9.待ちに待った修学旅行
時は移ろい、気付けば高校二年目の夏が近付いていた。
高校二年に進級した際、一組と二組が合併する事となり、嬉しいことに小野々儀も同じクラスとなった。
担任も芹沢先生のままである。
あれから俺たちはちょくちょく四人でゲーセンに行ったり、海条と小野々儀の買い物に付き合ったりで一緒に過ごす時間が段々と増えていっていた。
そんな矢先、 少し肌寒い風が吹き始め生徒たちの制服も変化の兆しを見せ始めていたときのことだった。
「これから帰りのHRを始める。
HRの内容は、十月に控えた修学旅行についてだ」
修学旅行という単語にクラスメイトたちがざわめきだす。
「よっしゃ来たぜ俺の春ーーー!!!!」
「いやいや、まだ秋も来てないから」
「やっと来たねー。
ウチ、この日をずーっと待ってたんだよねー」
「分かるー!
あたし沖縄で泳ぎたーい!」
「でも…沖縄って海が綺麗だけど、昔は戦争地だったから泳いでると足引っ張られるかもよ?」
「やーだー!
怖いこと言わないでー」
それぞれが思い思いに観光地ややりたいことの話題で持ちきりになっていると、先生が一喝を入れる。
「ほーら。
あくまで修学旅行は「遊びに行く」事じゃないんだからその事を忘れるなよ」
そんな中、俺たちも四人で集まって修学旅行の話をしていた。
「なぁ燈。
お前、修学旅行はどこに行くんだ?」
「沖縄コースだよ。
親も人生一回行けるかどうかなんだから、お金のことなんて気にしないで行ってきなさいって」
「そりゃ良かった。
俺も沖縄の予定だったから安心したわ」
「そか。
でも沖縄って言っても、海と世界遺産と水族館以外見るとこが知らんなぁ…」
「それなら任せとけ。
ちゃんと調べてあるからよ 」
「仕事はやっ!
てか、行くのは沖縄だけじゃないんだぞ?」
「沖縄と京都と奈良に大阪だろ?
そこもぬかりないぜ」
なんて用意周到なやつ。
「紫はどこにするんだ?
やっぱ沖縄か?」
「ん?
私は沖縄とかに興味はないから、別に東北でも良いかと…」
「えー!
どうせなら四人で沖縄見てまわろうぜ。
そんな寂しいこと言わねぇでさ」
「うーむ…。
そうだな…」
小野々儀は承諾してくれたものの、どこか一人話から外れていた海条に俺は気になって声をかけてみた。
「海条?」
「…ふぇ?」
やはりどこか惚けていた海条は突然名前を呼ばれ、寝ていたと言わんばかりに目線を合わせてきた。
「海条はどこにするんだ?
もちろん俺たちと行くよな?」
そう言われた海条はバツが悪そうにうつむいた。
「………ごめんなさい…。
私は…どこにも行けません…」
「…えッ!?」
「…えッ!?」
小野々儀は分かっていたと言わんばかりに黙りこみ、俺と坂口が驚愕する最中、海条は今に泣きそうになりながらもグッと堪えて話を続けた。
「私一人、修学旅行に行くなんてそんなお金の余裕はないし……西浜さんにも修学旅行のことは一切相談してないから……。
みんなで楽しんできて?
…私は平気だから……」
そう言って海条はぎこちない笑顔で笑った。
「では、これでHRを終わる。
全員、帰り道は車に気をつけて…」
『ガタッ!』
チャイムが鳴ると同時に俺は教室を飛び出した。
「ッ!?
