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拝啓、空と世界へ  作者: 鷹利


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32/44

31.二度目のクリスマス・イヴ

高校二年目の十二月二十四日。

生憎の登校日であった。

 

「なぁ燈。

 この後何か予定あるか?」

 

「ん?

 …あると言えば嘘になるかな…」

 

本当は祈世樹とデートする予定だったが。

 

「じゃあさ、今年はみんなでカラオケ行こうぜ。

 去年はそれぞれの時間を楽しんだけど、今年はみんなで楽しもうぜよ」

 

「俺は構わんが…。

 祈世樹、お前はどうする?」

 

「私はいいと思うよ。

 紫ちゃんも部活休みみたいだし」

 

「じゃあそうするか」

 

「決まりだな」

 

こうして俺たちは高校生活としては三度目のクリスマス・イブを過ごすこととなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   

「大変申し訳ございません。

 ただ今どの機種も満室となっておりまして空き部屋がございません」

 

「そうですか。

 分かりました」

 

「なんだよー。

 空き部屋ねぇのかよ」

 

「こら。

 わざわざ口に出すな」

 

去年の出来事が嘘のように、今年のカラオケは満室で俺たちは門前払いを食らっていた。

 

「どうしよう…」

 

「ゲーセンっていうのもつまんないしな…。

 向かい側のカラオケ屋もダメだったしな…」

 

「困ったな…」

 

全員で考え込む中、とある意見が吹っ飛んできた。

 

「じゃさ、いっその事………燈ん家でクリスマスパーティやらね?」

 

「は?」 

「え?」

「え?」

 

それは突然、後頭部を鈍器で殴られたような衝撃だった。

 

「け、慶太…!

 おまッ…」

 

「いいだろ別に。

 燈ん家でクリスマスパーティしようぜ。

 …大丈夫だって!

 あまり騒いだり散らかしたりエロ本なんか探さないから(笑)」

 

「最後のは余計ではないか慶太くん?」

 

すると慶太が俺の肩に手を乗せて耳元で囁いてきた。

 

「安心しろって。

 同い年の思春期男子だからこそ、そういうのはベッドの下に隠すのはよーーーく分かるぜッ☆」

 

「そういうことじゃねぇッ!!

 つーか、なんで急に俺んちなんだよ!

 …お前んとこはどうなんだよ」

 

「うち、アパートだからこの人数ではキビぃわ」

 

「ぐっ…。

 そう言われると何も言えない…」

 

ましてや女子の家なんて尚更だ。

となると……。

 

「はぁ…。

 ……親に電話で聞いてみるよ」

 

「おぉ、さっすが燈くん!

 気前が良いではないか! 」

 

「うっせぇわ。

 まだ決まったわけじゃないんだから」

 

そして少し離れた所で俺は母さんに電話をかける。

 

『…もしもし、燈?』

 

「もしもし。

 急なんだけど、友達家に連れてきても大丈夫?」

 

『いいけど…何人?』

 

「三人だよ。

 俺の部屋でクリスマスパーティするって。

 一応パーティに必要な食べ物は俺たちで買っていくから、母さんは気にしないで。

 あまり騒がないようにも言っといてるから」

 

『分かった。

 あまり遅い時間まではしゃぐんじゃないよ』

 

「分かってるって。

 八時には帰すよ。

 …じゃ、そゆことで」

 

そして慶太たちの元に戻る。

 

「どうだった!?」

 

「あぁ。

 とりあえずはオッケーだ。

 ただし、八時には帰れよ」

 

「よっしゃ!

 じゃあ急いでコンビニで適当に菓子とジュース買って行こうぜ!」

 

「そうだな。

 私はフライドチキンも食べたいな」

 

「おっ、それもいいな!

