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拝啓、空と世界へ  作者: 鷹利


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39/44

38.3月1日

『ピピピピピピピッ!』

 

無機質なアラーム音が俺の睡眠を強制的に妨げる。

俺は薄らとした意識でアラームを止めた。

虚ろな意識で時計を見ると、時刻は朝の七時を指していた。


『そういや…今日は卒業式だっけ…』

 

面倒くささと眠気に苛まれつつ無理やり起きると、それでも少しは意識がはっきりしてきた。

俺は部屋から出て着替えを持ち出しリビングに降りる。

リビングでは既に母さんが朝食を作っていてくれた。

 

「おはよ…」

 

「あら、珍しく早いね。

 いつもならあと十分は起きてこないのに」

 

「なんとなくな。

 腹減った」

 

「はいはい。

 もうご飯出来てるよ」

 

まだ覚醒しきっていない意識で俺は朝食の前に座る。

 

「いただきます」

 

感情もなく飯前の挨拶をし、暖かなご飯に箸を入れる。

仄かな温かさが眠気を飛ばし食欲をそそらせる。

…そういや、朝は暖かいご飯の方が目が覚めやすいんだっけ。 

そんなどうでもいいことを考えつつ、俺は朝食を食べきって顔を洗い着替えをする。

いつもと変わらぬ学生服だが、不思議と新鮮味を感じる。

 

「あら、もう行くの?」

 

母さんがそう聞くのも確かだ。

現在、時刻は七時二十五分。

出るにはちょうどいい距離でもない。

 

「まぁ出来ることは早めにってね」

 

そう言い残し俺は家を出る。

 

「行ってきます」

 

「行ってらっしゃい」

 

いつもより軽いカバンを背負い自転車にまたがる。 

風もそこまで強くなく、そよそよとした追い風が心地良い。


『さて、行くか』

 


 

 

 

 

 

 

 

 

  


しばらくしてゲーセンの近くで慶太と落ち合った。

 

「よぉ燈!

 こんなとこで会うなんて珍しいな」

 

「おはよ慶太。

 こんな朝早くから顔を合わせるとは、今日の卒業式は雨が降りそうだな」

 

「縁起でもねぇ事言うなし!

 今日の天気だとマジで降りかねないっつーのに」

 

慶太の言う通り、今日の天気は曇り。

風こそ気持ちいいが、ここしばらくぱっとしない天気が続いている。

 

「雨、降んねぇといいな」

 

今日の卒業式はどうなることやら。 

 それから学校に到着し、階段を登っていた時のことだった。

 

「なんか、懐かしいな…」

 

「何がだ?」


慶太にしては珍しくしみじみと語っていた。

 

「覚えてないか?

 入学式の日、俺たちはここで顔合わせて一緒に教室に行ったじゃん」

 

「……あぁ、そんな事もあったな」

 

そうだった。

三年前の入学式の日、ろくに話もしたことのない俺に慶太が話しかけてくれたんだっけ。

 

『忘れちまうもんだな…』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはよ二人とも。

 朝から二人で来るとは珍しいな」

 

「おっす紫。

 ゲーセンの近くでたまたま会わさってな。

 …そうだ、今日放課後にみんなでゲーセン行こうぜ!

 どうせ予定ないだろ?」

 

「みんな」という言葉に胸がチクリと痛む。

 

「んー…。

 私はかまわないのだが、祈世樹はどうか分からないぞ」

 

「ん?

 どういう事だ?」

 

「…実は、昨日メールで『明日は卒業式の裏方の仕事につきっぱなしになるから、ずっと教室には来れない』と言っていたのだ」

 

「んーそうかぁ…。

 じゃあ最悪、三人で行くか」

 

慶太がそう言うものの、紫はある疑問を抱いてしまった。 

 

「…というか、燈は知ってたんじゃないのか?

 祈世樹なら、一番最初にお前に教えてると思ったのだが?」

 

「…ッ!?

 ………それなんだが…」

 

隠しきれないと思った俺は真実を濁して語った。


「実は……以前から祈世樹と話し合ってて………卒業したらお互い離れようって話し合ってたんだよ。

 このままだと、お互いの為にならないからって。

 だから……昨日から連絡を取り合うのをやめたんだよ」

 

「マジか…」

 

「そんな…」

 

「あっ……でも喧嘩したわけじゃねぇよ!?

 あくまで「話し合って」決めた事なんだから!

