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拝啓、空と世界へ  作者: 鷹利


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Ext.10 遠出と級友(前)

「全員、聞いてほしいことがある」

 

晩飯の直前、俺は全員が席に着いたのを確認してから某司令官ばりに声を低くして静かに語り出した。

 

「あっ、知子それ知ってる!

 えっと……エb…」

 

「知子、それ以上はダメよ」

 

「にゅ…?(´•ω•`)」

 

知子のメタ発言を祈世樹が制止させたとこで俺はトーンを戻して続けた。

 

「来週の日曜、ちょっと遠出しようと思う。

 岩手の山の方にだ」

 

俺が自ら拍手するも、祈世樹と知子以外からの反応は予想以上に冷たいものだった。

 

「山歩きとかであればパスですわ。

 虫や花粉が蔓延してますから」

 

「俺も学校で疲れてるから、体力使う系はパスだぜ」

 

「……コタツでぬくりたい」

 

「そっちかよっ!

 …てか、まだ秋なんだけど」

 

強乃がナイスツッコミを決めたとこで俺は続きを説明する。

 

「各自思うとこがあるだろうがもっと別のことだ。

 きっと楽しいぞ」

 

そして俺はとあるチラシをテーブルに叩きつけた。

 

「……「酪農体験祭り」…?」

 

「そうだ。

 来週の土日に岩手の山中にある牧場で行われるんだよ。

 俺も母さんも二日連休とれたし、日帰りでもたまには良いかなと思ってな」

 

「ぼくじょー!?

 牛さんのおちちもしぼれるのっ!?」

 

「もちろん!

 乳絞り体験やバター作り、乗馬体験も出来るんだぞ」

 

「おうまさんにものれるっ!?

 ぱかぱか走るっ!?」

 

「まぁ走りはしないが、背中に乗ってトラック内を歩きながら一周させてくれるぞ」

 

「ふおぉぉぉ!

 知子行きたーーーい!」

 

「よし、知子は確定だな。

 他に行くやつは?」

 

「まぁ…乗馬体験に興味がないわけではありませんわね。

 私も同行しますわ」

 

「…乗馬は滅多に出来るものじゃないから興味はある。

 たまの遠出というのも悪くないかもね」

 

「まぁ日曜なら予定もないしな。

 サッカーで下半身ばかり鍛えてるのもバランスが悪いしな。

 …バター作りで上腕二頭筋でも育ててみっかな」

 

全員が了承し予定も固まりつつある先で俺はある補足を入れた。

 

「ちなみに、その日は俺と母さんの友人とも行くから」

 

「…ご友人ですの?」

 

「うむ。

 俺と母さんが高校時代の頃の級友だ。

 こないだ、たまたま顔を合わさってな」

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




――三時間前――

 

 

 

「二人っきりでショッピングっていうのも久しぶりだな。

 いつもは知子や璃杏が着いてきてたし」

 

「そうね。

 二人とも友達と遊びに行ってるからね。

 夏怜は家で勉強、強乃はサッカーの練習試合だしね」

 

「あんまし言いたくないが、あいつらがいないとほんと静かで助かるよ。

 あれ欲しいだのこれ買ってくれだの……知子もそうだが、特に璃杏は欲しがり屋だからなぁ。

 あの服欲しいだの、このブローチの美しさに惹かれただの……まだ知子の方が数は多くとも安くついてるかもな」

 

「あはは。

 そうだね」

 

仲睦まじく買い物をしていた時だった。

 

「燈ーー!

 海条ーー!」

 

突然大声で呼びかけられ、二人が思わず振り返ると、そこには昔懐かしい顔がいた。

 

「……やっぱり燈と海条だな。

 久しぶり!」

 

「……ひょっとして………慶太か……?」

 

それは、高校時代に比べたらだいぶ加齢の影響はあるものの、それでも記憶の片隅に残る面影があった。

 

「…久しぶりだな二人とも。

 祈世樹も元気そうでなによりだ」

 

「…もしかして……紫ちゃん……?」

 

祈世樹よりはるかに長身な女性は疑いの余地もない、もう一人の級友……小野々儀紫だった。

 

「変わらないな、二人とも」

 

大人びたその笑顔は、二十七年前と全く変わっていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





四人はフードコートで久しぶりの再会を喜ばしく語り合っていた。 

  