 …じゃあコンビニで買うより、スーパーで買った方が良さそうだな」

 

「あぁ。

 スーパーの方が安いしな。

 慶太にしては良いアイデアだな」

 

「お野菜とかも欲しいから、サラダとかも欲しいな」

 

「そうだな。

 それもまた彩りになるな」

 

何だか準備と予定だけはだんだんと膨らみつつあった。

 

『まぁ、たまにはこういうのもありかな』

 

そう思いながら俺は祈世樹の隣を歩く。

 

「慶太、もう少し落ち着いて歩けないのか?

 車が来たら危ないだろ」

 

「何言ってんだよ紫。

 早く行かないとパーティする(エロ本探す)時間なくなっちまうだろうに」


先程から慶太は待ちきれんと言わんばかりにあっちこっちに大股で動き回りながら歩いていた。 

 

「全く。

 子供じゃあるまいし…」

 

「まぁ、いつも何かをする時は慶太だもんな」

 

「…そうだな」

 

「でも、こういう時慶太くんって役に立つよね!」 

 

祈世樹の褒め言葉に「ふふん」と鼻穴を大きく開いて慶太はドヤ顔を決める。

…なんかムカつく。

 

『まぁ…それはそれで頼もしいってことだよな』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スーパーで予定通りに買い物を済ませ、一行は俺の家に着いた。

 

「ここが燈の家か」

 

「なんか……思ったより普通だな」

 

すいませんね普通で。

 

「燈くんの…お家…」

 

「あぁ。

 祈世樹は母さんがいない時に雨宿り程度に入ったっけ」

 

「う…うん。

 私、髪とか服装大丈夫かな…?

 お化粧とかしてないけど、どこか変なとこないかな?」

 

「いや、そんな身構えなくてもうちは普通の家だから。

 気楽にあがってよ」

 

「む……。

 そ、そうだよね…!

 なんか…緊張しちゃって…」

 

初めてレンタルビデオショップのアダルトコーナーに入る若者みたいな反応でしたよ祈世樹さん。

 

「じゃあ少しだけ待ってて。

 部屋片付けてくるから」

 

「おぅ。

 エロ本は見つかりにくいとこになー(笑)」

 

「だからうるせぇって!

 普通に本とかフィギュア整理するだけだから!」

 

「え……えっちぃ本……///」

 

「なんで祈世樹はそこに反応するんだよッ!!」

 

「エロ本か…。

 …燈はどういったジャンルが好みなのだ?」

 

「そりゃもちろんロリ……って、何言わせとんじゃあッ!!?///」

 

「ほほぅ…。

 燈はロリコスが好みですか…なぁるほどね…(笑)」

 

「なんでそういうとこははっきり聞き取ってんだよッ!

 てかネタ増やしてんじゃねぇ!」

 

「ろ……ろり…///」

 

「祈世樹もいかがわしい言葉に反応しないのッ!!!///」

 

「私から聞いといて何だが……祈世樹に手は出すなよ。

 その時は、全力を持ってお前を処すからな」

 

「出さねぇよ!?

 …あぁもう、部屋行ってくるわッッ!!」

 

そして俺は急ぎ部屋の片付けに走った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…えー…これより、臨時役として私「坂口慶太」がナレーションを務めさせていただきます。

 アシスタントは小野々儀紫と、海条祈世樹でお送りさせていただきます」

 

「けっ、慶太くん。

 そういうメタい言い方はここで言っちゃダメだと思うよ…」

 

「そうだぞ。

 読者はそういうのを分かってないんだから」

 

「あ、まじ?(笑)」

 

こほん……気を取り直して……。

 数分も経つと、燈はすぐ戻ってきた。

 

「お待たせ!

