガーを食べきり、セットのナゲットをつまみながらコーラを飲んでいた。
「あー美味かった…。
テレビで見てて食いたかったから満足だわ」
「それなら良かったが、一個で良かったのか?
遠慮せず二個でも三個でも頼んでも良かったんだぞ」
「…いいよ別に」
指先に付いたナゲットのBBQソースをチロチロと舐めながら海麗は横目で呟く。
「一個しか無いからこそ、美味しく味わって食えるってもんでしょ。
それに、一度に何個も食ってたら、また食いてぇって感覚を楽しめねぇだろ?」
「海麗……」
八重歯をチラつかせながらニヤリと海麗は笑う。
その時の海麗は、本当に久しぶりに見れた笑顔だった。
「ハンバーガーも食ったけど、他に食べたいのないか?」
「いや、食うのはもういいや。
……どっか面白いとこねぇの?」
「面白いとこねぇ………」
じっと見つめてくる目つきの悪い黒猫のように海麗は俺を見つめていた。
「かまわねぇけど……ゲーセンとか他のとこでもいいんだぞ?」
「別に行きたいとこはねぇし、ゲーセンは時間的に閉まってんだろ。
…どっかねぇのか?」
「まぁ……無い事はねぇけど…」
どことなく引っかかる気はしつつも、とりあえず適当に向かうことにした。
「着いたぞ」
そう言うと海麗はそそくさと車を降りた。
「…海か?」
「いえす」
街灯しか灯りのない海辺の公園の駐車場に車を停め、俺たちは高台にある屋根付きのベンチが設置された所から真っ暗な海を眺めていた。
「何かと縁のあるとこでね。
高校の時から母さんと再会した日までたまぁにここに来たりしてたんだよ」
「へぇ〜」
俺の説明を聞き流しながら、海麗はベンチに座って水平線に視線を向けていた。
「怖くないか?
海ってけっこう「出る」って話だし」
「幽霊か?
別にオレは霊感とかねぇし、出たら出たでお経でも聞かせてやりゃすぐ家に帰るだろ」
「お経は子守唄じゃねぇんだよ。
つかお経を「蛍の光」感覚に思うな」
少しは動揺するかと思ったが、海麗は予想以上にタフだった(汗)。
「他にどっか思い出の場所とかある?」
「まぁ…」
海麗に煽られ、俺はすぐに別の場所に車を走らせ、そう時間もかかることなく着いた。
「ほれ、着いたぞ」
「ちょ……ここって…」
着いたのは一件のラブホテルの前。
もちろん海麗を連れ込む訳ではない。
「今はラブホだけど、昔ここにカラオケ屋があってな。
父さんはここで母さんに告白したんだよ」
「……マジで?」
それはドン引きとは違う、本気で理解できないものだった。
「なんて告白したのッ!?
やっぱり「付き合ってください!」とか!?
それとも「俺の女になれ」とか!?
ウケるぅーーwww」
女というのはどうも恋愛トークに弱いものなのか、海麗はキャラが変わったようにテンションを上げていた。
「そんなんじゃねぇよ。
もっと……遠回しにだよ」
「んだよぉ。
早く教えろよー」
駄々をこねる子供のように海麗は今か今かと待ちわびていた。
「はぁ…。
「付き合わなくていいからせめて言わせて。好きです」って」
「……はぁ?
何それ、今どき中学生でももうちょっとマトモなこと言えるんですけど。
マジチキン童貞かよ」
うちの次女は辛口評論家でした。
…グサグサと胸が痛い(′・ω・`)。
「…けど………それも親父らしくていいと思う」
さっきまでとは打って変わって、急に海麗はしおらしくなった。
「なんか……母さんが親父を好きになった理由、分かった気がする…」
「…なんでだ?」
海麗ははにかむようなニヤリ顔で八重歯を覗かせながら答えた。
「……女のオレに言わせる気かよ。
…スケベ親父」
その後、俺たちは家に戻った。
時刻は午前二時過ぎ。
あっという間の二時間だった。
「今日は……ありがと。
なんか…ちょっと吹っ切れた気がした」
「そうか。
なら、たまにはみんなにも顔出せよ」
「…ッ!
…それはッ……」
やはりそれは抵抗あるよな。
「ちなみに、みんなに顔を出す時はツインテールでよろしく☆」
「………は?」
「いや、お前も髪長くなってきたし…どうせ海麗のことだから散髪するのも面倒くさいだろ?