「こんなとこで会うとは、本当に偶然だな。

 二人ともこっちにいるのか?」

 

「いや。

 俺たちは今、南部の方にいるんだよ。

 …これ知ってたか?」

 

慶太が差し出してきたのは、一枚のチラシだった。

 

「……「酪農体験祭り」…?」

 

「そうだ。

 岩手の山中にある牧場で行われるんだけど、そこで酪農体験が出来るんだよ。

 来週の土日に行われるみたいだから、そのルート確認にな。

 都合良ければお前らも来ないか?」

 

「…まぁ俺は大丈夫とは思うが……祈世樹の仕事もシフトを合わせられるかどうか…。

 あと「うちの子」たちの予定も合うかどうか…」

 

「……ちょっと待って。

 今「うちの子たち」つったか?」

 

「おうよ。

 ……ほら、俺たち結婚したんだよ。

 子供も五人いるし」

 

「はっ、五人!?

 お前ッ………海条にどんだけ夜の営みを強いて…あぼべsッッ!!!!」

 

慶太が下ネタを言いかけた瞬間、隣にいた紫の肘鉄が慶太のみぞおちにクリーンヒットした。


「…すまないな二人とも。

 うちのバカが変わらず迷惑をかけて」

 

「いや…それはいいんだが……慶太は大丈夫か…?

 なんか…………痙攣してるぞ…」

 

以前にも増して高校の時よりもビルドアップしたようにも見えた紫の肘鉄は、慶太が一撃で失神するほどのレベルだった。 

 

「あぁ。

 こんなの毎日のことだ。

 私がこうして鍛えてやってるから、最近だと耐えることもあるんだぞ?」

 

当たり前のように紫は笑うも、燈と祈世樹は青ざめていた。

 

「しかし……因果律とはこういう事を言うのだな」

 

「…何がだ?」

 

おもむろに紫は自分の左手を差し出してきた。

 

「…えっ……。

 お前らも結婚してたのかっ!?」

 

白く細長い紫の薬指に、小さくキラキラと光る結婚指輪がそこにはあった。

 

「おめでとう紫ちゃん!

 二人も結婚してたなんて……なんか私も嬉しくて泣いちゃいそう…!」

 

「こら祈世樹、そんな事で泣くな。

 恥ずかしくなってくるだろう」

 

こそばゆそうに紫が呟くと、直後に状況を察した慶太が目を覚ました。 

 

「……ッ!

 ふははは、どうだ燈!

 俺たちも結婚したんだぜ!?

 ……いてて…」

 

「大丈夫、慶太くん…?」

 

「あっ、あぁ…。

 こんなの日常茶飯事だからな!

 ……あっ……二日前にやられた腰が……いてて…」

 

『…ものすごく不安なんだが大丈夫なのか…』

『…ものすごく不安だけど大丈夫かな…』 


二人でそう思っていると、紫が突然立ち上がった。

 

「…すまない二人とも。

 私たちはこれから行くとこがあるから、今日はこれで失礼させてもらう」

 

「…そっ…そうか…。

 じゃあ来週の土曜か日曜……待ち合わせはここでいいか?」

 

「そうだな。

 …お前RAINEしてるか?

 してるなら連絡用に教えて欲しいんだが」

 

「あぁ、もちろんとも。

 えーっと……」

 

燈が慶太とRAINEを交換してる間、祈世樹と紫は懐かしい親友のやり取りを微笑ましそうに見つめていた。


「…なんか…懐かしいね」

 

「そうだな。

 けど、祈世樹も変わらないな」

 

「…?」

 

祈世樹が疑問に思っていると、交換を終えた慶太が呼びかけた。

 

「紫、とりあえず交換終わったぜ。

 そろそろおいとまするか?」

 

「あぁ。

 ……じゃあ二人とも、再来週の土日にまた会えることを楽しみにしてるぞ」

 

「うん!

 きっと行くから!」

 

「多分、予定は合わせられると思うから、そん時は娘らの顔見せてやるよ」

 

「そうだな。

 お前らの子供なんて、どんなんなのか予想もつかないがな」

 

「おい慶太。

 二人の子ならきっとしっかり者に違いないはずだ。

 それはちょっと失礼だぞ」

 

『……しっかりしてるかなぁ…(汗)』

『……しっかりしてるかなぁ…(汗)』


再び脳内でそう呟くと、慶太たちは荷物を持って立ち上がった。

 

「では二人とも、元気でな」

 

「うん!

