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拝啓、空と世界へ  作者: 鷹利


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36/40

35.終わる世界

「今…………なんて言った…?」

 

『……』

 

烈火は何も答えない。

ただ、あるがままの事実だけを語っていた。

 

「なぁ…どういうことだよ……。

 祈世樹が………消える…?

 そんな事……信じろって言うのかよッ!!?」

 

俺が逆ギレするも、烈火は沈黙を守っていた。 

それからしばらく間を開けて烈火は語り出す。

 

『……正確には、祈世樹の脳に限界が来ている。

 原因は「記憶の容量オーバー」としか考えられない』

 

「記憶の…容量オーバー…?

 ………まさかッ…」

 

烈火は再び黙り込む。

なんでこんな時に限ってひらめきが冴えてしまうのか…。

 

「………「お前ら」がいるから………だよな…?」

 

『………そう…』

 

あまりにも無機質で残酷なまでの肯定的な返事に、自分の心臓に刃物が突き刺さったような痛みを感じた。

 

「……まさかとは思うが…。

 烈火………最初から分かってたわけじゃないよな…?」


『………そう…』

 

「…ッ!?」

 

あまりの残酷な情報量に俺はパンクしかけていた。


「…ははッ……。

 祈世樹が消える…?

 最初っから決まってたこと…?

 ……なんで………なんでそんな大事なこと教えてくれなかったんだよッッ!!!!」


怒りにも似た感情がこみ上げてくるも、それは烈火に向けるべきでないことは分かっていた。

だが分かっていながらもやり場のない苛立ちに俺は烈火にぶつけてしまった。

   

『……ごめんなさい』

 

無機質な謝罪の言葉を返されるも、俺はむしゃくしゃになっていた。

 

「なぁ烈火…。

 なんで俺にだけ教えてくれなかったんだよ…。

 ……なぁ……答えろよッッ!!!!」

 

『……空、落ち着いて…』

 

「…ッ!?

 ……すっ、すまん…」

 

深呼吸をして気持ちを落ち着かせると、間を置いて烈火は話を続けた。

 

『今まで黙っていてごめんなさい。

 けれど、隠すつもりはなかった』

 

「…じゃあ、なんで今更になって…!」

 

『………祈世樹の命令だったから』

 

「えッ……」

 

祈世樹の名前が出た途端、不思議と俺の怒りと焦りが急に消えた。

 

『…祈世樹が「空には、私が消える直前に教えて」……そう言ったの』

 

「…なんで…」


電話の向こう側で烈火はスーッと息を吸い込んで言った。 

  

『……貴方には……貴方にだけは………「純粋に笑っていて欲しかった」からよ』

 

「…ッ!!」

 

そのセリフを言われた瞬間、とめどなく涙が溢れ出てきた。

 

『…祈世樹は、私たちが生まれた時からこうなる事を予測していた。

 けれど、もしこの事をすぐに教えていたら、きっと貴方は素直に笑えなくなる。

 それを考慮して祈世樹はずっと内緒にしてたの』

 

「…そんな……そんな理由で…」

 

涙が止まらなかった。

祈世樹がずっと一人で苦しんでたことを俺は知らずに…。

 

「…なぁ烈火…。

 あいつを助けることは出来るんだろ…?

 祈世樹の頭脳であるお前なら一番分かってるんだろ…?

 ………あるなら教えろよ…!!!」

 

『……』

 

烈火は再び黙り込むもすぐに口を開いた。

 

『…ないことは無い。

 わずかな可能性はある』

 

「…可能性……ってことは、必ずしも上手くいくとは限らないということか」

 

『数字で語るなら、約五十パーセントと言ったとこね』

 

「…教えろよ。

 それはどうすればいいんだ?」

 

いつの間にか涙も止まり鼻をかんでいると烈火は一呼吸置いて続けた。

 

『それは明日教える』

 

「…今は言えないのか?」


俺の問いに烈火は何も答えない。

代わりに質問を投げかけてきた。 

  

『明日、家に行っていい?』

 

「…?