碧乃、まだHRは終わってないぞッ!!」
…すんまそん先生。
お叱りは明日以降でおねしゃす。
「…碧乃のやつ……急にどうしたんだよ…」
突然の出来事に取り残された三人は混乱していた。
「碧乃のやつ……まさか、西浜さんに直談判するつもりじゃ…」
「えッ…!?」
「……西浜って、前に言ってた海条のとこの保護者だよな…?」
坂口が西浜を知ってるのは以前、燈が坂口に海条のことを教えたからである。
あまり口外しないで欲しいと言われてはいたが、坂口なら大丈夫だと信じた燈が彼に海条の家の事情、西浜のことを教えたのだ。
「碧乃君………」
出ていった燈を海条は心配することしか出来ずにいた。。
「……とりあえず…俺たちも帰るか」
「あぁ…」
「……」
そして三人は気まずい雰囲気の中、真っ直ぐ家に帰ることにした。
「…はぁ…はぁ……はぁ…!」
一方、燈は孤児院に向かって走っていた。
息も絶え絶えに孤児院に着くと、花壇に水を撒くリルドの姿が見えた。
「はぁ…はぁ……リルドさん!」
突然、名前を呼ばれびっくりしたリルドが振り返ると、燈が息を切らしながら駆け寄った。
「あら…碧乃さんじゃないですか。
一体どうなされ…」
「あのっ…西浜さんは居ますかッ!?」
突然の事にリルドもまた混乱していた。
「西浜さんなら、執務室でお仕事をなされていますが…」
「分かりました!
ちょっとお邪魔します!」
「あっ、碧乃さん…!?
どうなされたのですか!?」
リルドの質問にも応じず、燈は孤児院に入っていった。
「…いかがなされたのでしょう…」
リルドの胸の奥でちくちくと違和感が突き刺さっていた。
『コンコン…』
「…入りたまえ」
「……失礼しますッ!」
リルドがお茶を持ってきたかと思いきや、思わぬ相手に西浜も驚いていた。
「おぉ、碧乃君ではないか。
久方ぶりだな。
急にどうし…」
言い切る直前、燈は地面に頭をつけて土下座した。
「お願いしますッ!!!!
海条を修学旅行に行かせてやってください!!」
突然の事に西浜も理解が追いついていなかった。
「…なっ、何を急に……」
「お願いします!
今回の修学旅行は、俺たちにとって学校生活最後の修学旅行なんです!
みんなそれぞれ行くとこがある中、海条だけ行けないなんて不条理過ぎます!
…全額は無理でも、金なら俺がバイトしてでも出します!
ですから、どうか海条を修学旅行に…」
「落ち着きたまえッッ‼!!」
「…ッ!」
テーブルをドンッと叩く西浜の一喝に燈が思わず心臓を飛び上がらせ言葉を詰まらせると、西浜はため息をつきながら静かに口を開いた。
「…はぁ……。
久しぶりに顔を出したかと思えば、一体何用かね…」
後頭部を掻きながら西浜が問うと、燈は顔を上げて事情を話した。
「その…。
海条のやつ、十月に控えた修学旅行に自分は行けないって…。
西浜さんにも修学旅行のことを伝えてないから、みんなで楽しんできてって…。
…でも、俺たちは海条が居ないときっといい思い出にはなれません。
ですから、海条の代わりに俺から直談判をと……」
「…なんだ、そんな事か…」
「…ッ!?
そんな事って……」
その一言に燈は最悪の事態を想定してしまった。
西浜は修学旅行のことを把握していたに違いない。
なのに、分かったうえで…。
「積立ならとっくに済ませてあるとも。
祈世樹くんが高校に入学してすぐにな」
「…………へ?」
燈が思わず目を丸くし豆鉄砲を食らった気分になっていると、遅れてリルドが入ってきた。
「はっはっはっはっ!
