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拝啓、空と世界へ  作者: 鷹利


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23/44

22.「転」の始まり

それはいつものメンバーでカラオケに行ったときの事だった。

 

「すまないな。

 私なんかの為に祝ってくれて…」

 

「いやいや、こういうのはみんなで祝うべきもんでしょ。

 なぁ燈?」

 

「そりゃあな。

 県大会で準優勝なんてなかなか名誉なことだぞ」

 

「そうだよ!

 紫ちゃんが頑張ったから出来たんだよ!」

 

実を言うと、紫が所属する女子バレーボール部が春の県大会に出場し、惜しくも優勝こそ取れなかったものの準優勝を勝ち取るという名誉を手にしたのだ。

学校でその賞状をもらった日の放課後、俺たちで紫を祝おうとカラオケに来ていた。

 

「頑張ったのは私だけではない。

 チーム一環となってベストを尽くしてくれたメンバーの努力の賜物だ。

 祝ってくれるのは嬉しいが、私だけでは少し寂しいな」

 

いやイケメンかよ。 

時代を履き違えてたら武士かよ。 

 

「まぁ確かにな。

 …んじゃ、我が校の女子バレーボール部の銀冠を祝って…乾杯!」

 

「乾杯!」

「乾杯!」

  

「か…乾杯…」

 

少しぎこちなく笑うも、紫はどこか嬉しそうにコーラを飲んだ。

その直後、メロンソーダを一口だけ飲んだ慶太が声を張り上げた。 

 

「誰も歌わねぇなら一発目、俺から歌うぞー!」

 

「いいぞー」

 

そう言うと慶太は曲を送信しマイクを手に取る。

 

『おっしゃー!

 じゃあ俺からいくぞー!』

 

慶太の掛け声と共に歌の出だしが流れる。

 

『沈ませない満月!諸行無常の本能!歌舞伎舞台の手前!』

 

軽快なラップから始まるその歌は、聞き覚えのあるパチンコソングだった。

 

『合わせ「絆」のBeat!

 叫べ「友」と呼べるbeats!』

 

慶太の歌い出しに場の雰囲気も温まっていた。

 

「なんだか…勇ましい曲だな。

 聞いたことは無いが、これは何の歌なのだ?」

 

「あぁ。

 実はこれ、パチンコの歌なんだよ」

 

「なッ!?

 まさか、お前たち未成年の身で…!」

 

「あっ、ちが……勘違いすんな!

 パチンコは確かに打ってるけど、あくまでもゲーセンのだよ!

 本物の方は行ったこともないよ!」

 

「むっ…。

 本当なのだな…?」

 

「おうよ。

 それでたまたま打った台で当たった時にこれが流れて、そこから慶太がハマったんだよ」

 

「そう…なのか…」

 

どこか不満げな口振りで紫は言葉を濁す。

まぁパチンコと聞いて良いイメージは無いよな。

その直後、後ろから服を掴まれた。

 

「…燈くんもパチンコするの…?」

 

「あ…あぁ…。

 まぁそこまでやり込んではいないけどな」

 

祈世樹もまた、俺の事を心配してか気にかけていたようだ。

 

「パチンコ……だめ…!」

  

俺の袖を掴みながら祈世樹は粛清してくる。

……こんな顔で→(*`・ω・´)。


「そう言われてもなぁ…。

 そりゃ最初は興味本位で打ったもんだけど、当たるとけっこう面白いからさ」

 

「うー…!」

 

自分の注意喚起が通じてないことに不満だったのか、祈世樹は小動物のようにうなり声をあげる。

 

「私もパチンコはあまり好かないな。

 第一、ああしてただ黙ってハンドルを捻っているだけなぞストレスでしかないしな」

 

「まぁ紫はスポーツマンだからな。

 絶対向いてないだろうな」

 

「むっ…。

 なんかバカにされている気がする…」

 

「あぁいや、そういう事じゃなくて…」

 

そんなやり取りをしていると、いつの間にか慶太が歌い終えたようだった。

 

「おーい!

 俺の歌聞いてたかー?」

 

「あ、わり。

 全然聞いてなかったわ」

 

「なっ……」

 

「私も燈との話に集中していたから全く聞いてなかった。

 すまんな」

 

「ぐはッ…!」

 

「私も……パチンコのこと…よく分からないから…」

 

「そんなぁ……って、海条!

