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拝啓、空と世界へ  作者: 鷹利


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Ext.11 遠出と級友(後)

集合場所から高速に乗り、道中のサービスエリアで俺たちは昼食を摂っていた。

夏怜は地元ブランド養鶏の卵を使ったオムライスとアイスコーヒー、璃杏は青森の名産品であるリンゴを使ったアップルパイとオムライス。

知子は自家製ソースの大盛り焼きそば、強乃は神戸牛を使用した具だくさん大盛りビーフカレー、俺はチャーシュー麺の祈世樹はざるそばを食べていた。

 

「焼きそばうままー♪ヾ(*・ω・*)ノ」

 

「口の中で広がるリンゴとシナモンの風味が絶妙にマッチングして病みつきになりますわね!」

 

「…オムライスも美味なり」

 

それぞれ満足してくれたようで安心した。

 

「…おっ、二人は麺類か。

 ほんと仲良いなぁ」


隣に来たのは注文を取りにいに行っていた慶太だった。 

  

「そういうお前は何にしたんだよ」

 

「俺か?

 三種類のブランド豚肉、牛肉が入った肉好きにはたまらん「三種のがっつりビーフ丼」だ」

 

「なっ…!

 そんなのまであったのか…」

 

ガクッとうなだれ、強乃はいつの間にか食べきっていたカレー皿にスプーンを落とした。

 

「…食べたいなら頼んでもいいのよ?」

 

祈世樹の甘言にたじろぐも、強乃はグッとその勧誘に耐えた。

 

「…いや、やめとく。

 まだ食えるけど、俺一人だけおかわりっつーのもあれだしな」

 

「そう。

 偉いね強乃」

 

祈世樹が強乃の頭をなでていると、それを見た慶太が割り入ってきた。

 

「これが欲しいのか?

 ちょっとぐらいなら分けてやってもいいぞ?」

 

「あー…。

 気持ちは嬉しいんスけど、たぶん一口もらったら全部無くなるかもっスよ」

 

「げっ…マジかよ。

 さすがは現役サッカー部…」

 

現役DK(男子高校生)の胃袋の底なし加減に慶太が圧倒されている矢先、俺はとある違和感に気付いた。 

 

「そういや紫はどうした?」

 

「あぁ、あいつなら彩子とトイレに行ってるよ。

 どうも彩子が車酔いしたかもって」

 

「そりゃ心配だな…。

 …祈世樹、二人の様子を見てきてくれないか?」

 

「……その必要は無いみたいよ」

 

「えっ…?」

「えっ…?」 


俺と慶太で声を揃えて疑問の声を投げかけていると、間もなくして二人が戻ってきた。

 

「…すまない。

 彩子の容態が少し悪くなってな。

 でも、もう大丈夫だ」

 

「そうか…。

 まぁ、もしまた体調崩すようなら無理せずな」

 

そう言うも、彩子ちゃんはペコペコ頭を下げていた。 

 

「すみません…。

 私が不甲斐ないばかりに…」

 

「気にすんな彩子ちゃん。

 うちの強乃なんて、君のお父さんのビーフ丼見てそっちにすれば良かったって肩落としてるんだから」

 

「ちょっ、父さんッ…!!///」

 

強乃の反応に彩子ちゃんが何故か戸惑っていた。

 

「あの……。

 よろしければ、私の頼もうと思ってた「ビーフ丼」食べませんか……?」

 

「えっ……?」

 

彼女が差し出してきた食券には、たしかに慶太が食べてる「ビーフ丼」の名前が書かれていた。

 

「…いいのか?」

 

「……はいッ!///」

 

まるで卒業証書を受け取る卒業生のように、頭を下げながら彩子ちゃんは食券を差し出し、強乃は少し戸惑いながらも受け取った。

 

「……ありがとな」

 

「…ッ!///」

 

その時の彩子ちゃんの反応を見て俺は確信した。

だが強乃には奈津子ちゃんがいるため、ここで事実を伝えるのはマズいと見て俺はあえて何も語らなかった。

  

「あれ?

