18.それぞれのクリスマスイヴ
十二月二十四日、夜の六時。
約束の時刻まであと一時間と迫っていた。
風呂にも入り髪もきっちり乾かして整えた。
着ていく服も黒の長袖に赤と黒のチェック柄の羽織りを着て、俺はただひたすらに出発時間を待っていた。
「ッ………」
「…もう少し落ち着いたら?
普通に遊びに行くだけなんでしょ?
別に女の子と遊ぶぐらいでそこまでイライラしなくてもいいじゃない」
「…好きでイラついてる訳じゃねぇよ」
もちろん自分でも分かってる。
イラついたとこで何も変わらない。
でも……何もせず待つというのは正直つらい。
「こうなったら……もう行くわ」
「え?
まだ一時間もあるのに?」
「やりたいゲームも無いし、宿題もないもん。
…そういや、向かい側にビデオショップあったよな。
そこでマンガでも読んで時間つぶしするよ」
「そう。
なら気をつけていってらっしゃい。
遅くなるなら連絡しなさいよ」
「はいはい。
…行ってきます!」
そして俺は早々に家を出た。
既に真っ暗な外では、身を切るような冷たさの風が俺の落ち着きを取り戻させてくれた。
「うー…さむっ」
母さんから毛糸の手袋を持たせられてはいたが、どうも性にあわない気がしてジャンパーのポケットに手を突っ込んで歩いて行くことにした。
『簡単な話、ゆっくり歩いていけばいい感じの時間に着けるかな。
…寒いからあんまゆっくり歩きたくはないけど』
それでも心のどこかで俺はわくわくしていた。
女の子と遊ぶなど、いつ以来だろうな…。
「…はい。
髪はこれで大丈夫ですよ」
約束の時間まであと十五分。
私は自室でリルドさんに髪を整えてもらっていた。
「ありがとうございますリルドさん。
でも、髪ぐらい自分で直せますよぉ…」
「いいえ。
髪は女の子の命です。
気になる男の子の前でくらい、しっかりと身だしなみを整えないといけませんよ」
「うぅー…。
そんなんじゃないですよぉ…」
言葉に詰まる私にリルドさんがクスクスと笑う。
「しかしまぁ、こんな日が来るなんてまだまだ先のことだと思っていましたが……あっという間でしたね」
「…?」
リルドさんはクスクスと笑いながら何やら楽しそうに私の髪にブラッシングをかける。
「…何が言いたいんですか?」
「そうですね…。
例えるなら、自分の娘を花嫁に行かせる親の気持ちのようなものだと思うと、少しだけ歯がゆい気がしましてね」
「…どういう事ですか?
もしかして、私からかわれてます…?」
またも楽しそうに笑い、それが答えだと言わんばかりにリルドさんは笑顔を振りまいていた。
「しかし……祈世樹さんも変わられましたね」
「…何がですか?」
「お気付きになりませんでしたか?
燈さんとお友達になってからと言うもの、祈世樹さんはよく笑うようになり、身だしなみにも気を遣うようになり女の子らしさが増してきた……とでも言えばいいですかね」
「……そうですかね…」
「はい。
とても以前とは見違えて変わりましたよ。
…ここだけの話、西浜さんも祈世樹さんがよく笑うようになってくれて嬉しいと陰でおっしゃってたんですよ」
「そう…ですか…」
たしかに、燈くんと出会うまでは身だしなみや周りの目など、そんなに気にしてはいなかった。
燈くんとお友達になってからは、どうも学校に行く前に鏡を見る癖が付いているような気もする。
「……はい、これでバッチリですよ。
鏡でご覧になりますか?」
そう言われ手鏡二枚で髪型を見ると、滅多にしないハーフアップの他に気になるものが見えた。
「これ……リルドさんの大切な髪留め……」
頭の左上に着けられた柘榴の実を象った髪飾りは、昔からリルドさんが大事にしていた宝物だった。
私が中学時代に見つけ、欲しいと言ってもくれなかったのに…。
「そうですよ。
……何となくですけど、今日は祈世樹さんにとって大事な日になる気がしたので……上手くいってほしいという思いを込めて祈世樹さんにプレゼントします。
年老いた私なんかよりも、祈世樹さんが着ける方が素敵ですよ」
リルドさんのありがたい心遣いに思わず目頭が熱くなってしまった。
「……ありがとうございます…リルドさん…」
「うふふ…。
これから大事な人と会うんですから、今から泣いていてはダメですよ」
「はい、分かってます。
でも……嬉しくて…」
とめどなく溢れ出る涙をリルドさんは優しく拭き取ってくれた。
「そろそろお時間ですよ。
どちらまで行かれますか?
