17.聖なる夜に君と二人で…
修学旅行が終わってから俺と祈世樹の距離はだいぶ縮まった。
それもあり、俺たちは時々二人でもゲーセンに行ったりもしている。
学校でも俺が休憩時間に本を読んでたりしていると、気配を消して俺の目の前で本を読む俺の姿を覗き込んでくることもしばしば。
修学旅行前の祈世樹とは大違いである。
「…何読んでるの?」
「ん?
…あぁ、前に一冊だけ持ってきた少年漫画ネタのラノベあったろ。
それの続きが出たから昨日買ってきたんよ」
「ほえぇ〜…」
「うん」
『ジーーー……』
………非常に読みづらいッ!!
「あ…あのさ……そんなに気になるなら……貸そうか?」
「ううん。
燈くんが読み終わってからでいいよ」
「お…おぅ…。
そうか…」
『ジーーー……』
『………(汗)』
……どうやら祈世樹の趣味は人間観察のようです。
季節は十二月、高校生活二度目の冬の季節が来た。
冷たい風とちらつき始めている雪が肌を突き刺す感覚が目立ち始めてきたこの時期、それは唐突に来た。
「ねぇ燈くん。
燈くんってカラオケ好きかな?」
「カラオケかぁ…。
ガキの頃行ったことあるけど、小学校以降は行ってないなぁ…」
「そっか。
…もし燈くんがいいなら、二人でカラオケ行きたいな……」
「俺とか?
…あんまり自信ないなぁ…」
「大丈夫だよ!
私もそんなに上手くないから!(*`・ω・´)b」
いやそういう問題じゃねぇよ。
てかガッツポーズしながらドヤ顔すんな。
「んーーー……。
それなら…別にいいけど…」
「本当!?
じゃあ、来週の日曜日って空いてるかな?」
「あぁ。
何もなければ何もないし、予定さえ入らなければ……」
「分かった!
じゃあ来週の日曜日の夜七時にカラオケ行こ!」
「七時?
俺はいいけど、門限は大丈夫なのか?」
「うん。
西浜さんたちにはもう伝えてあるの。
来週の土曜日、もしかしたら燈くんと遊ぶかもですって言ったら「それはかまわんが、その日はパーティーの準備をするから、祈世樹くんにもここの飾り付けを手伝って欲しいのだが、それが済んでからでいいならかまわんよ」って言ってくれたの。
そのあとリルドさんにも買い物も頼まれて……だから七時ぐらいなら会えるかなって」
「なるほど…。
じゃあ来週の日曜日の七時にカラオケな」
「うんっ!」
そう言って祈世樹は嬉しそうにスキップしながら自分の席に戻ってメモ帳に予定を書き込む。
『カラオケって……二〜三時間ぐらいで終わるよな』
そう思いつつ俺は携帯に入れているアニソンを詮索していた。
その時、ふと俺は重要なことに気付いてしまった。
『来週の日曜日って………クリスマスイブじゃん…』
放課後、祈世樹は女子友達と遊びに、紫は変わらず部活動に励み、慶太は予備校の講義に行っていた。
宛もない俺は、ただ一人のんびりと帰路を歩いていた。
「ねぇ。
クリスマスどうしよっか?」
「ん〜…。
あゆん家で女子会やろうよ!」
「いいねぇ!
ウチも賛成!」
通りすがりの女子数人の会話が耳に入ると、俺は改めて事の重大さを痛感した。
『…本当に良いんだろうか…。
何気に成り行きでオッケーしちまったけど……よりにもよってクリスマスの日にカラオケ……しかも祈世樹と二人っきり…』
別に俺たちはカップルではないが、一応、思春期男子たる俺には「クリスマス」+「女子」×「二人っきり」というワードにモヤモヤが収まらずいた。
『せっかくのクリスマス……俺はともかく、祈世樹には俺と過ごすなんて何か割に合わないというか……それよりなら孤児院で楽しくみんなでパーティしてた方が有意義なんじゃないか…?
でももし、祈世樹が本気で俺と行きたかったのであればそれに応えねばなるまい。
………でも……本当に良いのかなぁ…』
別に普段はここまで優柔不断になることは無い。
ただ、相手が祈世樹一人で西浜さんたちのパーティを差し置いてでも俺とのカラオケを楽しみにしててくれる事が正直、めちゃくちゃプレッシャーなのである。
…これだから童貞は…。
「ゆう君。
来週のクリスマスどうしよっか?」
「ん?
