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拝啓、空と世界へ  作者: 鷹利


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26.「アイ」対する想い

翌日、祈世樹はいつも通りに登校してきた。

「いつものように」笑い「いつも通り」話していた。


「それでな、昨日のドラマに出てた舎弟役の俳優に惹かれてな。

 ネットで調べてみたら、まだそれ程人気のある俳優ではなかったみたいなのだ」

 

「ほぇ〜。

 紫ちゃんそういう人好きだもんね」

 

紫と話す時も至って普通だった。

でも烈火たちの存在を認識した今、俺は少し動揺していた。

 

『あーして話してるけど、どこかでボロが出たりしないかな…。

 いちごとか興味本位で出てこなきゃいいが…』

 

そう心配はしてたものの、そこまで必要に至ることは無かった。

 それは昼食を終えていつも通りラノベを読んでいた時だった。

 

「…空…」

 

「ッ!?

 …なんだ祈世樹か…」

 

顔を上げると、気配もなく祈世樹が俺を見下ろしていた……と思っていた。

 

「…烈火」

 

「え…?」

 

よく見ると、見覚えのある冷たい眼差しが向けられていた。

 

「…あぁ、烈火か!

 …学校で出てきて大丈夫なのか?」

 

「平気。

 祈世樹の真似をするのはそう難しいことは無い」


そう言うと烈火は小さく咳払いをした。  

 

「こほん…………こぉらぁっ!

 ラノベを読んでる暇があるなら、もっと私にかまいなさぁいっ!

 ………こんな感じかしら」

 

それはそれは、見事なまでの作りもの125%臨界突破レベルのロリボでした。

…てか、本人以上に可愛かったんですけど。

 

「…納得いってないみたいね。

 祈世樹が昨晩読んでたライトノベルのキャラクターがそういう口調だったのを真似してみたんだけど…。

 間違ってたかしら?」

 

「そりゃそうだよ!

つーか祈世樹の頭脳の一部なら祈世樹の思考と言動ぐらい分かるだろ。

…さては……わざとやったな?」

 

「あら、何のことかしら?」


そう言いつつ烈火はそっぽを向いていた。

 

「お前がいるってことは、何かあるんだろ?」


「…大したことじゃない。

 祈世樹が昼食の弁当を忘れたので、貴方に昼食代のお金を借りようと思って来てみた」

 

「そういう事か。

 それぐらいは別にいいけど……それだけじゃないんだろ?」

 

表情こそ変わらぬものの、烈火には驚きの色が見えた気がした。

 

「…勘がいいのね。

 まぁ、簡単な情報収集かしらね」

 

「情報収集?」

 

「そう。

 私たちは祈世樹と同じ視覚・感覚・情報を共有している。

 けれど、どうしても相手の細やかな情報を知るには、実際に相手の目を見て話さなければならない。

 これから先、祈世樹に何かあれば、私が彼女を演じなければならない。

 そうなると、相手の細やかな情報を掴んでおかねば私が怪しいと疑われてしまう。

 それ故の対策に、今こうして少しだけ出ているというわけ。

 …もちろん祈世樹の許可は得ている」

 

「はぁ…」

 

烈火の話は分かりやすいがとにかく長い。

正直、誰かに聞かれてるんじゃないかと不安ではあった。


「こないだ言ってた「シンクロ率」とかも大丈夫なのか?」 


「それも問題ない。

 長時間の入れ替わり、過度な運動、大きな精神の動揺が無ければ急激的に上がることは滅多にない」 

 

「なるほぉね」 

 

何となくだが、烈火に問いかける質問の答えは思ったより単調過ぎて、聞くよりなら考えろと思ってしまう。 

   

「そういや…」

 

「燈ー!

 今日の放課後にゲーセン行こうぜ!

 俺が仕入れた情報によれば、新しいパチンコ台が入ったみたいだからさっ、お前も一緒に行こうぜ」

 

「…ッ!?

 あぁ、俺はかまわんよ。

 烈k……ごほん!

