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第10話 伝説のリサイタル

「……ファンの皆さん。今日の剛さんとの対決イベント、こんなに沢山の方に応援してもらえて、わたしは幸せです。皆さんの期待に応えられるように頑張りますから、最後まで聞いて下さいねっ!」


「早くその天使のような歌声を聞かせてちょうだ〜い!!」

「歌う姿もサイコーにカワイイよ〜!」

「くろみちゃーん! 君こそが史上最強のアイドルだ〜!!」


 今日のために野外に設置された特設コンサート会場で轟くファンの大歓声。


 それが収まり始めるのを待ってからバックバンドの演奏が始まり、くろみちゃんは自然とリズムに合わせて振付けを踊り始めた。


 コマざえもんたちはステージの裾でその様子を見守っている。


「それにしても凄い人気だね〜、くろみちゃん。ところでスカ夫くん、あのバックバンドの人たちって……」


「この世界の音楽業界で最高レベルの人たちばかりだよ。彼女のスポンサーがカネに糸目をつけずにかき集めたってウワサだ」


「やっぱり。見たことある人たちばっかりだもん」


「コマざえもん、やけに詳しいじゃないか」


「ああそれはね、くず太くん。実は高校生の時、ちょっとバンド活動やっててさ。その時にあの人たちのことも知ったんだ」


「へえー、意外だなあ。楽器は何やってたの?」


「ベースギターだけど」


「なにそれ? 普通のギターとどう違うのさ」


「……ベースギターはバンドの低音とリズムの要だぞくず太! そうかあ、なんか尊敬しちゃうなあ」


「よせやいスカ夫くん、照れるぜ」


「うおおぉーっ!! くろみちゃんに昇天させられそうだ〜!」

「もう、身体がトロトロに溶けちゃいそう〜!」


「まだ1曲目が終わったばかりなのに観客は凄い盛り上がりだね」


「この調子で最後までいったら果たしてどうなることやら」


「……オレ、控え室で気合いを入れ直してくる」


「ジャイアント……!」


「今はそっとしておいてやろうよ」



 くろみのステージは会場の熱気と興奮が覚めやらぬまま最後の1曲を残すのみとなった。


「皆さんの声援のお陰で、あっという間にここまで駆け抜けることができました。どうか最後まで聞いて下さいね!」


「そんなー! もう終わりだなんてイヤだよくろみちゃん〜!」

「いっそ、最後は本当に天国まで連れて行ってくれ〜!!」


「さて、このあとは剛くんの番だね……ん? なんか空を飛んでくる音がしないかい、くず太くん?」


「僕には何も。スカ夫は?」


「全然。空耳じゃないの?」


「そんな筈は……あ、あの影は!?」


「許サン……許サンゾ、人間ドモ〜! 我ラガ同胞ヲ倒シタナドト、アッテハナラヌ!!」


「な、なんだアイツら!?」

「キャーッ! ドラゴンの襲撃よー!!」

「しかも3体もいるじゃないか!」


「どうした、何が起こった!?」


「ジャイアント! ド、ドラゴンが3体も!」


「たぶん、剛くんが以前に倒したドラゴンの仲間たちだよ」


「なんだとー! オレが追い払ってやらあ!」


「む、無茶だよジャイアント! 相手は3体だよ!」


「いや、ここは剛くんに任せよう。ぼくたちは手分けして観客たちとバックバンドの人たちを避難させるんだ!」


「わかったよコマざえもん!」


「バンドの皆さん、こっちです!」


「ファンの皆さん、落ち着いて! 今からわたしの言う通りに避難してくださいっ!」


 観客たちは混乱しつつも、くろみとコマざえもんの誘導に従って身を隠せる場所へと避難し始めた。


 剛は特設会場の外へ出てドラゴンたちを自分に引きつけて迎え撃つ。


「おいっ、ドラゴンども! お前らの仲間を倒したのはオレだ!」


「嘘ヲツクナ! オ前ノヨウナ小僧ニナド」


「だったら証拠を見せてやらあ! オレの美声をとくと味わえ!! ボエェェェェ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」