そうか、それで私を説得してでも一緒に行かせようとしてたのか。
いやはや、碧乃君には飽きさせられないなぁ…」
「……面目ないです…」
真実を聞かされ、ものすごく部が悪くなった燈にリルドがレモネードを差し出す。
「お気になさらないでください。
碧乃さんの想いと行動は素敵だと思いますよ」
「…そんなことないです。
めっちゃ恥ずいだけです…」
リルドが慰めるも、西浜は変わらず笑っていた。
「いやぁ、すまんすまん。
…しかしだな、君のその行動は賞賛に値するとも。
今の若者にはなかなか出来ないことだ。
少しくらい胸を張りなさい」
『人のこと笑っておいてよくそんな事が言えますね…』
わずかな安堵に心の中で悪態づいていると、西浜は急に笑顔を無くした。
「まぁ……あの子自身、修学旅行に関しては少しトラウマもあるからな…」
「…トラウマ?」
「…ッ!?
西浜さんッ…!」
何かに感づきリルドが慌てて止めに入るも、西浜に遠慮はなかった。
「リルドくん。
君の言いたいことは分かるが、碧乃君は数少ない祈世樹くんの理解者だ。
……教えてやっても良かろう」
そう丸め込まれ、リルドは不安げに黙りこんでしまった。
「あの……さっきの話…」
「あぁすまん。
一応、君にも教えておこうかとね」
「さっき言ってた海条のトラウマ…とやらですか」
「うむ……」
そして西浜は重々しい空気の中、ゆっくりと語り始めた。
それは三年前のこと。
海条が中学三年生のちょうど今時期の辺りのこと。
修学旅行を間近に控え、彼女自身も表に見せないながらも、どこか楽しみにしていたであろうこの頃の事だった。
「では祈世樹くん。
絶対に落としたり、他の子に見せびらかしたりしてはいけないぞ。
積立金は職員室で渡しなさい」
「はい。
分かりました」
当時、仕事に切羽詰まっていた西浜は、なかなか祈世樹に修学旅行の積立金を持たせてやれずにいた。
そんな中、ようやく期限ギリギリに積立金を一括で持たせていた。
「では、行ってきます」
「うむ。
気をつけていきたまえ」
「行ってらっしゃい」
西浜とリルドに見送られ、海条はいつも通りに学校にたどり着く。
『…そうだ。
落としたりしたらいけないから、先に持っていっちゃお』
海条はそう考え、真っ先に職員室に向かった。
「…失礼します」
珍しく職員室の電気が点いていなかったが、別のクラスの担任の佐和山 大斗が一人だった。
「…佐和山先生。
早崎先生を知りませんか?
修学旅行の積立金を持ってきたんですけど…」
「早崎先生?
…んー、ここに来てからはずっと見てないけど…。
荷物もあるし、どこかに用事を足しにいってるんじゃないかな?」
「そうですか。
分かりました」
探しに行こうにも宛もない故、海条はここなら大丈夫だろうと早崎の事務席に積立金を置いていくことにした。
『会議か何かで居ないのかな…?
まぁ職員室なら置いていっても大丈夫だよね』
…今考えると、この行為が全ての災厄を起こす引き金だったのかもしれない…。
その数日後のこと。
「それじゃあ修学旅行の積立は明日までだけど、出し忘れてる奴は居ないよな?」
なんとか間に合ったことに海条が胸をなでおろしていると、担任の早 優弦が海条を呼んだ。
「海条。
あとで頼みたいことがある。
放課後、先生と職員室に来なさい」
「…?
はい…」
本人は恐らく事務作業などの手伝いに違いないと思っていただろう。
だが、その予想は簡単に打ち壊されることとなった。
「…さて…頼みたいことなのだが……」
誰もいない職員室に二人だけの状況。
だが、先生の様子はどこか不安げだった。
「その…だな……非常に言いにくいことなのだが……。
実は………頼み事というのは嘘なのだ…」
「えっ…?」
ただ事ではないことを察知し、海条の脳裏に不安が過ぎる。
「…君に……伝えなければならならないことがある……」
「……」
予想だにつかない不安に海条は息を呑む。
同時に、それはあまりにも不条理すぎる最悪の現実だった。
「………君の修学旅行の積立金が紛失した…」
「…………え…?」
それは単純かつ、あまりに唐突なことに彼女の脳は一時的に思考を止めた。
「………本当に申し訳ない…」
「………そんなッ………」
祈世樹は膝から崩れ落ち、感情の抜け落ちた人形と化していた。
やがて彼女の意識は薄れ、方向感覚を失い、その場に倒れ伏せた。
「……か、海条ッ!?
