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第1話 てめぇー! くず太のくせに生意気だぞっ!

「てめぇー! くず太のくせに生意気だぞっ!」


 とある水曜日の夕方近く、近所の公園に地鳴りのような怒号が響いた。


 武田 剛 (たけだ つよし)、中学2年生。


 身長180センチ超、筋肉モリモリ、声デカすぎ。


 そんな彼が、背丈は中くらいだがヒョロヒョロ体型の同級生、葛田 くず太 (くずだ くずた)の胸ぐらをつかんで叫んでいるのは、いつもの光景だった。


「だって、今日は部活あるって言っただろ……!」


「うるせぇ! オレのリサイタルが優先に決まってんだろォ!」


 剛はくず太の抗議をあっさりスルーし、隣にいる井矢見 スカ夫 (いやみ すかお)に視線を送った。


 スカ夫は背丈は低いが金持ちの息子で服装も髪型もバッチリ決めているが、口を開けばイヤミや皮肉ばかり、おまけに剛の腰巾着だ。


「スカ夫! お前もそう思うよなぁ!?」


「も、もちろんだよジャイアント。それにくず太のヤツ、今日は所属してる手芸部が休みの筈なのにウソを付いて。ボク知ってるんだ」


「な〜に〜! それはどういうことだ、くず太!!」


「え〜と、そうだったかな? 忘れてたよ。僕、頭悪いからさ、ははは」


「なに目ぇそらしてんだ、くず太!」


「どうせ苦し紛れの言い訳だよジャイアント。だいたい、手先が不器用なのに手芸部に入ってる時点でお察しさ」


「どういうことだ、オレにわかるように言えスカ夫!」


「く、くず太の目当ては同じ手芸部のくろみちゃんだよ。あと、部室では手芸をやらずにあやとりをして遊んでるって噂だよ」


「なんだとー! それなら尚更オレのリサイタルの準備を手伝え、くず太!」


「え〜、やだよ面倒くさい……っていうか興味ねーしヤル気出ねぇ」


「くず太、お前また無気力モードに! オレがその腐った根性を叩き直してやらあ!」


「ちょっと剛くん! またくず太さんをイジメているのね!」


 剛がくず太の気合いを入れ直そうとしていたところを、通りかかった平 くろみ (たいら くろみ)が咎めた。


 くろみは左右の三つ編みが良く似合う、一見清楚で可憐な美少女であり、クラスの男子憧れの存在である。


「ち、違う。オレはコイツの気合いを入れ直そうと」


「言い訳なんて聞きたくないわ! くず太さん、こんなになるまでイジメられて可哀想に……よしよし」


「フヘヘへ……くろみちゃんの胸の膨らみマジさいこー」


 だが、くろみにはダメンズ好きで甘やかすというヒロインとして致命的な弱点があったのだ!


 そしてくず太は、一見すると頼りないが長編になると勇敢になる少年によく似ているが、その実態は興味がないことにはトコトン無気力かつムッツリスケベなクズ男であった。


「仕方がねえ。おいスカ夫! そこの公園で今からリサイタル開くから準備しろっ! あと観客を集めてこい!」


「はあ〜……結局ボクがいつも最後に被害をこうむることになるんだ」


「なんか言ったか?」


「いや何でもないよジャイアント。すぐ用意するから待ってて!」



「よくぞ集まってくれた! これからみんなにオレの最高の美声、聴かせてやるからよォ!」


「えっ、スカ夫が言ってたイベントと全然違う、騙された!」

「スカ夫、お前のことは一生恨むぞ」


 スカ夫が無理やり集めた観客たちは、その怨嗟をスカ夫に集めつつ、これから聞かされる剛の歌声に戦々恐々としていた。


「スカ夫! カメラ準備しろ!」


「はいはい、録音機材もばっちりだよ……。あ、くろみちゃん、みんなにはナイショで耳栓あげるよ」


「ありがとう、恩に着るわ。でもくず太さんのは?」


「悪いけどボクとくろみちゃんの分しか無かったんだ」


「そう。ゴメンねくず太さん」


「オホンッ! 今日は声の調子が最高なんだ! ……んぐんっ、マイクテス、マイクテス!」


 剛はオモチャのマイクに向かって話している。


 本物を用意したらどんな惨劇となるか懸念したスカ夫は、ナマの声が聞きたいと剛をなだめてオモチャしか用意しないのだ。


「それじゃあいくぜ! オレのリサイタルを聞けぇー!! ボエェェェェ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」


 その直後、脳を破壊的に揺さぶってドロドロにされてしまいそうな、とんでもない音痴の大声が観客たちを襲った。


「ぐわああああああああああーーーーーーーー!!」


「スカ夫さん、どうなってるの! 耳栓が気休めにしか!」


「ま、まさかここまで酷くなってるとは!」


 ズドーーン!!


 突然雷鳴のような轟音が響き渡り、観客たちの後ろの空間が歪み始めた。


 空間が裂け、暗黒空間のような物が隙間から見え始める。


「きゃあああああーーーーー!!」

「に、逃げろぉーーーーーっ!!」


 気持ちよく歌い続ける剛、機材を回収しようとするスカ夫、気絶しているくず太とそれを介抱しているくろみを残してみんな避難してしまった。


「な、なんだ!? オレの声、ついに次元を越えたのかっ!?」


 剛のセリフが現実になる形で、残った4人の姿は忽然と、公園から消え去った……。

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