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拝啓、空と世界へ  作者: 鷹利


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33/41

32.帰り道とマフラーと…

「じゃあな二人とも!

 気を付けて帰れよー!」

 

「あぁ!

 また学校でな!」

 

「祈世樹も風邪には気を付けろよ!」

 

「うん!

 二人もばいばい!」

 

ゲーセンでプリクラを撮ったりパーティゲームを楽しんだ後、俺と祈世樹は慶太たちと解散した。

もちろん俺は祈世樹を家まで送っていた。

 

「……」

 

『…なんか……今日は祈世樹が距離を開けて歩いてる気がする…』

 

いつもならべったりくっついたり手を繋いで歩くのに、何か遠慮でもしてるのか、今日の祈世樹は少し離れて歩いていた。

 

「きょっ……今日は楽しかったな!」

 

「うっ、うん!

 そう…だね…!///

 …ッ……」 


「………(汗)」 

   

会話が途切れてしまった。

 

「なぁ…。

 一つ聞いていいか?」

 

「な…何…?///」

 

祈世樹は顔を向けずに聞き返す。

 

「その………なんでキスしてきたんだ…?」

 

「ふぇ…///」

 

質問が悪かったのか、祈世樹は突然立ち止まった。

 

「あ…言いたくないなら言わなくていいんだぞ!?

 何も無理に聞くつもりは無いよ…!」

 

「う、ううん!

 そう…じゃないの…」

 

「…?」

 

祈世樹は振り絞るように声を出すと、大きく深呼吸をして続けた。

 

「その…ね…。

 実は………私もよく…覚えてないの…。

 …目の前で空を見たとき……何にも考えられなくなって…」

 

「……それでキスをしたと…」

 

まぁ自分で言うのもあれだが、祈世樹の言ってることは分かる気がする。

俺だって、目の前にオシャレで今どきギャルっぽくなった祈世樹が現れたら……思わず抱きしめてしまうかもしれない。

…神様、どうかその時は俺に手錠をかけてください。

 

「すごく………かっこいい…よ…///」

 

「そ、そうか…///」

 

とりあえず今は安全のためにメガネをかけてるが、プリクラを撮り終えるまでは裸眼だった為、ホントにずっとしかめっ面で疲れた。

 

「でも……すごく楽しかった…」

 

「…だな」

 

振り返ると、祈世樹はいつもの柔らかな笑顔で微笑んでいた。

すると祈世樹は突然俺の隣を走り抜け、後ろ手を組みながら振り返った。

 

「でもね、私はいつもの空も大好きだよっ!」

 

それはまさにギャルゲーでよくあるシチュエーション背景さながらの光景。

すなわち、俺はそのギャルゲーの主人公たるわけだ。

 

『まぁ、だからって何も無いんだけど』 

 

少しだけメタい事を思いつつも、俺は祈世樹の後を着いていく。

ネオンライトによって照らされた暗闇の中で祈世樹は踊るように歩く。

その様は観客の居ない、一筋のライトのみが照らすステージで一人踊り続ける踊り子のようにも思えた。

 

『いや、観客は俺がいるか…』

 

なんて事を考えつつ俺は祈世樹の家へと歩みを進める。

家を出た時からちらちら降っていた雪も、いつの間にか薄く地面を覆うまでに積もっていた。


「…着いたな」

 

それから約二十分ほどで祈世樹の家の前に着いた。

こころなしか「あの時」とは違い、離れたくないという気持ちは薄かった。

 

「…いつも送ってくれてありがとうね」

 

「何言ってるんだよ。

 こんな真っ暗な夜道を女の子一人で歩かせるわけにはいかないだろ?」

 

ちょっとだけカッコつけるも、祈世樹の笑顔は違う方面で湧き上がっていたらしい。

 

「…やっぱり………空は素敵な人だよ…」

 

「ん?

 それってどういう…」

 

祈世樹に問いかけようとした時、勝手口のドアが開く音が聞こえた。

 

「…あら祈世樹さん、お戻りに……。

 …燈…さん……???」

 

ワイルドにスタイルチェンジした俺に、リルドさんは一瞬固まってしまっていた。

 

「あっ……り、リルドさんッッ!!?/// 

 あの………これはさっき友達と悪ふざけで俺をイメチェンしようってことでこんな髪型にさせられてただけで……ああいやッ、それよりも祈世樹さんをこんな時間まで連れ出してしまってすいませんでしたッッ!!」

 

現在、時刻は夜の八時半。

ここの門限が何時までかは知らんかったが、パニクっていた俺はとにかく謝罪する事しか出来なかった。 

 

「あ…あの……落ち着いてください…!

 別に私も西浜さんも祈世樹さんの帰りが遅いと心配してはいませんよ」

 

「えっ…」

 

パニクる俺を落ち着かせ、リルドさんは深呼吸をした。

 

「私はこれから買い物に行くだけです。

 祈世樹さんからは事前にこれから燈さんと帰ると連絡はいただいていたので、別に心配はしていませんでしたよ。

 …強いて言うなれば、燈さんの見た目には少しだけびっくりしましたけどね…ふふっ…」

 

「……ふぉう…////」

 

背後で祈世樹がクスクスと笑っているのが聞こえた。

 

『今すぐ車に轢かれて異世界転生してしまいたい………』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では、私は買い出しに行ってきます。

 宜しければ西浜さんにもお顔を出していきませんか?」

 

「えっ…///

 あっ………すいませんっ!