 祈世樹はどうする?」

 

「うん。

 私も行きたいんだけど、委員の仕事あるから…今日は行けないかも…」

 

「そっか。

 紫も部活あるみたいだしな……俺たち二人で行くか」

 

「そうだな。

 委員の仕事終わるの待つにしても時間かかるしな」


「ごめんね。

 二人で楽しんできて」

 

そう言って祈世樹……烈火は俺から昼飯代を貰い購買へと飯を買いに行った。  

色々と聞きたいことがあったが、とりあえず放課後のゲーセンに行くことだけを考えることにした。

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして放課後、予定通りに俺と慶太はゲーセンに着き新しく入ったパチンコを打っていた。

 

「あーまたハズれた!」

 

「またかよ。

 これで三回目だぞ?」

 

さっきからやかましい慶太は、俺の隣でバトル物のアニメの台を、俺はホラー系のパチンコを打っていた。

 

「お前なんて動きがあっていいじゃないか。

 俺なんて今のところ一回もアツいの来てないのに」

 

「けどよぉ…」

 

やかましいわ。

むしろ羨ましいぐらいだわ。

 

「…おい。

 あれ……海条じゃないか…?」

 

「は?

 あいつ委員の仕事で来れないはずだろ………お?」

 

台のガラス面越しに後ろを見ると、微かにこちらに手を振る祈世樹が見えた。 

そのまま見続けていると、こちらに走ってきた。

 

「燈くーん!

 慶太くーん!」

 

掛け声とともに背中に強い衝撃を感じた。

 

「見つけたー♪」

 

衝撃を感じたと思いきや、今度は祈世樹が後ろから俺に抱きついてきた。

てっきり今度はいちごが出てると思ったが、雰囲気的に祈世樹本人な気がして少しムラムラした(照)。 

 

「えへへー、捕まえた……ッ!?」

 

突然声をつまらせ、祈世樹は黙り込んだ。

 

「…どうした?

 ……あー…そういう事な」

 

直ぐに祈世樹が黙り込んだ理由に気付いた。

…俺は今、パチンコを打ってる。

そしてその最中に後ろから祈世樹が抱きついてきた。

となると……。

 

「お前………ホラー系ダメなのか…?」

 

「…(; ´・ω・`)…」

 

そゆことですか。


「…もうちょい打ちたいから、お前はUFOキャッチャーでも見てくれば?」

 

「うー…。

 ……ここで見てる…」

 

「いいのかよ。

 別に無理しなくていいんだぞ」

 

「大丈夫……がんがるッ…!」

 

あ、噛んだ。

 

「大丈びッ……怖く……ないもん…!」

 

はい、噛みました。

 

「まぁお前に合わせてやりたいとこだけど、せっかく座れた台だからもうちょい打たせてもらうよ」

 

「わかった…。

 ……がんがるッ!(*`·ω·´)」

 

わざとじゃないだとッ!!?

 

「ま…まぁお前がいいならかまわんが…」

 

「(*´・д・)*´。_。)ゥミュ」

 

今のは…噛んだのか…?

……大丈夫かな…(汗)。

 

「心配すんな海条!

 何かあったら燈が守ってくれるさ!」

 

どうしろと。

つか俺にゲタを預けるな。 

 

「ふえぇ…。

 燈くん、助けてくれる?」

 

「…まぁ…な…」

 

ビビらせてるのは俺だけど。

 

「じゃあ、ちゃんと守ってね…?」

 

どう守れと言うんですか祈世樹さん。

ゲーセン内でいきなり抱きしめればいいのですか?(照) 

 

「ちなみに燈さん。

 海条さんを守る時はどうするんですか?」

 

「なッ…!

 図ったな慶太ぁッ…!!!」

 

「ぎゃっはっはっはっ!」

 

同じ味方にハメられた某モ○ルスーツのパイロットの如く断末魔をあげると、それを聞いたキチガイが大笑いしやがった。

 

「ふははは!

 燈よ、お前の生まれを恨むがいい!」

 

「くっ…。

 慶太…貴様ぁッ…!」

 

苦しそうに胸を抑えると、状況を理解出来ていない祈世樹が慌てふためく。

 

「あ、燈くん大丈夫!?

 胸が苦しいの!?」

 

動揺した祈世樹はパニクりながらも俺の背中をさする。

もちろん苦しくなどない。

 

「…あ、当たった」

 

パチンコから聞こえてきた効果音に画面を見ると、既に図柄が揃っていた。

 

「見ろよ祈世樹!

