対象は私じゃない
注意事項1
起承転結はありません。
短編詐欺に思われたら申し訳御座いません。
注意事項2
今書きたい気分だったので。
一人で居るのが大好きで、誰かの干渉も拒む。其れは話し掛ける事は疎か、隣に座る事さえ嫌がるぐらい。必ず誰かが関わろうとすると、摺り抜けるが如く遠くへ行ってしまう。
でも僕はそんな君の事が気になって仕方が無かった。だから逃げた分だけ追い掛けて、無理矢理間合いを詰め続けた。
そんな事が何日も、何日も続いて、漸く彼女が口を開いた。
「君、死ぬ程ウザったいね」
顔は無表情だった。徹底した憎悪も、嫌悪もなく、ただ冷たい真顔がそこにあるだけだった。僕は彼女から話し掛けられた事が嬉しくて、思わず頬を緩める。
「……なんで笑うの。拒絶されたのに」
「話しかけてくれたから。今までどれだけ此方から仕掛けても、何の返答も変化もなかったから」
そう言うと彼女はまた立ち上がって僕から間合いを取った。段々と早足になる。けれどもその歩幅は小さくて、此方が大股で歩けばすぐにでも追い付いてしまう。
「……どうしたら離れてくれる?」
「離れないよ。絶対に。逆にどうして君は嫌がるの」
一人で居るのが好きだ。ただ遠くで響いている周りの音に耳を済ませ、誰にも思考を妨げられない時間が至福の時だった。
一人でいる時はどんな事でも考えられた。美しい自然の光景も、耽美な男女の営みも、誰かに妨げられる事無く夢想出来る。誰にも邪魔されない。私だけの世界。
しかし数ヶ月前から一人の男が私の傍を陣取る様になった。どれだけ逃げても、巻こうとしても、すぐにでも追い付いて隣に居る。
私の、私だけの世界は、彼によって壊された。
「どうしてそんなに嫌がるの?」
彼はじっと私の事を見据えてきた。今まで見ようとも思わなかったが、存外綺麗な目をしている。やや吊りあがっていて、睫毛が長くて、鋭くて。だから惹き込まれる前に視線を逸らした。
「君には関係の無い事だよ」
私はそう言って、また歩みを再開した。けれども彼はすぐに回り込んで、私の逃げ道を塞いでしまった。
「知りたいな。君の事、もっともっと」
間合いを詰められるのが嫌いだ。其れは何も三次元だけでなく、二次元に置いても。だから没入型の一人称視点のゲームは苦手だった。すぐにでも端末を投げ捨ててしまいたい程。
そして彼はその地雷を踏み抜いた。
ぐいぐいと上半身を近付けて、私の顔を覗き込もうとする。怖くなって逃げたくなって、必死に背を逸らしていたら、尻餅を着いた。
「ふふふ。可愛いところ、あるんだね」
どれだけ耽美な男女の営みを夢想しても、その対象が、標的が私になると、怖くて仕方ない。これじゃないと思ってしまう。だから生涯掛けて無縁だと思っていたし、無縁にしてきた。でも今は。
「……は……はっ……はっ……」
逃げられない。
彼、心の規格が違うと良いなぁ。
常人離れした思考回路してるといいなぁと。
まだ真っ当なのは意外と彼女の方。
人間が嫌いで、近くに居られるだけでも思考の妨げになる。
だから何時も一人で様々な事を考えている。
綺麗な景色とか、ふしだらな男女の営みとか。
でもこれを考えている時点で、関係を完全に絶とうとしている訳ではなさそうな。
単純に迫られるのが、近くにいられるのが怖いだけな感じ。
彼はそんなの気にせず迫って来ますけどね。
むしろ『怯えて可愛い』とか思ってそう。