第一話
友情と恋愛。互いに絡むと歪みが生じることもある。
でも、人はそれなしでは生きていけない。
ポストを開けると少し大きめの白い封筒が入っていた。
結婚式の招待状だ。少し右上がりの字には見覚えがある。メグの字だ。メグから結婚すると電話で聞いたのは半年前。五年前に友人の結婚式で会った時は、仕事を辞めたと話していたし、かといって付き合っている人もいないようだったし、そもそも結婚なんて考えていないように見えたのに。
相手は親戚の知り合いだと言っていた。メグより五つ年上。
もし。もしも、周とメグの付き合いが続いていたら、周とメグは結婚していたのだろうか。
そんなことは、もう現実に起こり得ないのに、メグのことを思い出すと、どうしても周と結びつけてしまう。
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周とは中一の時に同じクラスになった。三つの学区に分かれていた小学校が中学で一つになった。周とは別の小学校だった。席替えをして、たまたま私の前の席に周が座った。
小柄で丸顔。バスケ部に所属していて、話しやすくてみんなから好かれるタイプ。周はそんな存在だった。
授業で近くの席同士でグループを作る機会が何度かあり、そうこうするうちに周と仲良くなった。気兼ねなく冗談を交えて喋れる男の子は、周が初めてだった。
中二も中三も同じクラスだったので、周との友人関係は続いた。景色の中に周がいるのが当たり前で、その関係を特別なもの、とは認識していなかった。
周は地元の工業高校に進み、私は隣町の私学に進学した。だから、中学卒業後は全く接点がなくなった。高校生活に慣れてくると、一抹の寂しさを覚えた。
毎日、くだらないことを言っては、一緒に笑っていた周に会えないということ。そのことに気づくと同時に、私は周のことが好きだったのだと自覚した。
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周への想いに気づき胸を焦がしながらも、高校生活は楽しいものだった。その中でも、一番大きな出会いはメグだった。入学式の日、知った子が誰もいなくて、居心地悪さを感じながら自分の席に座っていた時だった。
目の端にスカートの裾が揺れ、それが斜め後ろの席につくのがわかった。何かに弾かれるようにして私は顔を上げ、後ろを振り返った。
そこにはメグが立っていた。ブレザーの前ボタンを全て開け、膝上十センチ以上の短いスカートから覗く足はすらりとしている。スタイルが抜群によかった。
そしてショートカットの似合う小さな頭。顔が小さいから目も大きく見える。
私は息を飲んだ。こんな可愛い子、漫画でしか見たことがないと思った。
教室をちらりと見渡したメグは私と目が合うと、にっこり微笑んだ。その日のうちに私達は仲良くなった。
側から見れば、バランスの悪い組み合わせだっただろう。華やかなメグに対し、私は超がつくほど地味な顔立ちと雰囲気だ。嫌味が得意な女子が見れば、「引き立て役にされて可哀想」と思うだろう。
でも、私はそんなことは気にしない性格だ。メグは父親の仕事で、ベルギーやフランスに住んでいたことがあり、そこで培ったのかサバサバした物言いをする子だった。だから、気が合ったのかもしれない。
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メグとの仲が深まるにつれ、趣味にも共通項を見つけた。それは漫画。お互い読むだけでなく、自分でも描いていた。そのことがわかって以来、私達はお互いにおすすめの漫画を貸し借りし、自分の漫画を見せ合った。
漫画の他にも二人してハマったものがある。それはカラオケ。午前中で学校が終わった後、二人で駅前にあるカラオケ店へと向かった。
流行りの曲も歌うけれど、二人でハモれる曲を歌うことも多かった。一緒に歌っていると、一心同体になる気がした。
そうやって帰りが遅くなり、高校に近いメグのマンションに泊まらせてもらったことも何度かあった。メグには二つ年下の弟がいた。メグは弟のことをすごく可愛がっていた。一度、顔を合わせたことがあるけれど、寡黙な少年だった。
メグのお父さんは単身赴任していて会ったことはない。お母さんはメグと同じように、サバサバした人だった。急に泊まりにきた私を迷惑がることなく迎えてくれた。
そんな風にメグの家に何度か泊まらせてもらっていたので、いつかうちにも泊まりにきてほしいと思っていた。でも、私が住んでいる町は田舎で、カラオケ店はおろかコンビニすらない。そんな何の楽しみもない場所にメグを呼ぶのは気が引けた。
一学期が終わりに差し掛かり、夏休みまでのカウントダウンが始まる頃だった。私は地元のスーパーの掲示板に張り紙を見つけた。
――夏祭り
それは私が通っていた中学の校庭で毎年開かれているものだった。去年は受験のための夏期講習が入っていて行けなかったけれど、それまでは地元の友達と毎年行っていた。
夏祭りに出店する露店の種類が書いてある、その下に
『カラオケ大会 出場者募集!』の文字を見つけた時、これだ! と思った。
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翌日、私は早速メグにカラオケ大会のことを話した。メグは即、賛成した。私なら自分の知らない町で人前で歌うことに躊躇するだろう。迷うことなく「いいよ。一緒に出よう」と言ってくれたメグに眩しささえ覚えた。
それから私達は放課後カラオケに行き、夏祭り当日に歌う曲を練習した。それは当時、大人気だった女性アーティストの曲。
〝君がいたから、どんな時も笑っていられた〟というようなことが歌われていた。その歌詞はメグと私の関係性を歌っているようだった。だから、二人ともその曲が大好きだった。
たかが町のカラオケ大会。そんな地味な舞台だからこそ、私はみんなに見せつけたかった。私とメグの特別な関係を。こんなに可愛い子が私の友達であることを。
そして夏祭り当日。メグと私は簡易な造りの舞台の上で、練習してきた歌を歌った。それはものすごく気持ちのいい時間だった。自己陶酔というやつだろう。
曲のエンディングが流れ始めた時、メグが私の方に手を伸ばした。私はその手を握った。互いに大切に思う気持ちが伝わった瞬間だった。
あけまして おめでとうございます。
2025年もよろしくお願いします。
今年初の投稿は連載作品にします。