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拝啓、空と世界へ  作者: 鷹利


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29.禍災(わざわい)の子

夏も終わりかけ、秋の冷たい風が目立ち始めてきた。

烈火たちともこれといって問題もなく、至って普通の高校生活を堪能していた。

そんなある放課後のこと。

  

「慶太、今日はゲーセン行く?」

 

「あーすまん。

 しばらく予備校で受験に向けての講習が詰まってるから、落ち着かないと行けねぇわ」

 

「そうか。

 じゃあ落ち着いたら教えてよ」

 

「あいよ。

 お前もたまには図書館とかで勉強してくれば?」

 

「うるへぇ。

 どーせ俺はバカですよー」

 

「あっはは。

 んじゃ、俺もう行くな」

 

「あい。

 いてら」

 

そそくさと立ち去る慶太の後ろ姿を見送り俺も荷物をカバンにしまう。

 

『祈世樹も誘ってみようかな』

 

そう思い祈世樹の席に目を向けるも、既に祈世樹の姿は無かった。

 

『委員の仕事かな』

 

無理だと判断し、俺は一人でゲーセンに行くことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゲーセンに着き、俺はパチンコを見回っていた。

 

『んー…。

 今日はどれも打たれてないのか…』

 

今日は金曜日ということもあってか、一般や学生の姿はいつもより少しだけ目立つも、パチンココーナーに人気は一切無かった。

 

『…これにするか』

 

俺が選んだのは、以前慶太がやっていたバトル物のアニメパチンコ。

 

『当たれば面白いんだけどなぁ…』

 

そんな軽い気持ちで俺は打ち始めると間もなくして、後ろから覚えのある重みがのしかかってきた。

 

「にゃーん!

 空みっけ♪」

 

「おっ、祈世樹か。

 委員の仕事じゃなかったのか?」

 

「ううん。

 隣のクラスの子に花壇の整備の手伝いを頼まれてたの」

 

「あ、そゆね。

 …まぁとりあえず座れよ」

 

そう言うと祈世樹は大人しく隣に座ってくれた。

 

「…今日は怖いの打たない…よね…?」

 

俺の隣に健在しているホラーパチンコを陰から怯えながら祈世樹は覗いていた。 

 

「あぁ。

 今日は気分じゃないから打たんよ」

 

本気で安心したのかほっと祈世樹は胸をなで下ろす。 

その後パチンコで当たりを引けなかった俺は格ゲーをやることにした。

 

「どうせならお前もやってみろよ。

 操作方法は書いてるし」

 

「ふぇっ!?

 むっ、無理だよぉ…」

 

「大丈夫だって。

 さすがに手加減はしてやるからさ」

 

「うぅ…」

 

しぶしぶ祈世樹は対面側に座ってくれた。

そしてキャラクターを選び対戦が始まった。

 

『……初めてでこれ程か…』

 

初めてとは思えないほど祈世樹は………攻撃の届かない距離から攻撃してきたり、ジャンプをしながら接近してきていた。

 

『マジかよ…。

 やらせておいてあれだけど………センスねぇな…』

 

ちょっと脅かし程度に急接近し、四コンボかます。

 

『ふぁっ!?

 うぅぅうぅぅ…!』

 

こっちに聞こえるほど祈世樹は唸っていた。

結局、祈世樹はワンパンさえかませずK.O.負けに終わった。

すると対面側から祈世樹が走ってきた。

 

「空ぁー!

 強いー!」

 

ポコポコと叩いてくるも、あれ以上に加減するとなると片手でやるべきだろうか。 

 

「お前がセンス無さすぎるだけだよ。

 ちゃんとレバーで移動しないとダメだろ」

 

「むぅー…。

 …もっかいやる…」

 

「おぅ。

 誰だってそうやって強くなっていくんだよ。

 頑張れ」

 

わしゃわしゃと頭をなでると、祈世樹はそそくさと対面側に戻った。

そして再び対戦が開始された。

 

『…おっ、さっきのでコツを掴んだのか?

 さっきよりも動きが良くなってきてる』

 

まだ歩きながらとはいえ、確実に俺に近寄り適度な距離から攻撃を仕掛けられるようになってきた。

 

『だが甘い…!』

 

祈世樹の攻撃からカウンターを取り、必殺技でとどめを刺す。

すると祈世樹がまた戻ってきて再びポコポコと俺を殴った。

 

「空ぁー!