おい、しっかりしろ…!」
担任の声も遠い音に消えていった。
『……では、今は様子見ということで……。
早崎先生、どうか気をたしかに…』
遠い意識の中、海条の脳内に覚えのある声が聞こえてきた。
「……んぅ……」
「…気がついた!」
「祈世樹くん、大丈夫かね!?
倒れたと聞いて心配したぞ!」
「…早崎先生………西浜さん…。
…佐和山先生も……」
目が覚めると祈世樹はベッドに寝かされ、周りには大人たちがよってたかっていた。
「……西浜さん………ここは……?」
「病院だ。
君が学校で倒れて、担任の先生が救急車を呼んでくれたのだ」
「……私……倒れたの……?」
そして神妙な面持ちで西浜は海条に語りかける。
「……先生殿から話は聞いた。
修学旅行の積立金がなくなったとな…」
そのセリフに祈世樹の心臓は鈍器で殴られたかのように衝撃が走った。
「…わ……私ッ……!」
「私のせいですッ!!!」
早崎が二人の会話を牽制するように声を張り上げた。
「……あっ、すいません…。
しかし、このような状況になってしまったのは私の責任でもあります。
ですから、どうか責めるなら私を…」
「…早崎先生。
貴方は祈世樹君が持って来た時、席を外していたようだが……その時は一体何用で?」
「はい…。
私は地理学を担当しているもので、前日に準備室に忘れてきた教材を取りに行っていました。
もし前日に忘れてさえいなければ…」
「…そうでしたか。
しかし、それに関して私たちは貴方を責めることなど出来ません。
どうか自分を追い込まないでくだされ…」
「だとしても……海条さんには取り返しのつかないことをしてしまいました…。
これは担任としての責任でもあります…」
収集のつかぬ状況に西浜は頭を痛めていた。
「…佐和山先生は、祈世樹君が積立金を置いていくのを見ていたそうですな。
その後に誰か職員室に入ってきたとかはなかったのですか?」
「それが……海条さんが出ていってから私もすぐに照明電球の部品受け取りに出ていまして……戻ったときには既に早崎先生も居ましたので、もう積立金を受け取っていたものかと…」
「照明?」
「はい。
実はあの日、職員室の照明が一部切れておりまして……私も前日の事務作業が残っていましたので、替えの電球を取りに行く前に軽く処理していました」
「なるほど。
ちなみに警察には?」
「もう被害届は出しました………と言いたいとこなんですが…」
「……何か問題が?」
「…こういった窃盗事件は、目撃者や防犯カメラの映像がなければ特定は非常に難しいと……」
「職員室に監視カメラは設置してなかったのですか?」
「それが、いつもは最初に来た先生方がカメラの電源を入れるのですが、最初に来た私が照明の事に気をとられて入れるのを忘れていてしまっていました………申し訳ありません…」
「……そうですか…」
話を聞き終えた西浜が海条に目を向けると、彼女は涙を流しながら眠っていた…。
「…これで全部だ。
そういったこともあって彼女自身、遠慮という名目で修学旅行に対するトラウマもあるに違いない。
後ほど学校側で積立金を保証させてもらうと話を出してきたものの、祈世樹君自信がそれを断ったのだ。
結局、積立金は学校側で返金という形で返してもらったが、祈世樹君は修学旅行に行かなかったのだ…」
「………」
話を聞いて燈は思考が止まっていた。
おもむろに西浜は燈にティッシュを差し出してきた。
「……ッ!」
気がつくと燈は泣いていた。
自分でさえ気が付かないうちに泣いていたようだった。
「……すいません…」
ティッシュで涙を拭くと、西浜は続けた。
「いや、いいんだ。
だからこそ、今年こそはあの子にとって最後の修学旅行だからこそ、絶対に行かせねばと私も必死になっていたのだ」
