27.巡り巡って夏祭り
梅雨が明け、暑い夏の季節が来ました。
「燈!
海行くぞ!」
「は?
…やだよ。
暑いし水着ないし冷たいし髪痛むし遠いし。
行く気しね」
「なぁんだよー!
今どきの若いもんが、そんなんで許されると思ってるのか!?」
「イインデス(°A°) 」
「ドヤ顔すんなぁぁぁッッ!!!!」
はい、ナイスツッコミ頂きました。
「なんだ、なんの話をしてるんだ?」
授業終わりに慶太と話をしてると、それを聞きつけた紫と祈世樹が来た。
「燈と二人で海行こうぜって話をしてたんだよ。
……水着ギャルをナンパしようぜってな」
「ふぇっ!?
な…ナンパ…///」
祈世樹は何を妄想したのか、顔を真っ赤にさせていた。
「な…ななッ……ナンパ…だとッ……!!!////」
紫は……まぁ、察しがつきますよね。
「…燈ッ!!
ナンパをするとは、本気なのかッ!!?
未成年の身分で正気の沙汰なのかッ!!!!」
「なっ、何で俺なんだよ…!
ちょ…マジで、息できなッ…!」
以前のように紫は理性を忘れて俺の胸ぐらを掴みあげる。
マジで女とは思えないゴリラかっつー馬鹿力であった。
……つか、なんで俺!?
「お、おい紫!
冗談に決まってるだろ!
マジで燈が死にかけてるから離してやれって!」
「…ほ、ほんとか…?」
「当たり前だろ!
こんな俺たちにホイホイ付いてくる女なんてそうそういねぇよ!(絶対とは言ってない)」
「……そうか…。
…そうだよな!」
ようやく力が緩み、俺は力なくへなへなと床に倒れ伏した。
「燈くん大丈夫!?」
祈世樹が駆け寄り心配してくれるも、俺の意識はこの世と別次元の狭間を行き来していた。
「大丈夫、大丈夫…。
ちょっと視界の向こう側で、綺麗なお花畑と二次元美少女たちが手を振ってたけど…ちゃんと戻ってこれたから」
「それって見えちゃマズいやつだよねッ!?
ていうか美少女が気になるッ!!」
まぁ見えてないけどな。
「…海水浴はあまり気乗りしないが、他に良さげなのならあるぞ」
そう言うと紫はカバンを漁り始めた。
「あった。
…これだ」
三人で紫の出してきたチラシを覗く。
『第20回 海上花火大会祭り』
「なぁるほど。
花火大会と来たか」
「まぁそれなら夏っぽくて良いかもな」
「私も、花火見に行きたい!」
「おっ、珍しく海条も食い気味か。
何か思い入れがあるのか?」
「思い入れと言うか、花火はよくちっちゃいのとかテレビで見るけど……実際の大会のとかは見たことないから、実際にどんなものなのか見てみたいの!」
「なるほどね。
海条がこう言ってるが、二人はどうする?」
「無論、祈世樹が行くなら私も同行するとも」
「俺もだ。
異論はない」
「よし。
じゃあ……来週の火曜日か。
来週の火曜日の夕方六時半に学校前で集合だ。
海条と紫は浴衣で来るなら俺たちの自転車で行くから歩きで校門前な。
燈、お前二ケツしたことあるか?」
「ないけど……たぶん大丈夫」
「まぁ海条なら平均女子より軽そうだしな。
二ケツ初心者のお前でも出来るっしょ」
「け…慶太!
女の子の事を軽いだの重いだのというのは失礼だぞ!」
「ん?