 加減してないーーー!!!(´;ω;`)」


「ごめんごめん。

 でもさっきよりは上手になったよ。

 移動する時にレバーを二回チョンチョンって倒せばダッシュ出来るから、ダッシュしながら攻撃すれば俺にワンパンかませるかもよ」

 

「むぅぅぅ………分かった!」

 

「じゃあ、俺にワンパン当てれたらお前の勝ちだ。

 それでいいな?」

 

「うん!

 絶対勝つ!」

 

そう言って祈世樹はまた戻っていく。

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ようやくか」

 

五回目にしてようやく祈世樹の初ワンパンを食らった。

まぁ、コマンドミスっただけなんだけど。

だが最初に比べれば、だいぶ上達したとは思う。 

 

「空ぁー!

 やっと当てれたー!」

 

「あぁ。

 ようやくだったな」

 

正直無理かなと思っていたが、四回目辺りから慣れてきたのか、中級者レベルのコンボをかましてきた。

 

「そろそろ帰るか。

 あとやりたいのも無いだろ?」

 

「うん!

 満足!」

 

そうして俺たちはゲーセンを出ることにした。

 

 

 


 

 

  

 

 

 

 


外は既に暗くなるも格ゲーの余韻からか、俺たちはゲーセンの駐輪場で先ほどの対戦について語り合っていた。 

  

「…でね、あそこで必殺技を出せば確実に当てられると思うの!

 今日は相手が空だったから無理だったけど、今度試してみようと思うの!」

 

「おぅ、頑張れよ」

 

「うん!

 …んー……初めてだったけど、結構楽しかったなぁ♪」

 

「……」

 

…どうもおかしい。  

 

「…なぁ祈世樹」

 

「なぁに?」

 

「……ここで問題!

 今日お前が使ったキャラの必殺技の名称はなんだっけ?」

 

「ソニッ○・ブー○!」

 

はい、確信に変わりました。

 

「じゃあ次の「質問」」

 

「はぁい」

 

…気づいてないな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………お前はだれだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…え?」

 

さっきまでのハイテンションは一瞬で消え、祈世……「彼女」は目を見開いていた。

 

「何…言ってるの…?

 …祈世樹に決まってるじゃない…」

 

そうは言うも、俺には確信に足る証拠があった。 

 

「残念。

 祈世樹に格ゲーのキャラの必殺技を覚えることなんて到底出来ません。

 それに非暴力主義のあいつが、こんなに格ゲーに打ち込めるとは思えません」

 

「……」

 

ドンピシャだった。

祈世樹ではない「誰か」は一切の感情を落とすようにうつむいた。

やがてケタケタと嗤いながら口角をつり上げた。

 

「…くっくっくっ………あーぁ。

 バレちゃあ仕方ねぇな。

 …結構上手く出来たと思ったんだけどなァ…」

 

それは祈世樹とはまるで………「真反対の人間性」だった。

 

「お前………噂に聞いていた…「裏」か?」

 

名も知らぬそいつは、顔を上げると後頭部に両手を添えてニカニカと笑っていた。 

 

「おぅよ、ご名答だ。

 …オレが祈世樹の「裏」だ」

 

それはあまりに醜悪めいた笑顔だった。

 

「…なんでお前が今ここにいるんだ?」

 

「何でって……簡単な事だ。

 お前と祈世樹が格ゲーやってたのが面白そうだったから、ちょっと横入りさせてもらっただけだよ。

 別に邪魔するつもりはなかったさ。

 それに…お前の言う通り、非暴力主義の祈世樹と格ゲーなんてやってたって、一生終わんねぇだろうしな」

 

そう言うと「裏」は背伸びをしてから軽いストレッチをし始める。

 

「お前のことあまり教えてもらってないんだけど……なんでお前はいるんだ?

 お前も祈世樹の性格の一部なのか?