西浜の強い意思に感銘を受けつつ、燈は話を続けた。
「…それで……その紛失した積立金は……?」
「結局見つからなかった。
…それからだろうか。
あの子は………本当の意味で笑うことが出来なくなってしまったのだ…」
「…ッ?!!」
その一言に、燈の血の気が凍りついた。
スーッと体温が奪われていく感覚が気持ち悪いほど感じ取れる程に。
「それからだろうな。
祈世樹君が笑えなくなり、再び自分の気持ちを表に出せなくなったのは………」
「………」
もはや涙を止める術などなかった。
当時のことを思い出してか、傍にいたリルドもハンカチで涙を拭いていた。
「……だが…」
鼻をすすりながら西浜は笑顔で続けた。
「…君と出会ってからだ。
祈世樹くんが少しずつ変わり始めたのは。
高校に入ってから少ししてリルドくんが気付いたのだ」
「…気付いたって…?」
燈が振り向くと、リルドは少しだけ微笑んだ。
「…祈世樹さんがお夕飯の手伝いをしてくれてる時でした。
…どこか、いつもの作り笑いとは違う表情で食材を切っていたのです。
どこか楽しそうで、物足りなさそうな陰りを……」
「ほぅ…」
「それで聞いてみたのです。
『何か良いことでもありましたか?』と。
そしたら……」
「そしたら…?」
「…ふふっ…。
あの子ったら……急に顔を真っ赤にして『なっ……何にもないです!ホントです!』って…。
あれでは、良いことづくしで聞かれるのは恥ずかしいと言ってるようなものでしたけどね……ふふっ…」
そう言うとリルドはいつもの素敵な笑顔を見せてくれた。
「……俺……なんですかね…」
「そうだ。
君が初めてここに来た時、祈世樹くんのあの慌てっぷりを見て確信に変わったよ。
…いやぁ、あの日は本当に良い一日だった」
その時の記憶を思い出し、西浜は楽しげに笑う。
「えぇ。
碧乃さんが来てからというもの、本当に祈世樹さんが徐々に自分を取り戻してくれている気がして……私としても感謝しかありませんよ」
「ちょっ…!
そんな大それた事…。
俺は何も……」
「いや。
君が祈世樹くんの心の扉を開けてくれるキーマンとなってくれる。
そう私は信じてる」
西浜は堂々と言い切るが、燈は素直に誉められることがあまり無い故、照れくささ全開だった。
「……あっ、俺これから用事があるんでした!
すいません、今日のとこはこれで…」
「そうか。
送っていきたいとこだが、私もこれから用事がある。
申し訳ないが今日はこのままで…」
「そんな毎度お世話になる訳にもいきませんよ!
じゃっ、俺はこれで…!」
「あっ……碧乃さん…」
そして燈は風の如くその場から走り去った。
「……お見送りぐらいはさせて欲しかったです…」
「うぅむ。
まぁ、あの子なりに気を遣ってくれたに違いない。
…リルドくん、私のコートを持ってきてくれないか?
私もこれから出るとする 」
「かしこまりました」
――翌日――
「はぁ…。
とんでもない勘違いだった…」
「ドンマイドンマイ。
まぁお前にしちゃあ、なかなかカッコイイことしたと思うぜ?
結果オーライだったけどな……ぷくくく…」
「ぐっ…!
お前なぁ……」
「まぁ落ち着け。
むしろ、勘違いで済んだからこそ良かったと思わねば。
私は碧乃の行動は賞賛に値すると思うぞ?」
「ぐぬぅ…。
なんか素直に認められるのも恥ずい…」
「どっちなんだよ(笑)」
昼食の時間、俺たちはいつものように四人で昼食をとっていた。
「…良かったな祈世樹。
これでみんなで修学旅行に行けるぞ」
「うん…」
恐らく海条も帰ってから聞かされたに違いない。
朝からばつが悪そうに俺と目線を合わせないようにしていた。
「まぁ何だかんだで、この四人で行けるんだからいいじゃん。
これで不穏分子は取り除けたって事だな。
……よっと…」
「…?
