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拝啓、空と世界へ  作者: 鷹利


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26/40

25.訪問者

六月中頃の梅雨の時期のこと。

いつも通り祈世樹とゲーセンで遊んで家に帰る途中にゲリラ豪雨が降り、急遽俺たちは俺の家へと走っていた。

今日は母さんが仕事である故に、家には誰もいなかった。

 

『…い、いや!

 別にそういう展開を期待してるわけではねーよ!?

 …斎藤春樹の事もあるし……』

 

それはさておき、俺は祈世樹と家に入り部屋に招き入れた。

 

「…入って。

 ちょっと汚ぇけど、そこはあまり気にしないでくれれば助かる」

 

「うん…」

 

寒さの影響か、かつてのトラウマからか、祈世樹は声を出すのでやっとの様子だった。

 

「部屋にタオルあるからくるまって待ってて。

 今温かい飲み物持ってくるから」

 

「ありがと…」

 

祈世樹をタオルにくるませて俺はリビングに降りる。

台所の電気ケトルでお湯を沸かし、適当にお菓子を棚から漁る。

ケトルがパチッと煮沸完了の合図音を鳴らし、耐熱カップにホットレモンの粉をお湯で溶かす。

 

『こんなものかな…』

 

二人分のホットレモンと用意した菓子を持って部屋の前に立つ。

 

「入るぞ」

 

返事こそなかったものの、大丈夫と判断した俺は部屋に入る。

 

「……」

 

出る前と同じように祈世樹はタオルにくるまっていた。

 

「ホットレモンとお菓子持ってきたから食べて」

 

「ありがと…」


「…?」 

  

…おかしい。

いつもの祈世樹なら、目もくれずお菓子に喜んで飛んでくるはず。

まぁ雨で弱ってるだけと信じたいが…。 

 

「大丈夫か?

 どこか痛むか?」

 

「…大丈夫。

 気にしないで…」

 

確かに、いつもの祈世樹もこうして強がる癖はあった。

 

「…ほんとにか?」

 

「えぇ…」

 

…どことなく気に入らなかった。

何を思ったのか、俺は自分でも訳分からんセリフを投げかけた。

  

「……お前……誰だ…?」

  

あまりにも馬鹿げたことを聞いたと思った。

きっと「何言ってるの?」なんて言われるに違いない。

だが、現実は違った。

 

「……」

 

反応もない。 

それこそが彼女の答えだった。

少しだけ追い詰めない程度に問い詰めてみることにした。

 

「…お前は誰だ。

 祈世樹ではないな」

 

自分でも厨二病クサいとは自負してたものの異議はなかった。

やがて「彼女」はゆっくりとこちらに身体を向けた。

 


 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

「……私は………海条祈世樹ではない」

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

普通なら耳を疑うセリフだが、俺には自然的すぎるほど馴染む言葉だった。

 

「……じゃあ……誰なんだよ…」

 

ひどく暗いその目に光は無かった。

それでも、その目はまっすぐ俺を捉えていた。

 

「……烈火」

 

「…え?」

 

ボソリと呟くその声は、確かにその者の名を示していた。

 

「私は………「浅桐烈火(あさぎり れっか)」」

  

表情に留まらずその声にも色はなかった。

 

「それが……お前なのか」

 

「そう」

 

絶えず色のない声は俺の身に突き刺さるように淡々と吐き出される。

正直、騙されてる気もするが、祈世樹がそんな矮小な嘘をつく人間でないことを俺は知っている。 

 

「…なんでお前はそこにいる…?」

 

浅桐烈火と名乗ったそいつは一呼吸置いてから口を開いた。

  

「私は……生み出された人格。

 祈世樹の意志とは関係なく「私たち」は生まれた」

 

「私たち…?」

 

その声に躊躇などない。

ただあるがままの真実を語っていた。

 

「そう。

 生まれたのは私だけではない」

 

「ほぉ。

 他に何人居るんだ?」

 

「私を含めて、五人」

 

「ほぉ〜…そんなにかぁ…………はぁッ!!?」

 

普通に耳を疑った。

こいつ………何を言ってるんだ…?

