第11話 コマりん登場とホームシック
「今日も行くぞっ! オレのリサイタルを聞けぇ〜!!」
「剛くんサイコー! 私を抱いて〜!!」
「今日もおれたちの脳みそを限界までシビレさせてくれ〜!!」
くろみとのステージ勝負イベントで人気を取り戻した剛は、今日のリサイタルでも暴れ回っていた。
「すっかり元の剛くんに戻ったね。ところでくず太くんたちはあの歌を聞いても卒倒しなくなってるじゃない」
「毎日のように聞かされてるから、いい加減免疫のようなものができちゃったのかも」
「それでも油断すると目が回りそうになってシンドいことには変わりないよ」
「そういうコマざえもんこそ、イヌの獣人は耳がいいから1分も聞いてられないって言ってたのに」
「実は先日のイベントから僕だけこれを耳に着けてるんだよ。『べんりな魔導具』の一つ、『聞きたくない音を遮断する耳栓』!」
「またまたそのまんまなネーミングだね」
「そ、そんなのがあるならボクたちにも寄こせよ! コマざえもんばっかりズルいぞっ!」
「いや、これはイヌの獣人用に調整したものだから、人間用に調整し直さないといけないんだ。そのまま使うと下手したら耳の中で音が乱反射して、最悪鼓膜が破けるかも」
「げえっ……調整済みで着けたら全く聞こえなくなるの?」
「普通ならそうなんだけど、剛くんの歌声は破壊力がすごくて、これをつけてようやく耐えれるレベルになったってところさ」
「じゃあ今と大して変わんないってことじゃん」
「だからどっちにしても改良が必要だね。くろみちゃんは別のコンサート会場かい?」
「うん。ここが終わったらそっちに駆けつけないといけないんだ」
「それじゃあ悪いけどぼくは先に失礼するよ。ギルドに行く用事があるんだ」
「もしかして、僕らが帰れるように……」
「うん、相談してくるから楽しみに待ってて」
「頼んだよコマざえもん!」
◇
あれからしばらく経ち、ここはコマざえもんの部屋。
「はじめまして皆さん。私、コマざえもんの妹でコマりんって言います。兄がいつもお世話になってます!」
「うん、世話が焼けて大変だよ」
「ウソを言うんじゃないくず太くん! それはコチラのセリフだっ!」
「うるさいなあ。それにしてもコマざえもんと違って、僕らが見てもひと目でわかるくらい美人さんだね」
「もう! くず太くん、そんなに褒めても何も出ないですよ?」
「いやあ、僕は思ったことをそのまま言ってるだけだよ」
「くず太さん! 会う女の子みんなにそんなことを言ってるんでしょう〜!?」
「いや、僕はくろみちゃんが一番可愛いと思ってるよ」
「えっ……そんな、世界一可愛いだなんて……」
「なんかあの2人、前よりイチャついてないかいスカ夫くん」
「どうだっていいよそんなの。ボクは会社経営で手一杯で疲れてるんだ。それよりさ、コマりんは何しに来たの?」
「実はギルドに行く用事ってのが、コマりんに預けてた魔導具の残りを全て受け取ることだったんだけど、キミたちに一度会いたいっていうから連れてきた」
「こことは違う世界から来たって聞いたから、色々聞きたくって仕方がなかったの!」
「……そうだ、向こうに帰るのはどうなったのさコマざえもん?」
「ごめんスカ夫くん、まだ可能性を探っている段階なんだ。見込みはあるらしいんだけどいつになるかは……」
「そんな……もう帰りたいよ! ママー!」
「なんか、僕まで悲しくなってきた」
「わたしも」
「オレはかーちゃんから怒鳴られなくて毎日楽しいけどな」
「剛くん以外はホームシックが酷くなってきたね……また明日もギルドに行くよ。だからもうしばらく辛抱してくれ」
「頼んだよコマざえもん! 僕らはキミだけが頼りなんだ」
ドラゴンを倒し、剛とくろみのステージも順調で、これからようやく異世界生活を満喫できるというところでまさかのホームシック発症。
くず太たちは無事に元の世界に帰れるのか、それとも……。