車で乗せていきますよ」
「…あの……今日は、私一人で行きたいんです」
いけませんと言われるかと思ったが、リルドさんは分かっていたかのように私のコートを持ってきてくれた。
「分かりました。
では、お気を付けて楽しんできてください。
もし遅くなるなら連絡してくださいね」
「分かってますよ。
それじゃ、行ってきます!」
今日の為に買ってきた真っ白な羊毛のコートを纏い、肩にハンドバッグを下げて笑顔で手を振るリルドさんに見送られて外へ出た。
ちなみに西浜さんは仕事の急用で少しだけ出かけている。
「…寒い…」
ハンドバッグからリルドさんにもらったミトンを着けると、ほのかな暖かさが私を安心させてくれた。
『燈くん…。
今……行きます…!』
そして私はハンドバッグを抑えながら約束のカラオケ屋さんへ走り出した。
「ありがとうございました!
良いクリスマスを!」
…寒い。
冬の夜に店頭販売というのも、思ったより重労働だな…。
「小野々儀さん寒くない?
…良かったらカイロ使って」
「あ、ありがとうございます春山さん」
「もう少しだから頑張ろ?」
「…はい」
クリスマスイブの夜。
私、小野々儀紫はケーキ屋の店頭販売のバイトをしていた。
目の前を通りゆく人たちは、家族連れや会社の同僚連れで歩く中にカップルもちらほら見え、心のどこかで少しだけ羨ましいと思っている自分がいる気がした。
ちなみに隣で一緒に立っている「春山幸雄」さんは、私と同じく今日だけの一日バイトで来ている。
『とはいえ、クリスマスイブだからってサンタ衣装で店頭販売はキツい…』
肌色のタイツを履いていても肌を突き刺すような冷風に私の足先の感覚は薄れていた。
「…ねぇ小野々儀さん」
「…ッ!?
はっ、はい!」
唐突に名前を呼ばれ思わず声が裏返ってしまった。
しかしその事に気付いていないのか、春山さんは話を続けた。
「あの…今日さ………このあと予定とか…ある…?」
「予定……ですか…。
何も無いですけど…」
「じゃあさ、良かったら…一緒に食事とか……どうかな?
…良い店知ってるんだ」
下心がある感じはしない。
だが少し気が引ける。
「あー……ごめんなさい。
実は友達にカラオケ行こって誘われてたんです。
さっきLAINEで誘われて…」
「そっ、そうなんだ…!
こっちこそ急に誘ってごめんね…!」
そう言って彼は困り顔で笑いかけてくる。
身長は私よりも約十センチほど高くハンサム顔ゆえ、さぞ女子からモテるだろう。
だが私の心中はそれとは裏腹だった。
『………こういう優柔不断な男は嫌いだ…』
「ようやく売り切れましたね…」
「そうですね。
もう手先の感覚が無いです…」
販売開始から既に二時間半が経過していた。
短時間だからと思ってやってはみたものの、流石にこの薄着での店頭販売は予想外だった。
「じゃあ早くお店に入りましょう!
風邪をひいたら大変ですよ!」
そう言って春山さんは私の背中を押して店に入るように急かす。
『気持ち悪い…』
その背後で春山さんはせっせと片付けを始めていた。
ケーキ完売を告げる札を立て、彼は釣り銭箱を持って店に入った。
春山さんにドアを開けてもらい中に入ると、最初に来た時よりも客がぞろぞろと立ち並び、レジでもせわしなく従業員が会計をしていた。
人混みを避けて二人で事務室に向かい、春山さんがドアをノックをする。
「失礼します!
店長さん、ケーキの店頭販売終了しました!」
「おぉ!