 あがってちょ」

 

「はぁーい」

 

「では、失礼させてもらう」 

 

「んじゃ、お邪魔しまーす♪」

 

玄関に入ると上品な芳香剤の匂いが漂ってきた。

 

「これ……燈の家でも使ってるのか?」

 

「あぁ。

 母さんの趣味だ」

 

紫が何やら芳香剤について語り合ってるようだが、正直俺はそういうのはからっきしだ。

靴を脱いだ先のドアを開けると、すぐ目の前のリビングの一角で燈のお母さんがいた。

   

「お邪魔します。

 自分、坂口慶太と言います」

 

「いらっしゃい。

 話は燈からよく聞いてたよ。

 燈、学校で迷惑かけてない?」 


「い、いえ……そんな事。

 むしろ俺が迷惑かけてばかりで…」 

 

思ったより腰の座った物言いに俺は少し気圧されていた。 

  

「初めましてお母さま。

 小野々儀紫と申します。

 素敵な芳香剤を使われてるんですね」

 

「あら分かる?

 私、あの香りが好きでね」

 

「私の家でも同じのを使ってます。

 うちの母も私も好きな香りなので」 

 

「そうなのね。

 そういえば、新作の試してみた?」 

 

「あぁ、そういえばありましたね…」 

 

趣味の話になると止まらないところは親子だなと思っていると、紫が燈のお母さんと話し合うのが終わったのを見計らってから最後に海条が挨拶した。

 

「…初めましてお母さま。

 海条祈世樹と申します。

 この度は、突然押しかけて申し訳ございません」

 

「あら、あなたが祈世樹ちゃん?

 話は燈からよく聞いてたよ。

 うちの燈が世話になってるわね」

 

「ちょ……母さん…!」

 

燈がパニクるも海条は上品に笑って応えた。

 

「いえ。

 私の方こそ、いつも燈くんのお世話になってばかりで…」

 

何とも普段の海条とは思えない丁寧な挨拶だった。

 

『海条って挨拶する時はすげー大人じみてるな…』

 

お母さんと海条のやり取りに恥ずかしくなったのか、燈は忙しなく落ち着きを無くしていた。 

 

「ま、まぁとりあえず入って。

 部屋は二階だから」 


そう言って燈は先陣を切って階段を上る。 

  

「じゃあ燈の部屋を拝見させてもらおうかな」

 

「あまり騒がないようにな」

 

「前回は全然見てなかったからなぁ。

 燈くんのお部屋どんな感じかなぁ…」

 

燈を先頭に階段を上がっていくと、三箇所ある部屋の中の一箇所が空いていた。

 

「入って。

 あまり広くはないけど我慢してちょ」

 

「「「……おおぉぉおおぉぉ…」」」

 

中に入ると、思ってたより綺麗……ではあったが……。

 

「………すっげぇ数のフィギュアだな…」

 

タンスやテレビの上にまで、色んな種類のフィギュアが置かれていた。

 

「すごいな…。

 燈、将来フィギュアの博物館でも建てるのか?」

 

「ちっ、違うわ!///

 普通にゲーセンで欲しくて取ったのばっかりだよ」

 

燈が力説(?)してると、数多く立ち並ぶ美少女ばかりのフィギュアにある疑問が浮かんだ。

 

「…箱から出してないの多いけど、なんで?」

 

「それは、今好きで持っててもいつか売らないといけないときとか、そういう時の為に敢えて出してないんだよ。

 それに、出さないでラッピングした方が劣化しにくいし」

 

「ほぇ~…」

 

海条は感心しているが、俺は正直ドン引きだった。

すると海条が傍にあったフィギュアをそっと持ち上げて何かを眺めていた。

 

「何してるんだ海条?」

 

「…この子のパンツの色を確かめてる…あぅっ!///」

 

「人のフィギュアで何エロ親父かましてんだよ。

 俺のフィギュアはそういうのを見るために持ってるわけじゃねぇんだから」

 

「うぅー…。

 だってこういうの気になるもん…」

 

美少女フィギュアのスカートの下を覗いていた海条を燈は遠慮なくはたいていた。

 

『燈ー!』

 

「ん?

