第8話 ライバル出現で陥落
「みなさーん! 今日は、わたしのステージを見に来てくれて、ありがとう〜! このあと、精いっぱい頑張って歌うから、応援してね〜!」
「く・ろ・み・ちゃぁ〜〜〜ん! マジカワイイ! カワイイよ〜!!」
「キャーッ! こっち向いてくろみちゃん〜!」
「ふう。くろみちゃんのお陰でボクのマネジメント会社は倒産を免れたよ」
「まさか、あのダンジョン配信を切っ掛けに、くろみちゃんをアイドルデビューさせたいって話が舞い込んでくるとはね〜!」
「あの配信……特にパンチラ画像で爆発的な人気が出たんだけどね。それでコンプライアンス違反で倒産寸前まで追い込まれたのに、何が起こるかわからないもんだ」
「ふふん。僕のおかげだね」
「どこかだよくず太! くろみちゃんにはそのことで何故かボクがサイテーって言われて平手打ち食らわされたんだぞ! それに会社を立て直すのにどれだけ苦労したか! お前は黙ってカメラ回しとけ!」
「そ、そんなに怒鳴らなくてもいいじゃないか〜!」
「やれやれ、とにかくひと段落着いたことは素直に喜ぼうよ。ところで剛くんは?」
「さあ。コマざえもんと一緒だと思ってたけど」
「いや、神妙な顔つきでどこかいっちゃってさ。ここかと思ったのに」
「くろみちゃんに人気取られて塞ぎ込んでんじゃないの? いい気味だ、いつも僕を大した理由なく殴るから天罰が下ったのさ!」
「くず太ぁ〜! オレがどうして、それでなんだってぇ〜!?」
「うわああっ!! ジャ、ジャイアント! な、なんでもないよ!」
「今に見てろよ、くろみちゃん。オレはまたナンバーワン歌手に返り咲いてみせる!」
「くろみちゃんをライバル視してるよ……」
◇
「みんな、聞いてくれ! 遂に、遂に……ぼくの収納ポシェットが直ったんだ!」
「ふーん。それはよかったね」
「今さらもういいよ」
「……コマちゃん、わたし、次のステージの準備で忙しいから、また今度にして?」
「ひ、酷いよ! トラブルだったとは言え、君たちも関係する話なのにっ!」
「だって〜、その中に入ってる『べんりな魔導具』とやらは全然見せてもらってないし」
「ボクはこの世界で既に成功したから、どうでもいいんだけど」
「わたし、もうステージに行くから。暇な時にゆっくり聞かせてね?」
「なんだいなんだい。もう、中の魔導具を見せてやるもんか!」
「わ、悪かったよコマざえもん。わー、スゴイや、もう直ったなんてー」
「魔道具ってどんなのか、楽しみだー」
「……もういいよ。というか、修理に出す時に中の道具はいったん別の空間に預けてるから、今は空っぽなんだけどね」
「そんなことだろうと思ったよ、僕は」
「あっ、ちょっと待って。ボクらがここに来たときも話したけど、そこから入って元の世界に戻るっていうのはやっぱりダメなの?」
「それは、残念ながら保証できないな。というか、最初に吸い込まれた空間の裂け目はもう消えちゃってるんじゃないかな」
「……やっぱりだめか」
「そろそろママとパパに会いたいな」
「わかったよ。今度ギルドに行って何か手はないか相談してくる。親御さんたちも心配してるだろうし」
「ホントに!? コマざえもん、大好き!」
「や、やめろよくず太くん! ホッペにチューとかマジキモいから止めて!」
「やっと帰れるかもしれないのか。そうなったら本当に嬉しいよ」
「まあ、手は尽くしてみるよスカ夫くん。それまでは会社の経営頑張ってね」
「うん、なんだかやる気が出てきたよ。コマざえもんサイコー!」
「わっ! 君まで止めてくれー! ぼくにソッチの趣味はないんだ!」
「お前ら男同士で何を組んずほぐれつやってるんだ?」
「ジャイアント! 数日間どこに行ってたのさ!?」
「打倒くろみちゃんを目指して山籠もりしてノドを鍛えてきた」
「そ、それってつまり」
「おう! オレの美声は前より100倍パワーアップしたぜ! ウラウラウラウラウラウラウラウラッ! ボエェェェェェェェ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ボエボエッ!!」
「「「こ、こんなところで止めてーーー!! いぎゃあああああああ!!!」」」
くず太たち3人は半日も気絶する羽目となった。
果たして、剛は異世界リサイタルに客を呼び戻せるのだろうか?