第4話 異世界リサイタルとダンジョン配信
「おうっ! みんな、待たせたなぁ! それじゃあ早速いくぜっ! オレのリサイタルを聞けぇ!!」
「きゃーっ! 剛さんステキー!」
「早くその歌声でおれたちを痺れさせてくれ〜!!」
「ボエェェェェ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
「ぐわあああああああーーーーーーーーー!!」
数万人の観衆で埋め尽くされたリサイタル会場は、剛の超絶音痴な歌声に全員が卒倒した!
ドサドサっと次々に倒れる観客たちを起こして回るのは、くず太、スカ夫、くろみの3人のスタッフ。
しかし彼らも襲い来る頭痛と不快感と吐き気に耐えながらの作業で今にもぶっ倒れそうだった。
「スカ夫さん、やっぱり耳栓が役に立たないわ」
「これ、パパの会社で開発したヤツで超音波も防げるはずなのに。ジャイアントの歌は直接脳に来るから意味なかった。それよりもくず太は? アイツ逃げたんじゃ」
「きゃあああ! あそこで倒れてるわ!」
「なんだ、きっと気絶してるだけだ。ほっといてボクらだけでやらないと」
「ごめんなさい、くず太さん」
一方、起き上がった観客たちは。
「死、死ぬかと思った!」
「聞き始めは脳ミソがドロドロに溶けてしまいそうだったけど」
「その後の恍惚感が、堪んねえ〜!」
剛の歌声は、この異世界で受け入れられていた。
というか、何のことはない。
脳と身体に激しい衝撃を受けて体内で発生した脳内麻薬でラリっているだけであった。
現代日本人にはそこに行くまで耐えられない歌声でも、この異世界人たちはたまたま耐えられる体質だったのだ。
「今日はまだまだいくぜーーーーーーー! ボエェェェェェェェ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」
「もっと、もっとおれたちに刺激と快感を!」
「ああもう、あたしのことムチャクチャにして〜!」
こうして卒倒してはラリるを繰り返し深夜まで続いた狂乱のリサイタルは、ラリった観客たちが広めた評判により、更なる信者……もといファンを増やし続けるのであった。
◇
リサイタルの翌日、コマざえもんの自宅にて、コマざえもんとくず太が喋っている。
「コマざえもんはリサイタルに行かなかったけど、どうして?」
「ぼくらイヌの獣人は人間よりずっと耳がいいから、あんなの1分も聞いてられないよ。歌じゃなくてただの騒音さ」
「そういえばジャイアントはどこ行ったの?」
「ああそれなら……」
「おうっ! オレが戻って来たぞ!」
「ジャイアント、どこ行ってたのさ」
「実はノドの調子が悪くてな、病院に行ってきたんだ。お前らこそ何喋ってたんだ?」
「コマざえもんはどうしてリサイタルに行か……んぐんぐっ!」
「な、何でもないよ。で、ノドはどうだったの?」
「歌い過ぎでノドが疲れてるから、しばらくは歌うのを控えろってさ。そういえば、このところ連日リサイタルや魔物退治で歌いっぱなしだったからな」
「そうなのか……それはちょっと弱ったな」
「どうしたの?」
「実は、剛くんに冒険者ギルドから依頼が来てるんだ。街外れにあるダンジョンに潜って魔物退治してくれって」
「なんだ、それなら行くに決まってんだろっ! ダンジョンにどんなヤツが待ち構えていようが、オレのリサイタルを聞かせてやるまでよ!」
「ダメだよ、お医者様のいうことは聞かないと。お薬処方されてるならちゃんと飲んでさ」
「コマざえもん、かーちゃんみてーにうるせーこと言うんじゃねえよ!」
「だってここでは、ぼくがキミたちの保護者代わりだからね」
「面白そうじゃない〜。行こうよダンジョン!」
「スカ夫くん! なんだよそのド派手な格好は!」
「だって、ボクが立ち上げたマネジメント会社が儲かってしょうがないのさ! 連日のジャイアントのリサイタル興行でもうウハウハ!」
「さすがスカ夫さん、会社社長の息子だから商売上手よね〜!」
「そうだろうとも、くろみちゃん! だからさ、今度食事でも……」
スカ夫はくろみをデートに誘おうとするがコマざえもんが大声を出して邪魔されてしまう。
「キミの格好はともかく、剛くんが歌えないんじゃ危険すぎる! 剛くんは魔力こそSSS級だけど戦闘レベルはたったの5なんだよ! くず太くんたちに至っては論外だ!」
「もう、邪魔しやがって……。でも大丈夫だって! 実は面白いアイテムを手に入れたんだ」
スカ夫が懐からピラっと1枚の御札みたいなものを出してコマざえもんに見せた。
「こ、これはダンジョン緊急脱出のカード! しかもプラチナだから確率100%じゃあないか!」
「大枚はたいて手に入れたこのカードなら危険なモンスターが出ても脱出できるでしょ。それに人気歌手ジャイアントがダンジョンに潜る、これを配信したらもっと儲かるんだ! 逃す手はないよ」
「でもなあ」
「何をゴチャゴチャ言ってやがる! とにかくそのダンジョンにすぐ行くぞ! くず太、ついて来い!」
「え〜!」
こうしてジャイアントパーティはダンジョン配信に挑むことになった。