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拝啓、空と世界へ  作者: 鷹利


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1.高校入学

目の先で少女が泣いていた。

少女は孤独と絶望に嘆いていた。

自分には何も出来ない……誰かの力になることも、自分の意志も叶えられないと…。

少女は絶望に押し潰されるように泣き伏せていた。

胸が苦しくなるほど彼女の悲しみが伝わってくる。

 だが、手を伸ばそうにも何も出来ず…。 

俺はただ、そんな彼女を見つめることしか出来なかった―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 


  

 








『ピピピピピピピ!』

 

無機質なアラーム音が睡眠を強制的に妨げた。

虚ろな意識でアラームを止め、ぼやけた視界で時計を見ると、時計の針は朝の七時を指していた。


『……そうだ……今日から高校入学だっけ…』

 

未だ睡眠を欲しがる身体を無理やり体を起こしてメガネをかけると、少しだけ意識がはっきりしてきた。

部屋のクローゼットから着替えを持ち出しリビングに降りると、母さんが朝飯を作っていてくれていた。

 

「おはよ…」

 

「…あら、珍しく早いね。

 今日から高校だからって寝付けなかった?」

 

「生憎、いつも通りぐっすりでございます」


彼女は母の「碧乃(あおの) (めぐみ)」。

女手一つで俺を育ててくれた唯一の肉親。  

関係の無い話ではあるが、さっきまで見ていた夢をよくよく思い出してみると最近買ったマンガのワンシーンそのものだった。


『そのワンシーンを自分の夢で再現するとは……俺ってどんだけイタい奴やねん…』

 

そんな自分に呆れつつも、既に並んでいる朝食の前に座る。

 

「いただきます」

 

感情もなく飯前の挨拶をし、暖かなご飯に箸を通す。

仄かな温かさが眠気を飛ばし、食欲をそそらせる。

でも神棚に上げる飯ならもっと暖かな方が神様は喜ぶんだろうな。

 そんなどうでもよいことを考えつつ、俺は朝食を食べ終え、洗面所で顔を洗って新しい高校の制服に袖を通す。

中学と同じ学生服だが、不思議と新鮮味は感じる。

 

「あら、もう行くの?」

 

母さんがそう聞くのも確かだ。

時刻は七時二十分。

出るにはちょっと早い時間である。

 

「まぁ、出来ることは早めにってね」

 

そう言い残し俺は家を出た。

 

「行ってきます」

 

「行ってらっしゃい」

 

教科書がびっしり入ったカバンを背負い自転車にまたがる。 

風もそこまで強くなく、そよそよとした追い風が心地良い。

 

『さて、行きますかな』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 








桜降りしきる道を……とは言えずも、初のチャリ通に新鮮な気分でペダルを漕ぎ、気付けば高校の前に着いた。

…自己紹介忘れてたわ。

俺は碧乃(あおの) (あかり)

青森県に住む今年の十月で十六になる一般的平凡男子。

趣味はアニメ、アニソン鑑賞、動物を愛でること。

彼女………二次元にはたくさん……。 

 話を戻して……駐輪場に自転車を停めて玄関に向かうと、既に多くの生徒が滞っていた。


『人が多いのって苦手なんだよな…』

 

そう思っていると、人だかりの中からこちらに向かって手を振っている男子の姿が見えた。 

 

「碧乃ー!

 聞こえるかー?」 


人混みを掻き分け、見覚えのない顔が近付いてくる。

同じクラスのやつでないのは確かだが、何者だっただろうか…。

 

「久しぶり!

 …って、あんま話したことなかったっけ?」

 

見るからに軽そうな男子が間違いなく俺に声をかけてきた。

だが、その軽そうな声には少しだけ聞き覚えがあった。

  

「…坂……口…?」

 

「そうだよ!

 よく分かったな!」

 

そうだった。

中学のとき隣のクラスにいた……。

 

「……隣のクラスで一番バカ騒ぎして、体育の授業でダンクシュート決めて先生に怒られてた…!」

 

「ちょっ…!

 その言われようもなんか複雑だな…」

 

そう言って坂口は、分かりやすく肩を落とす。

どんだけ分かりやすいんだよ。

…彼の名は坂口(さかぐち) 慶太(けいた)

持ち前の明るさと人あたりの良さで人気があったのは知ってた。

俺自身、こういう陽キャは苦手な部類でもある。 


「でもまぁ、同じ中学の生徒がいると思えると安心出来るな」

 

「…なんで?」

 

「なんかさ、中学の時もそうだったけどよ……入学式って一人で行くもんだからなんか不安になるって言うかさ…。

 仲良いやつと行くならともかくさ」

 

確かに、それは誰しもが抱く感情だ。

入学式、入社式、一人暮らし……春は多くの初体験を味わう季節だしな。

 

「さて。

 ここで話すのもあれだし、とっとと教室にいくか」


「あぁ」

 

少しの不安とささやかな期待を胸に、俺たちは階段を上った先にある生徒玄関を目指して駆け上がっていった。 

 


 

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