だったら、いっその事ハーフツインテとかにした方が可愛…」
「おやすみ親父。
またいつか顔出すよ」
そう言って海麗は呆気なく部屋に戻ってしまった。
「あらら。
俺としたことが…」
少々やり過ぎたかとは思うが、大丈夫と判断した俺もとりあえず寝ることにした。
『牛乳飲もうかな…』
そう思いリビングに入った時だった。
「おかえりなさい」
「…ッ!?
……起きてたのか」
背後から声をかけられ振り返ると、寝ていたと思っていた祈世樹がいた。
「どこか行ってたの?」
「あっ…あぁ。
ちょっと……海麗とな」
海麗の名前が出たことに祈世樹は驚いていた。
「あの子……自分から出てきたの!?」
「あぁ。
俺たちだけ遠出してきたのもあれだったから、ちょっちドライブしてきたよ」
「そっか…。
あの子、引きこもりっぱなしで心配だったけど……それを聞いて安心した」
ホットココアを片手に祈世樹はソファーに座った。
「何か作るか?
つまみ程度なら作れるよ」
「ありがと。
でも燈だって疲れてるだろうし、明日も早いから今日はよしとく」
「そっか。
じゃあ俺も寝ようかな…」
上着を脱ぎ、俺はソファーに横たわる。
「そんな所で寝たら風邪ひくよ」
「あぁ…。
分かってるけど…昼の疲れも重なって部屋に行くのもだるい…」
齢、四十真っ只中。
長距離ドライブの往復からの二時間程度の仮眠、海麗との深夜ドライブデート。
どう考えたって身体が余裕なはずもなく。
とは言いつつも、わずかな気力で部屋に向かった。
ベッドに入ると、疲れ指数が限界値に達していた俺はすぐに寝入ってしまった。
「んぅ…」
目が覚めると、いつも響くアラーム音が聞こえなかった。
虚ろな意識でおかしいと思いつつスマホの画面を開く。
「………七時半ッ!?」
目の錯覚と思うも、たしかにスマホの画面には「7:30」と表示されていた。
俺は急いでリビングに降りた。
「ごめんみんな!
寝坊したッ!」
ところがリビングでは既に全員が朝食を食べていた。
「おはよ燈」
「おはよう父さん」
「お父さん、おねぼーさん?」
「ごきげんようですわ。
お父さまともあろう方が寝坊なんて、珍しいですわね」
「全くだ。
さては……夜中に美味いものでも一人で食いに行ってたな?」
全員からディスられるも、寝坊した以上何も言えずじまいだった。
「あはは…。
……そういや、みんなご飯は?」
「それなら大丈夫よ。
ご飯も炊いてあったし、私が目玉焼き焼いて冷凍のメンチカツ揚げたから」
祈世樹の言う通り、テーブルには白ご飯と目玉焼きとメンチカツに添え物のサラダが乗っていた。
その傍らにはコーヒーも添えられていた。
「知子もね、サラダもり付けたんだよ!」
「コーヒーは私が淹れましたわ。
紅茶もいいですけど、朝はコーヒーに限りますわね」
「私は朝弱いから璃杏が淹れてくれて助かった」
「俺も朝はなんも出来ねぇから、知子が起こして来てくれなかったら確実に寝坊してたわ」
「……お前ら………」
正直、俺は感動していた。
まさか夏怜たちがこんなに協力的でしっかり者に育ってくれてるとは…。
「…起こせばよかったのに…」
「そんな無粋なことしませんですわ。
私たちだって朝食の準備くらい出来ますわ」
璃杏がそう言い切ると、祈世樹も続けた。
「あんなにぐっすり寝てる人を無理やり起こす事なんて出来ないよ。
それに簡単な料理ぐらいなら私だって出来るんだしね」
「祈世樹……」
これもまた、家族の絆と言うやつなのだろうか。
「ほら、お父さんもご飯食べよ!