 それは今言うセリフちゃうやつーーー!!」

 

「ふえぇぇっーー!!!?」

 

「あっはっはっはっ!!」

「あっはっはっはっ!!」 

 

慶太のエセ関西弁ツッコミに俺と紫が爆笑すると、慶太はあからさまに落ち込んでしまった。

 

「どれ…次は私が歌うか」

 

「頑張って、紫ちゃん!」

 

不敵な笑みを浮かべながら紫は送信機に曲を打ち込んでいた。 

 

『そういえば紫の歌う曲ってイメージつかないな。

 流行りの曲で語り合ってるのもあんまり聞かないし、だからといってマイナー系も耳にしないし…』

 

要は紫の口からは音楽関連の情報がないというやつ。 

 だが、表示されたタイトルを見て、俺は思わず吹き出した。

 

「ぶふぉっ…!

 おまッ……懐メロッ…!?」

 

『あぁ。

 小さい頃から父が車で聞いてたのを覚えていてな。

 それがきっかけで好きになったのだ』

 

「紫ちゃんはね、こーゆー曲に関してはすっごい上手なんだよ!」

 

「はぁ…」

 

やがて紫が歌い出すと、緩やかなリズムに合わせて祈世樹も手拍子をしだした。

 

『…まぁ確かに……すっげー似合ってるな…』

  

アルトボイス寄りの紫の歌声は、一瞬、脳がバグるレベルにイケボだった。

 

『こりゃあ……クラブとかで紫を知らない人がこれを聞いたら、間違いなく惚れるだろうな…。

 ……主に女性が』

 

初めての四人でのカラオケで、俺はそんなくだらん事を学んでいた。

 

 

 

 

 


 

  

 

 








「はぁー…疲れたぁ…」

 

もう何周したのか、休むもなく俺たちは順番に歌い続けていた。

とはいえ、普段からこんなに声を出すこともない故、バテるのもまた早かった。

 

「俺、少し休みたいわ…。

 さすがに喉がガラガラになってきた…」

 

「俺も歌うネタが尽きてきたな…」

 

「そうか。

 …祈世樹はどうする?

 まだ歌うか?」

 

「ううん。

 私もちょっとだけ休みたいかな。

 まだ歌えるけど、一人で歌っててもしょうがないし。

 …紫ちゃんは?」

 

「私もまだいけるが、ここは場の雰囲気に合わせるよ」

 

さすがはスポーツマンにカラオケ常連。

マネ出来ないセリフだ…。

 

「すまんがトイレに行ってくる」

 

「うん。

 行ってらっしゃい」

 

「ゆっくり出してきてもいーぞー」

 

「なッ…!?///

 女子に対して言うセリフか痴れ者がッ!!!」

 

「ぐぁぼがッ!!!」

 

出ていく際に投げられた紫のスニーカーは見事に底面で慶太の顔面を捉え、文字通り「顔面制裁」を叩きつけた。

 

「ふんッ!!」

 

投げつけたスニーカーを履き直して後味悪そうに紫はトイレに去った。

 

「…慶太。

 今のはお前が悪い」

 

「そぉだよ。

 女の子にあんな下品な事言うなんて、デリカシーが無さすぎるよ」

 

祈世樹もまた珍しく説教していた。

さすがにそういうとこは女の子だ。

 

「へーい。

 すいやせんしたぁ…」

 

ガラガラ声でソファーにもたれかかるも、首が落ち着かないのか慶太は落ち着きなくそわそわしていた。

 

「あー。

 ここ枕とかないのかよぉ。

 首が落ち着かんわ」

 

「気持ちはわかるがそんなんあるわけねぇだろ」

 

「だよなー。

 分かってたけど………って、枕あるやん!」


「えっ?」

「えっ?」

 

俺と祈世樹が同時に返事をした時だった。

 

「よっこらせ…」

 

「…ふぇっ!?

 ………けっ、慶太くん…!?///」

 

慶太は祈世樹の隣に座ったと思いきや、彼女の膝に頭を寝かせたのだ。

 

「おーこりゃいいや !

 海条ってやっぱインドア派だから、筋肉があまりないからすごく寝心地いいわぁ…」

 

「やだ慶太くんッ……くすぐったい…!」

 

「んー?