 

「つまり………「多重人格」ってやつか…?」

 

「そう。

 私は祈世樹の「人格の一部」。

 祈世樹から人格の一部をもらって存在している」

 

「つまり……他のやつも同じって事か?」

 

「そう。

 私は祈世樹の「頭脳」をもらって存在している」

 

「頭脳?

 ……思考的人格ってこと?」

 

「その通り。

 私は祈世樹の思考的人格をもらってここにいる。

 それ故、私には感情が存在しない」

 

そーゆー事ね。

 

「じゃあ他の人格は「性格的人格」をもらってると?」

 

「…理解が早くて助かる」

 

そう言って祈世……烈火は俺の顔を覗き込んでくる。

 

「なっ…何だよ…」

 

冷たい眼差しにいたずらっ子のような意志は感じられずも、俺の目を観察するように見つめていた。

 

「……噂通り…綺麗な瞳…」

 

「…えっ?」

 

俺の目を覗き込みながらそう呟くと、烈火はゆっくりと離れた。

 

「…祈世樹が言ってた。

 「空は綺麗な瞳をしている」と。

 その事実確認をしたかった」

 

「へっ、へぇ〜…。

 そうなんだ…」

 

何だか歯がゆい。

 

「…他の子とも話してみる?」

 

「他のって…。

 …さっき言ってた、お前とは違う別人格のやつの事か?」

 

「そう」

 

興味はある。

…少しだけ。

 

「じゃあ……代わってくれ」

 

「…分かった」

 

そして彼女はゆっくりと目を閉じながら言った。

 

「身体、支えてて」

 

「あっ、あぁ…」

 

肩を抑えると祈世樹の身体はガクッと脱力した。

少しすると、再び彼女は起き上がった。

 

「…んぅ……ふあぁ~…。

 ……あら、空さん……ですね」

 

「うぇ…?

 そっ……空さん…??」

 

再び意識を取り戻した彼女は、烈火とはまた違う雰囲気だった。

俺を視認したそいつは、ベッドから降りて制服のスカートの裾をつまみ上げながらお辞儀をした。

 

「初めまして。

 (わたくし)麻利亜(まりあ)・リンスレット」と申します。

 以後、お見知りおきを…」

 

その上品な振る舞いから俺はすぐに悟った。

 

「マリア……か。

 お前は祈世樹の「大人の人格」だな?」

 

マリア(漢字面倒臭いから省略)と名乗ったそいつは、眉を上げて軽く驚いたように口に手を当てた。

 

「よくお気付きですね。

 …えぇそうです。

 私は祈世樹さんの「大人の性格」の一部分をいただいておりますの」

 

「ほぉ…」

 

聞けば聞くほどすごい連中だな。

 

「つまり、マリアが「大人の性格」なら「子供の性格」もいるってことか?」

 

「えぇ。

 それは「いちごちゃん」ですね」

 

「はぁ…(汗)」

 

最早何でもありな名前だな。

 

「…あのぉ〜…。

 お一つ、お聞きしてもよろしいでしょうか…?」

 

「なんだ?」


マリアはおもむろに申し訳なさそうに質問してきた。 

  

「…紅茶はありますでしょうか?

 私、少しだけティータイムがしたいのですが…」

 

「…残念だが、うちはそこまでお上品で貴族めいたオシャンティーファミリアではないもんで生憎、糖分高めのコーヒー牛乳ぐらいしかないよ」

 

はっきりそう言うも、最初から分かっていたかのようにマリアはクスクスと小さく笑った。

 

「あら、残念です。

 …まぁ冗談はさておき「いちごちゃん」と代わりますか?」

 

「そうだな。

 大体の聞きたいことは烈火から聞いてるし」

 

「そうですね。

 祈世樹さんのことや私たちのことに関しては、烈火さんが一番把握してますからね。

 …では代わりますので、また身体を支えてもらっていいですか?」

 

「あぁ。

 いつでもいいよ」

 