 「破壊衝動」ってのは聞いてるんだが…」

 

「残念。

 生憎、オレは「性格の一部」ではないんだよ。

 …お前、さっきからオレのことなんて呼んでる?」

 

「………あっ」

 

俺の反応に「裏」はほくそ笑む。

 

「そう。

 オレはアイツの「裏側」。

 つまり……祈世樹の「マイナス趣向」なんだよ。

 単純に言えば、祈世樹の「ストレスの塊」みてぇなもんだな」

 

「ストレスの…!?」

 

訳が分からない。

どういうことだ…。

 

「わかりやすく言うと、オレは祈世樹の溜まりに溜まったストレスを発散させる役目を持ってここにいるんだよ」

 

その言葉には聞き覚えがあった。 

 

「…そう言えば、前に烈火が言ってた気が…」

 

「なんだ聞いてたのかよ。

 …祈世樹はどんなに辛くてもそれを表に出すこともぶつけることも出来ない。

 だからオレがいる」

 

そう言いながら「裏」はゆっくりとハイキックのモーションをとった。

 

「おい、スカートで足上げんなよ!

 他の人に見られたらマズいだろ!?」

 

「あ?

 別にいいじゃねぇかよ。

 なんだ、パンツを見られることがそんなに嫉妬の対象になるのか?」

 

「そっ、そういう事じゃねぇ!

 常識的な意味でだよ!」

 

俺の常識的な反応に「裏」は呆れ気味に返答した。 

 

「悪ィ。

 オレはそういう常識とかどうでもいいからさ。

 なんなら、見たやつの記憶を消しゃあいいんだろ?」

 

「お前ッ………」

 

こいつ………狂ってる…。

 

「言っただろ。

 オレは「破壊衝動」だって。

 そんなくだらねぇ感情とかはオレにはねぇんだよ。

 そりゃあ、あの烈火とかいう陰気くせぇやつみたいに脳はねぇけどよ。

 でも暴力に関しては忍ってやつよりも上等だぜ?」

 

そう言いながら「裏」は俺の顔にハイキックを差し向けてきた。

 

「ちょ…だから……パンツ見えるから…!///」

 

「なんだ?

 たかがパンツが見えたぐらいで興奮すんのか?

 まさか……勃起したのか?(笑)」

 

もはやめちゃくちゃだった。

マジでこいつはイカれてる。

 

「たっ…勃ってねぇよ…。

 いいから足を下ろせ!」

 

「んだよぉー。

 お前まだ祈世樹とヤってねぇのかよ。

 いい加減押し倒しちまえよォ(笑)」

 

「…………はい?」

 

…こいつ……何つった?

 

「だーかーらー。

 …まだセックスしてねぇんだろ?

 なんなら、今からでもオレが相手になってやるか?」

 

そう言うと「裏」は唐突に制服を脱ぎ始めた。

 

「ちょ…!

 お前バカかッ…!?

 こんな所で出来るわけねぇだろ…!///」

 

「んだよつまんねぇ男だな。

 …あれか?

 茂みとかトイレの方がいいのか?」

 

「場所の問題でもねぇ!!

 いいから服を脱ぐなッ!」

 

「…ごちゃごちゃうるさい男だなぁ。

 よくこんな童貞に祈世樹は惚れたもんだよ」

 

しぶしぶ着直すも、直前までワイシャツまで脱ぎかけてはだけ気味の彼女に少しだけドキドキしてしまった。

それはいかんと思った俺は、気持ちを切り替えるため質問をすることにした。

  

「…一つ、聞いていいか?」

 

「あ?

 んだよ」

 

「…お前はなんで生まれたんだ?」

 

そう言った直後「裏」は今までとは変わって嘲るような笑みを浮かべた。

 

「…知りたいか?」

 

「………あぁ…」


冷たいながらもどこか俺を試していたかのような「裏」の聞き返しに少しだけ心臓が飛び上がった。  

そう言うと彼女はポケットに手を突っ込みながらゲーセンの真向かいの公園に向かい、街灯下のベンチに脚を組んで座った。

俺は距離を開けて隣に座った。

 

「…祈世樹がレイプされた話は聞いてるな?」 

 

「…あぁ」

 

そう言うと「裏」は今までとは違う神妙な顔つきで静かに語り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