 いーじゃん、ちょっとぐらいよ。

 別に海条の脚とか触ったりしないからよぉ」

 

「うぅー…///」

 

恥ずかしがる祈世樹を見て慶太は笑う。

でも……俺は………。

 

「燈ぃー。

 こりゃなかなか寝心地の良い膝枕だぞ。

 お前も試してみるか……って…………どうした…?」

 

「…あ、燈くん…?」

 

「…………ッ!!?

 …なっ、何かしたか?」

 

慌てて聞き返すも、慶太はすぐさま笑顔を消して起き上がった。 

 

「いやいや、それはこっちのセリフだよ。

 急にそんな「怖い顔」してどうしたんだよ…」

 

「えっ……怖い…?」

 

気がつくと、俺は意識朦朧に惚けていた。

そして胸の奥にズキズキと感じる痛み。

 

「燈くん…………ちょっと……怖かった…」


祈世樹までもが怯えていた。

もちろん俺自身は無意識だった。 

  

「そ…そんなに酷い顔してたか…?」

 

「なんつーか……俺…ボコられるんじゃないかと…」

 

「…何を言ってるんだよ。

 俺がお前を殴るわけ…」

 

無いとは言えなかった。

胸の奥底でムカムカと感じる痛み。

それは未だじんわりと温まっていた。

 

『なんだ……この胸糞悪さは…。

 俺………苛立ってるのか…?』

 

その時、偶然にも紫が戻ってきた。

 

「ただいま……って、慶太!?

 お前ッ、祈世樹に何をしようとしているッ!!!」

 

偶然にも、慶太の位置が変わってたのと祈世樹に寄り添ってたのをセクハラしようとしているように見えたのであろう。 

 

「なっ……違うぞ紫!

 これはセクハラとかじゃなくて…!」

 

「問答無用ッ!!!!

 好きでもない女子に顔を近づけるなど痴漢行為だッ!!」

 

「だから違うって!

 俺は首の座るとこがなかったから、ちょっとだけ海条に膝枕を……あっ…///」

 

「ひっ……膝枕だとォッ……!!?///

 私だけでは飽き足らずっ……この女ったらしがッッ!!!!」

 

紫は慶太の襟を掴み上げ、全力で揺らしにかかる。

止めなきゃいけないはずなのに……俺はただ、無意識に惚けていた。

 

「紫ちゃんっ、私は平気だよ!

 ……ほら、燈くんからも何か言ってよ!

 ………燈くん…?」

 

「……ん?

 …あ…あぁ………そうだな…」

 

完全に聞きそびれていた。

もはや取り返しのつかないフラグになっていた。 

 

「…何かあったのか?」

 

不穏な空気を察したのか、紫は怪訝な表情で俺に問いかける。

 

「…何もないよ。

 心配させてすまん」

 

それでも俺の気持ちが晴れることはなかった。


「……ごめん。

 …今日はもう帰るよ」

 

「いてて……。

 …お、おい燈ッ!

 もう帰っちま…」

 

紫の揺さぶりが収まってから目を覚ました慶太のセリフを遮るように俺は上着を着て代金を置いて立ち去った。

 

「あ…燈くん……!」

 

「………ごめん。

 あとはみんなで楽しんで」

 

そんな事出来るわけがないのは分かっていた。

分かっていたが、負け犬の俺にはそう吐き捨てることしか出来なかった。

そして俺は逃げるように出ていった。

 

 

 

 

 

 


  

 








「…行っちまったよ…あいつ…」

 

「……何か癇に障ることでもあったのか…?」

 

燈が突然帰ってしまい、部屋の中は一変、気温がぐんっと下がったかのように寒々とした空気になってしまった。

 

「……」

 

「…祈世樹、大丈夫か?」

 

祈世樹は何も答えなかった。

ただうつむき、暗い影だけを見せていた。

 

「なぁ…これって俺が悪いのか…?

 ……あれか?

