第2話 収納ポシェット
「うわあああああーーっ!」
「ど、どうしようジャイアント!」
「慌てるな。入口があるってことは出口もあるはずだ! とにかく何処かすき間がないか探せ!」
「そんなこと言ったって……あっ! なんかあそこから光が入ってきてるんじゃ?」
「よしっ! あそこに全力で向かうぞお前ら!」
「ま、待ってよ〜!」
「くず太さん、もう少しだから頑張って!」
剛たちは暗黒空間内を泳ぐようにして必死に光の方角へ移動し、苦難の末にそのすぐ近くまでやってきた。
「よしっ、オレがまず出る! それでオレに問題が起きなければお前らも続け!」
「わかった、頼むよジャイアント!」
剛は光が差し込んでいる方向へ向かって一気に進み、出口から飛び出す……いや、飛び出そうとしたが身体がつっかえてすぐに出られない。
「な、何が引っかかってやがんだ!? これは……ポシェットか?」
頭と両手だけがようやく外に出たが肩口が出せない。
「ふんぬーーー! 無理矢理出てやるーー!」
剛は出口を力任せに広げて、とうとう外に飛び出すことに成功した!
「な、なんなんだキミはっ!?」
「んっ? オレはだな……」
「ジャイアントー! お陰でボクたちも出れた……ってなんじゃアレ?」
「まあ……ワンちゃん?」
「ひええ〜、犬怖いよ、噛みつかれる〜!」
「失敬なっ! ぼくは確かにイヌの獣人だけれど、犬じゃないぞっ!」
「あー、確かに顔は狛犬みたいで怖いけど、四足歩行じゃなくて立ち上がってるね」
「ぼくはコマざえもん、狛犬でもないぞっ!」
「そうかコマざえもん。オレは武田剛、通称ジャイアントだ。で、ここはいったいどこなんだ?」
「ここはぼくの家の中だ! キミたちこそどうやって……というかぼくの収納ポシェットの中から出てきたように見えたけど?」
「その通り、このポシェットからだ」
「あーあー、こんなに広げちゃって、これじゃあ修理しないと使い物にならないよ」
「ボ、ボクたちは公園でリサイタルをしてて、それでいきなり異空間への入口みたいなのが空中に出てきて……それに吸い込まれたんだ」
「つまり、その異空間の出口がここだったってこと?」
「そういうこと」
「うーん……実はね、このポシェットは収納魔法の出入り口に接続しているんだよ」
「収納魔法?」
「さっきの話が本当ならキミたちは異世界人ってことかな。この世界は魔法が使えるんだけど……」
「わたしたちの世界では使えないわ」
「やっぱり。まあ、収納魔法っていうのは文字通り魔法で作った空間に色んな物を収納できる便利な魔法なんだよ」
「へえー」
「なぜキミたちの世界に空間の裂け目みたいのができたのかはわからないけど……それがここに繋がってしまった。今はそれしかわからないよ」
「じゃあ、そこから入り直せば帰れるんじゃ」
「どうだろう、こんなの前代未聞だからね。保証はできないなあ。最悪、時空の狭間を永遠に彷徨うことになるかも……」
「うわーっ! 帰りたいよ、ママー!」
「でも宿題もテストも無いからいいかも……でも犬が怖い!」
「うろたえるなお前らっ! 異世界に来てしまったもんは仕方がねえ。とりあえず冒険しようぜ!」
「冒険って言っても、さすがに何もわからなさ過ぎるわ」
「はあ〜。とりあえず、キミたちここにいなよ。まだ子どもみたいだし放っておけないよ。これも何かの縁だしね」
「子どもって……まあ中学生だから子どもかな。そういうコマちゃんは幾つなの?」
「コマちゃん……まあいいけどさ。ぼくは、人間の年齢に換算すれば20歳くらい、現役の魔法大学生だよ」
「じゃあオレたちよりオトナじゃん!」
「そうだよ。まあ、この世界がキミたちの世界とどれだけ違うか、これから街に出て確かめてみるといい。まずはそこからだ」
こうして剛たち4人は現地の獣人コマざえもんに連れられて異世界を目のあたりにすることになった。