 紫ちゃんたちも身体に気をつけてね!」

 

そして慶太たちは笑顔で去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



「それで遠出をすることになったのですわね」

 

「そうだ。

 いやぁ懐かしかったなぁ」

 

俺が僅かな想い出に更けていると祈世樹が続けた。

 

「そういうことだから、来週の土曜日は早めに寝なさいよ。

 朝は少し早めに出る予定だから、寝坊は出来ないよ」

 

祈世樹の一言に一同はワクワクしながら思い思いに語り合った。

 

「日曜はどんなオシャレをしていきましょうかしら。

 なんなら、華やかにドレスでも着ていきましょうかしら」


「めっちゃイタい子だってのがバレるからマジでやめてください」

 

「おでかけ、なんびゃく円までならおかしもっていってもいーい?」

 

「遠足じゃないんだから制限はないが、とりあえずボロボロとこぼれる系とかポテチとかはダメだぞ」

 

「牛かぁー…。

 ……ちょっくら対戦前に筋トレしとこうかな」

 

「お前は日本で一番最初に出た格ゲーの主人公を超えるつもりか」

 

次々と降りかかるボケをあの手この手で払い除けていると、最後に夏怜が呟いた。

 



 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………十七条の憲法…」

 

 


 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

「「聖徳太子」じゃねぇよッ!!!?」 

 

「………」 

 

………無表情で退場されました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



 

 

日曜日、俺はいつもより早めに起きて人数分のバナナシェイクとヨーグルトを作っていた。

 

『今日はみんなにパッと起きてパッと出られるようになってもらわないとだからな』

 

各自の好みに合わせ、ヨーグルトにかけるブルーベリーソースとストロベリーソースを探していると、誰かがリビングに入ってきた。

最初に起きてきたのは、やはり夏怜だった。

 

「おはよ…」

 

「おはよ夏怜。

 まだ寝ててもいいんだぞ」

 

「んー……。

 …父さんこそ、こんな朝早くから何を作ってたの?」

 

「バナナシェイクとデザート用のヨーグルトだよ。

 バナナは朝食べると、その日一日のエネルギーを十分に摂取できる上、ヨーグルトは整腸作用もあるから便秘にも効くんだぞ」

 

「ほぅ…」

 

ふらふらと夏怜は食卓に座る。

時計を見ると、時刻は六時を指していた。

 

「しかし、お前って不思議だよな」

 

「…?」

 

「だってよ、夏怜は朝弱いのに俺の次に早く起きてくるじゃん。

 だから無理して起きてるのかなって思ったんだよ。

 ……ほい、夏怜のバナナシェイクとヨーグルトだよ。

 ソースはストロベリーとブルーベリーのどちらか選べ」

 

無言でシェイクとヨーグルト(ブルーベリーソース)を受け取り、夏怜はシェイクにストローを挿してゆっくりと吸い上げた。

 

「……理由は私にも分からない。

 ただ…何となく起きて、無意識に身体が布団から出るだけ」

 

「ほぅ」

 

言ってることは何となく分かる。

俺も中学校辺りは同じようなことが休みの日によくあった。

 

「なんなんだろうな。

 普段、学校に起きるのはキツいのに、休みの日だと何故か同じぐらいの時間に目が覚めてスッキリ起きれるんだよな」

 

「何故かしらね」

 

夏怜と他愛もない話をしていると、璃杏が未だ寝ぼけている知子を連れ、その後ろから祈世樹も起きてきた。

 

「ほぉら知子、いつまでも寝ぼけてないで自分で歩きなさいですわ」

 

「…うーーん…。

 あるてぃめっとさばいぶだんす…(?)」

 

『知子よ。

 一体どんなオメデタな夢を見ているんだ…?('ω')

世界平和でも守るために戦っとるのだろうか?(脳死)』

 

とは思いつつも、祈世樹もまた目の下にクマが薄ら見えていた。

楽しみで寝つきが遅かったのだろうか。 


「ごめんね璃杏。

 洗面所で知子の顔洗ってあげてきて」

 

「仕方ありませんわね。

 ほら知子………よっこらしょっ…!」

 

多少面倒くさがりながらも、璃杏は知子を背中に担ぐと、それがきっかけで目が覚めたのか、知子は声を張り上げた。

  

「ふおぉぉ…!