「あの日、祈世樹は人生で最も最悪の窮地に追い立たされた。

 小野々儀紫に連れられて家に帰っても、祈世樹はリルドに顔を見せることなくすぐに部屋にこもった。

 学校にも行かず一週間ほど引きこもり、ろくに食事も摂らなかった。

 部屋の片隅で膝を抱えて恐怖に震えていた。

 時折、携帯が鳴る度に斉藤春樹の顔や声を思い出す彼女は発狂していたさ。

 リルドや西浜が心配して扉越しに声をかけるも、その声すら彼女にとって「恐怖」でしかなかった。

 …やがて祈世樹は泣くことさえ出来なくなっていた」

 

「ッ……」 

 

容易に想像出来た祈世樹の偶像に思わず俺は吐き気すら感じた。 

 

「彼女の精神はあと少しで崩壊寸前だった。

 …そんな時、祈世樹は無意識に助けを心の中で求めた。

 そして「オレ」が目覚めた」

 

「…なるほどな。

 それから?」

 

「…オレが目覚めた瞬間、それまでの祈世樹の中に溜まりに溜まったマイナスの感情がオレに流れ込んできた。

 それはもう……普通の人間には耐えられない「地獄」だ」

 

「……」

 

「不条理なまでに悲しくなって、怖くて痛くて……苦しかったさ。

 何よりも……こんな絶望に打ちひしがれていた祈世樹が辛かった。

 それと同時に生まれたのが……あの男……斎藤春輝に対する怒り、憎しみ………「復讐心」だ」

 

「…ッ!?

 まさかッ……!!」

 

「そう。

 オレは斎藤春輝に復讐する為、孤児院のガキ共が遊ぶのに使ってた金属バットを持って、その日の夜中にあのクソ野郎の家に押しかけた」

 

「…ッ!!?」

 

「インターホンを押すと、祈世樹に塩をぶちまけたババアが出てきやがった。

 眠そうに「こんな時間にどなたですかですか?」ってな。

 やがてババアは俺の顔を見た瞬間青ざめてたさ。

 もちろん、俺はお邪魔しに来た客みてぇなもんだ。

 他人の家にあがるのにちゃんと挨拶もしたさ。

 「チィーっす。こないだの復讐に来ました〜♪」ってな」

 

その時の記憶を楽しげに語る「裏」の説明に気持ち悪いほどその時の状況がイメージ出来て仕方ない俺は、背筋を走る悪寒と吐き気に目眩さえ感じていた。 

 

「ちゃ〜んと挨拶をしてからオレは家に押し入り、手当り次第に家の中の物をぶち壊してまわった。

 途中、意識を取り戻した祈世樹がやめてと叫んでいたが、もちろんやめることは無かった。

 正直、あのババアもぶん殴ってやろうかと思ったが、恐怖に腰を抜かす様が面白くて、もっと拍車をかけてやろうとますます家の中をめちゃくちゃにしてやった。

 電話もテレビもテーブルもクローゼットも写真も携帯も……ぜーーーんぶブッ壊したさ」

 

途中から当時のことを思い出してか「裏」はケタケタと嗤い声混ざりに続けた。 

  

「部屋で寝てた斎藤春輝が暴動に気付き二階から降りてきたものの、オレは既にありとあらゆるものをブッ壊しまくっていた。

 だが斎藤春輝が目に入った瞬間、オレの中の憎しみが急に膨れ上がった。

 その時、心の中で浮かんできたものがあった。

 …分かるか?」

 

「………なんだよ…」


その直後「裏」は最も醜悪な笑みを浮かべた。 

  

「…そんなの簡単だ。

 …………「殺してやる」だよ」

 

「…ッ?!!

 お前ぇッ…!!」

 

全身の血の気が一気に引いていくのが分かった。

それと同時に、その時の光景が俺の脳内でイメージを作ってしまい、目の前の恐怖に震える斎藤春輝が見えた気がした。 


『だが、斎藤春樹に関しては………私も行方知れずなのだ…」


脳裏で過去に紫がそう言ったのを思い出す。

その瞬間、俺は目の前の女に恐怖を感じた。 

 

「止めようとはしていたが、暴れ回るオレの圧に気圧され、近づくことすらままなっていなかった。

 …まぁ流石に殺しはしなかったものの、オレは斎藤春輝のキモ顔をぶん殴り、ストンピングやキンテキもキメてボコボコにしてやったさ。

 …祈世樹の手が赤く腫れ、脚にも打撲傷が増えていくと同時に、胸の奥で溜まっていた黒いモヤモヤがスーッと抜けていく気がしてな………すごくイー気分だったぜ。

 ババアもオレにビビって頭を抱えて泣き叫んで……オマケにションベンも漏らしてたからなぁ」

 

「…そんな…」

 

「しかもよォ……あのババア、なんて言ってたと思う?