 お母さんが呼んでるぞ?」

 

「今行く。

 みんなは先にパーティやてて」

 

「あーい。

 じゃあ早速、燈の隠してるエロ本コレクションを……アッ…///」

 

「人のプライバシーをさぐるのはやめような慶太くん…??」

 

普段からは想像もつかない馬鹿力で燈は俺の頭を掴んで握り潰そうとしていた。

その殺気は普段、俺が紫からされるのとそう変わらない雰囲気を醸し出していた。

  

「す…すいません…。

 大人しくしてます…」

 

「うむ。

 宜しい」

 

ようやく解放された俺が掴まれていた箇所は、後味悪そうに痛みだけがヒリヒリと残った。 

 

「おー…いてて…。

 なんちゅーバカ力だよ…」

 

そそくさと燈が部屋を出ていくと、少しだけ雰囲気が静かになった。

 

「しっかし、ホントにすげー数のフィギュアだな…」

 

「確かにな。

 しかもよくよく見ると、ほとんどが美少女フィギュアばかりだな…」

 

なんか…これはこれで怖ぇな。

 

「私は……こういうの好きかな…」

 

「えっ…」

「えっ…」 

 

海条を見ると、彼女はうっとりとフィギュアの山を眺めていた。

 

『…やっぱり…似た者同士だからなのか…』

 

そう思ってるとドアの開く音が聞こえた。

 

「お待たせ。

 母さんからみんなで食べなさいってフライドポテトと唐揚げ持ってきたよ」

 

燈の持ってきた皿には、大量の揚げたてのフライドポテトと唐揚げが積み上がっていた。

 

「こんなに……いいの?」

 

「あぁ。

 うちはあんまり友達連れてこないから、こうして誰かを家に招くのは珍しい事だからな」

 

「さっすが燈のお母さんだな!

 それならば、冷めないうちに遠慮なく食べなければな!」

 

「それもそうだが、後でお母さまに感謝せねばな」

 

「そうだね。

 こんなに食べられるかなぁ…」

 

「まぁーかしとけって海条!

 ここには思春期男子二人とスポーツマン女子がいるんだから、この程度余裕だって!」

 

「そういう問題かよ。

 …とりあえずパーティ始めようか」

 

そう言って燈は手馴れたようにスーパーの袋から買ってきたお菓子やジュースを出し分ける。

 

「あっ…私やるよ…!」

 

「いいよ。

 祈世樹はお客なんだから、家の住人たる俺がやるべき事だよ。

 ゆっくりしてろって」

 

「うぅー…」

 

どんな理由だよ。


「…よし。

 では各自、杯を持て!」

 

突然ではありながらも、俺たちはそれぞれのジュースを手に取る。

 

「では、今日のクリスマスパーティを楽しんでくださいな。

 ……乾杯ッ!」

 

「かっ…乾杯…!」

「かっ…乾杯…!」 

  

うわーぎこちねぇー。

…とは思ったものの、それはそれで燈らしくて何だか悪くない気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パーティーではそれぞれの学校での愚痴、出来事などを語り合った。

 

「でさー、現国の天内が明日までにこの課題全部やって来いって無茶ぶりかましてきやがってよぉ……おかしいと思わねぇか?」

 

「あー分かる!

 俺も天内から「君はちゃんと勉強すれば出来るんだから」って理由で、俺だけ「特別課題」と称して増やされた事もあったな。

 まぁおかげでその翌日の小テスト、現国だけ高得点だったけど(笑)」

 

「私は体育の岡田からよく昼休みの終わりに、生徒たちが遊技に使ったバスケットボールとかの片付けを頼まれるのだが……これがまた人使いの荒いこと…」

 

「そういや、こないだ俺が体育館に忘れ物した時、お前すげー罵声浴びせられてたよな?」

 

「あぁ。

 「ボールは投げ入れるな」とか「ケースを蹴るな」とか……色々面倒だった…」


「あー岡田な。

 あいつ、生徒の間でも良い噂聞いたことないからなぁ…」 

 

紫、燈、俺の三人で愚痴を語りあっていると、予想外の横入りが入って来た。

 

「あの……天内先生も、岡田先生も悪い人ではないと思うよ…?」

 

「…えっ?」

「…えっ?」

「…えっ?」 

  