 ようやく当たったよ!」

 

「……」

 

振り返ると祈世樹は俺から離れ、柱の陰から覗いていた。

そのコントの様なやり取りに慶太は腹を抱えて笑っていた。

 

『……何だこれ…( ˇωˇ )』

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、俺がパチンコを終えても祈世樹は口を聞かなかった。

それどころか、帰る道中でさえ口を聞かなかった。

ちなみに傍観席の慶太は「久々に腹ちぎれるだけ笑わせてもらった」と余韻を残しつつ、満足気に一人帰った。

  

「…なぁ祈世樹。

 いい加減、機嫌直せよ。

 そりゃ俺も意地悪し過ぎたけどよ…」

 

「……」

 

「…はぁ」

 

何を言っても反応はない。

完全にオワタ。

 

『……そうだ…』

 

俺はあるアイデアを思いつく。

 

「…なぁ祈世樹。

 まだ時間大丈夫か?

 大丈夫なら行きたいとこがあるんだが…」

 

「……」

 

返事はない。

だがそれは同時に大丈夫と言ってるものでもあった。

 

「…大丈夫ならちょっと付き合って。

 行きたいとこがあるんだよ」

 

「……」

 

それでも祈世樹は喋らない。

そんな祈世樹の手を少しだけ無理やりめに離れないように手を引く。

嫌がられるかと思ったが、祈世樹は沈黙を守ったまま俺に付いてきてくれた。

 


 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

ゲーセンから自転車で約二十分。

俺たちはとある観光物産館の裏にある海辺に着いた。

 

「…ここだ。

 いい眺めだろ?」

 

地元民なら誰もが知る場所。

タイルが敷かれた中を自転車を引きながら設置されているベンチの横に停める。

俺は祈世樹の手を引いて目の前の海の中を覗き込む。

もちろん滑落防止の柵はあるため、身を乗り出さない限りは問題ない。

 

「…海っていいよな。

 波の音を聞いてるだけで自然と心が安らぐ。

 岸壁にたまに小魚とか泳いでたりしてるのを眺めるのも楽しいしな。

 ……こんなんしか見せられないけど…さっきはごめんな」

 

そう言うと祈世樹はゆっくりと俺の手を離れ、柵に手をかけて海を眺める。

風になびく祈世樹の髪は、少しだけ彼女を大人の女性に見立ててくれた。

 

「……ここね、昔来た記憶があるの」

 

「…ッ!

 そう…なんだ…」

 

ようやく祈世樹は口を開いてくれた。

その様子に少しだけ安心感を得た。

 

「…小さい頃にね。

 あれは……私が四歳ぐらいの時かな。

 ここで親子三人でおさんぽした記憶があるの。

 …私はお父さんの肩車でここを眺めていた。

 お父さんの肩の上ではしゃぐ私をお母さんは隣で笑って見ていた。

 ……それだけなんだけどね」

 

「思い出…か…」

 

公園の方に視線を向け、祈世樹は過去の記憶を一人、呼び覚ますように見つめていた。 

 

「それだけが、唯一私の記憶に残ってる家族との思い出。

 私がかつては幸せだったことを思い出させてくれるの」

 

「そっか…」

 

銀縁メガネの縁から見えた祈世樹の目には、少しだけ涙が滞っていた。

 

「…たまにね、自分の存在意義を疑うことがあるの。

 私は生まれてきて良かったのかなとか、望まれて生まれた子なのかなって…」

 

「……何でだよ…」

 

そうは言うものの、俺自身どこかでその答えを知っている気がした。

 

「…空は覚えてるよね。

 私はかつて、孤児院に預けられた孤児だったことを。

 それはね、私を育てる上で経済的に軋轢が生まれたからだと思う。

 仕事から家に帰っても父は酒に浸るようになって、幼かった私に暴言や暴力を振るうこともあった。

 …少しだけ、それを思い出して虚しくなることがあるの」

 

祈世樹の声はだんだん弱々しくなってゆき、そのうち顔を伏せて泣いてしまった。

かける言葉が見つからない俺は、祈世樹をベンチに座らせて背中をさすることしか出来なかった。


「……お母さんは……毎日苛立っているか泣いてるかだった。

 私が怒鳴られたり殴られる度に止めに入るも……その都度同じく殴られていた。

 その光景に私は殺されるかもしれないという恐怖に部屋の隅で縮こまって震えて泣いた。

 ……やがてお母さんは自分も傷つけられることを恐れてか、途中から止めに入ることはなくなった。

 ……それからしばらくして、西浜さんの所に連れてこられて……あぁ、私はやっぱり要らなかったんだって悟って………」 


やがて祈世樹は鼻をすすりながら俺に寄り添った。

そっと俺は彼女の肩を抱くことしか出来なかった。 

 