 彩子、お前肉苦手だったはずじゃ…どぐらshッッ!!!!」

 

「…すまん強乃君。

 遠慮せず受け取ってくれ」

 

「はっ…はぁ…」

 

数時間ぶりの紫の強力な一撃が決まり、再び慶太は失神してしまった。


「…すまない強乃君。

 うちの慶太(バカ)はいつも一言余計なものでな…」

 

「それに関しては気にしてはないです。

 …むしろ心配なんスけど…」

 

「まぁいつもの事だから気にしないでくれ」

 

それもそれでどうなんよ。

そう思いながらラーメンを食べていた時だった。

 

「…よかったら何か奢るよ。

 何か食べないと持たないぞ」


気を遣って強乃が彩子ちゃんに昼ごはんを奢ろうとしていた。 

  

「えッ!?

 いっ、いいよ…!///

 自分の分くらい買えるから…」

 

「俺は女に借りを作るのが嫌なだけだ。

 ほら、食券買いに行くぞ」

 

「ちょ……強乃君…!///」

 

少し強引ながらも強乃は彩子の手をひいて食券を買いに行った。

 

「……随分と積極的な子だな。

 どうりで彩子が惹かれるわけだ」

 

「…?

 紫ちゃん、それってどういう……」

 

「あー紫。

 すまんがうちの強乃は彼女持ちなんだ。

 彩子ちゃんには悪いが、強乃の事は諦めてもらった方がいい」

 

俺の言葉に一瞬目を見開くも、仕方ないと悟ってか紫はすぐにほくそ笑みながら目を閉じた。 

 

「そうか…。

 あんなに気持ちの良い子であるなら、相当女の子にもモテるのだろうな」

 

「さぁな。

 俺は何も知らん」

 

そう言って俺は少しのびてしまったチャーシューメンをすすった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 

 

昼食を食べ終え、俺たちは目的地の牧場へと向かった。

 慶太はみんなが食べ終わってから意識が戻り、味わう暇もなくビーフ丼を平らげていた。

それから再び高速道路を走り、途中で降りて山中を走っていた。

  

「慶太のやつ大丈夫かな…」

 

「そうね。

 すごく痛そうだったもんね…」

 

「あいつだけだったぞ。

 あんな青ざめながら飯食ってたの…」

 

「(´・ω・`)…」

 

そんな他愛もない(?)話をしていると、慶太から電話がかかってきた。

 

「あいよー」

 

『もしー?

 もうじき着くぞー』

 

「りょーかい」

 

もちろん運転してるため、ハンズフリー通話で話している。

 

「もーすぐつく!?」

 

「もう少しだって。

 あとちょい待て」

 

はやる気持ちを抑えきれない知子は車の中ではしゃいでいた。

 

「こら知子!

 ただでさえ狭いんですから、あまり暴れないでくださいまし!」


ドタバタしつつも山中を走り続けてまもなく、目的地の牧場の看板が見えた。

標識に従って右折すると、少し高台を登ったところに目的の牧場があった。

 

「みんな、着いたぞ」

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 




 

広がる青空の元、風は少し冷たいながらも暖かなお日様に照らされ、澄みきった空気が全身を包み込んでくれた。

 

「牛さんだー!

 すごーい!」

 

「いやいや、牧場なんだから牛ぐらいいるだろ」

 

「……空気がおいしい」

 

「そうですわね。

 風が気持ちいいですわ」

 

風に自慢の金髪とスカートをなびかせ、璃杏はその場で一回転していた。

 

「んー……。

 ようやく着いたな…」

 

「運転ご苦労さま。

 …いい所ね」

 

多少人はいるものの、それほど気になるほどではなかった。

 

「わりぃ、車停めるとこ探してたら時間かかっちまったわ」

 

「仕方ないよ。

 今日は日曜日だし、俺たちのような家族連れも多いしな」

 

慶太もまた、満身創痍になりつつもよく運転出来たものだ。

 

「そんじゃあ行こうぜ。

 けっこう中は広いみたいだし」

 

「そうだな。

 行くか」

 

慶太一家を先頭に俺たちは敷地内へと向かった。

既に見えてはいたが、柵に囲われた中には横たわって日向ぼっこをしている牛、牧草をもさもさと食べている馬がいた。

 

「かーわーいー♪」

 

「知子、柵の中に入っちゃダメよ」

 

「うん!