「ナ、ナンダコノ衝撃波ハ!?」


「サッキノハ、ハッタリデハナカッタヨウダ。イクゾ同胞タチヨ!」


「「「我ラガ怒リノ咆哮ヲ喰ラウガイイ! ブワオオオオオオオオオオオオオーーーーーッ!!!」」」


「ぐはああああっ!!」


「ジャイアントーー!!」


「フン、クチホドニモナイ。腹イセニモナラヌ、向コウデ逃ゲ惑ウ人間ドモヲイタブッテクレル!」


「きゃあああああーーーっ!」

「た、助けてくれーーーっ!」


「ジャイアント! しっかりして!」


「く、くず太にスカ夫……さっきオレの美声が跳ね返されたのは、奴らが3体合わせた声だったのに、オレには伴奏が無かったせいだ」


「そ、そうかな」


「オレがそうに違いねえと言ったらそうなんだ! 四の五の言わずにお前らオレのバックバンドをやれ!!」


「ええー、そんな無茶苦茶な!」


「いや、やろう。今はそれにかけるしかない。幸い、避難したバックバンドの人たちの楽器がそのまま置いてある」


「コマざえもん! だけど!」


「わたしも賛成よ! わたし、ピアノ習ってるからキーボードやるわ!」


「じゃあぼくはベースギターを。スカ夫くんは何かできる?」


「ギターなら少し齧ったことがある」


「くず太くんは……どうしようかな」


「僕は、ドラムをやるよ。太鼓叩いとけばいいんでしょ?」


「いや、そんな単純なモノじゃ……仕方がない、それで行こう!」


「おい、ドラゴンども! オレはまだピンピンしてるぞ、もう一度勝負だ!」


「シブトイ小僧メ。デハ先ニ引導ヲ渡シテヤロウ!」


 ドガドガドコンッ! ピィ〜ピラピラピラァ〜!


「グワアアッ! コノリズム感ノナイ不快ナ打楽器と鍵盤ノ音ハナンナノダッ!」


「くず太くんは予想通りだけど、くろみちゃんまでどうなってるんだ」


「わ、忘れてた……彼女のピアノの腕前が壊滅的なことを!」


「でも今がチャンス! スカ夫くん、ぼくのベースにリズムを合わせて演奏するんだ!」


「ええい、もうどうにでもなれー!」


「行くぞお前ら! ドラゴンども、オレのリサイタルを聞けぇ〜〜〜〜!!」


「「「生意気ナ! 我らが咆哮で全員粉々ニシテヤル! ブワワワワオオオオオオオオオオオオオーーーーーッ!!!」」」


「ウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラーッ!! ボエボエボエボエェェェェェェェェェェ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!! ドガンドガンッ! ピィ〜ピラピラピラァ〜!!」


「「「ウグワアアアアアアアーーーーーッ!! 全テノ咆哮ト衝撃ト不快音ノ塊ガ、悪魔ノ音楽トナッテ我ラニ襲イカカッテクルーー!!!」」」


 3体のドラゴンたちは、剛たちが奏でた衝撃的で悪魔的なハーモニーをまともに受け、空の彼方へと吹き飛ばされた。


「スゲーッ! さすがジャイアント剛! ドラゴン3体をまとめて吹き飛ばすなんて!」

「おれは剛なら何とかしてくれるって信じてたぞー!」

「またわたしたちを痺れさせてぇ〜!」


「なんか身勝手だねみんな」


「まあ、世の中ってこんなもんだよ」


「よーし! 今からジャイアントリサイタルを開催するぞー!」


「おおおおーーーーっ!!」


 最高潮に盛り上がる剛と観客たち、だが……。


 ゴロゴロ……ピシャーンッ!


「うわあっ! 凄い雷雨が突然に!」


「さっきのドラゴンの咆哮やらで気圧が変化してしまったんだ!」


「さすがにリサイタルは中止に……おや、観客たちが帰らないぞ?」


「おれたちは、剛の歌が聞きてーんだぁ!」

「存分にシビレさせてくれるまで帰らないぞ!」


「弱ったなあ。何とか説得しないと」


「何言ってやがるっ! ファンの皆さんを待たせるんじゃねえ! お前ら、今すぐ演奏の準備を始めろ!」


「そ、そんな。この雷雨じゃ無理だよ」


「……じゃあいい、お前らはもう帰れ。オレは一人でも、たとえファンが一人しか残ってなくても、オレの歌を聞きてーって奴には歌ってやる。そもそもオレの美声があればそれで十分だからな」


「……僕は残るよ。ジャイアントに付き合う」


「くず太くん……じゃあぼくも」


「わたしだって」


「……わかったよ、残ればいいんでしょ!」


「それじゃあ『べんりな魔導具』を……『雷を必ず受けてくれる金属棒』!」


「避雷針と何が違うのさ」


「魔力で100%必ず雷を引き寄せてくれるんだ。それっ!」


「空中に浮いた! これで安心だね」


「それじゃあ、行くぞお前らっ! オレのリサイタルを、聞けぇーーー!!」


「おおーっ! 聞いてやるぞー!」


「ボエェェェェェェ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」


「ぐわああああああああーーーーーーーっ!!」


 ゴロゴロ、ピシャーン!


「うわあ! なんかシビレるんだけど!?」


「100%雷を受けてはくれるけど、真下にはちょっと漏電してしまう欠陥があるんだよくず太くん。観客たちには影響はないと思うけど」


「もうめちゃくちゃだー!」


「ボエェェ、ボエボエボエ〜〜〜〜〜〜!!!」


「キャー、ステキよ剛〜!」

「おれたちをもっとシビレさせてくれ〜!」


 剛は雷鳴が轟き雨が吹きすさぶステージ上をずぶ濡れになりながらも何度も往復し、観客たちを大いに沸かせた。


 この時のステージは、この異世界で後々の時代まで語り継がれる伝説のリサイタルとなったのであった。

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