 空とぶサンタさんだぁ…!」

 

「んもぅ、いつまで寝ぼけてますの!

 早く顔を洗って目を覚ましなさいですわ!」

 

マネキンを背負うように璃杏は知子を連れて洗面所に消えていった。

 

「およ。

 強乃はまだか?」

 

「ごめん、まだ起きてないみたい」

 

半ば分かってはいたが、俺はエプロンを脱いで強乃の部屋に向かった。

朝は強乃が一番弱いから予想通りのこと。 

 

『コンコン…』

 

返事はなかった。

そっとドアを開け様子を覗くと、強乃はぐっすり寝ていた。

それを確かめてから、俺はその場で脚を上下に動かしてウォーミングアップをした。 

 

「………おらぁッ!!!!!」

 

「……んぐっ……んぉッ!?

 ちょ……何して……ぎゃっはっはっはっ!!!!wwww」

 

寝てる強乃の布団をそっと剥ぎ、俺が強制的に電気ア○マをかけると強乃はようやく目を覚ました。

 

「へぇっ……へぇっ………おはよぉ強乃……///♪」

 

「ッ…起こすならもっと他のやり方がなかったのかよッ!!?

 ……痛ってぇ…」

 

強乃は股間を抑えながら横たわっていた。

 

「ほら、早く起きろ。

 みんなもう起きてるんだぞ。

 二度寝したらまた電気○ンマかけるからな」

 

「それは絶対嫌だ。

 つか…父さんこそ、めっちゃ息上がってんぞ」

 

「そりゃ……運動不足のアラフォーがあんな無理のある運動したら……下手すりゃ脚ツるわ。

 …いいからはよ起きろ」

 

強乃を起こしてから俺は台所に戻り、海麗の朝ごはんを支度した。

 

「…なんだよこれ。

 朝飯これだけなのかよ」

 

ようやく起きてきた強乃はいつも通り朝からグダめいていた。

 

「今日は高速道路のサービスエリアで昼飯食べるから、朝は控えておいた方が美味しく食べれるぞ。

 別にいいって言うならご飯出すけど…」

 

「………がっつり食えんのか?」

 

「普通に定食もあるから全然食えるよ。

 つかお前、朝はあんま食えんだろ」 

 

「…んじゃ我慢する」

  

仕方なさそうに強乃がシェイクを吸うと、隣でシェイクを吸っていた知子が突然立ち上がった。 

 

「知子はこれしゅきだよ!

 しぇーくおいしー♪」

 

「そうですわね。

 私も最近……気にしておりましたので、ダイエットには良いですわね。

 程よく糖分を摂りつつ、乳酸菌も豊富に摂れますからね。

 なんなら毎朝これだけでも良いですわね」

 

「それじゃ勉強が頭に入ってこないぞ。

 朝はしっかり食べろ」

 

「…私は朝食にデザートのヨーグルトがあればバランスよく摂れると思う」

 

「おぉ、それは良い考えだ!

 よし、今度からそうするか」

 

夏怜が名案を出すも、それをぶち壊す異論が飛んできた。 

 

「えっ…朝からそんな食えねぇし、まず続けられんの?」 


「………(' -')」

 

……強乃は音も立てずにシェイクを吸っていた。

 

 


 

 

  

 

 

 

 

 



 

その後、全員支度を済ませて少し早めに家を出た。

何事もなく駐車場に入ると、慶太と紫が車に寄りかかって立ち話をしていた。

 

『ファンッ!』

 

クラクションで合図をし、二人の隣に車を停めた。

 

「よっす。

 お前らも早めに来たんだな」

 

「まぁね。

 そういうお前らもいつから来てたんだ?」

 

「あぁ。

 俺たちは南部から直接来てるからな。

 早めに出てこないと、交通状況によっては遅くなるかもだしな。

 十分ぐらい前に来たばっかりだよ」

 

「それな」

 

その時、慶太の車から一人の少女が降りてきた。

 