 『お願いだから、もうこれ以上壊さないでくれ』だとよ。

 …祈世樹に塩をぶちまけておいてよく言えるわッッ!!!!

 ……ある程度家の中の物を壊しまくって満足したオレは、ようやく実現出来た達成感に胸いっぱいになりながら出ていったさ」

 

「……」

 

「オレの中で祈世樹は怯え泣いていた。

 『どうしてこんなことをするの?』と聞いてきたが、そんな最初から分かっているだろうことに、オレはあえて返事はしなかった。

 もちろん、その後すぐにポリ沙汰にはなったさ。

 恐らく深夜バイトに出ていた母親が帰ってきて通報したんだろうな。

 だからサツ共には全部晒そうと、オレからあの野郎の悪事を全部晒してやろうとした時だった」

 

「…何かあったのか?」

 

そこで初めて「裏」は笑みを消した。 

 

「…突然、祈世樹が強制的にオレと入れ代わったんだよ。

 そしてオレを二度と出られないように強力なロックをかけた。

 ポリ共に祈世樹はただ自分がやったことを謝罪する事しかしなかった。

 オレが暴れたことも、アイツは『やけくそになってやってしまった』なんて下手な嘘で話した。

 もちろん正確な原因は斎藤春輝から全部聞いたみたいだがな」

 

「……」

 

「ポリ共の方からはこれまでの祈世樹の行い、斎藤春輝のレイプ未遂、オレの暴動理由から百万ちょいの賠償金と一年の執行猶予、半年の停学処分が下されたさ」

 

「ッ…!?

 半年って……家の都合でって名目で引きこもってたとかじゃなかったのか…!?」 

 

「ちげぇよ。

 誰からどう聞いたかは知らんが、これが真実だ」 

 

「ッ……」 

 

「まぁそれでも、奴らも多少は祈世樹の人間性を見て判断を軽くしてくれたらしい。

 …それからというもの、祈世樹のやつ………今度はリストカットを始めやがったんだよ。

 本来、アイツのストレスはオレが晴らすべきなのに、あの暴動のせいで祈世樹は強力なロックをオレにかけ、彼女のストレスはますます重なっていく一方だった…」

 

「そう……なるよな」

 

「……それからというもの、祈世樹は毎日のようにリストカットを続けた。

 全身打撲だけで済んだ斎藤春輝は三ヶ月程度の入院で済んだらしい」

  

途中から笑みを消した「裏」は憎しみに顔を歪ませていた。

ギリギリと歯ぎしりを鳴らし、目の先で帰り道を楽しげに歩く学生をひどく睨みつけていた。 

 

「オレは……アイツのためにやったはずなのに………なんでまた祈世樹が泣いちまうんだよ……クソがァッッ!!!!!」

 

ドンッと鈍い衝撃音をたて「裏」は傍にあったゴミ箱を蹴り飛ばす。

パタパタと中に入っていた紙くずや空き缶が散乱した。

 

「オレがやらなきゃ、祈世樹は壊れていた。

 なのに……どうしてアイツはこんなにも救われないんだ…!!!!」

 

そう言って「裏」は頭を掻きむしった。

 

「オレはアイツを守るために…復讐するために暴れてやったのにッ……オマケに斉藤春樹は行方をくらましやがった。

 ……だったらよォ…未だオレの中に疼くこの怒りはどこにぶつけりゃいいんだよッッッ!!!!」 

 

「裏」のセリフを聞き届けてから俺はゆっくり立ち上がり、彼女が蹴り飛ばして飛散したゴミを拾いながら静かに語った。 

 

「…なぁ「裏」よ。

 俺さ……どこかお前を勘違いしていたみたいだったよ」

 

「…何だと」

 

敵意を持って「裏」は俺を睨みつける。

だがそんな視線など気にせず俺はゴミを拾い続けた。

 

「話を聞く限り、お前はただの「暴力の塊」だと思ってたよ。

 …けどな、お前の祈世樹を救いたいと思う精神に少し見直した。

 …そりゃお前の気持ちもわかるが、お前のやったことは簡単に許されることではない。

 …非常に時間はかかる」

 

「…ッ!!!」

 

最後の空きペットボトルを集めて投げ入れた直後「裏」は俺の胸ぐらを掴みあげた。

…それはもう、紫に胸ぐらを掴まれた時と同等に等しい力で。 

 

「…じゃあなんだ?