 俺が海条に膝枕してもらった事か?」

 

「……分からない…」

 

答えは出ぬまま、不穏な空気だけがただ流れる。

 

「……ごめん二人とも。

 私も帰る…!」

 

「ちょ…海条まで帰るのかよ…!」

 

「いや…燈を追いに行くんだろう。

 誰よりも燈のことを心配しているのは他でもない……祈世樹だからな」

 

「ッ……ここは海条に任せるしかないのか…」

 

「悔しいがそうなるな。

 …すまない祈世樹、あとは頼んだ」

 

「うん、分かってるよ…」

 

上着を着て、ショルダーバッグに忘れ物がないか確かめると、祈世樹もカラオケの代金を置いた。

 

「じゃあ、二人ともあとでね。

 私、行ってくる!」

 

「あぁ。

 気をつけてな」

 

「…悪かったな海条。

 燈のこと、頼んだぞ」

 

強くうなずき、祈世樹も走って出ていった。

 

「……俺たちはどうする?」

 

「…さすがに歌う気分にはなれないな」

 

両者一致の元、紫と慶太はカラオケから出ることにした。

 


 

 

 

 

 

 

 

 








「…はぁ…はぁ…はぁ…!」

 

慣れない人ごみの中を私は避けながら走っていた。

 

『空ッ……どこッ…?』

 

通り過ぎる人たちが私を何事かと睨む。

その視線の数々は非常に不愉快で、吐き気さえもよおした。 

ある程度走ったとこで体力の限界に達した私は立ち止まざるを得なかった。

 

「はぁ…はぁ……げほっ、げほっ…」

 

慣れない運動に体が付いてこない。

 

『どうして…。

 どうしてこんなに走っても見つからないの…?』

 

それでも…手がかりはある。

一つは出てから真っ直ぐ家に帰ってしまったか。

もう一つは近くの建物に入ったから。

 

『近くの建物……。

 ……ゲームセンター!』

 

そう。

この近くにいつもみんなで行ってたゲームセンターがあった。

 

『きっと、空はそこに…!』

 

身体はまだ休息を欲しがってるものの、私は無理やりにでも走った。

 

『あなたを………一人ぼっちになんてさせない…!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 








ぼやけた意識で俺はパチンコを打っていた。

 

「……」

 

カチカチとただ流れゆくパチンコ玉を視線だけで追いかける。

 

「……」

 

別にパチンコが打ちたかった訳では無い。

ただ……何かしたかっただけなのだ。

…何でもよかった。

とにかく、この言葉にし難い苛立ちを鎮めたかった。

   

『……なんであんなことを…』

 

パチンコを打ちながらさっきの感情について考えてみた。

…あれは……嫉妬なのだろうか…。

 慶太に無理やり膝枕をさせられる祈世樹を見て、俺は腹ただしくなっていた。

そうなるとやっぱり嫉妬なのか…。

……そう考えているだった。

  

「…見つけた……空ッ…!」

 

聞き覚えのある声に思わず振り返ると、そこにはカラオケにいたはずの祈世樹の姿があった。 

 

「……祈世……樹…?」

 

人気の少ないゲーセンの奥から祈世樹が俺に向かって叫んでいた。

やがて祈世樹は走り寄ってきて俺に抱きついた。

 

「祈世樹………どうして…」

 

「……世界…」

 

「せかっ…。

 ……どうしてここを…?」

 

強く抱きしめながら祈世樹は口にする。

 

「……空ならきっとここにいると思ったの…。

 パチンコ打ってるかなって…」

 

「あー……そゆことな。

 …ごめんな、心配かけさせて」

 

後ろからくっついてるが故に祈世樹の顔は見えなかったが、思いっきり首を横に振っていたのは分かった。

 

「……空が出ていったのは私のせいだよね。

 …ごめんなさい」

 

「ちょ…一回離れろ。

 ……なんでお前が謝るんだよ」

 

ゆっくりと離れ、俺の指示で祈世樹は隣に座った。

 

「…慶太くんに膝枕させてたのが嫌だったんだよね。

 だから…気付けなくてごめんなさい…」

 

「……」

 

何も答えられなかった。

確かに膝枕をしていたのは事実だが、別に好きでさせてたわけじゃないことぐらい分かってる。

なのに……思い出すだけで再び苛立ちが沸き立ってくる。

 

「…んっ」

 

ペちペちと膝を叩かれ振り向くと、祈世樹は顔を下げて俺に頭を突き出していた。

 

「んっ…」

 

「………」

 

右手でハンドルを握りつつ、左手で祈世樹の頭をなでる。

 

「……」

 

まだ気持ちよくないのか、祈世樹すぐに甘えてはこない。

 

「……世界」

 

「……」

 

返事をしない悪い子にはお仕置きだ。

 

「……にゃっ」 

 

「…ふにゃっ!?」

 

