13.修学旅行二日目〜
翌日、俺はアラーム通りに目を覚ますも、他の二人はまだいびきをかいて眠っていた。
『起きはしたものの……まだ少し眠い…』
薄い意識でボリュームを下げながらテレビをつけると、それにつられてか坂口も起床した。
「あ、悪い。
起こしちまったか」
「いや、いいんだ。
むしろ変に叩き起されるよりはマシだしな」
そう言うと坂口は隣で寝ていた石澤をじっと見つめていた。
何かあったのかと思い、俺も無言で坂口を見つめていると……。
「………ケツ出して寝てんじゃねぇよバカタレがァッ!!!!」
『パチン!』と小気味の良い音を立てながら半ケツ状態で寝ていた石澤が叩き起された。
「ほあちょッ…!?
………んー……あと五分……エ〇リアたんの膝枕を俺にも……」
「いいから起きろ変態」
珍しく坂口がイライラしながら石澤をもう一度叩くと、流石に二度目で目を覚ました。
「痛ッ…!
………なんだっ、もう朝か…」
「おぅ。
遅ぇぞ」
「おっ、おはよ…」
一部始終を見ていた俺からすれば、状況を理解出来ていない石澤が少し惨めに思ってしまった。
「では全員、剛田先生から今日の日程の説明がありますので聞き忘れのないように」
その後着替えを終え、俺たちは朝食を摂るために食堂に集まっていた。
「では剛田先生、お願いします」
「うむ。
…えー……今日は全クラスで美ら海水族館に向かいます。
そのあとは新幹線に乗り京都に向かう。
くれぐれも遅れのないように」
水族館と聞いていても立っても居られなくなったのか、一部の男女が騒ぎ立つ。
まぁ、あの有名な美ら海水族館に行けるんだからそりゃいきり立ちもするか。
「それでは食事を終えた生徒から部屋に戻り、荷物をまとめておいてください。
出発予定時刻は十時半です。
それまでは自由時間としますが、ホテルの外には出ないでください」
現在の時刻は八時半。
今から二時間後か…。
「どうする碧乃。
時間まで支度しても暇だぞ?」
「んー……そうさねぇ…」
考えてみるもここの売店は既に覗いたし…。
さて、どうしたものか…。
「………あっ…」
「…何かひらめいたか?」
「……そいやさ、ここの浴場に向かう時あったんよね……」
「………あー…」
「で、結局こうなるんですかゲーヲタの碧乃さん?」
「う…うるせぇ。
俺だって興味があって来たわけじゃねーし。
ただ、あっちにはない古いゲームが見えたから、つい気になっただけで……」
「そういうのをフラグって言うって知ってたか?
…って、ダメージ食らっちまったか」
結果、俺たちは話の流れにもあった通り、ホテルのゲームコーナーで時間を潰すこととなった。
ホテルのゲームコーナーということもあってか、青森のゲーセンではお目にかかれないレトロゲーが多く、UFOキャッチャーの設定も激強、他の生徒たちも時間潰しに遊びに来ていた。
「サカモッちゃん。
終わったらコンティニューすんなよ。
俺たちもやりたいんだから」
「はいはいっと……って、また食らっちまったクソッ!」
現在、坂口と二人でシューティングゲームをやっている。
これなら程よくUFOキャッチャーよりも金を使わずに時間を潰せるからな。
「あー、終わっちまったか」
「…あら、俺もアウトだ」
ゲームオーバーになったタイミングを見計らって他の男子たちと交代すると、その後ろで紫と海条がいた。
「やっぱりここにいたか」
「おはっす紫。
よくここに俺たちがいるって分かったな」
「同じ部屋の女子からここにゲームコーナーがあると聞いてな。
私たちも出発時間まで暇だし、ここに来ればお前たちもいるかと思ってな」
坂口と饒舌に話すその後ろから、海条はひょっこり顔を覗かせていた。
「お、おはよ……碧乃君…」
「おはよ海条。
昨日はよく眠れたか?」
「うん。
碧乃君は…?」
「あぁ。
そりゃもちろん………ウンッ…」
「…?」
ふと昨夜の出来事を思い出す。
…あれは悪夢だった…。
「すっ………すげー快適だったぞ!
