怪奇!!アルバ・イーターとは一体!?
俺の名前はアキラ、大学2年。
文芸サークルで短編小説を書きながら、将来は小説家になりたいって夢を追いかけてる。
でも、現実は学費のために深夜のコンビニでバイトだ。
ぶっちゃけキツい。
眠気と格闘しながらレジ打って、商品並べて、心がポキッと折れそうになる瞬間、何度あったか。
だけど、夢のため、大学のため、辞めるわけにはいかない。
夜中の2時、店内は静まり返ってるのに、蛍光灯がチラチラ瞬いてやたらうるさい。
スナックの棚を整えてると、ふと初日の記憶がフラッシュバックする。
レジ研修中、急に客がドッと押し寄せてきた。
スキャナーミスで警報音がビーッて鳴り響き、手が震えて商品落としそうになった。
あの瞬間、誰かに見られてたらどうしようって、パニックで頭真っ白。
もう二度とあんな恥ずかしい思いしたくない。
棚整理を終えてバックヤードに戻ると、空気がなんか重い。
このコンビニ、なんか変だ。
1年でスタッフ10人中7人が辞めてる。
どの店でもある話かもしれないけど、こんな短期間でポンポン辞めるのはおかしい。
バックヤードでカワムラ店長が棚卸表を睨み、眉間にシワ寄せてシフト表をじっと見つめてる姿、最近よく見る。
「人がすぐ辞める…」
店長がボソッと呟く声、なんかドスンと響く。
「アキラ、辞めるなんて言わないよな?」
ニコッとした笑顔、でも目が笑ってない。
口角だけ上がったその顔に、胸がザワつく。
「大丈夫ですよ、店長」って答えるけど、声が上ずる。
シフトの穴が増えて、俺の夜勤も増える一方だ。
―――
ある深夜、バックヤードの冷蔵庫に廃棄のハムサンドを取りに行ったとき、変な気配にゾクッとした。
店内は客ゼロ、静かすぎるのに、空気がドロッとして重い。
金属の棚の隙間から、淡い緑のツタがヌルッと伸びてきた。
スライムみたいな感触で、サンドをひったくって暗がりに引っ込む。
一瞬、頭がフリーズ。
誰か店内にいる? イタズラ?
心臓バクバクで監視カメラのモニターに飛びつくけど、映像には何もない。
ただの棚、いつもと同じ。
店内を走り回って探すけど、静かすぎる。
冷蔵庫の低いうなりと、蛍光灯のジジッって音だけ。
なのに、指先に残るヌルヌルした感触。
生温かくて、気持ち悪い。
幻覚…じゃないよな?
―――
朝、退勤の時間。
ミホ先輩が出勤してくる。
俺より1年長いベテランだけど、最近は目が落ちくぼんで、魂が抜けたみたい。
そんな彼女だけど、なんだかホッとした気持ちになる。
やっとこの不気味な店から解放される。
安心感からか、つい俺はさっきのツタの話をぶちまけた。
「ミホ先輩、なんか変なもん見ちゃって…」
レジで伝票整理してたミホ先輩、動き止めてボソッと。
「それ、アルバ・イーターじゃない?」
「は? なんすか、それ?」
俺は思わず身を乗り出す。
ミホ先輩は表情を変えずに言った。
「ただの都市伝説。深夜のコンビニに潜んで、アルバイターのストレス食う怪物。ダジャレみたいな話よ」
口調は軽いけど、目がこっちを見ない。
俺、興味津々で聞く。
「どんな姿? なんでそんな噂が?」
ミホ先輩、伝票をパラパラめくりながら、ポツリ。
「さあね。誰かが適当言い出しただけじゃない? でも…」
少し間があって、声が低くなる。
「私も変なことあったよ。深夜、廃棄弁当捨てる時、ゴミ置き場から…なんか、プラスチック噛み砕くみたいな音。低いうなり声」
彼女の声、妙に低くて、ゾクッとした。
俺、笑って誤魔化そうとする。
「じゃあ、俺が見たの、それかも。なんか怖くなくなったっすね」
でも、ミホ先輩の目が一瞬、ゴミ置き場の方にチラッと動く。
「まあ、気をつけなよ、アキラ。夜勤ってさ、なんかおかしくなるよね」