 …そりゃまだ好きだけどさ…」

 

少し重い雰囲気になるも、二人は後味が悪そうながらも納得してくれた。

 

「ま、まぁ喧嘩したわけじゃないならいいんだ!

 それがお前たちの決めたことならな…」

 

「そ…そうだよな!

 お前にしてはなかなか勇気のある決断だと思うぜ?」

 

少しぎこちないものの、とりあえずは理解してくれたみたい。

 

「でも…祈世樹は強がりだから、無理してるんじゃないのだろうか…」

 

「………それなら心配ねぇよ」

 

少し不安がる紫に俺は自信を持って答える。

 

「あいつは…俺たちが思ってるより……ずっと強い子になったよ」

 

それはきっと中身のない、自分を落ち着かせる為の嘘にしか思えなかった。  

 その後、本当に祈世樹が顔を出すことはなく始業の鐘が鳴った。

芹澤先生はいつもより早めに顔を出し、俺たちは列を作って体育館に向かう。


『祈世樹……いるかな…』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『それでは卒業生が退場します。

 みなさん、暖かい拍手で見送りましょう』

 

式ではこれといったハプニングもなく、無事俺たちは式を終えて体育館から出ていた。

卒業証書授与の際に祈世樹の姿はあったものの、退場の際にはやはり彼女の姿はなかった。

教室に戻ると、中学の時ほどとはいかずとも、数えられる程度の女子が泣いていた。

 

「つっかれたぁ…」

 

「あぁ。

 ああいう堅苦しいのは慣れねぇな…」

 

正直、校長先生の話辺りでうたた寝してました。

 すると間もなくして芹澤先生が戻ってきた。

 

「みんなご苦労だった!

 卒業式も無事に終わり、最後に残すはHRだけだ!

 最後くらいしゃんとした態度でいろよ!」

 

先生の一言がきっかけで、いつも賑やかなオーディエンスは珍しく静かになった。

 

「とりあえず卒業式はご苦労だった。

 皆思うところもあるだろうが、これが終わればお前らはもうここの生徒ではない。

 四月からは新社会人なり専門学生、大学生となろう。

 それぞれ道は違えど味わう苦しみは同じだ。

 特に社会人になるやつは必ず脱落者が出てくる。

 上手く社会に馴染めず、すぐ仕事を辞めた奴の話など腐る数聞いてきた。

 これから先も恐らく一人は仕事に挫折したと聞かさるはずだ。

 けれども決してそれは悪い事だと私は思わない。

 なぜなら、それは「逃げ」ではないからだ」

 

先生の一言に思わず全員が黙り込む。

 

「かつて何人も私が持った生徒が仕事を辞めたという話は聞いてきた。

 それは早からず遅からずだ。

 だがな、そのうちの半数以上は遅かれ早かれ再就職して無事に働いている。

 そしてその少数が複数回の転職を経て仕事している。

 そしてもうひとつ…それに当てはまらないものはなんだと思う……霧島」

 

「あっ…えっと……「就職放棄」…ですか…?」

 

「そうだ。

 お前らがわかりやすく言うと「ニート」ってやつだ」

 

その一言に教室全体の空気が凍りついた気がした。

 

「一部の奴らは仕事での過度なストレスや疲労で就職する事が苦痛になって諦めた奴もいる。

 お前らだって他人事ではないぞ。

 実際、ここを出て一ヶ月で仕事を辞めた奴もいるぞ」

 

「マジかよ…。

 それってなんの仕事でですか?」

 

「居酒屋だ。

 長時間な上、時間も夜中までかかるから根性と体力がないと持たない仕事だ。

 おまけに上下関係も厳しく、失敗も許されない」

 

『……』

 

「しばらくして複数回の転職を繰り返し、ようやく落ち着いてはいるみたいだがな。

 ……ともかく私が言いたいのは「転んでも諦めるな」という事だ。

 軽い気持ちで就職出来た奴に限って痛い目を見るんだからな。

 横田、お前みたいなやつが特に危険なんだからな」

 

「なっ…!

 なんでですか先生!

 俺は自分でやりたくて「土木工事」の仕事に就いたんですよ!」

 

「気持ちは確かかもだが、土木工事も相当な体力と根性がいる。

 給料はいいが、投げやりなお前の性格ではどれくらいもつかな?」

 

「ぐっ…。

 それを言われるとキツいっすよ…」

 

「まぁ働いてみて分かることさ。

 他のやつも「好き」という気持ちだけでやれると思うなよ!