 ……見て見て!

 あの牛さんのおなか、お父さんにそっくりー♪」

 

「なっ…!

 知子、俺はあんなに出てないだろ!///」

 

「wwwwww」

「wwwwww」 


知子の言葉にツボったのか、慶太と強乃は二人で声を殺して笑いやがっていた。

 

「ダメでしょ知子。

 お父さんをそんな風に言ったらお父さん怒っちゃうよ?

 ………ぷっ…wwww」

 

…祈世樹にまで笑われました。

今すぐ喉掻きむしって死んでやろうか?(´^ω^`)エェコラ? 

 

「あっちには馬小屋がありますわ!」

 

璃杏の指さす先の馬小屋にも馬はいた。

興味を示し走っていく璃杏に続き、夏怜もついて行った。

 

「あまり長居するなよー。

 俺たちはセンター内にいくからな」

 

「知子もおうまさん見てくるー!」

 

「いいけど、乳搾り体験は予約順だから出来なくなるかもよ」

 

「ほぇっ!?

 ……ちちしぼりにする…」

 

「では、私たちも後から参りますわ」

 

そして二人は馬小屋へと足を運び、俺たちは知子のやりたがっている乳搾り体験の予約を取りに行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 

「ごきげんよう、お馬さん。

 男前な顔つきですわね」

 

「…ブルルルルル!」


璃杏が触れようと手を伸ばした直後、黒い体表の馬がまるで小馬鹿にするように璃杏を威嚇した。

 

「きゃっ…!?

 ……何なんですのこの駄馬!

 初対面のレディに対して失礼極まりないですわ!」

 

そんな璃杏とは裏腹に、夏怜は黙って馬の目を見つめながらゆっくり近づいていった。

 

「……」

 

目の前まで来たところで夏怜は立ち止まり、目で語りかけるようにじっと馬の目を見つめていた。

すると、璃杏に対しては挑発行為をしていた馬がゆっくりと頭を下げ、夏怜はそっと馬の頭をなでていた。

 

「…いい子ね」

 

さすがは碧乃家で一番の頭脳派とでも言うべきか。

初めて馬と触れ合ってるとは思えないコミュニケーション力である。

 

「なんで私にはバカにしたのにお姉さまには従順なんですのッ!?

 意味が分かりませんわ!」

  

「…璃杏は馬の気持ちを分かろうとしていない。

 ただ従順なペットを見る目だと悟られたが故に見下されたのよ」

 

「まぁ…!

 たかが馬ごときにそこまでの頭脳があるとは思えませんわ!」

 

自分だけ懐かれないことに璃杏が腹を立てていると、作業着を来たおじさんが近づいてきた。

 

「…お嬢ちゃん大したものだねぇ。

 その馬、なかなか見知らぬ人には懐かんのよ。

 …お嬢ちゃんが初めてかもねぇ」

 

「…この子の目を見ればわかる。

 この子は見知らぬ人に対して恐怖心を抱きやすい。

 だから、距離を取りながら「私は怖くない」と心の中で念じながらこの子とだんだん距離を近付けた。

 結果、この子が私を認めてくれたのです」

 

夏怜の饒舌な説明に少し驚くも、おじさんはカッカッと笑った。

 

「流石だねぇお嬢ちゃん。

 どうだい?

 君がよければ乗せてあげようか?」

 

「……いいんですか?」

 

「あぁ。

 本来、乗馬体験は向こうの柵の馬しかやらせないんだけどね。

 ……お嬢ちゃんが最後の客になるかもね」

 

「最後…?」

 

おじさんは帽子を被り直して続けた。

 

「その馬は、かつて競馬にも出ていた競走馬だったんじゃよ。

 レースで脚を痛めて競馬から引退してここに来たんじゃよ。

 それからというもの、ワシらでさえ世話をするだけでなかなか懐いてくれなくてね」

 

「あの……それって場合によっては危険なのでは…?」

 

「…金髪のお嬢ちゃん。

 君の言いたいことは分かるが、この馬がこうして触れさせるのは本当に珍しい事なんじゃよ。

 ワシらでさえ無闇やたらに触ろうとすれば威嚇されるからね」

 

「……」

 

璃杏は心配そうに見つめるも、夏怜は馬の目を見つめながら自分の手の匂いを嗅がせていた。

 

「おじさん。

 この子の名前は?」

 

「ん?