彼女、苦笑いみたいな顔して、また伝票に目を落とす。
俺はなんかモヤモヤしたまま、レジ裏に戻った。
―――
次の夜勤、バックヤードで商品補充を終えた頃、店内が妙に静まり返ってる。
蛍光灯のチラつきがやけに目について、頭がズキズキする。
ふと、キシキシって変な音が響く。
壁が軋むみたいな、気味悪い響き。
ミホ先輩の話が頭をよぎる。
怖いけど、誰かのイタズラなら俺が確かめなきゃ。
音のするゴミ置き場へ向かう。
懐中電灯の光で照らすと、地面に転がる弁当パック。
プラスチックにギザギザの傷、まるで歯で噛まれたみたい。
ネズミ? いや、こんな生々しい傷、ありえない。
切り込みだらけのパックを手に取ると、指先に冷たい感触。
恐怖と「ミホ先輩の話、本当かも」って現実感が混じる。
風がビュッと吹いて、ゴミ袋がカサカサ揺れる。
影が動いた気がして、慌てて店内に戻る。
心臓がドクドクうるさい。
冷蔵庫の低いうなりが、なんか笑ってるみたいだ。
―――
数日後のシフト、レジでだるいクレーマー客を捌いてたら、新顔が現れた。
新人のケンタ、バイト慣れした自信満々の奴だ。
棚整理も客対応もバッチリで、まるでこの店を仕切ってるみたいなノリ。
「アキラ、在庫管理も覚えろよ!」って笑いながら指示飛ばしてくる。
俺、先輩なのに、なんかコイツのペースに飲まれそう。
「お前、ちょっと待てよ。俺、先輩なんだけど?」って軽く突っ込むと、ケンタは「ハハ、了解っす! 先輩、教えてくださいよ!」ってニヤッと返す。
こいつ、頼りになる。
なんか、この店でもやっていけそうな雰囲気だ。
でも、1週間後、ケンタは消えた。
バックヤードに制服だけポツンと残ってる。
やる気満々だった奴が、何も言わずに辞めるなんて。
前の日、普通に「じゃあな!」って笑ってたのに。
弁当の棚見ながら、馬鹿らしい考えが浮かぶ。
「まさか…あのツタに食われた?」
笑い事じゃないのに、声が震える。
冷蔵庫がゴオオと唸る。
まるで俺を嘲笑うみたい。
―――
朝6時、フラフラでアパートに辿り着く。
体が重くて、ベッドに倒れ込むと、頭がモヤモヤでいっぱいだ。
スマホが光る。
ユウトからのLINE。
「アキラ、付き合い悪いぞ! バイト多すぎじゃね?」
指が重いまま、ボーッと返す。
「シフト…仕方ねえよ」
ケンタが辞めて、俺の出勤が増えたせいだ。
小説、最近全然書いてない。
机の上のノート、開く気力もない。
ケンタ、なんで辞めたんだ?
あの自信満々の笑顔が、なんか遠い記憶みたいだ。
頭に、ツタのヌルッとした感触がチラつく。
鍵かけた部屋で、スマホを握りしめる。
冷蔵庫の唸りが、耳の奥でまだ響いてる気がする。
―――
シフトの合間に廃棄弁当を整理してると、冷蔵庫の唸りがやけに耳につく。
また深夜、店内は客ゼロで静まり返ってる。
廃棄弁当を詰めたゴミ袋を抱え、ゴミ置き場へ向かう。
通路の電灯が薄暗く、チラチラ揺れる光が影を歪ませる。
なんか、背中に視線を感じる。
嫌な予感が胸を締め付ける。
ゴミ置き場に近づくと、ビニールが擦れる音。
シャッシャッ。
手に持った袋を見ると、裂け目から緑のツタがヌルッと溢れ出す。
心臓が一瞬止まる。
ヌルヌルしたツタが、まるで生き物みたいに蠢いて、袋の裂け目を押し広げる。
ビニールがビリビリ裂ける音、ツタの先が俺のスニーカーに触れる瞬間、ゾッとして全身が硬直。
息が詰まる。
慌てて袋を落とし、後ずさるけど、濡れたビニールに足を取られて転びそうになる。
ツタがスニーカーに這い上がり、温かくて粘る感触が肌に絡みつく。
「うわっ!」
叫びながら振り払うけど、ヌルヌルした感触が指に残る。
心臓がバクバク、頭が真っ白。
レジに逃げ込む。
息が荒く、汗でシャツが背中に張り付く。