 現実はそう甘くないんだからな。

 …私からは以上だ!」

 

先生が言い切るのと同時に最後の鐘が鳴る。

 

「よし、これで終わりだ!

 全員、最後くらいしっかりと挨拶しろよ!

 ……乗田、最後の号令をかけろ!」

 

「うぃっす♪

 …きりーつ!」

 

何故パリピ系女子の乗田を選んだかは定かではないが、全員が乗田の声に立ち上がった。

 

「れーいっ!

 …先生、今までお世話になりました!」

 

乗田がアドリブでそう言うと全員が拍手を響かせた。

 

「……あぁ。

 お前らは私の誇るべきバカどもだ。

 どこに行っても頑張れよ!」

 

先生が満面の笑みで応えると、クラス内が歓喜の雄叫びをあげた。

 

「うおおぉぉぉぉ!!!!!!

 先生ー!

 俺、先生のこと大好きでしたーーー!!!」

 

「全く…。

 石澤は本当にバカだな。

 だが……お前のようなバカな男、嫌いじゃなかったぞ」

 

「なっ……せっ、先生ぇー…!!!!」

 

その場で大泣き……もとい、漢泣きをするクラス一のアホ男子・石澤に全員が笑いに包まれる。

その後も先生に最後の挨拶を交わそうとする奴は後を絶たず、先生も困り気味ながらもどこか嬉しそうにも見えた。

 

「先生……嬉しそうだな…」

 

「あぁ。

 芹澤先生だって、なんだかんだ言っても私たちのこと好きだっただろうからな」

 

「そうだな。

 先生も良いキャラしてたし、こいつらも一緒にいて面白かったしな」

 

三人で少しだけしみじみしつつ俺は三人を現実に引き戻す。

 

「さて……そろそろ俺たちも行こうぜ」

 

「…だな」

 

だがその時、先生が俺に声をかけてきた。

 

「碧乃!

 お前も来い」

 

「…?」

 

「なんだ、お前また何かしたのか?」

 

「いや、身に覚えはねぇよ」


とは言いつつも、とりあえず先生の元へ向かう。

 

「…なんでしょうか」

 

未だ先生の元に集まる奴らを避けさせ、芹澤先生は俺を呼んだ。 

 

「まぁそう堅くなるな。

 …まずは三年間ご苦労だった。

 お前には海条の面倒を見させたことの礼をしなければと思ってな」

 

「そんな面倒だなんて…。

 俺が好きでやってたことですから、別にお礼なんて要らないですよ」

 

「いや、本当に助かったよ。

 本当はこんな事、教師が言っていいことではないのだがな…。

 海条のような生徒は苦手なタイプだったから……西浜さんからの頼みを受諾はしたものの、ああいった表沙汰に感情の読めぬ性格は苦手でな…」

 

「そうですね。

 俺も最初はよく分かんないやつだと思ってましたからね。

 けど……今はもうあいつも一人前になりましたよ」

 

「そうか…。

 それを聞いて安心したよ。

 ……お前は就職だったな」

 

「はい。

 四月一日から出勤です」

 

「そうか。

 …お前も頑張れよ」

 

「…はい!」

 

先生は笑顔で俺の肩を叩く。

 

「…先生」

 

「…どうした?」

 

「……もし、大人になって俺が社会人として一人前になってまた先生に会えたら………その時は、先生のお酒を酌させてくださいな」

 

意表を突かれてか、先生は目を見開きつつも吹き出すように笑った。 

 

「……あぁ。

 きっと美味い酒が飲めそうだな」

 

そして先生は俺に手を差し出す。

俺も少しぎこちないながらも握手を交わす。

 

「あー!

 碧乃が先生にセクハラしてるぞぉー!!!!」

 

「えっ…!?

 いや、ちがッ…これは…!」

 

「者どもー!