「ありがとうございます。

 では、また話せる機会があればお会いしましょう」

 

そう言って彼女もまた脱力する。

そして同じくらいの時間で再び意識を取り戻す。

 

「ん〜〜〜……ふみゅぅ…」

 

「起きたか。

 お前が……「いちご」か?」

 

名前を呼ばれたそいつは眠そうに目を擦りながら身体を支えていた俺に視線を向ける。

 

「…あっ………「ごしゅじんさま」ーーー!」

 

「えぇえぇぇぇぇぇぇッッッ!!!?」

 

ひとたび振り返り、俺を認識すると同時に彼女は俺に抱きついてきた。

 

「ちょ…!

 お、落ち着け…!///」

 

「えへへ〜。

 やっとごしゅじんさまにあえた〜♪」

 

…すごく………動揺してます。

 

「おまッ……君がいちごちゃん…だな?」

 

「うん!

 いちごのなまえは「れんにゅーいちご」っていうの!

 んとねぇ…きせきちゃんの「こどものせーかく」をもらってるの!」

 

「そっ、そうなんだ…」

 

分かってはいたとはいえ、これ程甘えん坊なお子ちゃまとは……。

 

「えへへ〜、ごしゅじんさまぁ♪」

 

「…その……なんでいちごは、そんなに俺のこと好きなんだ?

 それと……なんでご主人様…?」

 

すりすりと未だに俺から離れようとしない彼女を落ち着かせるため、なんとか質問を投げかけてみた。

 

「んとねー…。

 それはね、ごしゅじんさまはいちごがだいすきなひとだからなのっ!」

 

子供の純粋さには勝てない自分は汚れた人間だなと思いました。

 

「それと、ごしゅじんさまってよぶのはぁ……きせきちゃんにそういう「がんぼー(?)」があるからなの!」

 

「が、願望…?」

 

「うんっ!」

 

意味を分かってないのか、はたまた良い意味だと勘違いしてるのか、満面の笑みでいちごは答える。

てか……笑顔がまぶしすぎて溶けてしまいそうです。

…とは言え、中身こそいちごであっても身体は祈世樹そのもの。

それがこんなに密着してくるのはすごく理性に響く…。

 

「とりあえず…一旦離れような?

 お話しにくいからさ…///」

 

俺の腹に顔を一生懸命ぐりぐりと埋めるいちごに多少の嘘を混じえて聞いてみた。 

 

「え〜〜〜……。

 いちご、ごしゅじんさまにぎゅーってされたいの!(*`・ω・´)」

  

目の前にいるのは、どうやら対俺用の殺人兵器のようです。

 

「あ…後でな…?

 …ほら、お菓子もあるからお食べ?」

 

「おかしっ!?

 たべりゅーーー!♪」

 

そしていちごは一瞬で俺から離れ、お菓子に飛びつく。

だが、すぐにお菓子に手は付けず何かに警戒していた。 

 

「うぅー…。

 いちご…あちゅいのにがて…」

 

そう言ういちごは猫のように未だ湯気の立ち昇るホットレモンに警戒していた。 

 

「まだ飲んでなかったのか。

 ……ダメだよいちご。

 好き嫌いしてると素敵なレディになれないんだよ?」

 

「ふえぇ…。

 じゃあ……のむ…」

 

さっきとは一転、ものすごくしおらしくなったいちごは、ふーふーしながら少しずつゆっくりとホットレモンを飲んだ。

 

「んー…!

 しゅっぱ………でもあまっ…♪」

 

つまりは祈世樹も猫舌ということかな。

 

「まぁでも、よく飲めたな。

 これでいちごも立派なレディになれるぞ」

 

「ほんとっ!?

 いちご、すてきなれでぃになって、ごしゅじんさまのおよめさんになれるっ!?」

 

「ぶふぉっ…!?

 そ……それは子供にはまだ早すぎます!

 もっと、いちごも大人になったら考えてやるからな?」

 

「うんっ!

 いちご、すてきなれでぃになる!」

 

とは言っても、人格だけが子供であれば育つことなはいんだけどね。

 

「…そろそろもう一人に代わってもらえるかな?