俺は一言も紫が重いなんて言っt…ゲバボァッ!!」
花火大会当日。
時刻は夕方の五時五十分を指していた。
約束の時間に合わせて校門前まで自転車で走ると、既に慶太が待っていた。
「…おっ、ちゃんと言われずとも甚平で来やがったな」
こちらに手を振っていた慶太もまた、柄違いの甚平を着ていた。
「うぃ。
早いな慶太」
「まぁな。
言い出しっぺが一番遅いってのもあれだしな」
「たしかに。
…紫たちはまだか?」
「まだだ。
お前が二人目だ」
そう言ってる矢先、遠くから声が聞こえてきた。
「すまない、遅れてしまった!」
三番目に来た紫は、朱色の生地に……よくわかんねー柄の浴衣に身を包み、髪も美容院で仕立ててもらったのかキャバ嬢の様なアップにし、下駄を鳴らしながら小走りで来た。
「いや、燈も来たばっかりだよ。
…海条は?」
「それが……迎えに行こうとしたら「少し遅れるから先行ってて」と。
待つと言ったんだが…大丈夫だとな…」
そう言った紫はどこか心配げにも見えた気がした。
ちなみに俺も個別に来たのは、のっけから浴衣姿を見られるのが恥ずかしいからと言われたからだ。
「心配か?」
「……少しな…。
こないだまでは私が祈世樹の面倒をみていたからな。
ここ最近は……少しだけ離れている気がして…」
なんか俺が祈世樹を盗ったみたいで毒気を感じるんだが。
「…大丈夫だよ。
祈世樹はお前を嫌いになったわけじゃないんだし」
「しかし…!」
「あいつはさ……成長したんだよ」
答えなき疑問に頭を悩ませる紫に俺は自信を持って答える。
「あいつさ、俺たちが思ってるよりもずっと大人になってるんだよ。
俺たちが気付いていないだけ」
「……どうしてそう言い切れる」
そんなの……答えなんて最初から決まってる。
「だって……俺は祈世樹の「友達」だからな。
祈世樹のことは、俺もちゃんと見てるから」
「あー……お二人とも。
海条のことで熱く語り合うのはいいんだが…………ご本人、いらっしゃいましたよ?」
「え…?」
「え…?」
慶太の声に振り返ると、申し訳なさそうに愛想笑いをする慶太の背後から、顔を赤くしてこちらを覗く祈世樹が居た。
「どっ、どうも…///」
祈世樹の一言に俺と紫は一瞬目線を合わせるも、すぐに逸らしてしまった。
「………聞いてた…?」
「……ッ///」
………帰っていいかな…?
それから俺たちは予定通りに花火大会が行われる海浜公園へと自転車を走らせた。
三十分ほどかけて現地につくと既に人気は多く、沢山の出店が並んでいた。
「…すっげえ人だかりだな」
「そうだな。
…祈世樹、はぐれないように手を繋ぐか?」
「むぅ…。
気を遣ってくれるのは嬉しいけど、私だって子供じゃないんだから」
「そっ、そうか…」
祈世樹に向けていた手を下ろすと、紫は少しだけ寂し気な顔つきでうつむいた。
「それはそれで、少しだけ寂しい気もするな…。
私にだって、少しくらい頼ってくれてもいいのに……んごふッ!!!」
「…さっきから何をボヤいているんだ慶太ぁ…?」
紫の表情を見た慶太がアドリブをいれていると、鬼の形相で紫が慶太の顔をフェイスクラッシャーでがっちり掴み上げていた。
「あ…あの……紫ふぁん…?
人前ふぇ暴りょふふぁ宜ひふないと思いまふふぁ…(汗)」
よく見ると慶太のやつ、地面に足着いてねぇわ(笑)。
「安心しろ。
こう見えて暗殺術にも覚えがあってな。
他人に気付かれぬようにお前を手にかけることなど容易い」
「ひっ…ひぃぃぃいぃッ…!
どうか命だけはぁぁぁ…!」
だんだん血色を失っていく慶太の表情は、入れ違いに恐怖に歪んでいた。
「安心しろ。
殺しはしない」
そう言うと紫は掴んでいた手を離し、慣れた手つきで慶太のこめかみの両部分にぶすりと親指を突き刺した。
「はぅぅッ……!!?
…………あっ、あれ…?
俺は一体何を……」
「ぬおッ!!?