お二人ともよく頑張ってくれましたね。
では予定より少し早いですけど………これ、今日のお給料です」
暖かな事務室で何やら書類を書いていた店長は、春山さんの一声に笑顔を見せた。
「ありがとうございます!
ありがたく頂戴します」
「ありがとうございます…」
イケメンで礼儀正しい…私よりも高身長な所はきっと人望も厚かろう。
それとは裏腹に、寒さもあって私には素っ気ない一言が限界だった。
「ちなみにその衣装は君たちが良ければもらっていってもかまわんからね。
どうせ今日だけの衣装だし」
「いいんですか!?
では、お言葉に甘えて頂きます♪」
「じゃあ私も貰っていきます…」
別に欲しかった訳ではなかったが、その場の雰囲気の流れで言ってしまった。
「着替えたらうちのケーキも貰っていきなさい。
もし来年もバイトする気があるなら来てくれると助かるね」
「本当ですかっ!?
楽しみにしています!」
「…分かりました」
そう言って私たちは事務室を出てそれぞれの更衣室に行って私服に着替える。
春山さんと顔を合わせたくなかった私は、早めに着替えて更衣室を出た。
レジ脇から出る際に会計担当の従業員二人に挨拶をした。
「お先、失礼します」
「あっ、店頭販売お疲れ様でした!」
「お疲れ様です。
来年ももし気が向いたら来てくださいな。
…はい、ケーキ貰っていって」
店長から話は聞いていたのか、ベテランらしき従業員からケーキをもらった。
「ありがとうございます。
では、メリークリスマス」
そして私は店を出た。
クリスマスムードに包まれた街並みを歩む人たちは、バイトの始めよりもカップルが増えてきた気がして少し気が滅入る。
無情にも、その空間に私だけが取り残されている気がした。たまにすれ違うカップルがこちらを見ていたりで尚更のこと。
そんな空間にいるのが嫌になった私はそそくさと歩き、街中を抜けた。
気が付くと街中の賑やかさは薄まり、住宅街の一本道を歩いていた。
冷たい風が吹きすさぶ薄暗い闇夜の中、私は夜空を見上げていた。
『慶太……。
まだ予備校にいるのかな……』
そう考えていると、突然背後から声をかけられた。
「はぁ…はぁ………小野々儀さん!」
「……春山さん?」
息を切らしながら走ってきたのは、さっきまで一緒にいた春山さんだった。
「はぁ…はぁ…。
さっきは急に誘ってごめんね…」
「いえ……気にしてませんよ。
…どうかしたんですか?」
あの店からはけっこうな距離はあるはず。
それほど息を切らしてまで私を探してきたということは、何か大事なことでもあったのだろうか。
「…えっと……まだお疲れ様も言ってなかったし、その………小野々儀さんが良ければ…お友達になりたいから……電話番号かメールアドレス交換しませんか…?」
『ピリッ………』
本人は謙虚にお願いしてるつもりだろうが……正直その喋り方がイラつく。
「……ごめんなさい。
私、そういうの断ってるんで」
「そう、ですか…。
…残念ですけど、そうですよね。
たかが一日バイト程度の付き合いでいきなり電話番号交換とか、ありえないですよね!」
あははと笑う春山さんの笑顔とメンソールの香りの吐息に腸が煮えくり返る気がした。
「じゃあ小野々儀さん、バイトお疲れ様でした!