 そいつとも話してみたいからさ」

 

「むぅー…!

 いちご、まだごしゅじんさまとおはなししたいー!」

 

これはまた一番厄介な人格だなぁ…。

 

「じゃあさ、今ここでお話するのと、言うこと聞いてくれたらぎゅーってされるのどっちがいい?」

 

「ふえぇっ!?

 ………ぎゅーっされたい…」

 

「よし、いい子だな。

 ご褒美に頭なでなでもしてやる」

 

「ワァ───ヽ(*゜∀゜*)ノ───イ!

 ごしゅじんさまのなでなですきーー♪」

 

「…?

 どういうことだ?」

 

いちごの言い方からすると、まるで以前にもされた事があるような言い方にも聞こえた。

 

「んとね、きせきちゃんのなかからいつもみてたの。

 だから、いつかいちごもなでなでされたいっておもってたの!」

 

「そうだったのか…。

 …ほれ、よしよし」 

 

「えへへー♪

 きもちーのー♪(*´ω`*)」 

 

満面の笑みで幸せそうになでられるその顔は、完全にデレた祈世樹の顔そのものだった。

 

「むぎゅーっ♪」

 

してやると言ったのに、向こうからしてきちゃいました(照)。

 

「しょうがないなぁ…。

 ほら、ぎゅーっ」

 

「んーっ♪

 ごしゅじんさまのぎゅーっあったかい♪」

 

さっきよりも子供じみた力で強く抱きしめてくる。

ある程度してから俺は優しくいちごを離した。

 

「…さっ、おしまいだよ。

 また今度しような」

 

「うん!

 いちご、すごくうれしかった!」


何と愛らしい笑顔なのか。

…市役所で特許を貰えば持ち帰ってもいいでしょうか?

  

「でもね…もうひとりの子はおねんねしてるみたいだから、おこさないほーがいーかもなの」

 

「そっか」

 

色々気にはなるが…下手に刺激するのも良くない上、次から次へと新キャラが出てきても覚えきれなさそうだしな。 

 

「とりあえず、れっかちゃんにもどすね!

 またこんど、いちごとあそぼーね?

 ごしゅじんさま♡」

 

そう言って最後にいちごは俺のほっぺにキスをして戻った。

そして同じく脱力する身体を支える。 

先程と同じように再びゆっくりと瞼が開き、烈火が目を覚ました。

 

「…みんなとは話せた?」

 

「あぁ。

 マリアといちごとはな。

 …あと二人とはまだ話してないけど」

 

「…もう一人は奥宮忍(おくみや しのぶさん)

 

これまたご立派な名前なこと。

 

「祈世樹の「忍耐強さの性格」の部分」

 

「あー…そゆな。

 じゃあ、もう一人は?」

 

「……」

 

「…?」

 

そこで初めて烈火が口を閉ざした。

 

「……もう一人とは、出来ることなら関わらないほうがいい」

 

「え…?

 どうしてだ?」

 

「…忍以外のもう一人…。

 私たちが生まれる以前から存在していた……祈世樹の「裏の存在」」

 

「…??

 ますます分からんなぁ…」

 

「…いわゆる……「破壊衝動」」

 

予想外の一言に、俺の全身から血の気がひいた。 

 

「…えっ…。

 何だよそれ…」

 

「……いつか貴方も知ることになるはず。

 …そろそろ私も戻ることにするわ」

 

「えっ…。

 祈世樹は…?」

 

「ようやく落ち着いた。

 この雨のせいで、過去のトラウマがフラッシュバックした事で弱っていた。

 だから私が代わりに出ていた。

 …まさか、このタイミングで私たちの正体がバレたのは計算外だったけどね」

 

「そうだったんだ。

 …そういや、お前らが生まれた理由を聞いてなかったな。

 …どうしてだ?」

 

一呼吸置いてから烈火は俺に指をさした。

 

「…貴方が原因よ」

 

「えっ……」

 

迷いなどなかった。

烈火ははっきりとそう言った。

 

「俺……なのか…?」

 

「そう。

 貴方が原因」

 

冷たい眼差しに嘘は見えなかった。

 

「俺………何かしたっけ…?」

 

蛇に睨まれた蛙とはこの事を言うのか、俺は烈火から視線を外せずにいた。

 次の瞬間、俺は信じ難い一言を言われた。 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

「貴方が…………祈世樹を「殺した」からよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


  

「………は?」


あまりにも淡白かつ容赦なき言葉は、紛い無き真実を語っていた……のか?