慶太の記憶が飛んだーーーッッ!!!!」
俺が悪い意味で驚愕していると、紫は自慢げに鼻を鳴らして言った。
「ふふん、どうだ燈。
これが私の秘奥義………北斗s…」
「それ以上言ったらマジで著作権に引っかかるからやめとけ。
てか、お前いつから伝承者になったんだよッ!?」
「そうだな…。
あれは今から一ヶ月前に出会った老師がな……」
「それってもしや……なんか銅盤的なの貰ったりしてないか?」
「あぁ…。
……これの事か?」
そう言って紫はどこからともなく龍の形が彫られた古い手のひらサイズの銅盤を見せてきた。
「ま…マジかよ…」
「これを渡してきた老師が「お主は戦う運命にある。新たな伝承者となるために戦うのだ」とな。
だから「高校卒業して落ち着いたら考えとく」って言っておいたのだ」
「お前四千年の歴史絶対ナメてるだろッ!?」
「…とまぁ冗談はさておき、時間はまだあるみたいだから出店を見て回ろうか」
「う……うぅむ…。
なんか食いたいしな」
「私、綿あめ食べたい!」
あら、あなたはツッコまないんですね祈世樹さん。
「うむ。
各自、やりたいもの食べたいものもあるだろうから、二手に別れるか。
…今から三十分後、そこの出店の端側で落ち合おう」
「分かった。
じゃあ慶太のこと頼んだぞ」
「任せとけ。
燈も祈世樹のこと頼んだぞ」
「あぁ。
もちろんだとも」
「…なぁ。
俺は何でこんなとこいるんだ?
なんか……こめかみが痛てぇんだが…」
未だ記憶のままならぬ慶太をずるずると引きずりながら紫たちは人混みの中へと消えていった。
「…俺たちも行くか」
「うん」
「……あっ。
手、繋がなくていいか?」
もちろんセクハラ的意味ではない。
あくまでも紳士的な意味です。
「…大丈夫」
そう言うと祈世樹は俺の甚平の裾を掴んだ。
「…これでいい」
「…(´・ω・`)。
……まぁいいか」
紫たちの後を追うように、俺たちも人混みの中へと入っていった。
「すいません!
たこ焼き一皿ください」
「あいよ!
一皿、250円だよ」
「はい。
…ちょうどで」
「まいど!
ありがとうねー!」
威勢の良いおっちゃんから熱々のたこ焼きを受け取る。
パック越しでも分かる熱さは、出店ならではの新鮮味を感じさせてくれる。
「あとで一緒に食べような。
…祈世樹は綿あめ食べたいんだっけ?」
「うん。
……あっ、金魚すくい!」
祈世樹が指差す先に子供たちが水槽に群がっていた。
「…やりたいのか?」
「二匹だけならいいってリルドさんからは許可もらったから…」
「よし。
じゃあやるか」
「ふぇっ!?
でっ、でもすくえる自信ないよ…」
「任しとけ。
…すいません、金魚すくい一回やります」
「あいよ。
300円ね」
代金を渡しおっちゃんからポイをもらう。
そして俺はじっくりと金魚全体の動きを見極める。
「あー!
また取れなかったぁ…」
「お前下手だなぁ。
こーしてやれば……あっ、破れた…」
「秀一は勢いに任せすぎなんだよ。
こーゆーのはそっと静かにポイを入れて……うわっ、暴れるなっ!
…あー、逃げられた…」
隣で金魚すくいにふける三人の子供たちを祈世樹は寂しげに見つめていた。
『こういう時ぐらい男を見せねば…!』
袖まくりをして俺は気合いを入れる。
そして集中力を高め、金魚一匹一匹の動きを見つめる。
盛んに泳ぐ群れの中の一匹が動きを止めた。
「……そこぉッ!」
某パイロットのように、脇の下までくぐらせる勢いで俺は金魚をすくい上げた。
『ポチャン…』
宙を舞った金魚は小さな水音をたてて俺の左手に持ってた水皿の中に落ち入る。
その様子に祈世樹と子供たちは大いに拍手をしながら喜んでいた。
「すごい!
すごいよ空!」
「すっげー!
