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拝啓、空と世界へ  作者: 鷹利


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3/35

2.気になるあの子。君の名前は

内履きに変え、俺たちは一年一組の教室へ向かっていた。

いつの時代も新しい何かを体験するということは、幾月経とうとも新鮮なものだ。

 

「ここだな」

 

新しい教室にたどり着くと、何人かのクラスメイトが既に着席し、それぞれグループで会話していた。

生憎、俺たちの入れる隙間は無さそうだ。

席は規定の出席番号順だったが、運良く俺と坂口は廊下側の真ん中の一番後ろとその前に陣取った。

 

「ほんと、碧乃がいなきゃどうしようかと思ったよ」

 

「…どうしてだ?」

 

「だってよぉ、新しい学校生活に話せる奴が居ないことほど切ないこともないだろうよ」

 

『…そんなものなのか?』

 

俺は他人と感性がズレているゆえ、正直その辺に関してはよく分からない。

小学校の頃は何人か友達は居たが、中学から仲良く話す友達は激減し、気付いたらぼっちの陰キャになっていた。 

 

「まぁ、お前がいてくれてよかったよ。

 中学ではあんま話せなかったけど、これからよろしくやろうな」

 

「……あ…あぁ。

 よろしく頼むよ」

 

そう言って俺たちは互いに握手を交わす。

少し気恥ずかしい気もするが……まぁ、たまにはこういうのも悪くないかもな。

 

『キーン、コーン、カーン…』

 

時計は既に七時五十五分を指していた。

気が付けば、男子側も女子側も既に全員が着席していた。

それから少しして、ドアの開く音と共に黒スーツの女教師が入ってきた。

 

「はーい、全員席に着いてるな。

 軽く出席をとっていくよ」

 

さっきまで賑やかだった空気が一気に冷め、あっという間に静かになった。

 

「…っとその前に、まずは私から自己紹介せねばな。

 …今日からお前らの担任になる『芹澤(せりざわ) 美代子(みよこ)』だ。

 よろしく頼むぞ」

 

黒髪でうなじにギリ届く長さのポニテ、男勝りの切れ目に整った顔立ちと重なるように、その口調は男勝りであった。

……若干俺好みのイケメン女教師だった。

 

「始業式まで少ししか時間はないが、黙って時間を潰すのは無駄だからな。

 そういう事でいきなりだが、各自順番に自己紹介でもしてもらおう。

 …まずは女子側から順番に行け。

 えーっと……出席番号一番、三島。

 自己紹介をしろ」

 

「ぁ…はい!

 …えっと……三島(みしま) 悠奈(ゆうな)です。

 趣味は……読書とお裁縫です…」

 

最後にペコリと頭を下げて拍手が鳴り響く。

 

「では次、このまま番号順に挨拶していけ」

 

その口調はあまりにたくましく、不思議と命令(?)されるような声にどこかときめきを感じる………自分がいた。

 

 

 

 








 

 

 

 

 

 

 

 

自己紹介もスムーズに続き、男子に差し掛かるタイミングだった。

 

「では最後、挨拶しろ」

 

そう言われた女子は音もなく立ち上がる。

…これは昔からのクセなのだが、俺はあまり人の顔を見る癖がない。

だから女子のほとんどは顔も見ず、ただ聞き流していた。

……ただ一人を除いて。 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

海条(かいじょう) 祈世樹(きせき)

 趣味は読書とインターネットです」

 

 


 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

……ただそれだけだった。

周りも心なしか拍手が薄かった。

なのに、何故かその声に聞き耳を立てている自分がいた。

それを尻目に先生は続ける。

 

「よし。

 これで女子は全員終わりだな。

 …次、男子の番だぞ。

 女子より声が小さいやつは、私から挨拶程度に課題を出してやるからな」

 

男子間でざわざわとどよめきが飛び交う。

だがそんな事はお構い無しに先生は声を張り上げる。 

 

「おら、出席番号二十一番!

 …山田、お前だ」

 

急にそう言われ、山田と呼ばれた男子は少しビビりつつ、自己紹介をする。

 

「しゅっ、出席番号二十一番…山田(やまだ) 健人(けんと)ですッ!

 趣味は……ゲームとおしゃべりです…」

 

そして山田は静かに座り、拍手が響く。

すると、芹澤美代子が口を挟んできた。

 

「…おい山田。

 趣味がゲームなことに関しては何も言わぬが、もう少し趣味の範囲を広げた方が良いかもしれんぞ。

 それでは……「女子ウケ」は最悪だぞ」

 

芹澤美代子の発した一言は、一瞬、場の空気を凍りつかせたが、すぐにそれは暖かなものに変わった。

 

『あっはっはっはっ!』

 

場の緊張感が一気に溶け、全員が笑いの渦に巻き込まれ、山田と呼ばれた男子はものすごく恥ずかしそうにしていた。

その一方で……。

  

「………」

 