 

「そんな………。

 でも、あいつはさっきまで普通に遊んで…!」

 

「…言い方が不味かったわね。

 正確には「貴方は一度、祈世樹を殺した」…と言った方がいいかしら」

 

「…ッ!??」

 

ますます訳が分からなくなっていた。

 

「あの………話が理解出来ないんだが…」

 

そう言うと烈火は目を閉じて静かに語り出した。

 

「……遡ること一ヶ月と三日前のこと。

 貴方は祈世樹と電話で喧嘩をした。

 その際、貴方が祈世樹に言ったことを覚えてる?」

 

「………ッ!!!!」

 

それで全てを察した。

 

「……「今までの優しさは全部嘘」……」

 

そして烈火は瞼を開く。

 

「その一言で貴方は彼女の人格を崩壊させた。

 つまり貴方が「祈世樹を壊した」の」

 

オチなどない。

烈火は事実を淡々と語るだけだった。

 

「…俺が……祈世樹を……」

 

彼女はそれ以上続けなかった。

ただ無言で無表情で俺の瞳をじっと見つめていた。

 

「お前は………俺に復讐するために現れたのか…?」

 

「……」

 

烈火は変わらず俺を見つめる。

だが答えは違った。

 

「…もし貴方に復讐するのであれば、他の子たちを紹介なんてしない」

 

正直、無言でカバンからナイフでも出されて刺されるんじゃないかと身構えていたが、その予想が裏切られたことでほっと胸を撫で下ろせた。 

 

「…そ、そうだよな。

 じゃあ………なんで…」

 

「私たちが生まれた理由。

 それは……壊れてしまった祈世樹を直すための補修役……とでも言えばいいかしら」

 

「補修…?

 でも、祈世樹は一度死んだだの壊れただのって…」

 

「そう。

 祈世樹は臨死的な人格死を体験している。

 例えるなら、何の変哲もないパズルが、ちょっとした衝撃で形を崩したようなものね。

 …私たちは、一度壊れてしまった祈世樹を取り持つ為に生まれた。

 そして今の彼女は「二番目の祈世樹」として存在している。

 しかし祈世樹自身はその事を隠し通すつもりでいた」

 

「…そっか…」

 

何も言えなかった。

何を言ったらいいのか分からなかった。

あまりに淡々と語る彼女に俺は圧倒されていた。

 

「他に質問はある?」

 

「えっと…。

 ……これから俺はどう接したらいい?」 

 

「そうね。

 …いつも通りにしてもらえればそれでいい」

 

「…それでいいのか?

 なんかこう……俺が祈世樹に何かをしてやるとか…」

 

「……なら、以前よりも祈世樹を大事にしてあげて。

 今の彼女は、直されたばかりの非常に脆い継ぎ接ぎの壺のようなもの。

 もしまたあんな残酷な事を言おうものなら、今度は私たちでもフォローしきれない」

 

変わらず淡々と烈火は語るも、その言葉には本気の警告を促す凄みを感じた。 

 

「…分かった!