 ……現役だった頃は「ブラック・ルル」という名前だったんだが、ここに来てからは「クロ」と呼んでる。

 ワシのような年寄りにはその方が呼びやすいからな」

 

そう聞き、夏怜は再び馬に目を向けた。

 

「クロ。

 一回だけでいいから私を乗せて。

 …お願い」

 

ぎゅっと馬の首に腕を回し、夏怜はクロを優しくなでた。

するとクロは再び頭を下げ夏怜の背中に顔を擦り合わせた。

 

「…おじさん。

 よろしくお願いします」

 

「あっ………あぁ…」

 

夏怜の行為と馬の反応に惚けていたおじさんはハッと我に返りつつ、馬のつなぎ止めを外し柵を開けた。

ゆっくりとクロは小屋から出てきて夏怜の手に鼻先を押し付けてきた。

夏怜は優しくクロの鼻先をなでる。

 

「ありがとうクロ。

 私じゃ重いかもしれないけど我慢してね」

 

夏怜が静かに語りかけている間におじさんが鞍を手際よく付けた。

 

「…さっ、いつでもいいよお嬢ちゃん。

 乗る時は左足をかけながら一気に乗りあがってな」

 

「分かりました」

 

乗り慣れているかのように夏怜はスムーズに馬に乗った。

 

「……全くもって私とは大違いですわね」

 

少し不満げに夏怜を見ていた璃杏におじさんが声をかけた。

 

「良ければ君も向こうで乗ってくるといいよ。

 向こうの馬ならちゃんと調教された馬だから、余計なことをしなければ素直に歩いてくれるよ」

 

「…分かりましたですわ。

 ではお姉さま、私はあちらで乗馬体験をしてきますわ」

 

「分かった」

 

璃杏の後ろ姿を見送りつつ夏怜は鞍に掴まった。

 

「ではおじさん、お願いします」

 

「あぁ。

 …行くぞクロ」

 

ゆっくりと手綱を引っ張ると、クロはゆっくりと歩き始めた。

いつもとは違う景色に夏怜は少しだけ新鮮な気持ちに包まれていた。

 

「どうだいお嬢ちゃん。

 そこから見える景色はなかなかじゃろ?」

 

「…はい」

 

そうは言うものの、夏怜の目線はクロの後頭部に向けられていた。

 ある程度歩き回り、間もなくして馬小屋の前に戻ってきた。

 

「…お疲れさまお嬢ちゃん。

 降りれるか?」

 

スッと夏怜はおじさんの手を借りることもなく降り、クロの頬に触れながら囁いた。

 

「…ありがとうクロ。

 あなたは素敵な馬だわ」

 

夏怜に懐いたのか、夏怜の顔にクロは自分の顔を擦り付けてきた。

 

「…不思議なお嬢ちゃんだねぇ。

 ただでさえ人見知りなクロに気を許させ、挙句は背中にまで乗せさせるとは…」

 

その光景におじさんは驚くことしか出来なかった。

 

「…ありがとうございました。

 私、家族のとこに戻ります」

 

「おぉ、そうだな。

 行きなさい」

 

そう言いながらおじさんはクロの鞍を外し始めた。

 

「…じゃあねクロ。

 またどこかで会えるといいわね」

 

そう語りかけ、夏怜は乗馬体験中の璃杏の所へ歩き去っていった。

 

「……本当に不思議なお嬢ちゃんじゃな…。

 だが、お嬢ちゃんには申し訳ないが、クロとはもう会えないかもな…」

 

夏怜の後ろ姿を見つめていたクロの目は、どこか寂しげにも見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




「お疲れさまでした。

 降りる時はゆっくり、足を鞍に掛けて降りてください」

 

「ありがとうございますですわ。

 ……あら、夏怜お姉さま」

 

璃杏が降りた先で夏怜は待っていた。

 

「どうだった?」

 

「えぇ。

 とても優雅な時間でしたわ。

 やっぱり、調教された子は素直で良いものですわね」

 

初めての乗馬に満足している璃杏ではあったが、夏怜はその感想に少しだけ不満を抱いていた。

 

「…とりあえず行きましょ。

 みんなセンター内のお土産屋のとこにいるって」

 

「承知しましたわ」

 

そして二人はみんなのいるセンターへと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


  





夏怜たちがセンター内で燈たちと合流すると、バター作り体験を終えたところだった。 

 

「じゃーーん!