なんだ今の!」
「俺と同じ勢いだったのにポイ破れてねー!」
「暴れる前にすくい上げるとかやばっ…!」
「ふふふ…。
まだまだ行くぞ…!」
そして勢いづいた俺は二匹目、三匹目を立て続けにすくい上げたところで穴が空いてしまい、四匹目は狙えずに終わった。
「さすがだねぇ兄ちゃん。
見た感じ、なかなか上手だったけど…あんたプロかい?」
「いえ。
テレビで見たのを真似してみただけですよ」
「あんな技あるわけないだろ」と与太話をしてる間におっちゃんは手早く金魚を袋に入れて渡してくれた。
「はい。
大事にしなよ」
「ありがとうございます。
……ごめん祈世樹。
三匹も取っちゃったけど、一匹は俺が責任を持って育てるよ」
「ううん。
大丈夫」
祈世樹は金魚の入った袋を俺から取り、隣の子供たちに渡した。
「…どうぞ」
「え……いいの?」
「うん。
私が取った訳じゃないけど…ちゃんと大事に育ててね?」
そう言われ、子供たちは大喜びで金魚を受け取った。
「ありがとうお姉ちゃん!
ちゃんと大事に育てるよ!」
「ありがとうございます!
…よし、帰ろうぜ!」
「待って怜央!
俺まだ射的とくじ引きやってないんだよ!
…あ、ありがとうございますお姉さん、お兄さん!」
そして子供たちは走り去って行った。
「転んじゃだめだよー!」
裾を抑えながら祈世樹は手を振り見送っていた。
「…良いのか?
せっかくとったのに」
「…あっ……ごっ、ごめんなさい空!
…でもね………あの子たちが放っておけなくて…」
「……」
怒れるはずがない。
むしろ、あんな事を出来た祈世樹を見習わなければ。
「…兄ちゃんよ」
背後から金魚すくいのおっちゃんに小声で呼ばれ、俺はおっちゃんの元へ歩み寄る。
「…兄ちゃんの連れかい?
なかなかキモのすわった良い子じゃないか。
……金魚なんかよりも大事にしてやれよ?」
「なっ…!///
そっ、そんなんじゃ……!」
金魚すくいのおっちゃんはニカニカと笑いながらガッツポーズを突きつけた。
『……ありがとう、おっちゃん…』
「二人とも、こっちこっち!」
その後、わたあめとチョコバナナを買って俺と祈世樹は時間ギリギリに集合場所に着いた。
「すまん!
遅れた」
「いや、俺たちも今来たとこだ。
…そっちは何やったんだ?」
「たこ焼き食って金魚すくいやって、その後は綿あめとチョコバナナ食ったよ」
「なんだ、食ってばっかじゃん。
もっとこう…射的とかやんなかったのかよ」
「あー…。
やろうとは思ったんだが、先に子供たちがやっててな。
時間も時間だったし」
「それなら仕方ないか。
よし、じゃあ後で二人で勝負だ!」
「花火見てからな。
そろそろ行かんと間に合わんし」
「そうだな。
じゃあ少し急ぎ気味で行くぞ。
花火まであと五分みたいだから」
「お、おい…!
私たちは浴衣なんだから、あまり走れんのだぞ!」
「じゃあ小走りででも走れ!」
「もう、慶太は分かってないんだから…!」
そうは言いつつも小走りに紫は走っていってしまった。
「俺たちは歩いていこうぜ。
別に一発目を必ず見ないといけない訳じゃないしな」
「うん。
でもはぐれちゃうよ?」
「大丈夫。
スマホもあるんだし、見てる場所が違えど自転車は同じとこに置いてるしな。
問題ナッシングやよ」
「…そうだね」
そう言って祈世樹は履き慣れてなさそうな下駄を鳴らしながら歩く。
ふと、その後ろ姿に俺はつい口走る。
「祈世樹!」
「…?」
「………似合ってるよ」
「……ッ!?///
あ…ありがと…///」
説明し遅れたが、祈世樹の浴衣は水色の生地に色鮮やかな金魚柄の落ち着いた模様。
髪型も浴衣に合わせてか、ポニテに後ろ髪をまとめてから別の髪留めでアップにして止めた……いわゆる「アップ髪」と言うやつか。
正直、その辺の茂みに連れ込みたいぐらいです。
『…なんて考えはご法度か』
俺と祈世樹は手をつなぎながら海辺へと向かった。
花火が楽しみなのか、祈世樹の手は不自然に大振りをしながら歩みを進めていた。
「…すげぇ人だかりだな」
「うん。
空もはぐれないようにね?」
「ばぁか。
お前じゃないんだから、いなくなったりとかしねぇよ」
そう言って俺は祈世樹のおでこに軽くデコピンをかます。
「あぅっ!