俺は祈世樹の頭をなでていた手を猫の手に変え、猫パンチで祈世樹の頭をポンッと叩いた。

結果、黙り込んでいた祈世樹は思わず声を発した。

 

「…うぅー…!///」

 

少し怒ったような声をあげつつも、やはりその声はいつもの祈世樹だった。

その様子に俺は思わず笑みがこぼれた。 

 

「…少しは機嫌直してくれたか?」

 

「むー…」

 

ふてくされるも、やっぱり祈世樹だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 








「……さっきは悪かったな」

 

「…ふんっ」

 

ぺしぺしと頭を猫パンチすると、祈世樹はその度にうなり声をあげる。

 

「…お、当たった」

 

「…にゃ?」

 

ふとパチンコの画面を見ると、液晶内で図柄が揃っていた。

 

「いつの間にか当たってたわ。

 …祈世樹のおかげかもな」

 

「…そんなの知らにゃいもんっ!」

 

そっぽを向く祈世樹ののどをなでると、甘える猫のように俺の手に擦りついてきた。

 

『なんか、気持ちもさっぱりしたな…』

 

あれほど鬱々としていた気分もいつの間にか晴れていた。

これもきっと…祈世樹のおかげだな。

 

「……ありがとな…世界」

 

「…ふにゃ?」

 

「…なんでもないっ」

 

ようやく笑顔を作れた俺はほんの少しだけ意地悪をしてみた。 

 

「えぇー。

 何て言ったのー?」

 

「教えなーい」

 

そんないつも通りのやり取りが、いつもよりも楽しく思えた。

 

『やっぱり…俺は世界のことが……本気で好きなんだ…。

 それ故に…………』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 








パチンコで得たメダルで俺たちは少しだけメダルゲームで遊び、ゲーセンを出た。

 

「…今日はありがとな。

 それと……すまなかったな」

 

「…もういいよ。

 それよりも、明日二人にはちゃんと謝ってよね」

 

「分かってるよ。

 怒ってるだろうな…」

 

「そんな事ないよ。

 むしろ心配してたんだよ」

 

「……そう…なのか…」

 

ほんとに申し訳ない事をしたと思う。

どう言えばいいだろうか…。

 

「……空?」

 

「…ん?

 どうした?」

 

隣で歩いていた祈世樹が突然俺の顔を覗き込んできた。

 

「……」

 

じっと俺の顔を見つめ、何かを思慮していた。

 

「……そんなに不安がらなくても、ちゃんとごめんなさいすればきっと仲直りできるよ。

 だから…もう落ち込まないで?」

 

「…あっ、あぁ…。

 すまん…」

 

「むー…。

 もう謝るの…めっ!」

 

「…分かったよ。

 ちゃんと明日、二人には謝るよ」

 

歩きながら俺は祈世樹の頭をなでる。

 

「んー…♪」

 

吟味するように祈世樹は頭を動かす。

その様は猫というより、犬にも見えた。

 

「…おっ、もう着いたな」

 

話をしながら歩いてたせいか、既に孤児院……祈世樹の家の近くまで来ていた。

 

「あっという間だね。

 まるで……あの「クリスマスの夜」みたいだね」

 

「…ッ!」

 

そうだった。

あの日も二人で夜中まで歩き、凍え死にそうなぐらい寒かったけど……すごく幸せな時間だった。

 

「…幸せな時間って……なんでこう…あっという間なんだろうな」

 

「ねっ…」

 

祈世樹はクスクスと笑うも、どことなく寂しげだった。

 

「……」 

「……」

 

あの時と同じ、無言の時間が流れゆく。

 

「…もう、帰るね」

 

「…あぁ」

 

先に切り出したのは祈世樹だった。

それもあってか、俺も気持ちの整理がつけられた。

 

「…また、明日な」

 

「うん。

 気をつけてね」

 

周りに誰もいないことを確認してから祈世樹は俺に抱きつく。

俺は抱きつく彼女の頭を優しくなでる。

 

「……ほら、もう入らないと、リルドさんたちが心配するよ」

 

「うー…。

 …また明日、なでなでしてね?」

 

「分かったよ。

 じゃあな」

 

そう言うと祈世樹は笑顔で見送ってくれた。

……しかし、これこそがこの物語の始まりの折り返し地点であったことを、俺は知るよしもあるわけがなかった。

 

 

 

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