それはもう眠れすぎて、朝起きれるか心配になるぐらいになっ!」
「…そっか!」
薄ら微笑んでくれるも、隣にいた坂口は昨夜の出来事の当事者であるが故、にたにたと笑ってやがった。
…クソ腹立つ。
「なぁ紫。
あとでそこのシューティンゲーやろうぜ。
けっこう面白いぞ」
「ふむ…。
……まぁいいだろう。
退屈しのぎ程度にはなりそうだな」
紫が考え込んでる間、一瞬こちらをチラ見した気がするが気のせいだろうか。
「…という訳だ碧乃。
悪いがお前は海条とどっかテキトーにデートしてこいよ」
「デートって……俺に気遣って言ってんのかハメようとしてんのかええこら?」
「まぁそう堅いこと言うなって。
俺も紫とイチャコラしてるから。
…ほら行った行った」
そう言いながら坂口は俺たちの背中を押す。
「分かったってば。
……とりあえずテキトーにまわるか」
「…はいっ!」
そして俺の後ろを海条がてとてとついていく。
その様子に、俺はとあるゲームを思い出していた。
『なんか…………ピ○ミンみたい…。
さしずめ俺はオ○マーかな…』
そんなくだらないことを考えていると昨日、目についたある場所を思い出した。
「あ、そういえば…」
「…どうかしましたか…?」
「浴場の出入口の所に、卓球台があった気がしたんだよね」
「そうなんですか…?
私、卓球ってやったことなくて……」
「大丈夫。
こう見えて中学時代は三年間卓球やってたから、やり方教えるよ」
「ホントですか?
じゃあ、ご指導お願いします!」
まぁ三年間と言っても実力は下の下だったけど。
真っ直ぐ浴場のとこに行くと、幸いにも無人だった。
「みっけ。
運良く誰もやってないな」
「ホントだ…。
テレビとかでやってるの見たことありますけど、あんな早く打てる自信ないです…」
「いやいや、あれはプロだからね。
初心者はもっとゆっくりで当然よ」
「そ、そうなんですね」
ケースに入っていた百均のラケットを取り出し、俺は久しぶりの卓球に少しだけ胸を弾ませていた。
「そんじゃやるか。
俺も久々で気合い入れていくからな。
スパルタ指導の五ミリ下ぐらいの難易度で教えるから、振り落とされないように着いてこいよ!」
「…はっ、はいっ!
頑張ります…!」
それからは海条に基本的なフォームと打ち方、ステップの取り方を教えていたのだが…。
『…この子………運動オンチすぎじゃないか…?』
相手は初心者ゆえ俺もかなり加減して打ってるのに、海条は誰でも打てそうなサーブに振り回され、レシーブですらろくに打てずいた。
「だっ、大丈夫か…?
すんげー振り回されてるように見えるけど…」
「はぁ…はぁ…。
だ、大丈夫…ですッ…」
彼女のライフはとっくにゼロに見えましたが本当に大丈夫でしょうか。
『んー困ったな…。
……ん?』
どうしようか考え込んでると、ラケットとボールが入っていたカゴに目が向いた。
よくよく見ると、俺たちが使っていたボールの他にもう一球入ってるのが見えた。
「…これだっ!」
偶然にも見つけた「ソレ」に俺はテンションが上がっていた。
「ふっふっふっ……喜べ海条クン。
これで君も卓球が出来るようになるゾイ」
「えっと……何故、ですか…?
……ぞい…?」
「ソレ」を取り出し、俺は高く掲げた。
「テテレテッテレー♪
ラァージボォールゥー♪」
「…ふぇ?」
某青い猫型ロボット風に言うも、全く似てない上に海条はのび〇君風に首をかしげていた。
「よく見てみ。
これ、さっき使ってたのとひと回り大きいと思わないか?」
「……ホントです!
でも…これで私も打てるんですかね…?」
「あぁ。
ラージボールは本来、反射速度の遅い高齢者や初心者が使うボールだ。
普通の玉と違ってひと回り大きい分、狙いやすい上に風の抵抗力も強いから、さっきよりゆっくり飛んでいくから見えやすいんよ」
「そ、そうなんですか!
それなら私も…」
「出来るとも。
見てる感じ、海条の打ち方は教えた通りに出来てるけど、その分フォームを意識し過ぎてボールを打つのに楽な姿勢になれてないんだよ」
「な、なるほど…」
つまり、海条はフォームを崩さないことを意識しすぎてガチガチになってるということ。
性格が表沙汰になり過ぎてる。
「もう少しフォームを意識しすぎず崩し気味で打ってみ。
そしたら打ちやすくなるよ」
「わ、分かりました!」
「…じゃあいくぞ」
小気味よくボールが音を立ててゆっくりと海条のコートへと向かう。
「……えいっ!」
『…パコンッ』
打ち返されたボールは真っ直ぐ俺のコート内へと入っていた。
「……やったじゃねぇか!」
その光景に思わず俺は見入り、打ち返すのさえ忘れて感銘を受けていた。
「…やった…………出来たよ碧乃君!」
初めてまともに打ち返せたことに海条も思わず声を上げて喜んでいた。
「よぉし、この勢いでまだまだいくぞ…!」
ノッてきたテンションに身を委ねようとした矢先だった。
「…残念だがお二方、お時間が来てるんでそろそろ行くよ」
タイミング悪く、慶太と紫が顔を覗かせた。
「…っと、もうこんな時間か」
「ほんとだ!