 先生から碧乃を切り離せぇーー!!!」

 

『おぉぉぉぉーーー!!!!』 

 

「なっ…だから俺はッ……うぎゃーーーー!!!!」

 

先生のそばに居た男子どもが寄ってたかって俺と芹澤先生を引きはがし、俺は男子どもにもみくちゃにされた。

 

「た、助けてしぇんしぇー…!」

 

俺の貧弱な糾声もその光景に微笑ましく眺める先生には届かず、俺はしばらく悪ノリ男子どもにシバかれまくった。

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

  

「はぁ…。

 ひどい目にあった…」

 

「まぁそう落ち込むなよ。

 それだけお前も愛されていたってことで、良い終わり方じゃないか」

 

「男に愛されるのは趣味じゃないんだがな…いてて…」

 

「まぁ、あれはあれで見てて面白かったがな(笑)」

 

「お前は後で絶対シバくからな慶太」

 

在校生に見送られつつ、俺たちは学校を出てゲーセンに向かっていた。

 

「こうなったら格ゲーで勝負だ慶太!

 卒業式の思い出作りにお前に敗北を味わせてやる!!」

 

「おっ!

 いいぜぇ、俺も燃えてきたぜ!」

 

「おっ、おい二人とも。

 勝負はかまわないが、私もいることを忘れないでくれよ」


「分かってるって!

 三本試合、二点先取勝負で行くぜ!」

 

少し不安そうな紫をよそに慶太はゲーセンへの歩みを早めていた。

そんな慶太を追う形で俺と紫もゲーセンに着いた。

  

「よっしゃ、早速格ゲー勝負だ!」

 

「…それはいいが、紫はいいのか?」

 

「私は一人で適当に見て回ってるから、二人は勝負をしていてもかまわんぞ」

 

「そっか。

 じゃあ遠慮なく三本勝負と行くか!」

 

「おっしゃ!

 そんじゃやるか!」 

 

紫の気遣いに感謝し、俺たちは格ゲーの勝負をつけに向かった。


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よっしゃあっ!

 俺の勝ちだぁー!」

 

「そんなッ……こんな大逆転ありかよ…」

 

結果、俺の逆転負けとなった。

勝敗は俺、慶太の順に進み、三本目は俺が道中優勢だったが、慶太に隙を突かれ形成逆転となってしまった。

 

「くっ…。

 余裕なんてかまさず奥義を出してさえいれば…」

 

「くっくっく…。

 お前のそういう慢心グセを知ってるからこそ出来た作戦だ。

 感謝するぜ燈」

 

「ちっくしょう…」

 

慶太に負けて悔しがっていると、ちょうど良く紫が戻ってきた。

 

「お疲れさま二人とも。

 私からの差し入れだ」

 

「おっ、サンキュー♪」

 

「ありがと…」

 

礼を言って俺は紫の差し入れのミネラルウォーターを飲む。

 

「ちなみに言い忘れていたが、二本のうちどちらかには、私が混ぜた「デスソース入り」が隠れているから、注意して飲んだ方がいいぞ?」

 

「ブフーーーーッッ!!!!」

 

見事に当たりを引いたのは慶太だった。

 

「ゲホッ、ゲホッ…!

 おま……余計なことを…!

 …あーーー辛ぇぇぇえぇぇぇええぇぇ!!!!!!」

 

「…悪いな慶太。

 これは私なりに盛り上がるかと思ってやってみたんだが……慢心したな慶太よ」

 

「ぐっ…。

 せっかく燈に大逆転勝利で気分良かったのに…」

 

その時、不意に紫が俺にアイコンタクトを送ってきた。

 

『もしかして……俺のために…』

 

真実は定かではないが、慶太に負けた俺に気を遣って「わざと」デスソース入りミネラルウォーターを渡したのかもしれない。

……何故デスソースを持っていたのかは敢えて突っ込まないでおこう。 

 

「クッソ……悔しいが、勝負は引き分けにしといてやる」

 

「えっ…。

 でも、俺負けたんじゃ…」


「最後の最後にあんな展開で終わるなんて、死んでも死にきれねぇよ。

 もしまた会える時まで、勝敗はお預けだ!」

 

「慶太…」

 

不満げながらも慶太は約束してくれた。

これも紫の作戦だと分かってか知らずか…。

 

「とは言っても、格ゲー以外何もやってねぇな。

 他にも見て回ろうぜ」

 

「いいぜ。

 なんなら、今度はシューティングで勝負するか?」

 

「おっ、受けて立つぜ!」

 

「…二人とも。

 私がいるのを忘れていないか…?」

 

「あっ………すんません…」

「あっ………すんません…」 

 

その時の紫は……旦那の帰りが遅かった時の鬼の気迫漂う奥さんのようでした。

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

その後、俺たちはUFOキャッチャーだけを楽しみ、いよいよラストを迎えていた。

 

「そんじゃ最後にプリクラ撮ってお開きにすっか」

 

「そだな。

 じゃあ、どれにするかは二人で決めてちょ」

 

そう言って俺はプリクラコーナーの入り口で背伸びをする。

…そういや、前に四人で来た時は俺と祈世樹の二人で待ってたんだっけ。

 

「……」

 

そう思うと、少しだけ胸の奥が痛む。

あの時は…あんなに楽しかったのに…。

 

「……あれっ?