声を揃えて俺たちが振り返ると、海条は真っ赤になって目線を下げていた。

 

「え…えっとね…///

 岡田先生は、三日前にバスケットゴールの調整してる時に、脚立に一人で登ってて危ないなと思って押さえてたら飴くれたよ。

 天内先生も昨日、小テストの回答のことで「海条の作者の気持ちの読解力は非常に面白い」って褒めてくれたよ?」

 

「………」

「………」

「………」 

 

きょとんとした表情で海条は首を傾げるも、きっと俺たちは同じことを思ったに違いない。

 

『『『なんか……俺(私)たちと待遇おかしくねぇ(ない)か…?』』』

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

パーティーの盛り上がりも中頃になってきた辺りで、俺からある提案を出した。

 

「なぁ。

 前から思ってたんだが……燈って地味だよな」

 

「これまた急だな」

 

「いやいや、論点そこじゃないだろ!

 いきなり地味とか失礼じゃねぇか!?(# º言º)」

 

「いや、だって事実じゃん。

 今どき銀縁メガネに黒髪なんてマニアもそういねぇぜ?」

 

「やかましいわッ!

 別に好きでこうしてるわけじゃねぇし!

 いわゆる………「模範的な生徒」を目指してこうしてるんだよ」

 

「何だよそりゃ。

 見た目良くても先生どもは成績で生徒を見てるんだぜ?」

 

「だとしても、これが俺のアイデンティティなんだよ」

 

「そういう難しい言葉は出てくる癖に数学いつも赤点だよな」

 

「でも……それはそれで燈らしくて私は良いと思うぞ。

 そうだよな祈世樹?」

 

「う、うん!

 私も今の燈くん……素敵だと……思うよ…?」

 

「あっ……ありがと…///」

 

定番の如く二人でイチャつき始めたとこで俺は割り入った。

 

「はーい二人とも。

 茶番はそこまでねー」

 

「なっ…!

 茶番って……」

 

「なぁ海条。

 今よりも多少はマシな燈に興味ないか?」

 

「…?」

 

まぁ海条はすぐには理解出来ないよな。

 

「…ただ今より「碧乃燈・イケメン改造企画」を始めたいと思いまーーーす!」

 

企画名を叫ぶとささやかながら拍手が響いた。

 

「なにやら面白そうだな。

 …具体的にはどうするんだ?」

 

「あぁ。

 それはだなぁ…」

 

「おいコラ待て。

 当の本人は何も聞かされてないぞ!?」

 

「まぁ話は最後まで聞けって」

 

「お前が俺の話を聞けよッ!!」

 

燈がなんか言ってるが俺は敢えてスルーした。

 

「え~…この企画では、ここにおられる碧乃燈くんを今のクソ地味なビフォーから、イケメンなアフターに進化させる企画です!

 ある意味、海条しか得にならないと思いますッ!!」

 

「なんでそこを強調するんだよッ!」

 

「ほぉ…。

 燈を男前にか。

 …何やら面白そうだな」

 

「うん。

 でも……どうなるんだろ。

 燈くんは今のままでもかっこいいのに…」

 

「まぁーかしとけって海条!

 とりあえず使うものは俺たちが現時点で持ってるものと、燈の家にある道具だな」

 

「私たちって……メイク道具はないぞ?」

 

「あれ?

 お前、化粧水とか持ってなかったっけ?」

 

「あぁ…。

 それなら持ってるぞ」

 

「ちょっとだけ借りるわ。

 コーディネートは俺と紫の二人でやる。

 海条はその辺で燈のマンガでも読んで待ってろ」

 

「はぁーい」

 

海条が部屋の隅っこに行ったとこで準備を始めることにした。

 

「さて…。

 とりあえず初っ端は………お前ヒゲ濃いなッ!(笑)」

 

「ぐっ…。

 これでも毎日剃ってるぞ」

 

とは言いつつも、燈のアゴと口元には一ミリ程度のヒゲが薄ら見えていた。

 