 俺、帰りますッ!」

 

「あっ……燈くん…!」

 

祈世樹さんの静止も聞かず、燈さんはそのまま走っていってしまいました。

 

「行ってしまいましたね…」

 

「…はぃ…」

 

おもむろに見えた祈世樹さんの表情は少し寂しげながらも、どこか幸せの余韻が見えました。

 

「今年はどうでした?」

 

「…すごく楽しかったです…。

 去年とはまた違って…すごく満たされました」

 

街灯に照らされた祈世樹さんの笑顔は、以前とはうって変わって素敵な大人の女性に見えました。

 

「そうですか。

 …西浜さんがお待ちになっていますよ」

 

「…?

 西浜さんが…?」

 

「はい。

 今年は祈世樹さんが帰ってくるまで食事は摂らんと頑なになっていまして…」

 

「そんな。

 何もそこまで…」

 

「うふふ…。

 西浜さんったら口には出さずとも、祈世樹さんが燈さんと仲良くなってからここにいる時間が減ったと寂しがってましたよ?」

 

「…ッ!

 そう…だったんですね…」

 

「ですから、今年は西浜さんの晩酌に付き合ってあげてください。

 西浜さんはああ見えて、祈世樹さんとの晩酌を一番に楽しみにしていたんですから」

 

「えっ…。

 でも、三年前ぐらいにお酒を注ごうとしたら「子供にはまだ早い」と拒否られましたよ…」

 

私はその日のことをよく覚えています。

 今から三年前のこの時期…祈世樹さんが十四歳の中学二年生の時でしたね。

夜遅く私が西浜さんに晩酌をしていると、それに興味を持った祈世樹さんが自分もお酒を注ぎたいと言い、私の代わりに始めたのがきっかけでした。

その次の日、祈世樹さんからまた晩酌をすると言ったものの、西浜さんはそれを断って私から晩酌をさせていました。

それからというもの、今日まで祈世樹さんはずっとお酒を注ぐのをやめていました。

 

「あれはですね……西浜さんが祈世樹さんからお酒を注がれるのは、特別な事があったり、祝うべき日の為に取っておきたいと……祈世樹さんとの晩酌を特別な楽しみにしていたからですよ。

祈世樹さんのお誘いを断ったあの日、西浜さんが酔った勢いで私にそう言っていたのですよ」

 

「そんな……」

 

私の話を聞いて祈世樹さんは涙を流してしまいました。

それはショックからではなく、自分だけが知らなかった事への驚きにも見えました。

 

「今年は付き合ってさしあげてください。

 もうずっとしてませんよね?」

 

「…ッ!

 グスッ……はいっ!」

 

その返事に少しだけ嬉しくなりつつ、私は祈世樹さんの涙を拭き取ります。

 

「では私はこれから買い出しに行ってきます。

 ご近所さんにも少し顔出ししてきますので、帰りは遅くなります」

 

「はい。

 リルドさんも帰ったら一緒に付き合ってくださいね」

 

「もちろんですよ。

 ……クシュン…!」

 

「あっ…。

 風邪ひいちゃダメですよ…」

 

そう言って祈世樹さんは巻いていたマフラーを私に巻いて下さいました。

 

「ありがとうございます。

 とても……暖かいです…」

 

ふんわりとした甘い香りに祈世樹さんの温もりを感じつつ、私は車のエンジンをかけます。

 

「では、行ってきます」

 

「はい。

 お気をつけて」

 

そして私は車を走らせます。

バックミラー越しに祈世樹さんを見ると、彼女もまた手を振りながら小さくくしゃみをしていました。

 

『帰ったら生姜湯でも作りましょう…』

 

まだほんのり暖かなマフラーに私は気分を高ぶらせつつ、しんしんと雪が降る夜道をゆっくり走っていきました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいまです、西浜さん」

 

「…おぉ、おかえり祈世樹くん。

 今年はずいぶん早かったね」

 

「あ…。

 去年は……遅くまで出歩いてしまってごめんなさい…」

 

「いや、気にはしとらんよ。

 君一人で歩いてたならまだしも、燈くんも一緒だったならな」

 

そう言って西浜さんは書いていた書類に目線を戻してしまった。

 

「………」 

 

再び静かになり、張り詰めた緊張感が私の心臓を締め付ける。

 

『…ダメだ。

 言うんだ……私ッ…!』 

 

大きく深呼吸をし、私は腹から声を出すイメージで西浜さんに問いかけた。 

 

「あっ……あの…。

 ……晩酌……お付き合い…しま…す……!」

 

『バンッ!!!』

 

「…ッ!?」

 

突然、ペンごとテーブルを叩きつけたと思いきや、西浜さんはおもむろに立ち上がった。

 

『怒られる……かな…』

 

目をギュッとつむり私はその場に立ち尽くした。

 

「……祈世樹くん」

 

「…はいッ!」

 

西浜さんの足音が近付いてくる。

その時、ポンッと肩を叩かれる感覚が伝わってきた。

 

「…私のお気に入りのビンテージワインが寝室のクローゼットに入っている。

 …持ってきてくれるかな?」

 

「……ッ!

 はいっ、今すぐ持ってきます!」 

 

目を見開くと、西浜さんはいつもの笑顔……よりも嬉しそうに私を見下げていた。

その笑顔にようやく安心出来たのか、私は急激的にテンションが上がっていた。


「それと、キッチンにリルドくんが作り置きしてくれたつまみもあるから、グラスと一緒に持ってきてくれ」 


「はいっ、すぐ持ってきます!」 

 

…みんなのおかげで今年も良いクリスマスを過ごせそうです。

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『メリークリスマス……空……』


  

 

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