 知子のしぼったぎゅーにゅーでバター作ったのー!(*`・ω・´)」

 

「振ったのは俺だがな」

 

ドヤ顔をする知子の隣で強乃は上腕二頭筋をさすっていた。

 

「私たちの方は彩子が絞って、慶太がバター作りをしたのだ。

 中々良い出来だとは思うものが出来たな」

 

「お陰様で明日は筋肉痛になりそうだがな…」

 

そう言って慶太もまた腰をさすっていた。

 

「じゃあ、あとはお土産買って帰ろうか」

 

「そうだな」

 

燈の一言をきっかけに、一同は各々自由にお土産を見て回ることにした。


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




時刻は午後十七時。

晩秋ということもあってか、日の落ちも早くなっていた。

 

「それじゃあな。

 また何かあったらLAINEするわ」

 

「あぁ。

 それまでくたばんじゃねぇぞバカパパ」

 

「分かってるよ。

 「バカはくたばってもなんとやら」…だろ?」

 

「それ、フラグだぞ」

 

ケタケタと笑いつつ、燈と慶太は拳をぶつけ合い、再び再会することを誓い合った。

 

「元気でな祈世樹。

 燈と喧嘩してもちゃんと仲直りするんだぞ」

 

「分かってるよ紫ちゃん。

 喧嘩したってみんながいるからすぐ仲直り出来るんだよ。

 それに燈ったら、私が悪くても自分から謝っちゃうんだもん。

 お詫びだってプリンくれるし…」

 

「ははっ。

 それならば私が心配するまでもないな」

 

紫は祈世樹の頭を優しくなでる。

 

「あっ!

 知子も、知子もー!」

 

「はいはい。

 本当に知子ちゃんは甘えん坊なのだな」

 

「えへへー♪

 お父さんもね、知子が良いことするとなでなでしてくれるんだよー」

 

「ほぅ。

 それならば、もっと褒めてもらえるようにいっぱい頑張るんだぞ」

 

「うん!」

  

「…みんなも今日はありがとう。

 彩子にとっても良い経験だったはずだ。

 礼を言わせてくれ」

 

「そっ……そんな事ないっスよ!

 俺たちだってすごい良い経験だったっス!」

 

「強乃、なぜ貴方が代表で語っておりまして?」

 

璃杏がツッコミつつも、彩子は紫の隣でうつむいていた。

それに気付いた強乃が近付き、何かを察した紫はそっと避けた。

 

「…おい」

 

「…ッ!?

 しっ……強乃君…///」

 

彩子は赤面しつつも前髪を整えていると、強乃がおもむろに何かを差し出してきた。

 

「…やるよ」

 

「えっ…?」

 

強乃が差し出してきたのは、牧場のお土産コーナーで買ったプレゼントだった。

 

「……こんなつまんねぇもんしかやれねぇけど……やるよ」

 

「…ッ…///

 …開けていい?」

 

強乃は黙ってうなずいた。

 

「……綺麗…」

 

小さな袋から出てきたのは、緑色の地にラメ入りのミサンガだった。

 

「……ありがとっ///」


「…おぅよ」 

  

照れくさそうに強乃は背中を向けた。

 

「…私からもプレゼント」

 

強乃に続き、夏怜も小さな小包を差し出した。

中から出てきたのは、小さな鈴の付いたフクロウのキーホルダーだった。

 

「可愛い…!」


夏怜は表情を変えずに続けた。 


「鈴の音には魔除けの効果がある。

 フクロウは福をもたらし、透き通った眼は真実を見抜くとされ、古くから縁起の良い生き物とされてきた。

 それに、可愛い」

 

夏怜の解説に聞き慣れたのか、彩子は興味津々にスマホでメモを取っていた。

 

「ありがとう夏怜ちゃん。

 ずーっと大事にするね!」

 

彩子の言葉に夏怜は笑顔……のように口角を上げた。

 

「知子もプレゼントあげる!