良いクリスマスを…」
「……春山さん」
「…は、はい…!」
突然名前を呼ばれ、春山さんは恐縮する。
だから私は言ってやった。
「私………貴方のように遠まわしな物事の言い方をする人…………嫌いです」
「………え…?」
私の台詞を理解出来んと言わんばかりの拍子抜けな声だった。
「貴方のそういう真面目で誠実的な誘い方、悪くないと思います。
しかし、私はそういった直球的じゃない…保身的な言い方をする人は苦手なんです。
せっかくのお誘いを断ってばかりで申し訳ありませんけど…私は貴方と友達にはなれません」
そう言い切ると春山さんは口をあんぐり開けて立ち尽くす。
「…バイト、お疲れ様でした」
最後の情けにそう言い残し私は立ち去った。
後ろから刺されるかと思いつつつ身構えるも、追ってくる気配はなかった。
『はぁ……頭が痛い…』
わずかな偏頭痛に更に気分が落ちる。
『慶太……。
お前がいないと……寂しいよ……』
心の中で呼んでも来ないことぐらい分かってる。
でも……私にとって、慶太が「一番」なのだ。
慶太のことを思うほど身体がぎゅっと締め付けられるような感覚に苦しむ。
それでも……私は慶太の事ばかり考えてしまう。
あれは私が七歳の時だろうか。
物心ついた時から慶太と幼なじみだった私は、夕日が照らす近所の公園で慶太を含めた男女五人で鬼ごっこをしていた。
身体を動かすことが大好きだった私だが、鬼役で慶太を追いかけてる時、誤って落ちていた空き缶に足元をすくわれ転んでしまった。
慶太以外の彼らは「どんくさい」や「小野々儀のくせに転んでやんの」などと嘲笑う中、無言で痛みに耐え涙を流す私を唯一、慶太は「大丈夫?」と優しく声をかけてくれ、私の手を引いて水飲み場で傷口を洗ってくれた。
普段はいつも私をからかって遊ぶ立ち位置の慶太であったが、その時の優しさに私の涙は自然に止まった。
幸い、傷は小さく絆創膏を貼れば隠れてしまう程度のものだった。
『大丈夫だ紫。
またお前がケガをしたら、俺がお前を助けてやるからな!』
子供ながらに力強く言い放つ慶太に、私は幼い恋心を抱いていた。
『あれからもう十年も経つのか……』
私は幼い頃から手先が器用で要領も良かった。
料理上手な母から色んな料理を教えてもらい、父が趣味でやっていた日曜大工も興味本位から学んだ。
それ故に、小学生の頃はクラス一の秀才としてリーダー的存在だった。
体を動かすことも好きで、まさに文武両道とでも言うべきか。
それ故、大概の悩みは一人で解決してきた。
誰に頼る必要も無いとどこか調子に乗っていたかもしれない。
だから……慶太が手を差し伸べてくれた時、本当に嬉しかったのだ。
そんな懐かしい思い出に浸っていると、ふと涙が零れた。
『え……私………泣いてるの……?』
理由もなく溢れ出る涙が沈みきった私の心を揺らがせる。
「…どうして……」
声に出すも涙は止まらない。
どれほど強く拭き取っても涙は止まらなかった。
悲しくないはずなのに、とめどなく涙は私の目から溢れ出る。
幸い誰にも見られてはいないが、このままでは埒が明かない。
どうしようも無く立ち尽くしていた時だった。
「………紫か?」
聞き覚えのある声が聞こえた。
顔を上げると、そこには街灯に照らされた光の中で慶太が立っていた。
「……慶太ッ…。
何故ここに……」
目の先に居た男子は間違いなく慶太だった。
肩に鞄を携えながら不思議そうな表情で私に近寄ってきた。
「いや、どうしてって……さっきまで予備校で勉強してたんだよ。
…お前はバイト帰りだろ?」
「えっ…。
どうしてそれを……」
「いやいや、こないだ学校で教えてくれたやん。
ちょうど今日だったなぁって」
ニシシと八重歯をチラつかせながら慶太は笑う。
それは昔から見覚えのある安心をくれる笑顔だった。
『……バカッ……』
心の中でそう言って気を強く保ち涙をこらえる。
「……もしかして、それケーキか?」
「あ、あぁ…。
そうだが…」
「じゃあさ、これから一緒にケーキ食わねーか?
俺んち帰っても誰もいねぇし、一人で飯食うよりなら誰かと食う方が楽しいしな」
「なッ……!?///
おまッ……一応、私だって女だぞッ!?
そんな急に誘われても…」
「あっ、もしもしー?
紫のお母さんですか?
…お久しぶりっす、慶太です!
……そうです!
昔、紫とよく遊ばせてもらってた慶太です!」
「おっ、おい!
私はまだなにもッ…!」
言葉では戸惑いつつも、心のどこかで私は嬉しさも感じていた。
『ほんっと、こういうとこは変わらないな…』
電話に集中している慶太を見つめる。
…こうして見ていると、こういうとこは変わってないと改めて自覚させてくれる。
「…喜べ紫!
