第5話 お前のものはオレのもの、オレのものもオレのもの
「おうっ! オレだ、みんな見てるか〜!?」
ここは街の郊外にあるダンジョンのまだ浅い階層。
剛は自撮り棒片手にカメラへ向かってファンに呼びかけている。
正確にはカメラではなく、遠隔通信用の魔道具に向かって、だが。
この異世界には便利な魔導具が既に幾つも開発されており、カメラも元々は王国騎士団が偵察用に開発した物が民間に広まったのである。
「ちょっとジャイアント、それボクのカメラなんだから壊さないでよ! それに後でちゃんと返してよ、いつもみたいに借りパクしないでさ」
「なにぃ! オレが借りたものをいつ返さなかった!?」
「いや、この間貸したゲームだって。それに漫画とかもいっぱい」
「返さないんじゃねえ! 無期限で借りてるだけだぞ!」
「もういいよ……今回の配信で稼がせてもらったらそれでまた買うから。それにしても既に凄いアクセス数だ」
「今からオレさまがモンスターどもをぶっ倒しちまうからよ〜!? みんな応援してくれよな! ギャハハハッ!!」
ファンたちの嵐のような書き込みにご満悦の剛。
ところでファンたちはどうやって配信をナマで見ているのか。
実は街にはインターネット代わりの魔力による通信網が整備されているのだ。
「でもこれってどうやって外の通信網に繋げてるのさ、コマざえもん」
「さっき説明したじゃあないか、くず太くん。そのためにぼくも一緒に来たんだから」
「ゴメン、興味ないからすぐに忘れちゃった」
「余計なお世話だけど、そんなんじゃ大人になってから上手くやっていけないよ。仕事でも何でもキミが興味あることばかりじゃ……いや無くてもやらなきゃいけないことばかりなんだ」
「説教はいいから早く説明してよ」
「しょうがないなあ、でもこれっきりだよ。外の通信網とは、ぼくが魔力を常に放出して接続しているんだ。だから今のぼくは回復魔法すら出せない」
「それじゃいざという時ヤバいじゃん」
「そんな時のためのコレだろう〜? ボクが大枚はたいて買ったダンジョン緊急脱出カード!」
「スカ夫さん、それはいいけどくず太さんが辛そう。荷物が多すぎるのよ」
「だって、くず太はこれまで何の役にも立っていないじゃないか。リサイタルでもすぐに気絶して、お客さんの対応してるのはボクとくろみちゃんばっかり。荷物持ちくらい当然だろ」
「でもちょっと酷すぎるよこの分量。ぼくが少し持ってやろう」
「あたしも」
「かえってくず太のためにならないと思うけどねえ」
「おおっ! テメェー、モンスターだな!」
「グワオオーーーッ!!」
なんと、いつの間にかパーティの目の前に炎を吐くモンスター、サラマンダーが現れた!
「これはまずい! スカ夫くん、すぐにカードを使うんだ!」
「え〜っ! ダンジョンに入ってすぐに使ったらアクセス数が稼げないよ!」
「そんなことを言っている場合か! コイツはとても危険なモンスターなんだぞっ!」
「グルルルッ……!」
「きゃあああっ! 口の中に大きな炎を溜め込んで、今にも吐き出そうとしているわ!」
「おっ、カッコいい技じゃねえかよ! おいサラマンダー、オレにその技を寄こせ! すううううぅぅ……!!」
「じゃ、ジャイアント! ま、まさか!」
「グオオオ……オォ?」
「そら行くぜえっ! ウボアアアアアアーーーーーッ!!」
サラマンダーの口からは炎が消え、剛の口からモンスターを丸ごと包み込む巨大な炎がっ!
「アギャアアアアアアアーーーーーーーッ!!」
「へっへっへ、大トカゲの丸焼きだなこりゃ!」
「ああ……やっぱりWEB小説みたいに異世界でチートスキル使えるのか、ジャイアントは。でもやってることはいつもの借りパクだけど」
スカ夫の推測通りであり、この借りパクスキルでジャイアントパーティはダンジョンを快進撃するのであった。