そうだねぇ…」
モヤモヤしながら歩く先で若いカップルが同じくクリスマスの予定を話していた。
「……今年は奮発して「ホテル」でしよっか!」
『カッチン…』
一瞬で俺のドロヘドロ思考が凍りついた瞬間だった。
「やぁだぁ。
ゆう君、またエッチな事考えてるでしょ〜?
クリスマスだからってハメ外しすぎもダメなんだからね?」
「あはは。
重々承知しますとも、お姫さま」
男がそう言うと女も楽しげに笑った。
通り過ぎていくその背後で俺は童貞ゆえの「爆ぜろリア充オーラ」を発していた。
「…ってか、祈世樹と過ごすんだから、俺もそっち側なのか…」
一瞬、思わず漏れた独り言に誰かが聞いてたかもしれないと辺りを見渡すも、俺以外は誰もいなかった。
『もし、今のを知り合いの童貞仲間(ただの友達)に聞かれてたら「この裏切り者が!」って斬られてたかもな。
…まぁそんな物騒なやつおらんけども』
なんてくだらないことを考えつつも、その十分後にはまた同じモヤモヤ思考に苛まれていた。
その晩のこと。
「はぁ…」
ようやく収まったと思ったドロヘドロは尽きることをせず、収まっては湧き上がり、落ち着いては蒸し返しの悪循環に堕ちていた。
「…何か悩みでもあるの?」
目の前で母さんが炊きたてご飯の湯気が立つ茶碗を片手にため息ばかりをつく俺に問いかける。
「…いや……悩みとは違うんだが……」
「何よ、言いたいことあるなら早く言いなさい。
ご飯冷めるでしょ!」
半ばイライラしながら母さんが問い詰める様に、俺はようやくながら打ち明けた。
「……その………来週の日曜日……祈世樹と……出かける約束して…」
「日曜日?
……あー…祈世樹ちゃんね。
…それがどうしたのよ」
母さんはまだ祈世樹の顔を知らない。
故に、俺が学校であった事を話した程度のことしか母さんは知らない。
「だから……来週…クリスマスイヴだよ?
なのに……俺なんかと過ごしていいのかなって……いった!?」
口篭りに言いきると、突然母さんはティッシュの箱で俺の頭を叩いた。
「あんたねぇ……祈世樹ちゃんがどんな思いで誘ったかは知らないけど、祈世樹ちゃんは祈世樹ちゃんなりにあんたと過ごしたいと思って誘ってくれたんだよ!?
そんな女の子の思いにあんたはいつまでウジウジしてるの!?
あんたも男なら、いい加減腹括って楽しく過ごす事だけ考えなさい!!」
「……母さん…」
叩かれた箇所は痛みなどなかったが、不思議と熱さが込み上げてきた。
「……あんたも今まで女の子と関わってきたこともそりゃなかったかもしんない。
けどね、きっと祈世樹ちゃんだって、勇気を出してあんたを誘ってくれたんだよ?
少しくらい胸張りなさいよ!」
そう言いきって母さんは苛立ち気を残しつつ飯をかきこんだ。
「……そうだね…。
…俺……何で悩んでたんだろ…」
母さんの叱責でようやく目が覚めた俺は、母さんに連なってご飯をかきこんだ。
「……祈世樹ちゃんに感謝しなさい。
あんたみたいな陰気者を誘ってくれたんだから。
その代わり、変なことして問題は起こさないでよ」
「分かってるよ。
おかげさまで目が覚めました」
おかずのハンバーグをかじり、その流れで味噌汁をすする。
『西浜さんたちのパーティを差し置いてでも俺と過ごしたいと思ってくれたんだ。
俺も後悔させないように努力しないとな』
鬱憤が晴れたのもあってか、不思議と俺の中で空腹感が強まった。
「おかわり!」
空になった茶碗を差し出すと、母さんは打って変わって笑顔でご飯をよそってくれた。
『あんたもいい加減、友達と過ごす楽しさを学びなさい燈。
祈世樹ちゃんはきっと、今まであんたが知ろうとしなかった沢山の大事なことを教えてくれるはず。
だから、友達は大事にしなさい…』
母、恵の目に一筋の涙が流れた。