 …海条じゃね…?」

 

…そうだった。

あの日は祈世樹が俺と慶太の跡を付いてきてゲーセン内で迷子になってたんだっけ。

 

「…ほんとだ!

 祈世樹、こっちだ!」

 

いきなり飛びついてくるもんだから、さすがにびっくりしt…

 

「…………ん?」

 

現実に喋る二人のセリフと俺の脳内で流れる回想シーンがどうも噛み合わないと思い、ふと現実に戻ると…そこには異様な光景……信じられない現実がそこにはあった。  

 

「………祈…世………」

  

ゲーセンの入口に立っていた人物………紛れもない「海条祈世樹」本人だった。

 

「やっぱり、みんなここにいたんだね」

 

変わらぬ笑顔、仕草、幼い瞳は間違いなく祈世樹本人だった。

 

「……」

 

俺は目の前の異様な光景に思わず目を背けてしまう。

……なんと情けないことか。

 

「海条も来いよ!

 これから三人でプリクラ撮るとこだったんだ。

 お前も入れよ」

 

「…いいの?」

 

「当たり前じゃないか!

 一緒にバカやってきた仲間を抜かすことなど出来るわけがないさ!

 なぁ燈?」

 

「えッ…!?

 …そっ、そうだな…。

仲間はずれはいけないからな…」

 

俺の一言に祈世……「海条さん」はクスリと笑う。

 

「じゃあ、私も混ざっちゃいます♪」

 

後ろ手を組みながら海条さんが近寄ってくる。

立ち止まった際にふんわり鼻につく優し気な甘い香りが懐かしさを感じさせる。

その後、海条さんと俺は以前と同じく慶太たちがプリクラ機を選ぶのを待っていた。 

 

「俺的にはこいつがいいと思うんだよな…」

 

「奇遇だな。

 私もそれがいいと思ってたんだ」

 

二人がマッチング的に見つけたプリクラ機は……正直、素人には全く違いが分かりません。

 

「そんじゃ入ろうぜ。

 中も誰もいないし」

 

慶太の後に続いて紫、俺、海条さんの順番に入る。

撮影一回に四百円かかるため、俺たちは一人百円ずつ(気付いたら俺が三百円)出し合って撮影に臨んだ。

慣れた手つきで慶太と紫が写真のフレームや分割数、強調箇所などの設定をし撮影が始まった。

 

『はぁーい、それじゃあ最初はみんなで真ん中に寄り添ってねー♪』

 

ナビの指示に従い、少しだけ真ん中に体制を近づける。

 

「燈、もうちょい真ん中に寄れ!

 画面から見切れてるぞ」

 

「え?

 あ、あぁ…」

 

そうは言っても俺の隣は海条さん。

すごく気まずい…。

 その時、背後からドンッと蹴られるような衝撃を感じたと思った瞬間、俺は海条にぶつかった。

 

「きゃっ…!」

 

「あっ…。

 ごめん海条…さん…!」

 

「いえ…大丈夫ですよ」

 

全くもって予想外だった。

俺たちの下側にしゃがむ紫と慶太は一切こちらを気にする様子はなく、カメラレンズを直視していた。

 

『それじゃー、撮りますよー♪』

 

ナビの指示に俺は気持ちを落ち着かせ、なんとか撮影に気持ちを切り替えることが出来た。

 

 


 

  

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

「……」

 

この件も何度目だろうか。

慶太たちが写真に落書きをしてる間、俺と海条さんは以前にも座って待ったベンチに二人で距離を開けて座っていた。

もちろん会話などない。

 

『これはこれで嬉しいけど、同時に生殺しな気がする…』

 

そういや、初めて海条さんとプリクラを撮った時もこんな感じだったっけ。

 

「くくっ…」

 

ふとした懐かしさからか、思わず笑いがこぼれた。

海条さんにバレたかと一瞬焦ったものの、どうやら気づいてはいないようだった。

 そうこうしていると慶太と紫が落書きを終えて戻ってきた。

 