「ここでもひどい扱いをされるのかなって最初は諦めてた…。

 けど、西浜さんたちは私に両親以上に優しくしてくれた。

 他の子供たちの中には私より小さな子もいたけど、決して辛そうな顔は見えなかった。

 リルドさんは温かいご飯と優しさを……西浜さんは幸せな時間と希望を与えてくれた……。

 …嬉しかった…。

 あんなに優しくされたの……本当に久しぶりで……私、ここに居ていいんだって思えた…。

 中学でもたくさん辛いこともあったけど……負けたくなかった…。

 …紫ちゃんとあなたにも出会えたから、私は変われた…」

 

俺は何も答えなかった。

ただ黙って祈世樹の言葉を待った。

 

「紫ちゃんからは「強さ」を……空からは「愛する」ことを教えてもらえた。

 それはね、私にとって大事なものでもあり、不足していたものでもあるの。

 リルドさんと西浜さんから貰ってたものとはいえど、二人には遠慮していたところもあったから………紫ちゃんと空のは……素直に受け止められた…」

 

「…そうか…」

 

「だから……中学時代に紫ちゃんが声をかけてきたとき、不安と同時に希望もあったの。

 「この人は私を助けてくれるかもしれない」って」

 

「…そっか」

 

「それとね…「お前のことは私が守ってみせる」なんて言ってくれたの。

 ……すごく嬉しかった」


あんなイケメンに言われたら誰だってそうなるよな。

 

「あの時は、修学旅行の積立金が無くなってすぐの事だったから、すごく嬉しかった」

 

「…そうだよな…」

 

それなら納得もいくってもんだ。

誰だって、一人で苦しんでる時に手を差し伸べられたら、ついその優しさにすがりたくもなるよな。

 

「それからしばらくして…空に会えた。

 空は………不思議な感じがしたの」

 

「…不思議な?」

 

「うん。

 …自己紹介で初めてあなたを見た時、どこか惹かれるものを感じたの。

 なんか……「同じような孤独」って感じかな」

 

まぁ中学時代はぼっちだったしな。

 

「それからあなたのことを観察してて、よく本読んでるからどんなの読んでるのかなって思ったりして…不思議とあなたの事が気になって仕方がなかったの」

 

「…俺も、自己紹介の時に耳でお前の声を聞いた時、どこか惹かれるものを感じた。

 他の奴とは違った色の声に聞こえてな…。

 それから興味がわいたというか…な」


「そうなんだ。

 少し、照れるかな…」

 

そして少しだけ間ができる。

地味に苦しいこの切羽詰まった沈黙を破ったのは祈世樹だった。

 

「…私ね、一つ訂正したいことがあるの」

 

「…?」

 

祈世樹は風にショートボブの髪をなびかせ、大人びた笑顔で俺の目をまっすぐ見つめる。

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私………あなたが好きです…。

 あの時は断ったけど…やっぱり私も………あなたが好きです」 


 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

それは間違いなく、誰が聞いても納得出来るほどの……告白だった。

 

「……それ……本気で言ってるのか?」

 

祈世樹に恥じらいはなかった。

 

「…はい。

 ……他でもない、あなたが好きなのです」

 

「……」

 

答えなど出せるわけがなかった。

そんな唐突な告白、どう応えろと…。

 

「祈世樹……俺は……」

 

俺の言葉を遮るように視線を離し、祈世樹は再び水平線を眺めた。

 

「分かってるよ。

 でも………それはまだ「好き」のままですか?」

 

「…ッ!!」

 

さっきまでの空気と一変、祈世樹の言葉には迷いがなかった。 

 

「私は……とっくに「好き」を通り越しましたよ?」

 

「……」

 

…ズルい女だと思った。 

恥ずかしながら、俺は何も答えられなかった。

 

「…そろそろ帰ろっか」

 

「……あぁ」

 

手を引く間もなく、祈世樹は自ら歩き出す。

俺は後を追うように祈世樹を追いかける。

その最中、そこから見えた祈世樹の後ろ姿は、どこか大人の凛々しささえ感じた。 


『…俺って……こんなにちっぽけだっだっけ…』

 

 

  

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