「とりあえずヒゲ抜きからだな。

 燈、ヒゲ抜き持って来てちょ」

 

「はぁ…。

 わかったよ…」

 

少し気だるそうながらも燈はリビングに降りる。

 

「……持ってきたよ。

 ピンセットといつも使ってる髭剃り機」

 

「おーし。

 じゃあまずは髭剃り機で全体的に剃ろう」

 

そう言って俺は燈の頭を膝に乗せて髭を丁寧に剃る。

…なんか……意外と楽しいかもww

 

「そんじゃ、残ってるヒゲは抜いていくぞ」

 

「あんまりゆっくり抜くなよ……いってっ!」

 

燈の言葉を無視し、俺は次々とヒゲを抜いていく。

 

「お前どんだけヒゲ濃いんだよ。

 俺でもこんなに濃いの生えてねぇぞ」

 

「そりゃ俺だって苦労してるよ。

 好きで生やしてるわけじゃ……だから痛ぇって!」

 

「あーもう、少しぐらい我慢しろ。

 海条をいつまでも待たせるわけにもいかんだろ」

 

「ぐっ…」

 

少し強引とは思いつつも、途中から慣れ始めてきた俺は次々と残ったヒゲを抜いていく。

 

「…よし、これでツルツルだな」

 

「あー…痛かった…。

 マジ感覚おかしくなりそう」

 

「ここで紫の化粧水を顔全体に塗ります…と」

 

「あんまり使わないでくれよ。

 けっこう高いものなんだから」

 

化粧水を塗りこみ、次は髪型に移った。

 

「幸いにもある程度長いから俺の持ってるワックスで髪型整えられそうだな。

 よっしゃ、ワイルドなイメージにしてやるか」

 

「いいけど……あんまり派手なのはやめてくれよ…?」

 

「いいから俺に任しときなさい」

 

「そういうのが一番不安なんだが…」

 

燈の不安をよそに俺はいつも持ち歩いてるハードワックスを少量手になじませる。

 

「ワックスってつけたことないんよね。

 これって後で洗い流せるんだろ?」

 

「当たり前だろ。

 ハードタイプだから少し落ちにくいかもだけど大丈夫だって」

 

さすがに他人の髪でやるのはやりやすい。

気が付いた頃にはイメージ通りの髪型になりつつあった。

 

「分け目に合わせて髪の向きも変えてっと…。

 こんなもんかな」

 

「どうせならおでこも全体的に見えやすい方が良くはないか?

 どっさり前髪を下ろしてると、どうしても暗いイメージになってしまうからな」

 

「おぉ、その手があったか!

 んじゃ少し髪をふんわりアップにするか」

 

「…俺……どうなってる…?」

 

「安心しろ燈。

 だいぶハンサムになってきたぞ。

 海条も、もうちょい待っててな!」

 

「うん。

 私は大丈夫だよ」

 

燈の持っていたギャグ漫画に読みふける海条を尻目に俺は企画の最終段階に入る。

 

「寄せた髪はヘアピンで留めてっと…。

 ……おぉ、だいぶいいじゃん!」

 

「確かに、いつもの燈よりワイルドで陽キャなイメージになったな!」

 

「うーん…。

 俺はまだ見えないから何とも…」

 

「もう少しだからもうちょい待て。

 …とりあえずそのメガネ外せ。

 ワイルドさにメガネは合わないからな」

 

「えっ…。

 俺メガネ無いと何にも見えねぇんだよ…」

 

そう言うもしぶしぶ燈はメガネを外す。 

 

「…あぁイイじゃん!

 その見えにくい故に目つき悪くなってる感じ!

 今の雰囲気にちょうどいいじゃん!

 これで脅されたらマジでビビるなwww」

 

「と言いつつ…何故に笑っとる」

 

「うむ。

 燈はメガネ外した方が男前だな。

 あとアクセサリーを付ければ完璧ではないか?」

 

「生憎、タイガーアイとアメジストのブレスレットしか持ってないんだよな…」

 

「んじゃそれでいいや。

 お前、洒落っ気のあるパーカーとか持ってないか?」

 

「あー……クローゼットの端側にあったな…」

 

「端側?