「紹介するよ。

 うちの一人娘の彩子(さいこ)だ。

 …ほら彩子、みんなに挨拶しろ」

 

車から出てきた少女……彩子ちゃんは、少し挙動不審になりながらも挨拶した。

 

「あ…初めまして。

 坂口彩子(さかぐち さいこ)と言います…。

 今日は…ご迷惑をおかけするかもしれませんが、どうぞよろしくお願いします…」

 

「おっ……よろしくね彩子ちゃん」

 

少しぎこちないながらも、しっかりとした礼儀と清楚な見た目に、どことなく紫っぽい雰囲気を感じた。

 

「よろしくね彩子ちゃん。

 今はいくつなの?」

 

「えっと……十四です。

 中学生です」

 

「あら、うちの璃杏と強乃と同い年なのね!

 ……ほら、みんなも出てきて挨拶しなさい」

 

祈世樹の一声に璃杏たちはぞろぞろと出てきた。

 

「うぉっ……マジかよ…。

 お前んとこ軽だろ?

 ……まるでインドの相乗りタクシーだなww」

 

「うっせぇ。

 これでもなんとかやれて行けてるんだよ」

 

…とは言ってみたものの、車から出てきた夏怜たちは久しぶりのシャバの空気を吸ったかのような雰囲気だった。

 

「あー…キツかった。

 璃杏、場所取りすぎなんだよ」

 

「何を言っておりますの?

 強乃がだらしなく大股を開いて場所を取りすぎなだけですわ」

 

「知子はぎゅーぎゅーづめ楽しかったー♪」

 

「……車の揺れと狭さで酔ったかも…」

 

…予想通りとでも言いたいとこだったが………すまん、みんな…。 

 

「………あれで大丈夫なのか…?」

 

「まぁ……いつもの事だ…」

 

もちろん新しい車の買い替えは検討してはいる。

などと考えていると、璃杏が最初に自己紹介をした。 

 

「挨拶が遅れましたわね。

 …初めまして御三方。

 私は碧乃家の次女で、碧乃璃杏と申します。

 以後、お見知りおきを…」

 

淡いピンクのロングスカートの裾をつまみ、璃杏はゆっくりとお辞儀をした。 

 

「おっ、おう…。

 よろしく…な」

 

璃杏のお嬢さま言葉に慶太たちは動揺していた。

 

『すまん三人とも。

 うちの璃杏はバカなんだ…』

 

そう言ってやりたかったが、本人の名誉もあるためあえて黙っておいた。

 

「私は紫だ。

 うちの(アホ)が何かして来たらすぐ私に言ってくれたまえ。

 そん時は、私が直々に「畳む」からな」

 

「まぁ…!

 美しさだけでなく、強さまで兼ね備えているとは……私も見習わねばなりませんわね」

 

そりゃ二周りも歳は離れてるからな。

てか、紫が異常に強すぎるんだよ。

 

「知子はね、知子ってゆーの!

 よろしくー!(*`・ω・´)」

 

「おっ、君は知子ちゃんか。

 よろしくな」

 

璃杏に続き、知子も自ら挨拶をした。

いかにも人懐っこそうな知子に三人はどこか安心したかのようにも見えた。

 

「……ッ///」

 

「…?

 彩子、顔が真っ赤だが……具合でも悪いのか?」

 

「…ッ!?///

 なっ、なんでもないよお母さん…。

 …あはは…」

 

突然顔を赤らめた彩子ちゃんを見て、慶太が何かに気がついた。

 

「…そう言えば、彩子は妹が欲しかったんだっけ?

 たまぁに言ってたもんな」

 

「ちょっ、お父さん…!///」

 

それでようやく察した。

彩子ちゃんは知子の可愛さに惹かれたのだろう。

まぁ子供好きな人からすれば、知子の雰囲気は人懐っこい犬にも似てるだろう。 

 

「よしっ、紫!