あっという間だったね…」
ほとんどあなたがミスするからですよ。
「私たちが探しに来なかったら、きっと遅刻して怒られている所だったぞ」
「ふぇ…。
ごめんなさい…」
「まぁ気が済んだならとりあえず行こうぜ。
ここ出たらまた全員で水族館見てまわるべし」
「だな」
「お前たちとなら、どこでも楽しいと思う」
「わ、私も……みんなと一緒なら…」
全員の意気込みを聞き入れ、坂口が狼煙を上げた。
「じゃあ、行くか」
「それじゃ、全員の点呼を取る。
呼ばれた順に返事をしろ。
…高橋里菜」
「はいっ!」
各組の点呼確認が始まった先、俺と坂口は退屈しのぎに他愛のない話をしていた。
「次のバスの座席、どの位置いく?」
「んー…俺は別にどこでもいいかなぁ。
遅かれ早かれ、早いもん勝ちで行けるわけとかじゃないし」
「また真ん中ってのも面白くないしなぁ…。
だからって前の方は先生近いし、後ろは遠いしなぁ…」
そんなグダグダ話をしてると、芹沢先生の声が響いた。
「それじゃ、一組も点呼を取る。
女子から…長波千尋!」
「あっ…はいっ!」
油断していたのか、長波は挙動不審になりながら返事をした。
「おっ、点呼きた」
「ありま」
結果、俺の予想はフラグばりに的中した。
「あとで三百円な」
「おいコラ。
小学生の遠足か」
まぁ茶番よね。
「まぁ三百円ぐらいなら別に構わんけど…」
「いいんかい」
なんてやりとりをしていると、気がついた頃には点呼は終わっていた。
…あれ、俺呼ばれた…?
「…全クラスの点呼は取れました。
これより美ら海水族館に向けて出発します。
まだトイレに行ってない奴は今の内に行ってこい」
それから少しして動き出した他の組の様子を眺めていて思った。
…特に女子なのだが、どんだけどこで買ったのか半数の女子が両手一杯のお土産袋を携えていた。
『一体どこでどんなものを買えばそんなになるのか…。
女子とは分からんな…』
次々と組順に移動し、俺たちもようやく順番が回ってきた。
「ようやく俺たちも行けるな」
「んだな。
じゃあ行くか」
少し重めになった荷物を担ぎ、俺たちはホテルを出てバスに乗り込んだ。
ホテルを出て約十五分。
バスは目的地である美ら海水族館へとたどり着いた。
「うおぉぉーーー!
美ら海キタ━━━━(゜∀゜)━━━━!!」
俺ではないですはい。
「大きいなぁ。
ここにテレビで紹介されてたバカでかい水槽あるんだろ?」
「そうだな。
青森の水族館に比べたら、まさに月とスッポンの差だな」
こっちが俺です。
「ようやく来れたな。
確かにこれは絶景だな祈世樹」
「うん。
楽しみ…!」
喜びを抑えているのか、祈世樹はどこかにやけ顔になりつつ胸元で握りこぶしを作って見上げていた。
「…それじゃ、一組から順番に入っていくぞ。
他のお客もいるので、迷惑にならぬよう静かに迅速にまわれよ」
女子だけではなく男子もまたテンションを上げながらぞろぞろと入っていく。
「祈世樹。
ちゃんとデジカメは持ってきたか?」
「うん。
ちゃんと首から下げて歩くから大丈夫だよ」
そう言って海条はカバンから紐付きのデジカメを取り出し首に下げた。
『きっと西浜さんが気を利かせて持たせたんだろうな…』
「俺たちもいくか」
「おぅよ」
海条にも声をかけようと振り返ると…。
「じゃあ祈世樹。
私から手を離すなよ」
「そんな…子供じゃないんだから…///」
…前言撤回。
俺も行くか。
「ごゆっくりどうぞ〜」
「どうも」
受付嬢の営業スマイルに見送られ中に入ると、大きな水槽が見えた。
多くの人たちが張り付くように見入っていた。
「これが世界一大きな水槽だっけ。
確かジンベイザメがいるんよね?」
「たしか水槽の厚さって五センチぐらいあるんよね?