別につまらないわけではない。

俺の視線は自然と海条祈世樹に向かっていた。

何故だろう……他の女子よりも素っ気ない自己紹介だったのに、不思議と惹かれるものを感じた。

 みんなが爆笑しているなか、海条祈世樹は俺と同じく山田の方すら見ることなく本を読み耽っていた。

そんな彼女を見ていると、周りの笑い声が遠くなる気がした。

 

「よぉし、場の雰囲気も暖まってきたわけだし、この調子で声出していけ男子どもッ!」

 

その一言をきっかけに、男子たちは自己紹介にはっちゃけ感が混ざり、笑いが絶えない空気になっていた。

そんな中、俺の番が来た。

 

「よし。

 次、出席番号二十七番……碧乃!」

 

「ぇ……あっ、はい!」

 

海条祈世樹を見つめていた矢先に呼ばれ、少し動揺しつつも立ち上がる。

 

「えっと……碧乃(あおの) (あかり)です。

 趣味は読書、動画観賞、音楽観賞……です…。

こんなクソ陰キャでも良ければ、よろしくお願いします…」

 

少し緊張してしまっていたせいで声にハリがなくなってしまった。

これでは先生にツツかれるな。

 

「おい、碧乃」

 

ほら来た。

課題出されるかな……。 

 

「お前、趣味は全部アニメ絡みだな」

 

「……へ?」

 

腕を組みながら芹澤先生は解釈してきた。 

 

「翻訳してやる。

 お前の趣味は……マンガ・ラノベ読書、アニメ動画観賞、アニソン観賞…と言ったところだろ?」

 

「あ……はぃ…」

 

『あっはははははは!』

 

全くもってバレバレだった。

そこへ他の男子が茶々を入れる。

 

「お前、巨乳派?

 貧乳派?」

 

「ぇ…」

 

なっ、なんつーことを…。

 

「えっと…………こっち…かな…」

 

ジェスチャーで胸の膨らみを表現すると、更に爆笑が高まり一部の女子からはドン引きされてしまった。

俺は真っ赤になりながら着席する。


「お前、意外とやり手だな……ぷくくッ…」  


オマケに後ろでケタケタと笑う坂口がムカつく。

そんな中、こっそり海条に目を向けてみると……それまで手元の本にしか目を向けていなかったのに、いつの間にか俺に視線を向けていた。

俺の下ネタにドン引きしてか、興味をなくしたかのようにジト目で再び本に視線を戻した。

 

『はぁー…。

 頭のおかしい変態だと思われたんだろうなぁ…』

 

肩を落としつつも自己紹介は続き、とりあえず無事に終わった。

ちょうど良いタイミングで始業の鐘が鳴った。

  

「さて、そろそろ入学式だ。

 適当に女子と男子に別れて列を作れ。

 私が先導する」

 

…やっぱ勇ましいな。

俺ってあーいった女性がタイプなのかな…。

 

「碧乃。

 お前って意外とアホなんだな…www」 

 

列の後ろに立っていた坂口に自己紹介のことをいじられ、コブラツイストをかけたことは……言うまでもないよな。 




 

 

 

 

 

 

 

 

 

 








無事、入学式も終わり俺たちは教室に戻ってきた。

正直、校長の長話で精神的に疲弊していた。

 

「授業は十分後に始まるぞ。

 遅れず準備しとけよ」

 

分かってはいるものの、さすがに二時間耐久での傍聴は若人には辛い。

 何気に海条祈世樹に目を向けると、既に教科書類を全て準備し何かの本を読んでいた。

 

『早ぇ…』

 

呆けて眺めていると坂口が俺の様子に気付いてしまった。

 

「おや?

 どうした碧乃?」

 

「…ッ!?

 いや、何でもない…」

 

ごまかしにはほど遠すぎた。

すぐに坂口には読み解かれた。

 

「はは~ん。

 お前ぇ……気になる女子がいるな~?」

 

クソッ…やられた。

 

「あ…えっと……」

 

不意に図星を突かれたがゆえ上手い言い訳が見つからない。

 

「やっぱりなぁ…。

 お前って以外と抜け目ねぇやつだな」

 

チャンスと言わんばかりに坂口が嫌みったらしく弱みにつけこんでくる。

すると聞き慣れない声が俺たちの間に割って入ってきた。

 

「…何やら懐かしい声がすると思いきや………久しぶりだな慶太。

 そんなに友人をいじくりまわして、何か面白いことでもあったのか?」

 

目に覚えのない長身の女子が話しかけてきた。

先生とは違った男勝りな勇ましい顔立ちゆえ、さぞ女子人気も高かろう。

 

「おぉ、小学校以来だな紫!

 お前もここに来てたのか!」

 

「あぁ。

 私は隣のクラスだ。

 …何の話で盛り上がってたんだ?」 

 

「いやぁ聞いてくれよぉ!

 こいつが女子の方を眺めてたからさ、事情聴取していたとこなんだよ」

 

「ほぅ…」

 

そして彼女は俺の方を見る。

背筋に感じた悪寒は、蛇に睨まれた蛙の気分ということを言うものか。

 

「…君、この「バカ」の知り合いか?」

 

「えっ…バッ……?