知子がお父さんのご飯用意するよ!」
「知子……ありがとな」
「でしたら、私がコーヒーを淹れてさしあげますわ。
砂糖は二つでよろしいですわね?」
「璃杏……あぁ頼むよ」
そして気配もなく夏怜が背後に立った。
「血流を良くするために肩揉んであげるわ」
「おっ…ありがとう夏怜」
「父さん」
強乃は目の前で袖まくりをしていた。
「知子の用意が済むまで、ウォーミングアップ程度に俺が腕相撲で相手になってやる。
いい目覚ましになるだろ?」
「あはは。
父さん死んじゃうよ」
そうは言いつつも、俺は心のどこかで喜びを感じていた。
『これじゃ、まるでギャルゲーの主人公になった気分だな…』
頼もしくなった家族に関心をしていた時だった。
『ガチャ…』
突然、背後のドアが開く音が聞こえた。
「………よォ」
聞き覚えのあるその声に、その場にいた全員が静止した。
「…………海麗……なの…?」
祈世樹の呟きに俺までもが振り返った。
「……ッ!!」
そこに居た海麗は………「ハーフツインテール」にしていた。
「なっ……何だよ…!///
…オレがいきなり出てきたらおかしいのかよ…」
恥ずかしそうに目線を逸らしながらツインテの毛先を弄りながら海麗が呟くも、全員の反応は暖かなものだった。
「海麗お姉ちゃんひさしぶりー!
お姉ちゃんもチッコチコにしたんだね!
すごくかわいーーー♪(*/ω\*)」
「なッ…!?///
なんだ「チッコチコ」なんて頭の悪そうな名前!
別にオレは好きでやってるわけじゃ…!」
「海麗お姉さま!
そんな雑な結い方では髪が傷んでしまいますわ!
ここは「美の探求者」たる私にお任せ下さいですわ!」
「ちょ…璃杏!?
別にそこまでしなくても……てか、お前そんなキャラだったっけッ!?」
「…ここ座って海麗。
温かいわよ」
「そりゃそうだろうな!
冷血な夏怜姉ぇでも温めるぐらいは出来るだろうよ!」
璃杏・知子・夏怜の三人に揉まれるも、海麗は引きこもりだったとは思えないほど正確なツッコミに追われていた。
誰よりも海麗と話したがっていた祈世樹は、四人のやり取りを微笑ましく眺めていた。
「…やべっ、もう四十五分じゃねぇか!
学校遅刻しちまう!」
強乃の一言に現実に引き戻された璃杏と知子はパニックにどよめいていた。
「まずいですわ!
まだ髪のセットが終わってませんですわッ!!」
「ふえぇぇ…!?
知子もきょーかしょまだじゅんびしてないぃーー!(゜д゜;≡;゜д゜)」
「…行ってきます」
既に支度の出来ていた夏怜は玄関先で靴を履いていた。
「あぁもう俺も行くわ!
海麗姉ぇ、また後でな!」
「あっ…あぁ…。
気をつけてな………強乃…」
ぎこちなくも久しぶりに名前を呼ばれ、強乃はどこかもどかしそうに学校に向かった。
「私も行って参りますわ!」
「知子もガッコー行かないとおくれちゃう!」
慌てて飛び出す二人を海麗は楽しげに小さく手を振って見送った。
二人が出てから海麗が振り返ると、今にも泣き崩れそうになりながらも愛おしそうに愛娘を見つめる祈世樹が立っていた。
「……久しぶりね……海麗…」
「ッ………母さんッ……」
久しぶりに顔を合わせた母の姿に、海麗もまた涙を浮かべていた。
「母さん……。
心配かけて…ごめん………なさい…」
「…ッ!
………海麗ッ…!!」
飛びつくように祈世樹は海麗を抱きしめた。
懐かしささえ感じるであろう母の温もりに、海麗もまた応えるように涙を流しながら抱きしめた。
『良かったな……海麗…』
俺はそっと静かにみんなの使った食器を片付けに台所に向かった。
少しして祈世樹と海麗はハグをやめた。
「…母さんも仕事だからもう行くね。
帰ったらまた顔を見せてちょうだい」
「…分かったよ」
人差し指で海麗の涙跡を拭きながら、祈世樹は海麗の額にキスをした。
多少、名残惜しそうながらも祈世樹は涙を拭いながら仕事に出た。
祈世樹が出て少ししてから海麗が俺の隣に来るも、俺は何も言わず食器を洗っていた。
「……親父…」
「…なんだ?」
やがて涙ながらに海麗は笑顔で言った。
「……ちょっとばかし泣いちまったからよ…。
……腹ァ……減っちまった…!」
涙ながらに笑顔でそう言った海麗のポケットから、俺がプレゼントした白馬のキーホルダーがスマホに付いていたのを、俺は見逃さなかった。