……むぅぅぅ…!///」
「あっはっはっ、ごめんごめん。
……おっ、始まったな」
目の先の海の奥側から音もなく一発目の花火が打ち上がった。
間を置いて花火は綺麗な彩りを花開かせながら消えてゆく。
「おぉー。
これまた絶景だな」
「うん。
でも…花火って綺麗だけど……ちょっと寂しいよね」
「…寂しい?」
「うん。
…花火ってね、名前にもあるように「お花」と同じなの。
小さな蕾から綺麗な花が咲いて、寿命が来ればやがて枯れてしまう。
綺麗だけど……それが少しだけ寂しく感じるの…」
何もそこまで考えなくても…。
そうは思えど、それもまた海条祈世樹という人間だと言うことを知ってる以上、俺は反論など出来るはずもなかった。
「…けどよ、それこそが「命の美しさ」だとも俺は思うぜ?」
「美しさ…?」
「…花だって生き物だ。
生きていりゃいつかは枯れる。
蕾という子供から育ち、花という大人になってやがて種を残し枯れる。
…きっとその生き様には、色んな色や物語があるんだと思う。
花だって黙って生きてるわけじゃない」
「……そう…だね…」
申し訳なさげに笑う祈世樹の肩を俺は揉みほぐす。
「お前の思想は嫌いじゃない。
けどさ、もうちょい肩の力抜いて考えようぜ。
色んな思想を抱くのは自由だけど、それじゃ幸せを逃すぞ」
「…!」
花火の光に照らされ、祈世樹の目を見開いた顔が一瞬だけ垣間見えた。
「……空は優しいね」
どこか寂しげな声で祈世樹は花火を見つめる。
「…優しい訳じゃない。
これは……自分の本心を隠すための隠れ蓑だから…」
「…だとしても……本当に全部嘘なら、必ずどこかでボロが出るものだよ。
…嘘だとしても、空の優しさはすっごく暖かいもん」
「…祈世樹…」
後ろ手を組みながら祈世樹は俺に振り返る。
「………だよ……空…」
「…ん?
ごめん、花火の音でよく聞こえなかっt…」
『ドーーーン!』
何を言ったのか祈世樹に聞き返そうとした瞬間、夜空に大きな大輪の花火が打ち上がった。
「わぁ……すっごいおっきい!」
「ん?
おぉ…」
そろそろ終わりも近いのか、大きめの一輪や連続花火が目立ってきた。
俺と祈世樹は周りと同じように花火に見惚れていた。
けれど、握り合ったその手を離すことだけは絶対にしなかった。
「…見つけた!
花火すごかったな!」
「あぁ。
これは良い思い出になるな」
花火が終わり、道中合流した慶太たちと駐輪場へと歩いていた。
「…どうだった祈世樹。
花火は楽しめたか?」
「うん!
すっごく綺麗だった!」
修学旅行で巡った観光スポットの良さを伝える娘のような祈世樹の姿に、どこか親目線の気持ちで見ている自分がいた。
「さて…もう花火も終わったし、そろそろお暇するか」
「そうだな。
……あれっ、射的勝負いいのか?」
「あー、なんか気が変わったわ。
やめとく」
「そか。
…二人もあと見たいものとか食べたいものあるか?」
「私は十分だ。
…祈世樹は?」
「私も満足だよ。
みんなで帰ろ?」
「おしっ、意見がまとまった事だし、帰りぐらいゆっくり帰……ぁ…」
「どうした?