お前のお母さんから許可もらったぞ!」
「えっ!?
ま、まさか私の家に来るのか…?///」
「いやいや、さすがにそれは出来んよ。
…つーことで、俺んちでどーよ?
なぁに、そんな長居させるつもりはねーよ」
「ふっ……二人っきりッ……///
…お前ッ、分かってるのか!?
男と女が二人っきりだぞ!
「男女七歳にして同衾せず」と言うだろ!?
それでもいいのかッッ!!?///」
「おん。
別にいんじゃね?」
「ッ!?///
……はぁ………お前って奴は…」
でも…嫌いにはなれない。
『やはり、私はバカなのだろうな。
春山さんの方が何倍も良い男だというのに…』
だが……これでいいんだ。
「じゃあ行こうぜ!
あと、コンビニでお菓子ととか買ってこうぜ!
さみぃから温かいコーヒーと……そういや一回コンビニの激辛チキンとか試してみたかったんだよな(笑)」
冷たい風が吹きすさぶ中、はしゃぎ回る子供のように慶太は笑う。
さっきまでの雰囲気とは一転、沈んでいた私の心は暖かく胸の奥が熱くなっていた。
『やっぱり、慶太といると安心する…』
自分でもおかしい事は分かってる。
慶太も大概変人だが、そんな男に惹かれている私も同類か。
そう思ってると突然、慶太が私の手を掴んできた。
「…ッ!?///
おまっ、何をしてッ…!」
「そうとなれば早くコンビニで色々買ってとっとと家に行くぞ!
時間は待ってくれないからな!」
「ちょっ…慶太…………ッ!」
私の台詞を遮るように慶太は私の手を掴んで走り出す。
ふと、掴まれる手を見ると昔のフラッシュバックが脳裏に再びよぎった。
『…あの時と………同じッ……』
あの頃よりもずっと大きくなった慶太の温もりが「あの時」のときめきを加速させる。
嬉しさと同時に、何か胸の奥で苦しい感じがする。
苦しくもあり、どこか心地よくもあるその「何か」は私の心を急速的に支配しつつあった。
『…慶太…。
私は…………お前のことがッ……』
気が付くと、私は気持ち悪いぐらいににやけていた。
きっと今の私の顔を慶太が見たなら「なんか面白いことでも思い出したか?」と笑うだろう。
でも……それでもいい。
『…ありがとう……慶太…』
今年は、今までになく幸せなクリスマスイブになりそうだ。
慶太に気付かれぬ程度に、私はさり気なく彼の手を握り返した。
その時、空気を読んでか知らずか、ひらひらと柔らかな雪が降ってきた。
『ホワイトクリスマス…。
………ありがとう…神様…』
そうこうしていると、何だかんだで七時手前にはカラオケ屋に着いた。
『…意外と緊張するな…』
ホットコーヒーを飲みながら、店の前で祈世樹が来るのを待つ。
『…女の子と二人っきりでカラオケかぁ…』
こんな日が来るなんて思ったこともなかった。
現に、これ程興味の持てる三次元女子も居なかったしな。
『……来たっ!』
仄暗い暗闇の中、不思議と目立って見えた白いコートの少女は間違いなく祈世樹だった。
「はぁ…はぁ…。
……お待たせ燈くん…!
…待った?」
「ううん。
俺もさっき来たとこ。
…とっとと中に入ろうぜ」
「うん!」
相当走ってきたのか、段差が高めの階段を祈世樹は一段一段ゆっくり登る。
…仕方ないな。
「…ほら、掴まれよ」
「えっ…?
あっ…ありがと…」
俺の手に捕まる祈世樹の手は弱々しく、少し力を入れたら簡単に折れてしまいそうな気がした。
『手袋着けててもほんと小さい手だな…』
ようやく登りきり俺たちは中に入った。
「…あっ、俺カラオケのことよく分からんからあとヨロ」
「あはは。
分かってるよ」
こういう所が俺の悪いとこだということは言われずとも分かっています。
それでも嬉しそうに俺の手を引く祈世樹の後ろ姿に、俺までもがワクワクしていた。