 このオレに謝れとでも言うのかッ!?

 …オレは祈世樹を守る為に壊しただけだッ!!!!

 祈世樹を追い詰めておきながら、またヘラヘラと笑って過ごしてるかもしんねぇあのクズ童貞に復讐する為にオレは暴れたんだよッッ!!!!

 なのに……祈世樹はオレの罪を自ら被った…。

 ……何故だッ!!?

 なんで復讐を果たしても祈世樹はオレの罪を被ろうとするッ!?

 お前なら分かるんだろッッ!!?」

 

「……」

 

ギリギリと強く歯ぎしり音をたて「裏」は俺を睨む。

 

「…分からないか?」

 

「…ッ!?」

 

俺はそっと彼女の頭に手を乗せた。

 

「祈世樹の「裏」であるお前なら分かるはずだ。

 ………お前も……「祈世樹自身」だからだ」

 

「…ッ!!!」

 

俺の一言に目を見開き、胸ぐらを掴んでいた手から力が抜けていった。

 

「…それはッ……」

 

ゆっくりと俺から「裏」は離れていく。

さっきまでの憎悪はなくなり、そこには動揺と困惑しかなかった。

 

「オレが……「祈世樹自身」…だから…?」

 

地面にへたれ込み「裏」は理解出来んと言わんばかりに動揺していた。

その様はまるで怯える子犬にも見えた。 

 

「そう。

 祈世樹は自分の中にいる奴ら全員を「自分」として見ている。

 それ即ち、お前らのやったことは自分がしでかしたことと捉えてる。

…それが理由だ」

 

「……そんな……そんなくだらねぇ理由で…」

 

涙は流れぬも「裏」は混乱していた。

ゆっくりと立ち上がり、不安な眼差しで怯えるように俺の言葉を待っていた。 

  

「何だよそれ…。

 どうして祈世樹はそこまでして……」

 

「…答えは単純だ。

 ……祈世樹は「優しい子」だからだ」

 

「…ッ!!」

 

「裏」はベンチにへたり込む。

その表情は理解すら出来ないと言わんばかりでしかなかった。

 

「そりゃさ、俺だって何度も守るべき祈世樹を傷付けてしまっている。

 そのせいで烈火たちが生まれた。

 けど、あいつは俺を憎んでいない。

 …お前もな」

 

「…ッ!!!」

 

「分かるだろ?

 もし祈世樹が俺に対して復讐心を感じたなら、とっくの昔に俺はお前にボコボコにされてたわけだ。

 …だが、現実は違った」

 

「……」

 

「烈火たちは祈世樹の精神安定の為、お前ではなく、むしろ俺に頼んできた。

 この意味……分かるか?」

 

「…さぁな」

 

「…祈世樹は……傷つけられても尚「俺を信頼してくれてる」からだよ」

 

「……」

 

さっきまでとは打って変わって「裏」に変化の兆しは見えなかった。

だが「裏」はひどくしおらしくなっていた。 

 

「……オレには「好き」とか「愛」とかの意味も感覚も分からねぇ。

 けど……それが今の祈世樹の支えになってるって事は分かった。

 ……オレはもう、必要ないって事なんだな…」

 

まるで自信をなくしたかのように「裏」はうつむく。

そんな彼女の頭をそっとなでてやった。

 

「そんな事ないよ。

 お前も祈世樹の「裏」である以上、必要ないなんてことは無い。

 むしろ、お前が居てくれたから今も祈世樹はあーして笑ってられるんだよ」

 

「……」

 

「裏」は何も答えない。

けど、そこに拒絶の意志は見えなかった。

 

「……何でだろうな。

 …祈世樹がお前のこと好きなの、ちょっとだけ分かった気がする」

 

「…なんでだ?」

 

ゆっくりと顔を上げ「裏」は獣めいた三白眼でまっすぐ俺の目を見つめる。

  

「……お前の手………あったけぇんだよ…」

 