トイレか?」
忘れ物でもしたかと思ったが、慶太はわざとらしさ100%の演技を始めた。
「い……イヤァ、チョットワスレモノシタミタイデナー。
オレ、サキカエルワー」
「お、おい!
何だよその偽装紛いの下手くそ演技は。
…さては何か隠してるな?」
「アッ、モウ、コンナジカンダ!!
オレ、サキニカエルワー!」
「おい!
慶太てめぇ…!」
俺の文句も聞くまでもなく慶太は自転車で走り去っていった。
「なんなんだあいつ…」
そう呟いていると、紫も思い出したかのように口を開く。
「…二人ともすまない。
私もこっちで買い物を親に頼まれてたから……悪いが先に二人で帰っててくれないか?」
「は?
紫まで何を買いに行くんだ?
一人っつーのもあれだし、何なら俺たちも付き合うぜ?」
そう言うと紫は冷めた目つきで俺を睨んできた。
「お前………男の身でランジェリーショップに入れるのか?」
「すんませんでした。
どうぞごゆっくりご鑑賞なさってきてください。
紫様のお買い物に付き添うなど恐れ多いことこの上ありません」
予想通りの反応(?)に紫はクスクスと笑っていた。
「ふふっ……すまないな。
帰りはタクシーで帰るから大丈夫だ。
…じゃあ、また明日学校で…!」
「あぁ。
紫も気をつけて帰れよ!」
「ばいばい紫ちゃん!」
祈世樹が手を振ると、紫は走りながら手を振り返す。
「…俺たちも帰ろうぜ」
そう言ったものの、祈世樹はすぐに返事を返さなかった。
「……寄りたいところがあるの。
…付き合ってくれる?」
「あ…あぁ。
別に構わんが…」
そう言うと祈世樹は俺の手を取り歩き出した。
「…何にも見えねぇな」
祈世樹が連れてきたのは、先程まで花火が打ち上げられていた海沿いだった。
街灯はなく、月明かりだけが頼りのほぼ真っ暗な光景中、静かなさざ波の音しかなかった。
「私ね、海が好きなの。
…暗い所は苦手だけどね」
そう言うと祈世樹は少しだけ握っていた手に力を入れる。
…薄ら震えているのが分かった。
「じゃあ、なんで…」
俺が言い切る前に、月明かりのみで顔が見えにくい祈世樹が俺の顔を見て呟く。
「…空と一緒なら、どんなに怖い所でも平気な気がするの。
だからね……今だって怖くないんだよ?」
そう言って祈世樹は俺の肩に頭をくっつける。
『…周りから見れば、俺たちってカップルに見えるんだろうな…』
寄り添ってくる祈世樹に俺は胸が熱く感じていた。
きっと……これも「恋心」故の暖かさなんだろうな…。
砂浜に二人で座っているときだった。
「あっ。
…見ろよ祈世樹」
「…?
…うわぁぁぁ…!」
夜空に指をさすと、そこには綺麗な星が散りばめられていた。
その中に一箇所だけ見覚えのある星が見えた。
「見えるか?
…北斗七星まで見えるぞ!」
「ほんとだ!
本では見たことあるけど、本物は初めて見る…」
「あぁ、俺もだ」
アニメやマンガでは見たことあるが、まさに二次元そのままの輝きがそこにはあった。
すると突然、祈世樹が空に向かって手を伸ばしていた。
「何してるんだ?」
「…何かね……この情景が、まるで今の私たちみたいだなって思って…。
……空はこんなに目の前に居るのに、どんなに手を伸ばしても届かない。
…そう。
「空と世界」みたいだなって…」
「…ッ!」
…情けないかな。
その言葉に俺は涙が溢れてきてしまった。
やがて祈世樹は掴むことが出来なかった手で拳をつくり、それをそっと自分の胸に当てた。
「でもね、寂しくなんかないよ」
「え…」
月の光でわずかに見えた祈世樹は、美しい大人の笑みにも見えた。
「空と世界は、付かず離れずの距離にいるの。
近づき過ぎれば傷つけるだけ、離れすぎても苦しいだけ。
だからこの距離はきっと……空と世界にとって、最も最適な距離なんだと思う。
数字では計れない「心の距離」なの」
「……」
俺は……ただ泣いていた。
なんで……なんでそんな悲しいこと…。
俺は…「空」は………ちゃんとここにいるのに…!
