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第9話 ジャイアントシチュー

「さあ、お前たち。オレが自分の手で作ったシチューだから遠慮せずにたらふく食ってくれ。心配しなくても追加でどんどん作るからな!」


 つよしが山籠もりの特訓から戻ってきて数日後。


 とある大きなホールを貸切で開いているパーティに、剛といつものメンバーが集まっている。


 いやそれだけではなく芸能関係者やスポンサー、それと剛とくろみのファンたちの中から抽選で選ばれた者たちが多く参加しているのだ。


 なぜならこのパーティは、明日行われる2人のステージ勝負イベントの前夜祭だからである。


 そしてパーティの目玉として企画されたのが、それぞれの歌手が手料理を作って関係者やファンに振る舞うというものだ。


「わたしの作った料理もありますから、沢山食べてくださいね〜!」


「くろみちゃんの料理、とっても美味しそう〜!」

「旨い! これは何杯でもいけるぞ!」

「スプーンを口に運ぶのが止まらない〜!」


 くろみの手料理はおおむね好評だ。


 一方、剛の手料理は……。


「なんか……凄い色してない? 毒々しい紫と怪しいピンクが混じったみたいな」

「臭いもちょっと。酸っぱいっていうかすえた臭いっていうか」

「何が入ってんのよこれ!」


 あまりの見た目に、熱狂的なファンたちですら口をつけるのを躊躇していた。


 その様子を見ていたくず太は剛に尋ねる。


「ジャイアント! 材料は一体何なのさ!」


「ん〜!? この世界でありふれた食べ物ばかりだぞ。スライムの塩辛だろ、薬草の砂糖漬け、サラマンダーの肉の糠漬け、みたらし団子、あとは素揚げしたよろいムカデのぶつ切りと隠し味のコーラだ」


「……コマざえもん、本当に食べられる物ばかりなの?」


「ひとつひとつは普通に食べられるよ。でもそのごった煮なんて……信じられない」


「お前ら、何をゴチャゴチャと!」


「な、なんでもないって」


「それより、オレの料理があまりに完成度が高いから、ファンの皆さんが戸惑ってんじゃねえか? ここはくず太、お前が美味しそうに食ってみせろ!」


「ええ〜! そ、そんなの無理だよ、不味いに決まってる!」


「ああ〜!? 今、なんて言った? ことと次第によっちゃ、お前がすごーく不幸になるぞ?」


「いや、僕だけ美味しい思いをしちゃマズいって」


「おお、そうだな。コマざえもんにスカ夫も食っていいぞ!」


「くず太〜! ボクはお前を一生許さないからなっ!!」


「えっ、そんなに剛くんの料理はヤバいモノなのかい?」


「ヤバいなんてものじゃないよ、3日間は頭がクラクラして味覚がめちゃくちゃになるんだ」


「というか、ひとくち食べるごとに生気が吸い取られるみたいで、お椀一杯でもとても完食できないよ」


「そうか。それじゃあぼくの出番だね」


「どうしようってのさコマざえもん?」


 コマざえもんは肩にかけている収納ポシェットから『べんりな魔導具』を一つ出した。


「じゃーん! 『魔法のように料理を美味しくする素』だよ!」


「なんだよその長ったらしい魔導具名は」


「ぼくが独自に開発した魔導具なんだけど、いいネーミングが思いつかなくて。これを料理に混ぜれば、あ〜ら不思議! どんな料理でも魔法のように自分好みの味になるのさ!」


「すごいけど、何でそれを開発したの?」


「ぼくがまだ貧乏学生だった頃、毎日硬いパンと殆どお湯のスープしか食べられなくて。それでこれを開発して毎日を凌いだのさ」


「へえ〜。でも今は貧乏学生じゃないよね」


「開発した魔導具で特許を取ったり、ギルドでバイトして稼いだりしてるからね。でないとキミたちのような育ち盛りを4人も養えないよ」


「お前らまたゴチャゴチャと! さっさとやれ、今日のオレは気が短いんだ!」


「今日も、だろ。それじゃ僕のお椀にそれ入れてよ、コマざえもん」


「ボクにも」


「ほいっと。ぼくは最初のひと口はあえてそのまま食べようかな」


「それじゃあ、一斉に食べるよ」


「いっせーの」


「せい! モグモグ……」


「ん? くず太くんたちが言うほど不味くは無いんじゃ。ふた口目は素を入れて……うん、そこそこいけるんじゃない?」


「うーん……!」

「ううっ……!」


 くず太とスカ夫は、バターン! と仰向けに倒れて気絶してしまった。


 素を入れたにも関わらず、それでもあまりに衝撃的な味で脳が許容範囲を超えて、意識を保てなかった。


 イヌの獣人コマざえもんは人間よりも舌の味蕾の数が5分の1であり、不味さへの感受性もくず太たちより鈍いのであった。


「どうしたんだあの2人?」


「おい、コマざえもん、どうなってんだ?」


「うーん。たぶん、美味しさのあまり卒倒してしまったんじゃ」


「おおーっ! 卒倒する程美味しいとは、さすが我らがジャイアント剛の手料理!」

「おれたちも早速食べようぜ!」

「あたしにも頂戴!」


 剛のシチューを我先にと口に運ぶファンたち。

 そしてホールは卒倒した人たちで溢れかえってしまった。



 そしてイベント当日。


「あーあ。やっぱりジャイアントの方の客席は誰もいないよ」


「しまった……オレが手を抜かずにシチューを作ったせいで、ファンのみんなに快感を与え過ぎちまった。今度は味を少し落として調整しないと」


「いや、それだと余計に酷いことになるんじゃ」


「……昨日から何が言いてえんだくず太!」


「いやその……あっ、くろみちゃんのステージが始まるよ!」


「くろみちゃん……悪いが、今日こそはオレがナンバーワンだとわからせてやるぜ」


 こうして波乱の対決ステージが始まったのであった。

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