無表情ではあるものの、それはどこか優しいものに見えた。

 

「…そっか。

 そう言ってもらえると嬉しいかな」

  

黙って「裏」は俺の手の感触を味わう。

それは誰が見てもいつもの祈世樹と変わらなかった。

 

「…もういいぜ。

 サンキュー…な」

 

「…あぁ」

 

俺が手を離すと「裏」は顔を上げた。

 

「お前のおかげで分かった。

 今の祈世樹に必要なのは「ストレスの発散」ではなく「心の安らぎ」だってな。

 …オレも、少しだけお前を見る目が変わったよ」

 

「そりゃどうも」

 

力いっぱい背伸びをし「裏」は続けた。

 

「さて、オレはそろそろ戻るかな。

 …戻れと命令されたからな」

 

「命令…?

 祈世樹か?」

 

「あぁ。

 自己的に出てきたとはいえ、これはあいつの身体だからな。

 その気になれば力ずくでオレを引っ込められるのに」

 

「それが祈世樹の優しさなんだよ」

 

「…そうだな」

 

忍と似た笑顔で「裏」は笑う。

 

「…そう言えば、お前名前ないんだよな。

 なら俺がつけてやろうか。

 「裏」って呼ぶのも他人行儀みたいで不愉快だし」

 

「…そんなのオレには必要ねぇよ。

 それに、どんな名前にしてもオレには性別自体がねぇしな」

 

「…そうなのか?」

 

「オレはあくまでも「破壊衝動」だ。

 それが無くなれば、オレは誰にでもなくなる」

 

「……」

 

「そんなシケたツラすんな。

 まぁオレとしては、お前と居た時間は悪くなかったぜ。

 また今度、格ゲー勝負しようぜ。

 ……「空」」

 

「…ッ!

 今…初めて名前を…」

 

俺の言葉を遮るように「裏」は腕と脚を組みながら、ゆっくりと目を閉じた。 

 

「じゃあな。

 もう二度と会わないことを祈るぜ」

 

そう言って「裏」は中に戻った。

少しして、脱力した祈世樹の顔が起き上がった。

  

「………燈…くん…?」


その声は間違いなく祈世樹だった。 

  

「起きたか。

 …安心しろ、ここはゲーセンの向かいの公園だよ」

 

「公園………。

 ……ッ!

 空ッ……もしかして…!」

 

「あぁ。

 「裏」と話したよ」

 

「…ッ!

 …もしかして…聞いたの…?」

 

「あぁ。

 おしゃべりな奴だったからな」

 

「ッ………」

 

少し悔しげに祈世樹は歯を食いしばる。

フォロー程度に俺は続けた。

 

「でも……俺は嫌いにはなれない奴だった。

 誰よりも一番にお前の事を心配してくれて……やり方は常識外れだけど……軽蔑は出来ないな」

 

「…そっか」

 

どこか寂しげにうつむく祈世樹の頭を俺は優しくなでる。

 

「俺はこうしてお前の頭をなでることしか出来ない。

 けどな、お前の中の奴らはみんな懸命にお前を守ろうとしている。

 …それが本気だってことは俺にもわかるよ」

 

「……うん」

 

うつむきながらもささやかに祈世樹は笑った。


「どんな黒歴史があったって、俺はお前を軽蔑も見放しもしない。

 ……ちゃんと守るから…」 

 

「……うん…」 

 

小さく返事をし、祈世樹はうつむきながら鼻をすすった。 

  

「…さっ、帰ろうぜ」

 

「…うんっ」

 

そっと手を出すと、祈世樹は応えるように俺の手のひらに自分の手を乗せる。

ゆっくりとその手を引き、ベンチから祈世樹を立たせる。

その時、引っ張ったときの重みに中の奴らの重みも混じってるように感じた。

 

『守らなきゃ……いけないんだよな…』

 

そして俺たちは手を繋いで夜道を歩いていく。

 

「…ねぇ空」

 

「…なんだ?」

 

祈世樹は優しい笑顔で言った。

 

 

 

 

 

 

 



 

 

  

  

「……カバン、忘れてるよ…?」

 


 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

「……おっほぅ…」

  

頼む「裏」よ。

この一瞬だけ俺の記憶を無くしてくんねぇかな。

 

 

 

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