 ……けっこう服持ってるんだな。

 いつも休みの日とかクソ地味な黒単色のTシャツとかしか着ないくせに」

 

「若者くさいオシャレって苦手なんだよ。

 親が着ろって買ってくるけどほとんど着てねぇんだよ」

 

「もったいないなぁ…。

 ……これなんていいじゃん!」

 

見つけたのは、ラメ風の英文字が入ったフード付き白パーカーだった。

 

「これ着ろ。

 そんで袖まくりもな。

 あ、袖まくりは七分目までな」

 

「七分目ってどの辺だよ…」

 

「どれ、私がしてやろう」 

 

紫が手際よく袖を捲り上げるとそれなりの雰囲気が出てきた。 

 

「この辺かな。

 …良いではないか、十分かっこいいぞ!」

 

「あ、サンキュー…」

 

「本来ならば、クロハーのネックレスとか付ければ完璧なんだけどな。

 まぁでもだいぶ見栄えが良くなったじゃん!」

 

「そ…そうか…?」

 

「よし、もういいかな。

 ……海条、こっち向いていいぞ!」

 

ギャグ漫画に没頭していた海条は突然呼ばれたことに慌てつつも振り返った。 

 

「はぁーい。

 …………ッッ!!!?////」

 

海条の反応は予想通りだった。

生まれ変わった燈の姿を見て彼女は固まっていた。

 

「あっはははッ!

 海条固まっちまった!www」

 

燈は海条の反応を見てどこか恥ずかしそうに前髪をいじっていた。

……なんか女の仕草みたいできめぇ。  

 

「そ…そんなに変だったか…?///」

 

「……ふぁっ!?///

 そ、そんなことないよッ!?

 むしろ……カッコよすぎて……直視出来ないッ…///」

 

「あっはっはっはっ!!!」

 

海条のコメントに思わず俺と紫は爆笑してしまった。

 

「ま、まぁ確かに海条の言ってることは分かるかもな。

 いつもの燈に比べたら全然マシだよ!」

 

「うむ。

 その目で睨まれたら……燈だと分かってても、少しだけ私も惚れてしまうかもな…」

 

「…///」

 

海条は相変わらず顔を背けていた。

俺はちょっとだけ燈にイタズラを仕掛けさせてみる事にした。

 

「なぁ燈。

 海条の耳元で「アイラブユー」って言ってみ?(笑)」

 

「なっ…!///

 そんなこと出来るわけ…」

 

「いや、今のお前なら海条もオチるって!

 ほら、早く行け!」

 

「ぐっ…」

 

少し渋りながらも燈はそっと海条に近づく。

 

「……祈世樹…」

 

「…ッ!!!?///」

 

イケメン燈を目の前に海条は「蛇に睨まれた蛙」状態だった。

 

『……I Love you…』

 

「ッッッ…?!!!!////」

 

限界が来たのは俺と紫だった。

 

「ぎゃっはっはっはっ!!!!

 いいぞ燈ぃー!!!!wwwwwww」

 

「何だか……こっちまで恥ずかしくなってきた…www///」

 

海条は言葉さえ失い、顔を真っ赤にしながらあわあわしていた。


「なんか……あれだ…………俺恥ずか死…」


「なぁに言ってんだよ。

…ほれ見ろよ」


俺が携帯で燈の写真を撮り見せつけるも、燈はどことなく怪訝な表情を浮かべていた。


「ほら海条、燈の写真ならどうだ?(笑)」


海条にも見せると、海条は顔を真っ赤にしながら写真に見入っていた。

やがて何か吹っ切れたのか、海条は突如燈の方に正座しながら向きを変え、燈もまた黙って海条と見つめあっていた。

それから少しの間膠着状態になり、俺と紫が様子を見守っていると予想外の事が起こった。

 