 構わねぇけど…」

 

『…分かった。

 じゃあ、電話切る』

 

「……烈火ッ!」

 

電話を切りかけていたところで俺は呼び止めた。

 

『…どうしたの?』

 

烈火の反応を確認してから呼吸を整えて質問した。 

 

「最後にもうひとつ。

 ……もって祈世樹はあとどれくらいだ?」

 

『……予測外の事さえ生じなければ「二ヶ月」と言ったとこかしら。

 …他には?』

 

「…分かった。

 あとは何も無いからもう電話切っていいぞ」

 

『分かった』

 

そう言って電話を切ろうとした時だった。

 

『…空』

 

「…ッ!

 どうした…?」

 

小さく烈火の声が聞こえた気がしてすぐに応答する。

  

『………どうか……後悔のない道を選んで』


「えっ…。

 それってどういう…」

 

俺が言い切る前にプツンッと電話はそこで切れてしまった。

 

「……」

 

…ひどく頭が痛い。


『……今日…寝れるかな…』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、俺は一睡も出来なかった。

正確には、朝方の五時にようやく眠気が来てほんの数時間だけ寝たものの、身体の疲れは抜けていなかった。

 

『やべぇ……マジで起きれねぇ…』

 

目が覚めても身体が思うように動かせず、眠気が今にも俺の意識を支配しつつあった。

 

『ピンポーン』

 

唐突に聞こえたインターホンの音で俺の意識は一気に覚醒した。

 

『はーい。

 …あら祈世樹ちゃん。

 いらっしゃい』

 

「…ッ!?」

 

忘れていた。

そういや今日来るって言ってたんだった。

 

『あの、燈くんいますか?』

 

『あぁごめんなさい。

 あの子まだ寝てるみたいで……燈ー!

 祈世樹ちゃん来たよー!』

 

言われずとも分かってる。

俺は急ぎ着替えて玄関に向かった。

 

「ごめん!

 あがってちょ」

 

部屋片付けないと色々とまずいが。

 

「ううん、用事あるからここでいいよ。

 …はい、先生からもらった学校の書類」

 

「え…?

 ………あっ、あぁすまん!

 まさか仕分けた書類の一番上に一緒に持って行っておきながら忘れるとはな…あはは…」

 

「あら、それは迷惑したね。

 …もぅ、あんたももう少ししっかりしなさいよ。

 ……わざわざありがとうね祈世樹ちゃん」

 

「いえ。

 燈くんには普段からお世話になってるんで、これぐらいはさせてください」

 

饒舌に話す祈世樹の姿に母さんは感心しているも、その裏側を知ってる俺は素直に受け入れられなかった。

 

「はい。

 もう忘れちゃダメだよ?」

 

「あぁ。

 すまなかったな」

 

少し大きめの茶封筒を渡されると、祈世樹はすぐに一歩後ろに退いた。

 

「じゃあまた学校でね」

 

「あぁ。

 気を付けて帰れよ」

 

「気を付けてね。

 祈世樹ちゃんが良ければ、また遊びにおいでね」

 

「はい。

 では、今日はこれで失礼します」

 

静かにドアを閉め、祈世樹はスタスタと帰って行った。


「…ごめん、もうちょい寝てくる」

 

「え?

 ご飯いいの?」

 

母さんの呼びかけを無視し、俺は急ぎ部屋に戻って渡された茶封筒を開ける。

中には二通の手紙が入っていた。 

そのうちの一通を取り出すと、それは烈火・マリア・いちご・忍からの手紙だった。

中にはこう書かれていた。



 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『空へ

 

 RE.