 学校でいつも使ってるいちごのにおいのする消しゴム!」

 

「それならば、私はいつも使ってるお気に入りのアイライナーを差し上げますわ。

 これを使えば、彩子さんもすぐ男を見下せる小悪魔美人になれますわ」

 

二人からもプレゼントをもらい、たくさんのプレゼントに彩子ちゃんは目に涙を浮かべていた。

 

「みんな………ありがと…!」

 

頃合いを見て紫が声をかけた。

 

「…そろそろ行くぞ。

 遅くなってしまう」

 

「…うん……」

 

少し寂しさを煩わせつつも、彩子ちゃんは力強く涙を拭いた。

 

「みんな、本当にありがとう。

 いつか……いつかまた会える日まで……ちゃんとお返しのプレゼント、考えておくから!」

 

彩子ちゃんが笑顔で叫び、その様子を見届けてから慶太は車の鍵を開く。

 

「じゃあな燈、海条。

 ……今は碧乃か。

二人も元気でな」

 

「いつか、また何かあれば来るさ。

 それまで、達者でな」

 

「お前らもな。

 彩子ちゃんも、次会うときにはもっと良い女になってろよ」

 

「…はい!」

 

祈世樹は彩子ちゃんと同じように涙を浮かべながら小さく手を振った。

そして三人は車に乗り、ゆっくりと走り出した。

ある程度離れたところで窓を開けて彩子ちゃんが叫んだ。

 

「みんなーー!

 ありがとーーーーー!!!!」 

 

車から顔を出しながら彩子ちゃんは大きく手を振り、やがてその姿は見えなくなった。

 

「…俺たちも帰るか」

 

「そうね。

 ちょっと疲れちゃったね」

 

燈たちもまた車に乗り、ゆっくりと帰路を走っていった。

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 



 

帰り道の道中、燈たちは高速を避けて遠回りしながら走っていた。

 

「みんな、今日はどうだった?」

 

燈がそう聞くも、誰一人として返事はなかった。

 

「しーっ。

 …みんな寝ちゃってる」

 

信号止まりに燈が後ろを見ると、全員疲れきった顔で眠っていた。

 

「…疲れちまったんだな。

 夏怜でさえ寝ちまってるし」

 

「そうね。

 …二人も変わらず仲良さげで良かったよ」

 

「全くだ。

娘までいるとはびっくりだったがな」

 

「ねっ」

 

そう言って祈世樹はココアを一口飲む。

 

「…眠かったら寝ていいぞ」

 

「それは嬉しいんだけど……私まで隣で寝たら、燈まで眠くなっちゃうでしょ」

 

「それに関しては大丈夫だ」

 

祈世樹は眉を上げて猫のように首を傾げる。

 

「……夏怜たちの寝息で、既に眠いからっ☆」

 

そう言って燈は半開きの目でガッツポーズを取った。

 

「……コンビニでドリンク買ってこ…?」


「………はい」


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



 

「どうだった今日は?」

 

「…すごく楽しかった。

 来てよかった」

 

こちらは坂口一家の帰り道。 

燈たちと同じように今日の感想を語り合っていた。

 

「それは良かった。

 それならば見つけたかいがあるというものだ」

 

こちらもまた今日の出来事に花を咲かせていた。

 

「まさか燈たちが結婚してるうえに、五人も子供がいるとは思わなかったがな(笑)」

 

「まぁな。

 でも、全員仲良さげで良かった」

 

「そうだなぁ…。

 あの燈と海条がなぁ……」

 

慶太と紫が昔話に耽っていると、彩子が不意に呟いた。

 

「いいなぁ……。

 私も妹欲しいな…」

 

思わず口に出た彩子の一言は、二人に何やら大きな衝撃を与えた。

 

「さっ……彩子……。

 それは親の前で言うことではないかと……なぁ紫…?」

 

紫に同意を求めるも、紫の反応は予想外を上回っていた。

 

「そっ…そうだな……。

 彩子がどうしてもと言うのなら………考えておいてもいいぞ…///」

 

「なっ…!?///

 おまッ……朝は俺から誘ったら断ったくせに…!」

 

「あっ、当たり前だろっ!?