「…ッ!?///」

 

燈を見つめていた海条は突然何を思ったのか、燈にキスをしたのだった。

あまりに突然のことに俺たちまで驚いてしまった。


「なッ…!?///」

 

「えっ……な……きせッ……!?///」

 

やがて燈もゆっくりと目を閉じて海条のキスを受け入れた。

 

「お………おい慶太…。

 この状況、どうするんだ…?///」

 

「そっ、そんな事俺に言われても…///」

 

小声で紫が聞いてくるも、俺だってどう始末をつけるかなんて分かるわけがなかった。

やがて二人はゆっくりと離れ、再び見つめ合っていた。

 

「……」

「……」

 

何も語ることもなく二人は見つめ合っていたが……一番動揺していたのは俺と紫だった。

 

『気まずいから何か喋ってくれよ…』

『頼むからから何か喋ってくれ…』 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、何やかんやで事態も収束し俺たちは帰ることにした。

 

「あーあ。

 めっちゃ面白かったなwww」

 

「お前なぁ…」

 

悪態づきながらも燈はどこか嬉しそうだった。

 

「まぁ写メも撮らせてもらえたし、私は満足だな」

 

「…///」

 

一人を除いて十分楽しめたようです。

 

「忘れ物すんなよ。

 後であれ忘れた、これ忘れてた言われても持っていかないからな」

 

「分かってるよ。

 スマホも持ったしカバンも中身全部あるし」

 

「私もだ。

 化粧水も全部確認したしな」

 

「私は……何も出してないから大丈夫…///」

 

海条はまだ余韻が抜けてないのか未だに照れていた。

階段を降りて行くと、燈のお母さんは台所で洗い物をしていた。  

 

「すいません、俺たちこれでおいとまさせていただきます。

 今日は本当にありがとございました!

 それと、差し入れご馳走さまでした!」

 

「はーい。

 よかったらまた遊びに来なさいな。

 ……燈、その髪どうしたの?」


「……帰ってから説明する…」 

 

げんなりしている燈に苦笑していると、気持ちを切り替えた海条が締めてくれた。 

  

「それじゃお母さま、お邪魔しました!」

 

「うん。

 気を付けて帰りなさいね」

 

優しいお母さんに見送られ、俺たちは家を出た。

 

「そうだ!

 ついでにゲーセンでプリクラ撮ろうぜ!

 今日の記念ついでになwww」

 

「それも良い考えだな。

 まだ時間もあるし、行くとするか」

 

「俺はいいけど……祈世樹は大丈夫?」

 

「う…うん!

 燈くんのプリクラ……欲しいッ!///」

 

なんか一人だけ趣旨が違う気がしたが、とりあえず俺たちはいつものゲーセンに向かうことにした。

 

「これだけ男前だと逆ナンされそうだな(笑)」

 

「確かにな。

 今の燈なら、私も悪くないと思う」

 

紫と語り合ってると海条が会話を牽制してきた。

 

「そ……そんなの絶対ダメッ!!

 燈くんは……私だけのものなのッ!!」

 

珍しく声を張り上げる海条に少しビビったが、彼女もまた自分のセリフを思い返してか、急に顔を赤らめた。

 

「あ…えっと…///」

 

一人暴走して転んだ海条を気にかけてか、燈がいつものように海条の頭をなでる。

 

「ありがとうな祈世樹。

 そう言ってもらえるだけでも嬉しいよ」

 

「……うん!///」

 

少し照れながらも海条はいつもと同じように笑っていた。

 

「よっしゃ、興奮冷めやらぬうちにプリクラ撮りに行くぞー!」

 

「おーーーっ!!!!」

「おーーーっ!!!!」

「おーーーっ!!!!」 

  

そして俺たちはゲーセンへと向かう。

道中、楽しげに手を繋ぐ二人に、俺は少しだけ羨ましく思ってしまった。


 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

「……おっ、雪が降ってきたな…」 

 

 

 

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