 祈世樹の力が弱まりつつある。

 もしかしたら、話した予定の日までもたないかもしれない。

 空には悪いけど力を貸してほしい。

 なるべくスキンシップを多くとって。

 酷なことかもしれないけど愛して。

 祈世樹と貴方のシンクロ率測ったけれど不明だった。

 やはり貴方と祈世樹には何か繋がりがあるのだと思う。

 

 


麻利亜


貴方と祈世樹さんの出会いは決して無駄ではありませんでした。

私はそう信じます。

でなければ、今まで何をするにも引っ込み思案だった祈世樹さんがこれほど何かに懸命になることは今までありませんでしたから。

きっと、空さんなら祈世樹さんを救ってくださると私は信じます。

ですので、空さんにも今一度、お力添え頂きたいのです。



 

 いちご

 

あのね、いちご、ごしゅじんさまだいすきだよっ♡

 

 

 

 忍

 

 祈世樹に飯食わせてやってくれ』

 



 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

一枚目の手紙はそこで終わっていた。

いちごの文面の欄には、いちごの手書きの祈世樹と俺のイラストが書かれていた。

 

「それと…もう一枚…」

 

入っていたもう一枚を取り出す。

手紙を開くと、そこにはパソコンの印字で書かれた文字が詩を記していた。

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

『手繰り寄せた花束が腕の中から零れるように 祈りは遥か遠く

 忘れてはいけない物語は海の果てに沈んでいった

 祈りは音を立てずに崩れ落ち 空を仰ぐ

 純白の世界の果てに物語は朽ち果てる

 五つの子らが消えゆくその日 六つの子も消え果てる

 その時目にした青空は二つの導火線を手繰るように

 空と世界に十字架の赤い命を捧げるか

 純白の世界に終わりを告げるか

 導火線はたったの二本

 物語は朽ち果て 祈りは遥か彼方へ

 空はいつまでも青く澄んだまま終わりを告げるだろう

 五つの子らはそれを知ってぬくもりの中で朽ち果てる

 「世界と同じ十字架に赤い命を滴らせ祈りを届ける」

 空はそれを望まない

 だから純白な世界は奇跡を起こさずに朽ち果てる

 全てを失くした闇の中に

 弥生の許 露にまみれた世界は君を想ゆる

 

 そして さよなら』

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

気が付くと、俺は泣いていた。

それは悲しみとは似ているようで似ていない理解し難いものゆえ、俺自身でさえ訳が分からなかった。

ふと、さりげなく文面に出ていたある言葉を思い出す。

 

「…赤い………十字架…」

 

意味はすぐに分かった。

でも、それは今すぐやるには非常に難しくも感じるものだった。

 

「……リスト……カット…」

 

おもむろに自分の手首を確認する。

人間の皮膚の中で最も赤子の肌に近いとされる手首の真っ白な素面に、紅く痛々しいリストカットのイメージが浮かぶと、突然吐き気をもよおしてしまった。

 

『……出来るだろうか…』

 

やり方は分かった。

けど……人生で病むことは多けれど、リストカットなんて一度もやった事などない。

予測できぬ痛みに俺は震えていた。

病院などの血液検査で使う注射器の痛みとはまるでケタが違うのは間違いない。


『燈ー!

 ご飯食べないのー?』

 

リビングから母さんの呼び声が響く。

正直、食欲などない。

これを烈火は予測してかある文章が脳裏によぎる。

 

『空はそれを望まない』

 

望まない……ことなんかない。

でも、その苦痛と恐怖に耐えねば、祈世樹は本当の意味で消えてしまう。


『やるんだ俺…。

 こういう時こそやれないで何が男だ…。

 好きな女のためなら、リスカなり小指の一本なり惜しくはないはずだろ。

 …救いたいなら、やるしかないッ…!』

 

高鳴る心臓の鼓動に嫌な汗を噴き出しつつ俺は覚悟を決めた。

そして独り言を呟く。

 

「烈火…。

 俺は思い通りにならない男だってことをお前に見せつけてやるからな。

 俺は……祈世樹を愛しているから…!!」

 

未だしこりは残るも、決心した俺は朝飯を食べにリビングへ降りる。

食欲は湧かないが食べなきゃ吐きかねない。


 

 


 

 

 

 

 

 

  

 

  

――予定日まで、あと五十九日――

 

 

 

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