色んな質のガラス質を重ね合わせたとか」
「試しにお前ぶん殴ってみろよ(笑)」
「嫌だよ、ガチで割れたらシャレになんねぇっつーの」
他の男女が騒ぐ中、俺は少しトイレに行きたくなっていた。
「悪い坂口。
トイレ行ってくるよ」
「そうか。
ゆっくりしてきてかまわんよ」
「大じゃないからすぐ戻るわ」
そんな悪態を吐きつつ俺はトイレに入る。
「……ふぅ…」
手早く用を足しトイレを出た時のことだった。
「……あれ?
…坂口……?」
周りを見渡しても坂口の姿は見えなかった。
それどころか、紫の姿さえ見えなくなっていた。
ダメ元で近くにいた同じクラスの男子に聞いてみることにした。
「ん?
…あぁ、坂口なら他の奴らと先に行ったみたいだよ。
普通にバカ騒ぎしてたし」
「……へ?」
………友達に見捨てられました。
「なんなら俺たちで見てまわろうぜ。
どうせぼっちなんだろ」
「気遣って言ってくれてるんだろうけど、なんかムカつく」
仕方なく俺は同じクラスの男子数人と行動を共にすることにした。
『…そういや海条の姿も見えないけど……流石に紫と一緒だよな。
はぐれないように手繋いでたし』
一抹の不安が残るも、俺はあまり気にせず水族館内を歩くことにした。
「すっげー。
深海魚って青森の水族館にもいたけど、こんなん見たことねぇー」
「おぉ、リアルなシーラカンスじゃん!
どう〇つの〇なら一万○ルで売れるぞ」
リアルではきっと一万ベ○なんて比にならない価値はありますよ。
…てか一万○ルの相場価値が分からん。
『まぁでも深海生物ってなんか面白いよな。
ブサイクだけど、深海で生きていくうえでの生態が興味深いっていうか……ん?』
深海生物のコーナーを見てまわってると、少し先の小さな水槽にへばりつくように見入っている女子の姿が見えた。
『……あれって…』
みんな反対側の大きな水槽の中で自由に泳ぎ回る魚を見てはしゃぐ中、ただ一人、家庭用サイズの小さな水槽に釘付けになっている横顔に見覚えがあった。
「……よっ。
何見てんだ?」
「ふぁッ!?///
…あ、碧乃君……?」
予想通り海条だった。
その海条は予想外とでも言わんばかりの慌てた様子になっていた。
「俺も覗いていいか?
………クリオネ?」
小さな水槽の中を備え付けのルーペで覗くと、米粒よりも小さなクリオネがヒラヒラと泳いでいた。
「海条はクリオネ好きなのか?」
海条はうつむきながらバツが悪そうに頷いた。
俺なんか悪いことしたっけ…?
「……クリオネはね……よく天使ってイメージがあるけど、その捕食の仕方から悪魔の異名も持ってるんだよ…」
それに関しては知ってる。
クリオネは小さいながらも実は肉食性で、自分より小さなプランクトンを頭に収納してる触手で捕らえて食べる…そんなグロい一面からそう言われてるんだよな。
知ってこそいたものの、ここは海条に合わせることにした。
「ほぉ〜。
海条は物知りなんだな」
「え…?
…そ、そんな事ないよ……///
…生き物が好きなだけだよ…」
少し恥ずかしがりながら目をそらす。
…やべ、この小動物お持ち帰りしたいです。
「…そいや紫は?
一緒だったんじゃなかったのか?」
「…そ、それが…」
何か言いづらそうになるも、俺は答えるまで黙って聞いていた。
「…私がトイレに行ってる間に、他の子に誘われて先に行っちゃったみたいで…。
私一人なの…」
「あらまぁ…」
なりゆきは一緒やけど、仲の良い友達は紫だけなんだっけ。
「……じゃさ、一緒に見て歩くか。
俺も坂口とはぐれて(見捨てられて)他の奴と見てたけど、正直、退屈だったし」
「ふぇっ!?
……いいの…?
私なんかと……」
海条がそう言ったのは周りの目を気にしてか、それとも自虐的な意味で言ったのか……考えても答えは思いつくはずもなく。
「一人で見て歩くよりなら、二人の方がきっと楽しいよ」
「……ッ!」
驚いたかのように海条は俺に振り返った。
…目を見ればわかる。
『こんな自分でもいいの?』という疑心の目だ。
「ほら、行くぞ」
「ふぇっ!?