レジに戻って息を整えるけど、手が震えて止まらない。
ふと、レジの画面がチカチカしてるのに気づく。
「E-404」ってエラーが点滅。
嫌な予感がする。
カウンターの下を覗くと、POSの端子に細い緑のツタが巻きついてる。
脈打ってるみたいに、ピクピク動いてる。
頭がクラッとする。
パニックで電源コードを引っこ抜く。
ツタがシュッと縮み、粉みたいにパラパラ落ちて消えた。
店内が急に静まり返る。
蛍光灯のジジッって音だけが耳に刺さる。
心臓が喉から飛び出しそう。
「これだ…こいつがみんなを辞めさせてる」
声が震える。
冷蔵庫の唸りが、なんか遠くで笑ってるみたいだ。
―――
朝、アパートに帰り着く。
ベッドに倒れ込むけど、頭ん中がツタのことでいっぱいだ。
震える手でノートを開く。
あのヌルヌルした感触、蠢く緑の影、頭から離れない。
スケッチすれば、なんか整理できるかも。
ペンを握り、蠢く茎、ギザギザの歯みたいな突起を描き殴る。
ページが真っ黒になるくらい、ツタのイメージを吐き出す。
恐怖がペン先に滲む。
小説家になりたいって夢、学費を払うため、このバイト辞められない。
なのに、こんな気味悪い店で働き続けるなんて、頭おかしくなりそう。
スケッチのツタ、動いてる気がする。
目を擦るけど、ページの線がユラユラ揺れて見える。
―――
次の夜勤、ハサミをポケットに忍ばせる。
包丁はさすがにヤバい奴みたいだから。
冷蔵庫前に立つと、背中に冷たい視線。
蛍光灯がパシパシ点滅、頬に冷気が這う。
気配が、俺を狙ってる。
突然、冷蔵庫から緑のツタが飛び出し、腕と胸を締め上げる。
ゴムみたいに強靱で、ヌルヌルした感触が肌に絡みつく。
冷蔵庫の奥に引きずられそうになる。
恐怖で頭が真っ白、でも体が勝手に動く。
ポケットからハサミを引っ張り出し、葉の付け根をガシガシ切りつける。
「離せよ! 消えろ!」
叫びながら刃を振り下ろすたび、肉を切るみたいなドロッとした音が響く。
白い汁が飛び散り、床にベタベト落ちる。
蛍光灯の点滅で影が揺れ、ツタに亀裂が入る。
金属と植物が裂けるキィィって音が店に響き渡る。
ツタがドサッと崩れ、俺も膝をつく。
汗と汁で全身ベトベトだ。
息を切らしてバックヤードを見ると、ドアが半開き。
床に緑の破片が散らばってる。
ゴミ袋か、ツタか、分からない。
指で触ると、冷たくて硬い。
「倒した…」
実感が湧く。
これで、誰も辞めないはず。
店は安全だ。
―――
数日後、新人のリョウがやってくる。
自信なさげで、顔色が悪い。
彼が萎縮しないように、俺は丁寧に仕事を教えた。
ツタは倒したんだ。
リョウならバイト、続けてくれる―はず。
店も、俺も、きっと大丈夫だ。
でも、どこかで不安がチラつく。
なんだかリョウの目、ミホ先輩みたいに虚ろに感じた。
―――
数日後、大学の図書館前でユウトに会った。
「アキラ、大丈夫か?サークル1ヶ月出てねえぞ。ていうか元気ねぇな?顔色やばいけど」
心配そうな声。
俺は笑顔を作りながら答える。
「大丈夫。怪物倒したから。新人も入ったし、元気だよ」
「怪物? 何だよそれ?」
ユウトの怪訝な顔が見える。
突然、視界が揺れた。
気づくと、コンビニの休憩室に俺は居た。
コーヒーメーカーの横、スマホが鳴る。
カワムラ店長。
「アキラ、金曜から日曜、夜勤3連続な。辞めるなんて言わないよな?」
ニヤリとした声。
棚にリョウの名札と制服が置いてある。
「リョウが…そのシフトのはず」
声、震える。
店長、笑う。
「リョウ? もう辞めただろ? お前、頑張れよ」
「怪物、倒したのに…なんで?」
呟く。
背後、倉庫のゴミ袋の隙間から、緑のツタがユラリと覗く。
蛍光灯がチラつく。
カワムラの笑顔、ツタの蠢きと重なる。