「二人とも、いい出来栄えになったぞ」

 

「なかなか良い感じに撮れてたから落書きもしやすかったぜ」

 

「どれ、見せてみろよ」

 

「私にも見せて?」

 

「大丈夫だ。

 ちゃんと二人の分も切り分けてあるから」

 

そう言って紫は小さな紙の小包みを俺と祈世樹に渡す。

 

「つーか燈、お前顔ひでーなwww」

 

「じゃっかましいわ。

 昔から写真は苦手なんだよ」


自撮りするとカメラレンズにヒビ入るかも級です。 

  

「でも……みんないい顔で映ってるな…」

 

「あぁ。

 これはこれで良い……かもな…」

 

落書きには「卒業しても仲良し!」や「またいつか会おう!」などと書いてあった。

 

「…素敵な宝物だね」

  

誰に言うわけでもなく海条さんは呟く。

俺もまた、誰に言うわけでもなく同じように独り言を呟いた。

 

「一生大事にしないとな…」

 

海条さんが反応したかどうかはともかく、俺はあくまで「自己満足」として呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、海条さんも交えて再びUFOキャッチャーやシューティングゲームで盛り上がり、何だかんだで時刻は夜の七時を回ろうとしていた。

 

「あっ、わりぃ!

 うち今日親戚の家で卒業パーティーするんだった!

 悪いけど俺もう帰るわ」

 

「そうか。

 じゃあ気を付けて帰れよ」

 

「おうよ。

 燈、お前も末永くお幸せにな(笑)」

 

「じゃっかましいわ

 はよ帰っちまえ!」

 

「慶太くん、身体には気をつけてね」

 

「おう。

 海条も元気でな!」

 

それぞれ最後の挨拶を交わし、慶太は満足げに立ち去ろうとする。

 

「……紫!」

 

突然、思い出したかのように慶太は立ち止まり、突如、紫を指名(?)してきた。

 

「…なんだ?」

 

キョトンとしている紫に慶太は大声で叫ぶ。

 

 


 

 

 

 

 

 

  


 

 

  

「………お前のこと、大好きだったぜーーー!!!!!!」


 

 


 

 

 

 

 

 

   

 

 

 

「…なっ……ななななッッ…?!!!///

 何を急に藪から棒にッ…!!!!///」

 

紫の反応を見て満足したのか、慶太は「ギャッハッハッハッ!」とバカ笑いをしながら悪ガキのように走り去っていった。

 

「……」

 

「……」

 

「……ッ////」

 

取り残された俺たちはどうしたものか…。

 

「……その…」

 

顔を真っ赤にしながら紫は声を震わせる。

 

「……あっ…あれだよな!

 慶太の奴……イタズラであんな事を叫んだんだよな…!

 …なぁ燈ッ!?///」

 

「えっ…?

 いや、それは分からな……ちょ…ゆ、揺らさんといて…!

 目が、目が回るぅ~…!」

 

紫に肩をがっちり掴まれながら前後左右に揺らされ、俺の三半規管はグチャグチャになりかけていた。

 

「……慶太くん…本心で言ったんじゃないかな…?

 わ、分からないけどね!?///」

 

「はわッ…!///」

 

受け止めきれない現実に紫はマンガよろしく目グルグルになっていた。

 

「……そっ、そうだ!!

 私も家に帰らねば!

 …悪いが燈、祈世樹を頼むぞ…!///」

 

「お、おぅ…分かった…………えッ!?」

 

俺が理解するよりも先に紫は外へ走り出た。


「…すまない二人とも!

 またいつか、四人で会おう!」


その場で駆け足をしながら紫は叫んだ。 

 

「おっ…おぅ、紫も達者でな……」 

  

「ばっ…ばいばい紫ちゃん…」

 

海条さんも少し気圧されてか、ぎこちない動きで手を振る。

 

「……」

 

「……」

 

そしてこの空白である。

 

「……かっ…海条さんも帰った方がいいんじゃない…かな…?」

 

「そっ、そうですね…。

 帰ろう……かな……」

 

とは言うものの、暗い夜道を一人で帰らせる訳にもいかず、結局俺は海条さんを家の途中まで送っていくこととなった。

 

 


 

 

 

 

 

 

  


 

 

  

……気まずい。

 

 

 

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