 私が素直に認めるわけなどなかろうに!

 と言うか、慶太も彩子の前で破廉恥な事を言うなッ!///」 

 

自分の一言に動揺する二人の反応に、彩子は思わず笑っていた。

 

「ぷっ……くっくっく…」

 

「…っ!?

 彩子、母さんはお前のことを思ってだなぁ…」

 

慶太が半ば半ギレで叫ぶも、彩子は冷静に語った。 

 

「…ほんとはね、そういう意味の欲しいじゃないの」

 

「…?」

 

状況を理解出来ていない慶太を置き去りに彩子は続けた。

 

「なんかね……今日みんなと過ごして思ったの。

 学校では友達と遊べるから十分って思ってたんだけど………あーして妹の面倒を見たり、姉兄同士で喧嘩したりとか…。

 あの子たちには当たり前のことなのかもしれないけど、それを知らない私にはすごく輝いて見えたの…。

 それが……なんかいいなぁって…」

 

娘の饒舌な言葉に、二人は少しだけ気圧されていた。

 

「でもね、同時に思ったこともあるの」

 

軽く深呼吸して彩子は続けた。

 

「あーいうのもいいなぁって思うけど……私……喧嘩したりするの嫌なのよね。

 だから……どうせなら、結婚して兄妹が欲しいって思ったの。

 先に男の子が生まれて、後から女の子が生まれて……もちろん仲良しでね!」

 

微笑ましい娘の理想に二人は嬉しそうに笑っていた。

 

「そうか。

 だが……」

 

何を思ったのか、慶太も何か言いたげに大きく息を吸い込んだ。

 

「…孫の顔は見たいが、彩子を嫁に行かせるのは嫌じゃーーーー!!!!!」

 

「ぷっ……あっはっはっはっはっ!」

「ぷっ……あっはっはっはっはっ!」 


慶太の言動に二人は思わず爆笑してしまった。

 

「おっ、お前ら!

 俺が気持ち半分で言ってると思ったら大間違いだぞ!!

 俺は彩子が可愛くて仕方ないから言うんだぞ!?」

 

ピーピーと叫ぶ慶太に二人はケタケタと笑っていた。

 

『ほんと…こういうとこは親らしいよな…』

 

密かにそう思う紫は、唐突に助手席の窓を開けた。

そよそよとした風が紫の髪をなびかせた。

だいぶ風は冷たくも、笑いで発熱した身体にはちょうど良い心地良さを醸し出していた。


『もうじき、冬が来るな…』

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

  




家に着く頃にはすっかり真っ暗になり、夏怜たちは風呂に入って軽く晩飯を食べるといつもより早めに部屋に入ってしまった。

それに続き、祈世樹も仕事のためすぐに寝入ってしまった。

 だが俺からすれば好都合でもあった。

 

『コンコン…』

 

現在、夜中の二十四時。

二時間の仮眠をとった俺は海麗の部屋の前に来ていた。


「…海麗。

 起きてるか?」

 

囁くように俺は海麗を呼ぶ。

だが、いつものように返事は返ってこなかった。

 

『…やっぱ無理かな…』

 

実はみんなで遠出する前日の夜、俺は海麗の晩飯と一緒に手紙を置いていった。


『明日、夜中に一緒に出かけないか?

 俺と二人でだ』 

 

それがきっかけに顔を出してくれればと思ったんだが…。

 

『…やっぱり無理か……』


諦めて部屋に戻ろうとした時だった。

 

『ガチャ…』

 

突然、背後からドアの開く音が聞こえ、俺の心臓が跳ね上がった。

俺は恐る恐る後ろを振り返った。


「…………海麗……」

 

それは、次女との一年ぶりの再会…とでも言おうか。

肩まで延びた黒髪に金髪のメッシュヘアーをいじりながら、真っ黒のスウェット姿で海麗は顔を見せてくれた。

 

「……久しぶり……親父…」

 

久々に聞いたハスキーボイスは俺の肌を震わせ、涙さえこみ上げさせた。

 

 

 

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