 俺ももう少し気を付けるよ」

 

「そうね。

 貴方の言葉は祈世樹を救う光ともなり、彼女を傷つける刃ともなる。

 今の祈世樹には、貴方から与えられる「愛情」こそが最も効果のある安定剤となる。

 だから、今までよりも祈世樹に優しくすることを忘れないで」

 

「…分かった」

 

そう言うと烈火は目を閉じた。

 

「…そろそろ私も戻る。

 これ以上は彼女とのシンクロ率が高くなりすぎる」

 

「…シンクロ率?」

 

「人格と人格の融合率のこと。

 本来、紛い物である私たちが表に出ている間に、祈世樹本人との融合率は少しずつ高まっている。

 …もしこれが最大に達してしまうと…」

 

「…しまうと…?」


そのタイミングで烈火は目を見開いた。 

  

「……海条祈世樹という主人格は消え、表に出ていた人格が祈世樹の代わりとなる」

 

「そんなッ…」


「でも大丈夫。

 長時間の立ち代りさえしなければそうなることは無い。

 でも、なるべくなら頻繁、長時間、過度な運動時の入れ替わりは避けた方がいい」

 

「分かった。

 じゃあ祈世樹に戻してやってくれ」

 

「了解。

 …身体、支えてて」

 

「おいさ」

 

そして彼女の肩をそっと支えると、烈火は俺に振り返った。

 

「…空。

 どうか祈世樹を守ってあげて。

 祈世樹を守れるのは、貴方だけ」

 

「…そ、そんな大げさな……とっとっ…」

 

俺が喋りきる前に烈火は中に戻った。

さっきよりも少し時間をかけてようやく祈世樹は戻ってきた。

  

「……んぅ…」

 

「…ッ!

 …祈世樹、大丈夫か?」

 

朧気な瞳で祈世樹は目を覚ました。

 

「……そっ、空ッ!?///

 ななっ……なんで空がこんな目の前にッ………てか、ここどこッ!?」


「落ち着けい。

 …ここは俺んち。

 ゲーセンから帰る途中、雨が急に強くなってきて、雨宿り程度にここに来たんだよ」

 

「そ、そうだったんだ。

 …あれ、ゲーセンの後の記憶が……」


「あー…それはだな…」

 

それから俺は烈火たちのことを話した。

さっきまで話してたこと全てを。

 

「……そっか…。

 みんなの事……バレちゃったんだね…」

 

少し寂しげな表情で祈世樹はうつむく。

 

「でも、俺は信じてるよ!

 烈火たちはほんとに居る。

 だって………目を見て話せばわかるよ」

 

その一言に目を見開き、祈世樹は少しだけ笑顔になる。

 

「…あのね空…。

 一つ、お願いしてもいいかな…?」

 

「あぁ…。

 何でも言ってみろ」

 

そうは言ったものの、祈世樹はどこかぎこちなく口を開く。

 

「……紫ちゃんや西浜さんたちには、このことは黙っていてほしいの」

 

「…なるほどね」

 

紫はこういうの「祈世樹だから」信じるって理由で受け入れるだろうけど……彼女には不信的すぎるだろうしな。

気が狂ったと疑われかねない。

西浜さんたちも同じだろうし。

 

「空は受け入れてくれたけど、きっと紫ちゃんや西浜さんたちには難しいと思うの。

 だから…この事を知って変に思われても困るから…」

 

「分かった。

 紫と慶太と……みんなには内緒!

 お口チャックだな!( ・×・)b」

 

そう言いながら俺はミッ○ィーの口の真似をすると、祈世樹は安心したかのようにクスクスと笑ってくれた。

 

「……あ…」

 

「…?

 どうしたの…?」

 

「…見ろよ」

 

俺は窓の外に指をさす。

 

「…ふぁぁ…」

 

黒い雲の隙間から、一筋の光が幻想的に射し込んでいた。

 

「…雨……止んだね…」

 

外を眺める祈世樹の横顔に、俺は少しだけときめいてしまった。

 

「…帰ろうか」

 

「…うん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 








外へ出ると、射し込む光を反射して水たまりがキラキラと光っていた。

手を繋ぎながら祈世樹は小さな子供のようにピチャピチャと水たまりを踏みつけながら歩く。

その時、ふと別の水面から見えた彼女の顔がさっきまで話していた烈火の面影に見えた。

 

『…気のせいだよな』

 

こうして一人と六人(うち、二人行方不明)との複雑な関係が始まった。

 これこそが、俺と彼女の本当の意味での物語の始まりを告げるものであった。

 

 

 

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