 …えっと……中学のときの隣のクラス同士でな。

 あんま話したことないけど」


坂口をナチュラルにバカと呼ぶところからして、だいぶ仲の良い友人なのだろう。 

  

「そうか。

 まぁ慶太も悪気があって君をいじってるわけではない。

 気にしないでやってくれ」

 

「おい、何気に人のことバカと命名付けるな」

 

「私は小野々(おののぎ) (ゆかり)

 隣の一年二組で慶太とは幼い頃から近所付き合いの仲でな。

 こう見えて、小さい頃は慶太とよく遊んだものだ。

中学に上がる時に両親の仕事で引っ越ししてしまったが、私がこっちで暮らしたいと頼み込んで現在は母と二人暮しをしている」

 

「おい。

 俺を置いて話を進めるな」

 

おぉ、坂口が虫けらのようにスルーされている。 

 

「ちなみに女子を見てたとか言っていたが……誰を見ていたんだ?」

 

「ッ…!?」


そうだった。

小野々儀はそれが気になったんだっけ。

……答え方によってはこれから気まずい関係になりかねない。

どうにかこうにか良い返しを考えたものの、結局俺はしどろもどろに答えた。  

 

「えっと……そこの………本を読んでるやつ…」

 

名前は分かっていたが、あえて遠回しに指をさした。

気付いていないのか、海条祈世樹は本を読み続けていた。

 

「……あぁ「祈世樹」か。

 君、祈世樹に興味があるのか?」

 

「えっと…興味っつーか、なんつーか……」

 

「……?」

 

慶太と違って嫌味がないため、話を茶化したり濁すタイミングが見付けられない。

おまけに上手い取り繕い言葉も見つからない。

……詰んだ。

 

「そんなに気になるなら、私が紹介してやろうか?」

 

「えッ!?

 …いっ、いいよ別に!」


少し大袈裟に断ると、小野々儀紫は少し物足りなさげにため息をついた。 

  

「ふむ…。

 …まぁ、気が向いたら話しかけてやってくれないか?

 きっと………あの子も喜ぶよ。

 あの也だから、少々近づき難いかもしれんが……話せば楽しい子だよ」

 

「はぁ…」 

 

こんなガチガチ童貞に話しかけられて嬉しいのか?

 

「…そういや、小野々儀は海条と仲良いのか?

 何やら仲良さげ口調にも聞こえたが…」

 

「あぁ。

 祈世樹とは中学時代からの付き合いだ。

 仲も良いし世話にもなってる」

 

「世話?」

 

「…あの子は聞き上手でな。

 私の愚痴を聞いてくれたり、悩み事を一緒に解決してくれたりで色々と助かってるのだ」

 

「へぇ~…」

 

見た目通りっちゃ見た目通りだな。

てか、そんないい奴なのか。 

 

「…そろそろ私は教室に戻るかな。

 改めて、これからも仲良くしてやってくれ」

 

「あっ、あぁ。

 よろしく…な」

 

差し出された手に緊張しながらも握手を交わす。

下手をすれば俺よりも大きくたくましい手の感触に俺は少しビビった。

やがて小野々儀は俺たちから離れ、海条に声をかける様子を俺はこっそり聞き耳を立ててみた。


「やぁ祈世樹。

 元気でいたか?」 


「…紫ちゃん!

 うんっ、私は大丈夫だよ」 

 

『……おいっ、マジか…』 


小野々儀紫に声をかけられた海条祈世樹は、自己紹介の時とは打って変わって別人の様に明るく会話していた。

 

『…あんな風に話すんだな…』

 

そんな矢先だった。

 

「…そういえば、そこの碧乃とかいう輩がお前に興味があるそうだぞ?」

 

「ッ…!?」


俺は即座に目線を手元の教科書に向けて気づいてないフリを演じた。

それ故に海条祈世樹がどんな顔をしていたかは分からないが、おそらく沈黙を守っているとこからすれば、俺の事を何かしら見定めてるに違いない。

 

「…じゃあ私はそろそろ戻るが、また後で顔を出しに来るからな」

 

「……うん。

 待ってるね」

 

そして小野々儀紫はポニテをなびかせながら教室を出ていった。

 

「…ねぇ、今の子見た?

 超美人じゃない?」

 

「わかるぅ!

 背高いのに顔小さかったよねぇ!

 どこのクラスの人かなぁ」

 

『………』 

 

やはり小野々儀紫は目立つ存在だった。

立ち振る舞いというかなんというか、歩く姿でさえ絵になるというか…。

 

『俺も女だったら小野々儀に惚れてそうだった………あッ……』 


話の途中で俺は一つ、ある事を思い出して後ろを振り返った。 

      

「……」

 

スルーされていたことにふて腐れていたのか、坂口はそっぽを向いてスネていた。



 

 

 

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