坂口、それは何だ?」
「見ての通り、沖縄とかの観光雑誌だよ。
どうせ行くなら自主見学もあるんだし、行きたいとことか流れを組んでおかないとな」
「お前ってこういう時に役に立つんだな」
「褒め言葉として受け取っておくよ。
…さて……どこがいいかな。
各自、行きたいとこあるか?」
「私は沖縄の首里城が見てみたいな。
歴史的遺産を生で見れるのは貴重だからな」
「まぁそうだな。
碧乃なんかある?」
「んー……。
沖縄は美ら海水族館、京都・奈良は町並みとか見て回ってみたいかな」
「はいはいっと…。
…海条は見てみたいとこある?」
「…ふぇ?
………水族館……かな…」
はいネタ切れ乙。
「水族館…と。
まぁルートは予定が決まってからじゃないと俺も決められないから、正式的なのは日程と予定が決まってからだな」
「そうだな。
俺の方でも何かしら調べとくから、何か見つけたら教えとくよ」
「んじゃ、俺も今日は予備校あるからまた明日な」
「あいよ。
また明日な」
放課後、坂口はいつも通りに予備校へ向かった。
ちなみに海条は委員の仕事で席を外している。
『さて、俺も帰るか…』
そう思った時だった。
「…碧乃」
声をかけてきたのは小野々儀だった。
「ん?
…小野々儀、どうした?」
珍しい相手に俺は某モノマネ帝王ばりの高速まばたきをしていた。
あっ、変顔はしてないお。
「……ちょっと付き合ってくれないか?」
「……へ?」
デートの誘いではないことはすぐ察した。
小野々儀に呼び出された場所、それは学校の屋上だった。
その小野々儀は少し遅れるから先に行っててくれとすぐにいなくなった。
『何か相談かな…』
この手のことはもうなんか慣れすぎて変に驚きもなくなってきていた。
「……すまない、待たせたな。
…よかったら飲んでくれ」
「さんきゅ」
遅れて来た小野々儀は俺の分のコーヒーを買ってきてくれた。
「で、小野々儀……」
「「紫」……でかまわない」
「おっ……ゆかっ……。
…それで、用件はなんだ?」
「あぁ。
お前に一つ話しておこうかと思ってな…」
……途端に小野々儀……紫の表情に陰りが生じる。
正直、嫌な予感しかしなかった。
「…何か相談か?」
「んー…。
相談とは違うのだ…」
手すりに寄りかかりながらも神妙な面持ちで手に持ったコーラを紫は見つめる。
…そんなに言いにくいことなのだろうか…?
「……海条のことか?」
「…ッ!?
どうしてその事を…!」
「いや…ただの勘だよ。
俺とそんなに接点のない紫が用なんて、海条関連しかないだろ?」
区切り付けに貰ったコーヒーのプルタブを開く。
その音と同時に俺を見つめていた紫が我に返り、呼吸を整えてから口を開く。
「……あぁ。
碧乃を呼び出したのは他でもない。
……祈世樹についてだ」
「祈世樹」という単語に少し動揺を覚える。
…そいや、俺って海条って呼ぶけど、下の名前で呼んだことなかったっけ。
「…こういう言い方は失礼だが……碧乃は信用に足る男だ。
……話してもいいだろう」
…やけにここ二日ほど海条祭りだな。
そんな馬鹿なことを考えてると紫は重たげに言い放った。
「……祈世樹の「男性恐怖症」についてだ」
「…………へ?」
……なんか、ギャルゲーでこういうヒロイン関連のトラウマ的過去話の連チャンを見たことある気がする……。