…あ、碧乃君ッ…!///」
埒が明かないと思った俺は……少し強引だが、海条の手を引っ張って順路をまわった。
途中からリラックスしてきたのか、海条は道中、気に入った魚やクラゲの写真を撮ってはその度に俺に見せてきた。
「おぉ。
よく撮れてるじゃん」
その姿は、楽しみにしていた水族館に来れてはしゃぎ回っている子供のようだった。
写真を撮っては見せてくる度にだんだん笑顔が増していく海条に、俺は子を見守る親の気持ち的な感覚で巡っていた。
『こんなにテンションの高い海条、初めて見たな…』
…過剰だろうか。
今、この時間に、俺は今までに感じたことのない幸せを感じていた。
「悪ぃ碧乃。
置いてくつもりは無かったんだが、他のやつに一緒にまわろうぜって言われてなぁ〜…。
…すんまそんッ!」
「…別にいいよ。
どうせそんな事だろうと思ったよ」
ある程度見てまわり、出口付近にあったお土産屋で坂口たちと合流した。
「ごめんな祈世樹。
一人ぼっちにさせてしまって…」
「ううん。
碧乃君が一緒に歩いてくれたからすごく楽しかったよ」
海条もまた、お土産屋で坂口とたむろっていた紫と合流した。
「…そーれーでぇ〜?
海条とは何か進展はあったのかぁ〜?」
「ねぇよ。
普通に見てまわって、時々写真見せてもらったぐらいだよ」
「なんだよー。
そこは告白するとこだろうに」
「いつ俺の告白フラグが立ってるんだクソッタレ」
…まぁ、以前よりは仲良くなれたかもな。
「そいや、そこで撮った記念写真をパズルに作ってくれるとこあるみたいだけど、碧乃はやるのか?」
「生憎、そういうのは興味無いから、撮ってくるならその辺で待ってるよ」
「そっか。
じゃあ紫たちと撮ってくるわ」
「あい」
そそくさと坂口は去り、俺はお土産を見ていようとしたその先で、海条もまたイルカのぬいぐるみを眺めていた。
「海条」
「…ッ!?
あ、碧乃君…。
…碧乃君はパズル作ってもらわないの?」
「まぁな。
俺は自分の写真とかあまり欲しいと思わないから。
…そういう海条はいいのか?
さっきいっぱい写真撮ってたじゃん」
「そうなんだけど……あそこの人物写真だけみたいだから、私もいいかなって…」
「そっか…」
少し間を置いて、今日のことを聞こうとした時だった。
「か、海条…!」
「あ、碧乃君…!」
まさに同時だった。
「…ぷっ……あっはっはっはっ!」
俺が思わず笑うと、海条もまた笑い返してくれた。
「ふふっ…。
…碧乃君からどうぞ」
「あぁ…。
……今日はどうだった?」
単純すぎたかもしれない。
けど、海条は優しい笑顔で答えてくれた。
「……すごく楽しかった。
今日という日はきっと今までにない思い出になると思います。
……ありがとう…碧乃君」
「…ッ!?///」
初めて見た屈託のない笑顔で海条は笑ってくれた。
その笑顔に思わずときめいてしまった。
「……そ、そりゃ良かったッ……///」
ま、まさか……この俺が……リアルでときめくことがあるなんて……。
『…まさか………だよな…?』
「……あれで良かったのか?」
「ん?
何のことやら」
撮ってもらった写真を現像待ちしている間、私と慶太は仲良さげに話す燈と祈世樹を眺めながら二人のことを語り合っていた。
「とぼけても無駄だぞ。
お前は昔から嘘をつくたびに目をそらすからな」
「ありゃ…バレてたか」
そう言って慶太は女子のように舌を出す。
正直、気持ち悪い。
…けど………。
「はぁ……。
…お前、あの二人を歩かせるために「わざと」二人っきりになるように仕組んだんだろ。
祈世樹と燈に気を遣って…」
そう言うと慶太はいつものおちゃらけた笑顔を消し、少し辛辣な顔になった。
「……俺がそんな奴に見えるか?」
「ッ…!?///」
やめろッ…。
そんな目で私を見るな…。
「さっ、さぁな…。
慶太だってそれくらいの気遣いは出来るのかなと思ってな…」
ボリボリと頭を掻き、慶太は私から目を背ける。
「……そんなの……俺のガラじゃねぇよ…」
…その時の慶太の横顔は…少しだけ………男前に見えた。