 今日帰ったら、久しぶりに俺と合体…げぶらsッ!!!」

 

慶太が言い切るよりも先に紫の見事なボディブローが炸裂し、慶太は倒れてしまった。

 

「貴様はそこで干からびておけ」

 

『おおぉぉぉ…!』

 

何かのマンガで聞いたことのあるセリフにパチパチと全員から拍手があがるが、もちろん俺と祈世樹は血の気を引かせていた。

 

『本当に大丈夫なのか慶太…(冷汗)』

『本当に大丈夫かな慶太くん…(冷汗)』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



「碧乃強乃です。

 よろしくっス」

 

「よろしく。

 君は唯一の男の子なんだな。

 二人のためにちゃんと頑張ってるか?」

 

「……ウスッ!

 これといった事は出来てませんが、サッカーで頑張ってます!」

 

「そうか。

 サッカーもいいが、たまには二人のことも助けてやれよ。

 若い男手は一番の頼りだからな」

 

「はいっ!

 肝に銘じておきます!」

 

やけに紫に対してはきちっとした強乃の様子に俺は少しだけ驚いていた。

 

「…強乃ってあんなしっかり者だったっけ?」

 

「あの子、男勝りな女の子とかも好きみたいだからね。

 紫ちゃんは強乃のツボだったんでしょうね」

 

そう祈世樹は囁くも、少し前に強乃が連れてきた山下さんはどうなんだって話なんですよね。

 

「…よろしく…強乃君…」

 

「ん?

 あぁ、よろしく」

 

『えっ……嘘だろ…』

 

なんて反応の差なんでしょうか。

あれでは、あなたに興味はありませんって言っている様なものだ。 

 

「強乃君…か。

 君はさっき、サッカーをしてるって言ってたな?」

 

ようやく立ち上がってきたリビングデッド……慶太がなにやら強乃に質問してきた。

 

「あ、はい。

 自分、部活でフォワードやってるっス。

 ワールドカップも見てますよ」

 

「おぉ!

 こないだの本間祐輔のシュートヤバかったよな!?」

 

「分かるっス!

 あそこからのロングシュートを決めて、チームメイトが受け取って繋いだの見た時、俺も感動したっスよっ!」

 

サッカーの話で繋がった強乃と慶太は、まるで居酒屋で盛り上がるサポーターの様だった。

傍で少し寂しげに二人を見つめる彩子ちゃんに気づいた紫が小さく囁いた。

 

「…気にするな彩子。

 強乃君はお前が嫌いなわけじゃないんだ。

 そう気を落とすな」

 

だが、紫のイメージと彼女の答えは違っていた。

 

「……かっこいい…」

 

「……え?」

 

彩子ちゃんは目をキラキラと輝かせながら、さっきまでとは別人のようにおしゃべりになっていた。

 

「私ってば、学校ではよく男子に話しかけられやすいんだけど、みんな私にお近づきになりたいってのが見え見えなんだよね。

 私だってバカじゃないし、そんな下心見え見えの猿どもに言い寄られていて少し男に嫌気がさしてたんだけど……なんか、強乃君に突き放された瞬間、すごくときめいたの!」

 

「……そっ…そうか…(汗)」

 

自分でさえ見たことがないと言わんばかりに紫も少しヒいていた。

少し傲慢というか奔放にも見えたその様は何処と無く慶太の面影にも見えた。

 

『……聞かなかったことにしておこう…』

 

一応……知らないふりをしてた方がいいよね。

 その直後、背後に人の気配を感じて彩子ちゃんが本能的に振り返ると、夏怜が無言で彩子ちゃんを見つめていた。

 

「…ッ!?

 なっ…なに…?」

 

それでも夏怜は冷たい眼差しで見つめていた。

 

「…碧乃夏怜よ」

 

「……え?」

 

彩子ちゃんが戸惑っていると、夏怜が手を差し出してきた。

 

「……よろしく」

 

「あ……あぁ!

 よ…よろしく…………なにそれ…?」

 

握手を求めてきたと思いきや、夏怜の手はなぜかジャンケンのチョキを象っていた。

 

「あの……バカにしてます…?」

 

夏怜の謎の行為に表情を曇らせていると、夏怜が意味を説明した。

 

「あら。

 初対面の人と仲良くなるには、まず自己の砕けた一面を見せるのが一番だと……本で読んだのだけれどもね」

 

「……」

 

夏怜の言葉を聞いて、もしかしたらバレてしまったかもしれない。

 

『もしかしてこの子たち…変な子ばっかりなのかな…』

 

彩子ちゃんの目は、そう物語ったような目つきであった。

 

 

 

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