「…せ……世界…。
……俺は…!」
何かを言おうと思うも、上手く言葉が出て来なかった。
「…帰ろ、空。
私はもう満足したから」
世界は俺の言葉を遮るように歩き出す。
「そう…だな…」
涙を拭い、俺は世界の後を追いかけるように隣を歩く。
歩きながら彼女の手をとると、彼女もまた俺の手を握り返してくれた。
気が付くと俺たちは「恋人繋ぎ」で歩いていた。
…すごく嬉しかった。
あの日のクリスマスの夜の想いが込み上げていた気がした。
だが、異変は突然襲ってきた。
「……ッ!!!」
「…?
どうかしたか?」
「ッ……」
祈世樹は何も答えなかった。
説明するならば、二人で歩いていた矢先、突然彼女は全身の関節が固まったかのように動かなくなってしまったのだ。
「おっ…おい…。
大丈夫か…?」
小さく荒い呼吸音だけは聞こえる。
やがて祈世樹は俺の方を振り返る。
「はぁ…はぁ…。
…空ッ……」
尋常ではない様子の祈世樹に俺はどうしようも出来ぬまま質問しか出来なかった。
「ど、どうしたんだよ?
どこか痛むのか…?」
過呼吸になりながらも、何とか正気は保てていた祈世樹はこう答えた。
「ううん…。
今、一瞬だけ…「憑かれかけた」だけ…」
「えっ…。
それって……霊とか憑依的なやつか…?」
「うん…。
でも…大丈夫…」
にわかに信じ難いことを祈世樹は言い放つ。
「……空のおかげで憑かれなかったのかも…。
ほんとにあと数センチの距離まで来たのに、急にいなくなったの…」
「…俺が…?
どうして…」
訳が分からなかった。
俺は昔から霊感などゼロだし何か修行をした訳でもない。
「恐らく………空の「気」が役立ったんだと思う。
だから居なくなったのかも」
「「気」?
それって、アニメとかでよくある「オーラ」ってやつか…?」
「うん。
…空からは強い…とは言い難いけど………電気的な気を感じるの。
普通の人とは違う気質なの」
「ん〜……」
そう言われてもよく分からない…。
「…なぁ。
気ってのは、もしかして性格に関係あったりする?」
「そうだね。
…空って人混みとか嫌いだよね?」
「…まぁな」
正確には「他人」が苦手なのだ。
ガキの頃から人見知りっ気の強い俺は、いつしか他人そのものを嫌うようになっていた。
「お前や慶太たちみたいに仲の良いやつは普通なんだけど、関わりのない……「赤の他人」に部類する人間は基本的に嫌いだな。
…それが原因なのかな」
「…分からないけど、たぶんそこだと思う。
普通の人はもやもやっとした丸みのある気なんだけど、空の場合は少し電気的で痛いの。
…ちょっとイメージしてみて?」
「イメージって…どうすりゃいいんだ?」
「手の平から電気を発生させるイメージをするの。
私の手に触れながらね」
「…わかった」
祈世樹の指先を掴みながら、俺は目を閉じてイメージをする。
「……痛ッ…!」
集中していた矢先の祈世樹の声に思わず俺は手を離してしまった。
「あっ…ごめん、大丈夫?」
祈世樹は自分の手を動かしながら確かめるように見つめていた。
「…へーき。
でも、これのおかげで私は憑かれなかったんだと思う」
にわかに信じ難い話だが、今はそういう事にしておこう。
「…とりあえず帰ろか」
「…そうだな」
時刻は九時直前であった。
連絡はしてると思うが、あまりリルドさんたちを心配させたくはない。
『色々と聞きたいことはあるが、それはまた明日かな』
その後、祈世樹を家に送るまでは何事もなく帰れた。
……ほんと、こう言うのもあれだが……一緒に居て飽きないやつだと、心のどこかで俺は思ってしまった。




